ちくま哲学の森 (7) (ちくま哲学の森 7)

制作 : 鶴見 俊輔 
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (444ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480428677

作品紹介・あらすじ

裏切りの愛と幸せな狂気。恋愛天文学(子夜)、前の妻・今の妻(吉野秀雄)、予審調書(阿部定)など24篇を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 生きのこるわれをいとしみわが髪を撫【な】でて最期【いまわ】の息に耐えにき
      吉野秀雄

     鎌倉住まいの文人として知られる作者。生涯、病と格闘しながら、良寛研究などで業績を残した人である。還暦を過ぎて書かれた「前の妻・今の妻」は、夫婦のめぐりあわせの奥深さを語るエッセーだ。
     1902年(明治35年)、群馬県生まれ。幼少時から病弱で、慶応義塾大卒業を目前に肺を病み、中退。長い療養生活に入った。
     「前の妻」は、学生時代に約束したはつ子。看護師のように献身的に世話をし、その励ましが病を快方に導いていった。4人の子どもにも恵まれたが、戦争末期の44年、はつ子の胃は肉腫におかされ、たちまち肩や腕に転移、42歳の若さで他界した。
     その死を悼んだ、100首を超える絶唱の一つが掲出歌。自分の死よりも、戦争のさなかを生き続ける夫を「いとしみ」髪を撫でる姿は慈母のようでもある。そして息を引き取る前の晩の光景。

      これやこの一期【いちご】のいのち炎【ほむら】立ちせよと迫りし吾妹【わぎも】よ吾妹

     すがるように抱き合い、「いのち」の炎を分け合った夫婦の結びつきが迫る。
     敗戦後、秀雄は栄養失調からまた喀血の生活に。途方に暮れるなか、兄から女性を紹介される。クリスチャン詩人八木重吉の妻で、重吉と2児の相次ぐ夭折後、苦労を重ねていたとみ子であった。我慢強く、しかもやさしさを忘れないとみ子の姿に秀雄は心を動かされ、求婚した。

      これの世に二人の妻と婚【あ】いつれどふたりは我に一人なるのみ

     リウマチで病臥ののち、「今の妻」とみ子に看取られて、67年に没。享年65。

    (2012年9月9日掲載)

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