フェルメールになれなかった男: 20世紀最大の贋作事件 (ちくま文庫 う 40-1)

  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (393ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480431424

感想・レビュー・書評

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  • アイルランド出身のジャーナリストによる、
    20世紀オランダの画家、通称ハンこと
    ヘンリクス・アントニウス・ファン・メーヘレンの評伝。

    主に、画家として批評家や世間に正統に評価されないことへの
    鬱憤から贋作に手を染め、
    結果としてナチスのゲーリング元帥までをも騙した男の一生を
    ノンフィクション小説仕立てにした本。
    結果としてハンは多額の金を手に入れ、
    妻や愛人と優雅な暮らしを送ったが、目的はあくまで
    自身の力量を認めようとしなかった美術評論家を騙し、
    恥をかかせることだったらしい。
    埋もれていたフェルメールの幻の作品が見つかったと称して
    パスティーシュ、もしくはパクリであるところの自作を
    代理人を介して画商に売りつけるに当たって、
    絵が古い時代のものに見えるよう、
    様々な工夫を凝らしたというが、そんな努力をするより
    地道にオリジナル作品を制作すればよかったのに……と
    読んでいて感じたが、
    ともかくもファン・メーヘレンは本懐を遂げ、
    詐欺罪で禁固刑に処される前に衰弱死してしまい、
    後には「この絵はフェルメールの真作か否か」という
    容易に解けないいくつもの謎だけが残った――という話。

    ファン・メーヘレンの「いかにフェルメールらしい絵に仕立てるか」
    という飽くなき探究は、
    ボルヘス「ドン・キホーテの著者、ピエール・メナール」作中の
    セルバンテスに成り切って『ドン・キホーテ』を作出する行為に
    類似するとの指摘(p.231)があって、
    なるほど、これは絵画におけるメタフィクションなのか?
    とも思った。
    だから、最初から「これはパクリです、パロディです」と言って
    発表すればよかったわけだ。
    贋物でも、その絵に美しさを感じる人がいれば
    相応の対価を払って手に入れようとするだろう。
    それは別に悪いことではない。
    だが、ファン・メーヘレンの目的は偽りによって
    高慢な批評家を罠に掛けることだったのだから……やはり、
    罪は重いと言えるだろう。
    他者に評価されなければ制作を続ける甲斐もなかろうし、
    生活を成り立たせるのも困難だろうけれども、
    ルサンチマンに取り憑かれた時点で
    芸術家としては「終わって」しまっていたのではないか、
    という気がする。

  • 本書はハードカバーで2度刊行されており、最初のタイトルは「私はフェルメール」だった。なお、原題も同じである。
    それが新装刊となった時に、「フェルメールになれなかった男」と、真逆ともいえるものに変えられた。美術史家であり、なかんずくフェルメールにはかなり思い入れたっぷりな監訳者の意図を思うと、なかなかに興味深いものがある。

    閑話休題。
    本書は贋作家ハン・ファン・メーヘレンの伝記ではない。彼は主人公にあらず、狂言回しの1人にすぎない。
    さらに言うなら、本書では誰も(かの天才画家フェルメールすら)、主人公ではない。ファン・メーヘレンの贋作にお墨付きを与えた専門家も、それに疑義を唱えた専門家も、名画に目がない金持ちも権力者(その中にはゲーリングもいた)も、ジャーナリストもサザビーズの係員たちも、すべてがこの「贋作狂騒曲」に踊らされた木偶にすぎないのである。
    「狭く深く」よりは「広く浅く」、人間社会のおかしみと愚かしさを描き出すことが、作者の意図であったように思われる。したがって人物伝としても、歴史ものとしても、美術本としても、難解な専門用語などは出てこない。リーダビリティは高いと言えるだろう。

    2017/12/22〜12/27読了

  • フェルメールの贋作事件を追ったノンフィクション。
    贋作者であるファン・メーヘレンは破天荒な芸術家っぽい人物で、本書で描かれている人物像は魅力的ですらある(現実に隣にいたらイヤだけどw)。
    面白いのは、図版に収録されているメーヘレンの贋作が、現代人の目から見るとちっともフェルメールに見えないところ。確か生前の伊藤計劃がblogに書いていたと思うのだが、我々が感じる『フェルメールっぽさ』と、当時の大多数の人々が感じていた『フェルメールっぽさ』には、かなりの乖離があるようだ。そういう意味でも面白かった。

  • 元の作者の技法をほぼ完ぺきにコピーした人間によって描かれたのはそれはもう本物なのではと思う
    偽物だとしても本物と判定され価値がついてしまう美術品市場の奇妙さには驚かされる。
    いろいろと考えさせられる

