- Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480432995
感想・レビュー・書評
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途中から誰が誰なのか分からなくなったが、読む人に希望を与えるとても良い話だった。日本に住んでいると全く意識しない難民の人々の実態。多様な民族が入り混じった社会。冒頭から圧倒された。言葉に過剰な力を持ってもらいたくないと私は思っているが、みんなには幸せになってほしい。
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新しい言語を習得する過程の苦しみや喜び。伝えたいのに伝えられないもどかしさ。母国語話者からの無配慮への憤り。本作のメインテーマはこれではないけれど、メキシコで働いた自分自身の経験と重ね合わせずにはいられなかった。第二言語を真剣に習得しようともがくからこそ見えてくる母国語の尊さ。母国語とする言語に優劣などあるはずもないけれど、現実には母国語に起因する差が生じていることは間違いない。それを受け止め、乗り越えてどう生きるか。“マジョリティの権化”にはなれない私たちにそれが問われているような気がする。
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アフリカからの難民サリマと、夫の仕事の都合による移民ハリネズミが、異郷の地オーストラリアで暮らす。言語の獲得が尊厳の獲得に直結してしまう厳しさ。
その言語を獲得しようとする二人の前に立ちはだかるのが肌の色の違い、性差、教育格差、貧富の差。生きるためにもがき、耐えて、それでも決して人のせいにはしない強さに感動する。 -
ハードカバーも持っているのに、購入。
この作品は、このくらい身軽な所から始めて読んでいくことが良いのだと思う。
サリマが、生きるために来なくてはならなかった国。選択や、比較ではなく、ただそうするしかなかったという一択の中。
そうして、そこから始めて生きるという過程に踏み込みだしてゆく。
言葉の分厚い壁の中で、違いとは何かを彷徨する。
マジョリティーの言語とは、一体何なのか。
そうしてハリネズミが、子供について語るときに、どうしても日本語で書きたいという思いとは。
私たちは、私たちを形成するものの大きな一つが言語であることに、半ば無意識的である。
だから、乱雑に、適当に扱ってはばからない。
けれども、英語の前で日本語の行く先はあるのか。
いつも、この問いが私の前に立ちはだかる。
行く先があるのだとしたら、私たちはそれを、貴重なマイノリティーだと意識しなくてはならない。
この作品にある、力の現れ。
その前でもがき、生きようとするサリマやハリネズミは、まったく他人ではあるまい。
だからこそ、愛おしい。 -
2014年本屋大賞4位入賞作品。
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昔の「本屋大賞」のリストから、読んでいないものをぽつぽつと読んでみる。この本は、2014年の第4位。
170頁も満たない薄い本だったが、心に引っ掛かるところが多くて、読み進むのには結構時間が掛かった。
アフリカからオーストラリアの田舎町に流れてきた難民サリマは、夫に逃げられ、精肉作業場で働きつつ二人の子どもを育てている。
母語の読み書きすらままならない彼女だったが、仕事の傍ら職業訓練学校で英語を学び始める。
頼る者もない異郷で、夫に逃げられ長男にも去られた彼女が、言葉を得て、僅かな友だちができ、次男との関係が築かれ、徐々にコミュニティの一員となる。
感じ取っているものの多さと口に出して表現できる言葉の貧しさのギャップの持つ意味がつぶさに描かれるとともに、言葉を得る過程で、彼女から見て満たされていると思われた人でも、彼らに降りかかった様々な出来事から彼らとて他人には計り知れない内面を抱えていることを垣間見て、今こそ彼我の違いを受容し、それ故に自分が何者かを認識していく様子が真に迫る。
間に挟まる、恩師への書簡の形で語られるイトウサユリという日本人の生活。自分の夢を半ば諦め夫についてオーストラリアに渡った彼女は、英語で小説を書こうとしているが、書きあぐねている。
二人の言語との格闘と、それぞれが抱える孤独と、生活における困難が、上手く絡まりあって、二人が生きていく姿を際立たせる。
実は“サリマ”と“ナチキ”の書き分けの意味がよく分からずに読んでいて、最後の書簡でやっと理解できた。
サリマの物語だと読んでいたのが、物語の主人公はサユリだったのかと、生きていくための逞しさよりも言語との格闘が主題だったのかと腑に落ちない気持ちにもなったが、いや、勿論“言語”についてはこの物語の主要な主題ではあるが、“ナチキ”ではなく“サリマ”と表現されたことで、ナチキひとりのことではなく、多くの逞しく生きる移民や女性について物語であったのだと改めて感じ取った。
中身も、本の仕掛けも、結構深かったのでした。 -
絶望と喪失と隣り合わせにある希望
沈みゆく夕陽に託された思いに心をうたれた
オーストラリアで暮らすアフリカからの難民の一人称で書き切る筆者の筆力に圧倒された
シスターフッド小説としてのクオリティがとても高い