三ノ池植物園標本室 上 眠る草原 (ちくま文庫)

  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480435668

作品紹介・あらすじ

植物の刺繍に長けた風里が越してきた古い一軒家。その庭の井戸には芸術家たちの悲恋の記憶が眠っていた――。『恩寵』完全版を改題、待望の文庫化!

感想・レビュー・書評

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  • 漂う雰囲気がいい、一冊。

    会社を辞めた主人公 風里。

    散歩道で出会った古い一軒家に惹かれ住むことに。

    序盤から漂う柔らかな雰囲気がいい。

    偶然か必然かのような場所や人との出逢い。
    会話からはもちろん、植物から漂う優しい雰囲気も読んでいて心が和らぐ。

    風里が自分の気持ちに向き合う姿、この家に住みたい、刺繍が好きというさまざまな気持ちをしっかりキャッチして大切にしていく姿は読んでいて清々しいしうらやましくもあったな。

    井戸、謎の少女、夢見、これがどう繋がってどんな展開が待ち受けているのか、下巻へ。

  • どう考えても、ブラック企業と思われる会社で身も心も費やして働く主人公・風里が、体調不良で病院に行った後、遅刻して会社へ出勤。しかし、そこで風里は誤った階のボタンを押してしまい、無くなった会社のフロアの偶然迷い込む。
    何もないフロアで、高層ビルから見える青空をゴロゴロしながら見ているうちに眠ってしまい、気が付いたら、日が傾ていた…
    このシーンにガッツリ心を掴まれた。
    自分も人もいない、家具もないオフィスフロアでゴロゴロしてみたいなぁ、と思ってしまった。
    それはやはり風里と同じく、仕事に疲れているからだろう。
    そこから仕事を辞めて、ふらっと散歩に出かけた先で、古い洋館に出会い、さらに散歩した先で植物研究室の標本作りのバイトを見つけ、多忙な日々で忘れていた刺繡と言う才能を取り返していく姿は、とても羨ましく思えた。
    登場する不動産屋さんのノムさん、バイト先の苫教授、小菊ちゃんなどもとてもいい人たちで、心が温まるのだけど、ところどころに描かれる夢の謎。
    そして、一章だけ別視点で描かれた「葉」と言う少女の記憶。
    この内容が下巻で、どう繋がるのか、ちょっと難しいところだけれど、上巻は全体的にほんわかしていて、個人的には好きな感じだったけど…

  • 詩集、植物、夢と夢の中の少女、女の血筋、いろいろな要素が詰まっています。挫折と立ち直りの物語ですが、主人公の住む家や職場となる植物園の雰囲気がいいです。こういう生活は自分にはできないですが、憧れはありますね。

  • 物語は過去と現在、さらに夢の中を行き来する。しかも登場人物が多く、読むうちにこんがらがってしまった。
    (一度に何冊も並行して読む癖があるのでそれもいけないのだと思う。)
    そこでまず、登場人物を書き出した。20人以上登場する!(ミステリの要素があるので、人物紹介を載せるのは難しいだろうな)
    とても時間がかかったけれど、再読すると、よくできている物語で、面白さがやっとわかった。風里の持つ「ある種の力」の働きと、「救い」が、今後、多くの人の人生に関わっていく。

  • 三ノ池植物園の近くの家に導かれたように移り住み、植物園で働くことになった風里。葉の話になった時、え?誰?突然ゆって思ったが、それがこう繋がるかーなるほどなぁ。風里の周りがみんな素敵だし、いいなー、物を創り出せるって…と羨ましくも思う。下巻も読むぞ。

  • ★不思議な世界だね。大きな生きものの夢のなかにいるみたいだ。(p.268)

    ■要点■
    (1)ブラックな会社を辞めた風里は廃屋のような賃貸一軒家に強く惹かれ住みはじめた。
    (2)いきなりの、好い人ばかり攻撃であれよあれよという間に暮らしは軌道に乗りはじめ植物園でアルバイトしながら好きな刺繍にも没頭できるようになる。
    (3)やさしい世界のなかで「死」というもの、そして生きることへの思いが描かれているのかも?

