郵便局と蛇: A・E・コッパード短篇集 (ちくま文庫 こ 48-1)
- 筑摩書房 (2014年9月10日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (276ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480432070
感想・レビュー・書評
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イギリスの作家、コッパードの短編集。
表題作「郵便局と蛇」
はっきりしたオチのない、煙に巻かれるような、民話のような、不思議な内容。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
決して結末は語らない気味悪いまま終わる意地悪小説という印象。
翻訳が、読者からほどよく突き放しているのは快感なのだけれど、どのお話でも心が躍ってきたあたりで生殺しにされる。
「若く美しい柳」と「ポリー・モーガン」は、退廃的で美しく、好みの作品。女性の欠けていき戻らない何か、について作者は物語を書くのが得意なのかと思う。時間的拘束による喪失は、私たちにはどうしよもならないし必然で、けれども受け入れがたい。そんないやーな気分になるお話。
「うすのろサイモン」は日本人には理解しにくいけど、学者の疾走感とサイモンののんきっぷりの対象が痛快で面白い。
後半はぱーっと読み終えて、読後感は宜しいとはいえない。
文章の美しさは浮世離れしていて読者にどこか油絵を浮かばせる。(私だけ?) -
上品な味わいの短編集。刺激の強い伝奇・幻想を求めて読み始めると少し物足りなさがあるが、抑えた筆致が魅力的。
表題「郵便局と蛇」、及び冒頭「銀色のサーカス」、「ポリー・モーガン」が良い。「郵便局と蛇」は突然の蛇に思わず膝を打つ。 -
平凡な日常のなかに、そっと不思議や幻想的なイメージが入り込んで、それと気づかないうちに夢幻の中にいる。そしてそれが何かのきっかけでフッと霧消し、また日常のなかに取り残される。
そんなふわふわした感覚と、一抹の虚無感を感じさせるような短編が多い印象。
あっと驚く展開や、思わず唸るような魅せ方ではないものの、心地よく読める一冊。
以下、各編について覚え書き。
「銀色のサーカス」★★★
遭遇した本人の目線から見ると、こんなことあるのかという展開だけど、案外サーカス団の裏側から見ればなんてことないのかもしれない。
「郵便局と蛇」★★★
伝承が具現したら。蛇のイメージの具現の仕方が良い。
「うすのろサイモン」★★★★
学者が聖人というより、どう見てもサイモンが聖人。
「若く美しい栁」★★★
木々や電信柱がこのような意思を持っていると思って街の中を眺めると、日常の色合いが変わるかも。
「辛子の草原」★★★
田舎の女性の幸福と限界。
「ポリー・モーガン」★★★
本書の中では奇譚らしい奇譚。触れば割れるシャボン玉のような話。
「アラベスク----鼠」★★★
次々と浮かんでくるイメージと、それに交錯する鼠。鼠は何を表す?
「王女と太鼓」★★★
これも伝承のようなお話。絵本を閉じるように終わる。
「幼子は迷いけり」★★★
少しよく分からない。意志薄弱な少年、というだけだろうか?
「シオンへの行進」★★★★
これは綺麗な話。これまたガラス細工のような美しさ。 -
「不思議」「風変わり」「幻想的」といった形容が次々思い浮かぶ。解説によればコッパードを評する文章でよく見かける用語が idiosyncratic で、「特異な」「特有の」「風変わりな」などの意であるということで多くの読み手が共有する印象なのだろう。
収録された十篇にはどれも、清澄さと綺羅綺羅しさを兼ね備えた独特の美の世界がある。殊にロマンティックな恋物語でその魅力を強く感じた。「若く美しい柳」は『星の王子さま』のバラの挿話のよう。「ポリー・モーガン」は切ない幽霊譚。この二篇がとりわけ美しい。
漂う詩情は解説にまで及んでいる。特に前半の半生の記は短い文を重ねた語り口にリズムがあり、読んでいて快い。後半の作品論は大いに理解の手助けとなった。 -
想像していたよりも幻想性は薄く、童話調の設定であっても意外とブラックだったりシニカルだったりして、よくできた短編集だけれど好みではなかったかな。民話風の、伝説の蛇が登場する表題作がいちばん好きでした。あととても個人的に「アラベスク――鼠」が良くも悪くもインパクト大。昔住んでた木造アパートで迷い鼠に居つかれたことがあって数か月格闘したことを思い出したので・・・
※収録作品
「銀色のサーカス」「郵便局と蛇」「うすのろサイモン」「若く美しい柳」「辛子の野原」「ボリー・モーガン」「アラベスク――鼠」「王女と太鼓」「幼子は迷いけり」「シオンへの行進」 -
幻想的というか寓話的というか、とにかく奇妙な読後感を残す短篇集。
作中で何か大きな出来事が起こるわけではなく、どちらかというと淡々と物語が進んで行くが、逆にそれが気持ちいい。
『銀色のサーカス』と表題作にもなっている『郵便局と蛇』が良かった。特に『郵便局と蛇』のラストシーンが持つある種のシュールさは面白い。 -
なんともつかみ所ののない心地よさがあった。「辛子の野原」「ポリー・モーガン」が特によかった。