郵便局と蛇: A・E・コッパード短篇集 (ちくま文庫 こ 48-1)

  • 筑摩書房
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感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (276ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480432070

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  • イギリスの作家、コッパードの短編集。

    表題作「郵便局と蛇」
    はっきりしたオチのない、煙に巻かれるような、民話のような、不思議な内容。

  • 決して結末は語らない気味悪いまま終わる意地悪小説という印象。
    翻訳が、読者からほどよく突き放しているのは快感なのだけれど、どのお話でも心が躍ってきたあたりで生殺しにされる。
    「若く美しい柳」と「ポリー・モーガン」は、退廃的で美しく、好みの作品。女性の欠けていき戻らない何か、について作者は物語を書くのが得意なのかと思う。時間的拘束による喪失は、私たちにはどうしよもならないし必然で、けれども受け入れがたい。そんないやーな気分になるお話。
    「うすのろサイモン」は日本人には理解しにくいけど、学者の疾走感とサイモンののんきっぷりの対象が痛快で面白い。
    後半はぱーっと読み終えて、読後感は宜しいとはいえない。
    文章の美しさは浮世離れしていて読者にどこか油絵を浮かばせる。(私だけ?)

  • 上品な味わいの短編集。刺激の強い伝奇・幻想を求めて読み始めると少し物足りなさがあるが、抑えた筆致が魅力的。
    表題「郵便局と蛇」、及び冒頭「銀色のサーカス」、「ポリー・モーガン」が良い。「郵便局と蛇」は突然の蛇に思わず膝を打つ。

  • 平凡な日常のなかに、そっと不思議や幻想的なイメージが入り込んで、それと気づかないうちに夢幻の中にいる。そしてそれが何かのきっかけでフッと霧消し、また日常のなかに取り残される。
    そんなふわふわした感覚と、一抹の虚無感を感じさせるような短編が多い印象。
    あっと驚く展開や、思わず唸るような魅せ方ではないものの、心地よく読める一冊。
    以下、各編について覚え書き。

    「銀色のサーカス」★★★
    遭遇した本人の目線から見ると、こんなことあるのかという展開だけど、案外サーカス団の裏側から見ればなんてことないのかもしれない。
    「郵便局と蛇」★★★
    伝承が具現したら。蛇のイメージの具現の仕方が良い。
    「うすのろサイモン」★★★★
    学者が聖人というより、どう見てもサイモンが聖人。
    「若く美しい栁」★★★
    木々や電信柱がこのような意思を持っていると思って街の中を眺めると、日常の色合いが変わるかも。
    「辛子の草原」★★★
    田舎の女性の幸福と限界。
    「ポリー・モーガン」★★★
    本書の中では奇譚らしい奇譚。触れば割れるシャボン玉のような話。
    「アラベスク----鼠」★★★
    次々と浮かんでくるイメージと、それに交錯する鼠。鼠は何を表す?
    「王女と太鼓」★★★
    これも伝承のようなお話。絵本を閉じるように終わる。
    「幼子は迷いけり」★★★
    少しよく分からない。意志薄弱な少年、というだけだろうか?
    「シオンへの行進」★★★★
    これは綺麗な話。これまたガラス細工のような美しさ。

  • 「不思議」「風変わり」「幻想的」といった形容が次々思い浮かぶ。解説によればコッパードを評する文章でよく見かける用語が idiosyncratic で、「特異な」「特有の」「風変わりな」などの意であるということで多くの読み手が共有する印象なのだろう。
    収録された十篇にはどれも、清澄さと綺羅綺羅しさを兼ね備えた独特の美の世界がある。殊にロマンティックな恋物語でその魅力を強く感じた。「若く美しい柳」は『星の王子さま』のバラの挿話のよう。「ポリー・モーガン」は切ない幽霊譚。この二篇がとりわけ美しい。
    漂う詩情は解説にまで及んでいる。特に前半の半生の記は短い文を重ねた語り口にリズムがあり、読んでいて快い。後半の作品論は大いに理解の手助けとなった。