    ■簡単なメモ■
    【一行目】吹き抜けになったロビーを歩き、エレベーターの前に立つ。すぐに、ぴん、と音がして、ドアが開いた。

    【生きる】ノムさん《まあ、生まれたからには、少なくとも、生きてることは許されてるってことじゃないの》上巻p.36
    【石塚】研究所にいる修士の院生。赤痢で休んでいたが復活。風里の第一印象は悪かった。運も悪く調査に行くと毎回マラリアとかデング熱とかをもらってくる。いつもイライラしてる感じだが風里以外はあまり気にしていない。不気味要素のある話が苦手。
    【枝と小鳥】ハンドメイド系の雑貨店。店主は桐生澄世。小菊の紹介で風里の刺繍を置くことになった。
    【大島風里/おおしま・ふうり】→風里
    【家族】小菊《家族のなかって、いちばん秘密が多いところなのかもしれませんね》上巻p.123
    【ガラス】液体。
    【考え】苫教授《たしかに、死ぬときには、その人の頭のなかの世界もきれいさっぱり消え去るのよね。人の頭のなかにはだれにも言わないままの記憶がたくさんあるから、それらも同時に完全に消えてしまう》上巻p.120
    【桐生澄世/きりゅう・すみよ】ハンドクラフト系雑貨店「枝と小鳥」店主。帰国子女で小学校はオーストラリア。鳥の巣そっくりの作品をつくる。
    【日下奏/くさか・そう】科学系イラストレーター。陶芸もする。葉っぱのイメージでつくる。ちゃんと売れる。いつも人を見透かしたようなしゃべり方をする。《人間はそれほど器用じゃない。だから、ほんとは、そういう場所を探すことに真剣になるべきなんだ。それ以外の場所で努力するのは、はっきり言って時間のムダ》上巻p.85
    【ゲンさん】藤田源三。藤田工務店のあるじ。野村さんは「ゲンさん」と呼んでいる。家の改装をやってくれたが材料費しか請求しなかった。
    【小菊】研究所の修士一年。分子進化学が専門。はっきりものを言うタイプ。
    【佐伯小菊】→小菊
    【三ノ池植物園】風里が標本整理のアルバイトすることになった。二ノ池公園の隣。応来大学付属植物園。研究所もある。入場料は三百円。
    【刺繍】唯一の趣味。植物の細密画のような作品をつくる。
    【植物の世界】水明社が発行している植物についての雑誌。苫教授が監修している。
    【杉崎】村上紀重の弟子。不興を買った。
    【星明学園/せいめいがくえん】中高一貫のお嬢様学校。村上葉が通う。生徒会長の鳥越理子(とりごえ・たかこ)、高等部副会長の三輪梢、生徒会書記の檜山照美は才人トリオと呼ばれている。
    【テッセン】風里の刺繍のターニングポイントになった題材の植物。ちょうど木下杢太郎の『新編百花譜百選』を読んだところだったので調べてみた。なるほどこんな花か。
    【テルミー不動産】廃屋のような一軒家の販売・管理を委託されていた町の不動産屋さん。
    【年を取る】ゲンさん《年取って、だんだん自分の限界がわかってきても、人間ってそれでも生きてようって思うんだよ。いじましいけどね》上巻p.36
    【苫淑子】三ノ池植物園の教授で研究所と植物園のトップ。分子進化学の第一人者。背が高くパワフルな感じ。ものの整理は苦手っぽい。
    【友子/ともこ】村上葉の友人。弓道部。人に頼らないしっかりした性格。《葉のない枝が美しく見えるのは、わたしたちが葉のある枝を知っているからだ。》上巻p.164。しかし葉は枝そのものが美しいと思った。
    【鳥越理子/とりごえ・たかこ】葉が副会長だったときの星明学園生徒会長。才媛。誰よりも力強いと葉は思った。《力強いのではないのよ。自分が弱いと知っているだけ》上巻p.195
    【中山】村上紀重の大学時代からの友人。文字の研究をしている。
    【中山飛生/なかやま・とびお】風里が住んでいる一軒家の大家の息子。名刺には「ランドスケープ・アーキテクト」と書かれていたが会社の名前? 職業的には庭師みたいなものらしい。
    【並木まほろ】水明社『植物の世界』編集者。背が低くショートカットでまん丸メガネの忘れられない風貌。なんか迫力がある。ミステリマニアで自分でも書いているらしい。
    【二ノ池公園】風里が廃屋のようなような一軒家を見つけた。
    【ノムさん】野村さん。テルミー不動産のあるじ。藤田さんは「ノムさん」と呼んでいる。風里を気に入ったようだ。
    【野村】→ノムさん
    【のんびり】ノムさん《無理して手に入れたものなんて、どうせ手元には残らないんだから》上巻p.37
    【風里/ふうり】主人公の「わたし」。《そもそも、だれなんだ、わたし?》上巻p.19
    【風里の母】風里に刺繍を教えてくれた。家庭科の先生だったそうだ。
    【藤田源三】→ゲンさん
    【分子進化学】苫教授や小菊が専門にしている。《わたしたちの仕事って、生きものをDNAっていう記号に変換することで成り立っているんです。記号にしてコンピューターに入力すれば、分析も操作もしやすくなりますから》上巻p.236
    【変化朝顔】江戸時代に流行った変なタイプの朝顔。苫教授の祖母が育てていた。
    【骨】日下《骨っておもしろいよね。身体を支える芯みたいなものだけど、持ち主が死んではじめて全体が外に現れる》上巻p.89
    【村上薫子/むらこみ・かおるこ】葉の母。紀重の妻。華道の家元、遠田(おんだ)家の出身。書をやっていて紀重と出会って結婚した。
    【村上紀重/むらかみ・のりしげ】書家。大きな紙に漢字一文字だけを書く。ヨーロッパの美術館にも収蔵されているらしい。「沈黙の文字」と呼ばれている。自分というものを出さず文字そのものの純粋な姿を描く。
    【村上葉/むらかみ・よう】紀重の娘。お嬢様学校「星明学園」に通う。生徒会副会長。中高一貫校で初の中学生副会長。
    【夢】《不思議な世界だね。大きな生きものの夢のなかにいるみたいだ。》上巻p.268
    【夢見】風里の血筋にときどき出現する、他者の夢に入れる能力。手仕事に秀でるという特徴も持つ。

