どこに転がっていくの、林檎ちゃん (ちくま文庫)

  • 筑摩書房
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480435576

作品紹介・あらすじ

元オーストリア陸軍少尉ヴィトーリンは、捕虜収容所での屈辱を晴らそうと革命後のロシアへ舞い戻る。仇の司令官セリュコフを追う壮大な冒険の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 20世紀前半にウィーンで活躍したユダヤ系作家
    レオ・ペルッツの長編小説。
    第一次世界大戦とロシア革命の最中、
    復讐の一念に取り憑かれた青年の遍歴。

    以下、アウトラインと感想をネタバレしない範囲で。

    第一次世界大戦終結間際に
    ロシア軍の捕虜収容所から解放された
    ゲオルク・ヴィトーリン29歳は、
    司令官セリュコフ大尉に侮辱され、また、
    彼のせいで捕虜仲間が死んだことから復讐を誓って
    ウィーンの自宅に戻った。
    セリュコフが赤軍に加わるべく
    モスクワへ向かったらしいという情報を得たゲオルクは
    家族の期待と恋人の希望を裏切って出発。
    だが、セリュコフはゲオルクの怨念を知ってか知らずか、
    すんでのところで身を躱すように行方を晦まし続けるのだった。

    行く先々で足止めを食い、病や空腹に苦しみつつも、
    様々な助力を得て状況を打開するゲオルク。
    しかし、意地とプライドから報復にこだわり続ける彼の姿は、
    あたかも、関わった人たちにほぼ漏れなく災厄をもたらす死神か、
    さもなくば毒リンゴのよう。
    偽の赤軍兵士になったり、野戦病院に入ったり、
    踊り子の伴奏にヴァイオリンを弾いたり、
    博打で躍起になったり、交通事故で入院したり……と、
    身も心もボロボロになりながら、
    若気の至りでヨーロッパ中を突っ走る。
    御都合主義的な展開が目につくが、混乱の戦間期が舞台なので、
    さもありなんと、
    さほど違和感を覚えずに読み進めることが出来た。
    結末は、途中でハタと予測がついたとおりだったが、
    その終わり方にホッと胸を撫で下ろしたのも確か。
    兄想いの弟オスカルがかわゆい。
    曰く、

    > でも願書には何年も無職だったって書いちゃだめだよ。(p.298)

    一番気の毒なのは
    理不尽な形で同志を失った騎兵大尉だったかも……。

  • 第一次世界大戦末期、ロシアの捕虜収容所から解放された5人のオーストリア兵士たち。彼らは仲間を見殺しにし、自分たちを侮辱した捕虜収容所司令官セリュコフへの復讐を誓いあっていた。しかしウィーンに帰国後、その信念を持ち続けたのは主人公ヴィトーリンだけ。5人のうち3人は平凡で安楽な現在の暮らしを優先し復讐のことなど忘れたがっている。ヴィトーリン自身も困窮する家族や健気な恋人フランツィのために躊躇うも、結局すべて捨てて復讐のためにロシアへ舞い戻るが、折しもロシアは革命のさなかで・・・。

    可愛らしいタイトルはロシアで昔から歌われている唱歌?民謡?のようなものの歌詞らしい。ストーリーは可愛らしさとは程遠いけれど、どこに転がっていくかわからない、という意味ではピッタリだ。ヴィトーリンはまだ若く、語学が得意で、家族や恋人のために真面目に働くという選択肢もあったのに、あえて不毛な復讐へと邁進する。なにがそれほどまでに彼を駆り立てるのかは第三者にはよくわからない。登場人物の一人はヴィトーリンを「狂信的」と表現するが、まさにそれ。裏返すとそれは解説にあったように「ドンキホーテ的」な滑稽さを伴う。つまり彼のすることは悉く「愚行」である。

    セリュコフは確かに嫌なやつだが、なんというか、ずばぬけた悪人というわけではない。戦時中ならよくいるだろうステレオタイプの嫌な奴程度だ。この程度の嫌な奴のために自分自身の人生を棒に振ってまで関わる必要はないだろうと思ってしまう(だから5人のうち3人は忘れることを選ぶ)ましてや戦争中、自ら手を下さずとも放っておいても勝手に死ぬ確率も高いわけで。さらにこのヴィトーリンの復讐行に偶然に関わっただけの赤の他人が結構な人数、とんだ不幸な目にあうので、正直なんとも傍迷惑・・・。

    しかしヴィトーリンは革命に巻き込まれ何度も捕まったり命の危険にさらされつつもセリュコフ憎しの一念で彼の足跡を追い続ける。その追跡行はロシア国内にとどまらず、グルジア、トルコ、ローマ、ミラノ、マルセイユ、パリ、そして・・・。世界を半周して結局「ふりだし」に戻っただけのようなラストの虚無感たるや・・・もはや笑うしかない。

    ヴィトーリンの行動を誠実さと捉え、あのような結末になっても彼の成長を良しとするか、いやいや結局「愚行」でしょ、ハムスターがカラカラ回ってたのと大差ない、と虚しさに襲われるかは読み手の受け取り方次第。私はどちらかというと後者でした。しかしえてして人生とはこのようなもの、という気もします。

    同じ作者の『第三の魔弾』や『アンチクリストの誕生』に比べると幻想性はなかったですが、これはこれで面白かった。そしてやっぱり女性にはいつも裏切られるわけですね(苦笑)

  • ロシアでの捕虜生活中に収容所司令官セリュコフに受けた侮辱が忘れられず、帰還後に再度ロシアに渡りセリュコフを殺そうとするオーストリア人青年ゲオルグ・ヴィトーリン。
    家族や恋人を捨てロシアへ向けて列車へ乗るもののロシアの混乱に巻き込まれ様々なトラブルに巻き込まれる。タイトル通り『どこに転がっていくの』状態です。
    狂気とも妄執とも言える思いに囚われ、周囲の人物を死に追いやりまでしてセリュコフを追い続けた結果は…。なんと空しい旅だったのか、と呆然としてしまいました。

  • 解説を読んでようやくフムフムとなる……黙示録的世界観、か。

  • 創作なのか?と何度か疑問に思う程に、濃密に当時の社会が表記され、ついていくのにやっとこさだった。オーストリア人がロシアで捕虜になる。帰国し、改めて当時のにっくき捕虜所の司令官と対決しにいく。その間に情勢はくるくる変わり、目的の人物と一対一で対面した時には、舞台は既に過去の物となってしまっていた。色んな人物に出会い、それぞれが生きる上での思想のために活動しているのに、主人公は私利であり「君は革命がなんたるかわかってないね」と言われる。うーん。骨太の男のロマンだなあ。結構勉強しながら読んだ。

  • ”みんなのうた”の「トロイカ」のように朗らかに聞えちゃう題名だけど、革命期のロシアで転がされちゃう青年の物語なのね~

  • 『アンチクリストの誕生』に続き、ちくま文庫から刊行。矢張り文庫の手軽さはいい。
    一種の流離譚というのか、主人公が『何処に転がって行くのか』解らない部分が面白かった。巻末の訳者あとがきで主人公は『ドンキホーテ的』と表現されているが、確かに彼の言動にはドンキホーテと通じるものがある。

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