  • 想像していたよりも幻想性は薄く、童話調の設定であっても意外とブラックだったりシニカルだったりして、よくできた短編集だけれど好みではなかったかな。民話風の、伝説の蛇が登場する表題作がいちばん好きでした。あととても個人的に「アラベスク――鼠」が良くも悪くもインパクト大。昔住んでた木造アパートで迷い鼠に居つかれたことがあって数か月格闘したことを思い出したので・・・

    ※収録作品
    「銀色のサーカス」「郵便局と蛇」「うすのろサイモン」「若く美しい柳」「辛子の野原」「ボリー・モーガン」「アラベスク――鼠」「王女と太鼓」「幼子は迷いけり」「シオンへの行進」

  • 幻想的というか寓話的というか、とにかく奇妙な読後感を残す短篇集。
    作中で何か大きな出来事が起こるわけではなく、どちらかというと淡々と物語が進んで行くが、逆にそれが気持ちいい。
    『銀色のサーカス』と表題作にもなっている『郵便局と蛇』が良かった。特に『郵便局と蛇』のラストシーンが持つある種のシュールさは面白い。

  • なんともつかみ所ののない心地よさがあった。「辛子の野原」「ポリー・モーガン」が特によかった。

  •  独特な味わいで短篇小説の愛好家などの支持を集める幻想文学作家。

    「銀色のサーカス」アンソロジー『[http://d.hatena.ne.jp/funkenstein/20080502/1209723240:title=筋肉男のハロウィーン]』では「シルヴァー・サーカス」だったね。再読すると冒頭のうら寂しいところがいい重しになってることが分かる。
    「郵便局と蛇」○ 山登りをしにやってきた<ぼく>は麓の郵便局で山頂へ行くのを止めた方がいいと言われる。ホントに郵便局と蛇が出てくる話。いちおうキリスト教がモチーフなのかな。小品何だけどコワいんだよなあ。
    「うすのろサイモン」 純朴だが貧しく孤独な男サイモン。人生に安らぎはなく天国に行くことに。これまたメタファーとか精神世界とかの話じゃなくてホントに天国が出てくる。でもその天国もこの世の中のように仕組みに穴やほころびがあるような感じなんだよね。
    「若く美しい柳」○ 若く美しい柳に恋をした電信柱の話。泣いている柳が登場するので初めから現実と乖離をしているのでむしろいわゆるファンタジーとして理解しやすく一般的にとっつきやすい方の作品なのでは。しかしねえフツーではないのよ。
    「辛子の野原」○ 辛子菜の咲く野原で働く女たち。昔森の猟番をしていたルーファスの話になる。普通小説。情景描写が素晴らしくそこに暮らす平凡な人々の心模様と相まって心に響く。
    「ポリー・モーガン」○ 死んだ男の言葉に背き墓に花を手向けてしまったアガサ伯母。舞台はイングランドのチルターン丘陵というところで、いかにも英国怪談にふさわしく雰囲気たっぷりな作品。
    「アラベスクー鼠」○ 暖炉に現れた鼠から主人公の様々な記憶が甦る。鮮やかな言葉の連なりがイメージのつながりを呼び起す様な作品。そこには凄みも感じられる。
    「王女と太鼓」 孤児のキンセラは予言に導かれて旅に出る。これまたどこに転がるか分からない様な話なんだけど、タイトル通り王女と太鼓が出てくる場面が好き。
    「幼子は迷いけり」○ 貧しい夫婦の一粒種デヴィッド。これも普通小説。デヴィッドを思う母親の気持は空回りし切なくも時に笑いをさそうようなところもある。そしてそれらを包むかのような豊かな表現が胸にしみる。
    「シオンへの行進」 旅をし道すがら同行していく者たちの話。キリスト教をそのままモチーフにしているようにも思える作品で門外漢としては難しいところもある。マリアが実に美しく描かれている。

     ファンタジー、ホラー的な小説としてとらえやすかった『天来の美酒』に比べるとさらに謎めいた作品が多いかもしれない。しかしジャンルや筋といった部分よりも全篇通じて目の前にその情景が広がる様な描写が印象に残る。「誰も書いたことがないような作品を書きたかった」(解説)コッパードは恵まれていたとはとても言えない生活の中で詩情を紡ぎだし、まさに彼だけの作品世界を作り上げてきたのだろうと思う。詳細にその経歴を追った訳者解説も素晴らしく、非常に美しい一冊である。

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