  • <上下巻読了>
     ファンタジックでミステリアスなハートウォーミングストーリー。
     職場で疲弊した心身を休めるべく、退職したヒロイン・風里が移り住んだ、古い一軒家と、庭の井戸。
     多くの者たちの記憶と意識が沁みついた家と、彼女が働く大学の植物園に集う人々を巡り、三世代に渡る懊悩と救済の物語が展開する。
     刺繍や裁縫、書道に建築、陶芸。
     鋭敏で繊細な感性と、飛び抜けた才能ゆえに、社会から歪み、業に囚われた芸術家たちの因縁の相関関係、自我と世界の捉え方の変遷、永き精神的試練が、透明感溢れる筆致で煌めくように描かれる。
     風里が遺伝的に受け継いだ夢見の能力が、幾重にも絡み合って沈殿した、人々の心の糸を緩やかに紐解いてゆく。
     人の一生は、生きとし生けるもの総ての、終わりなき歴史の一部を形成するに過ぎず、一人の中には数多の想いと祈りが地盤となって継承されている。
     さまざまな時間軸と複眼的なサイドストーリーが、最終的に総じて紡ぎ合わされ、脳裏に目映い模様――世界――を浮かび上がらせる。
     世界とは、生き物たちが織り成す、生々しくも鮮やかな巨大な織物なのだと感じられる、美しい物語である。

  • 何度も読み返しているのに、なぜかうまく感想が書けない。

  • 手で作品をつくる人間としてとても前向きになれるお話であった、また手を使うことでしか生み出せない、恐怖のようなものも感じてしまった
    でも、いいものは新しい何かに引き継がれていくのかもしれない
    下巻でどうゆう結末を迎えるのか。

  • 風里だけじゃなく間に薫子の話も入ってくるので不思議な雰囲気の話になってます。植物園の標本とか精密な刺繍、住んでいる家等色々な物がどこか静謐で穏やか。
    その中で緩やかに充足していく風里が、緩やかに進んでいくのも良かったです。

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著者プロフィール

1964年東京都生まれ。作家・詩人。95年「影をめくるとき」が第38回群像新人文学賞優秀作受賞。2002年『ヘビイチゴ・サナトリウム』が、第12回鮎川哲也賞最終候補作となる。16年から刊行された「活版印刷三日月堂」シリーズが話題を呼び、第5回静岡書店大賞(映像化したい文庫部門)を受賞するなど人気となる。主な作品に「菓子屋横丁月光荘」シリーズ、『三ノ池植物園標本室(上・下)』など。

「2021年 『東京のぼる坂くだる坂』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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