  • フェルメールの贋作を作っていたオランダの画家ハン・ファン・メーヘレンを追ったノンフィクション。
    飾り窓の女性たちに次いで人類史上二番目に古い職業であると言われる贋作。才能あふれる若き画家だったハンがなぜ贋作に手を染めたのか、小説仕立ての進行で解き明かしてゆく。脚色が過ぎる部分もなきにしもあらずだが、その筆力に読む手が止まらない。まんまと騙された鑑定家たち。真作と信じて購入した絵が、実は贋作だと判明してもそれを信じない人たち。ハン自身の生涯を描くのと同時に、絵画に翻弄され続ける人々を描くことで、ストーリに幅が生まれ、その結果、ハンやその周囲の人々を嘲笑する気も非難する気も起きてこないから不思議だ。
    それにしても、フェルメール。ワタシは美術に明るくないので知らなかったが、彼の現存作品は32点〜36点と言われているのだとか。つまり、人によって真作か贋作かの評価が分かれている作品が4点もあるということ…。

  • 絵画の描かれた年代は、科学的に分析することができる。
    それをもって作者不詳の絵画の鑑定をする。
    フェルメールのような偉大な画家の作品と同定できれば大発見、そうでなければただの17世紀の絵画ということになる。
    では、その同定の根拠はなにか?
    先に書いた年代の同定を除けば、あとは、鑑定人による主観である。
    絵のタッチや、作風、作者の生涯などから、総合的に推測する。

    それゆえ、当然ながら鑑定人によって、真作であったものが贋作になることもあり、その逆もある。

    それゆえ、絵画そのものの美しさとか素晴らしさという価値基準は、真偽の陰に埋もれる。

    ものづくりに携わる者として、なんだか色々考えさせられる本だった。

  • 日本でのフェルメールの人気は絶大だ。
    フェルメール作品が来るというだけで展覧会は大盛況。
    その魅力は色々とあるだろうが、その理由の一つに「日常の物語性」がある。
    そして、どこか儚げな印象を与える点が日本人の琴線に触れるのではないだろうか。

    さて、そんなフェルメール作品だが、贋作として話題となったことがあったようだ。
    その作品を書いたのは誰で、なぜその画家が贋作に手を染めるようになったのか。
    本書は本物と偽物の狭間で翻弄される人々を描き出している。

    ハン・メーヘレンは才能に恵まれた男だった。
    しかし画壇は彼の才能を評価しない。
    俺はこんなちっぽけなところで収まる男ではない、彼は自尊心の塊であった。
    彼のはじめの妻はそんな彼を献身的に支えた。
    アドバイスもした。
    けれども、強い自尊心でできたその男はだんだん妻を疎ましく思うようになる。

    月日が経って彼はフェルメールの真作基準そのものをひっくり返してやりたいと思った。
    そこで美術界が彼の絵を本物だ、というのであれば、いかに彼らの目が節穴だったかを世間に知らしめることができようというもの。
    そこから彼の熱心な研究が始まった。

    専門家といえども、間違いはする。
    その間違いを認めることができるのであれば、光の面だけならば、これほどまでに人々を巻き込むことはなかっただろう。
    誰の心にも、自分が初めてになりたい、他人に認められたい、そんな感情がある。
    時にそれが全てを間違った方向に導くとわかっていても、人はその欲望から逃れるすべを知らない。

    悪いのは誰か、本事件において、そんな簡単な問いでは不十分だ。
    悪い、悪くない、ではなく、皆が合間に立ち、光と影を見ていたからこそ起きたこの事件。
    真とはなにか?
    そんな問いを我々に投げかけてくる。

  • 戦後オランダを震撼させたフェルメールの贋作事件について
    贋作家メーヘレンの非常に俗っぽい心情を見事に描くとともに、鑑定家、有識者など美術業界をまきこんだ茶番の愉快さ

  • 20140919~1002 旦那のお勧め。第二次大戦後のオランダを舞台としたフェルメールの贋作事件。前半が贋作者ハン・メーヘレンの半生・贋作作成に至る経緯、後半が裁判だけど関係者一同誰もメーヘレンの告白をまともに取り合わないのねww。メーヘレンさんの作品展があったら見てみたいなあ、もちろん真作フェルメールも一緒に(^J^)

  • フェルメールの贋作を描いたオランダ人画家、ハン・ファン・メーヘレンのお話。

    第二次大戦中にフェルメール作「姦通の女」が、当時ナチの元帥だったヘルマン・ゲーリングの手に渡ってしまう。終戦後この作品の取引経路の捜査線にハンの名前が浮かび、オランダの国宝をナチに売り渡した国家反逆罪で拘束されてしまうのだ。

    この作品は当時フェルメールの最高傑作と言われた、「エマオの食事」に非常に類似してたのだが、なんと実はその2枚ともハンが描いた贋作だったのである。反逆者が一転してナチを欺いた英雄になってしまったのだ。

    贋作を描く作業とは、当時と同じ絵の具を調合して、経年劣化を再現するテクニックを駆使し、また本来存在するはずのない作品の流通経路を創作するなど、真作を描くより何倍も手間が掛かる仕事なのだ。
    この人は才能の使い方を間違わなければ、もっと違う意味で偉大な画家になっていたのだと思う。でも若い頃から散々遊んで好きな絵を描いて、3回も結婚すれば十分幸せな人生だよね。

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