妖魅は戯る 文豪怪談傑作選・大正篇 (ちくま文庫 ふ 36-17 文豪怪談傑作選 大正篇)
- 筑摩書房 (2011年8月9日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (380ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480428691
感想・レビュー・書評
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鈴木三重吉、中勘介、内田百閒、寺田寅彦、志賀直哉、田中貢太郎、岡本綺堂のホラー短編と関東大震災の当時のお話。関東大震災の話は中々に貴重な気持ちで読みました。今も昔も地震は怖い。
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夏目漱石の『夢十夜』の系譜となる「夢」文学と、巻末の関東大震災経験者となった作家の体験が読める一冊。
巻末付録の震災体験は、この本が2011年8月…東北大震災の年に発行されたこともあるのだろうか。
比較的無事だった当事者の経験、被服工廠跡でおきた火災旋風や各所での火災倒壊の犠牲者の惨状、避難生活と追悼、復興を予感させる兆しと、ひとつの震災を順におっていく形になっている。
被害を受けた人々がどう生きてきたのか、そしていつしか追悼の人々も絶えて、震災が「歴史」となっていくのを現代の我々の視点から読み取れる。
当時の人は何年も追悼のために記念堂に足を運んだと書かれているが、100年経った今は当時の映像をデジタル処理したり、AIで架空の被災者を作るという目論見(これは炎上したけど)に変わっている。
追悼と教訓が、やがて史料と歴史に変わったのを今の我々は知っている。東北もやがて…と思うと、複雑な気持ちにはなる。
本編の「夢」については、夢が個人の経験がゆえに、出てくるモチーフや夢への向かい方の違いが面白かった。
夢だから支離滅裂。共感できるものもあれば、こんな夢をみるのか、と思うものもある。
ファンタジーにひたるもの、過去の人間関係のしこりに由来したもの、死や幽霊に特化したもの…。
そこをいくと、夏目漱石の『夢十夜』は綺麗にまとまった・読みやすい文学作品だったのだなと思う。
怪談傑作選と銘打ってはあるものの、解説にあるとおり実際「夢十夜的なもの」アンソロジー。
怪談か?といわれれば違うし、でもファンタジーともいえない。これはこれで独特の味わいがある。
個人的には特に中勘助の作品がじんわり好き。不安不穏が滲み、ファンタジーにも近い夢。こういう夢、いつかみたなぁ。 -
巻末附録に「文豪たちの九・〇一-震災体験記集」として、関東大震災に纏わる作家達の文章が収められている。
内田百閒「長春香」に描かれた追悼会の闇汁の情景が、学生達のバンカラ加減をよく伝えるようでおかしい。
田中貢太郎「大変災余談」に、「横浜正金銀行へ避難した約二千余名が戸外へ出ずに地下室へ避難したために圧死」とあって、そんな話だったかなとちょっと不思議に感じたが、よくよく思い返したら自分がおぼろに記憶していた話は横浜大空襲の時の惨事についてであった。今も残る古い建物で、かつて沢山の人が一時に亡くなっていたことに改めて強く思い至った。
他に、寺田寅彦「震災日記より」のRocket lightningに関する記述が印象深い。
本編は中勘助がやや難物だったが読みやすい作品が多く、とりわけこれまで作品に触れる機会のなかった鈴木三重吉や志賀直哉のものが面白かった。 -
夢話はずるい、という思い込みがあって、あまり好きではない。
内田百閒「坂の夢」と、志賀直哉「盲亀浮木」がよかった。