本土の人間は知らないが、沖縄の人はみんな知っていること (ちくま文庫)

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  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480437174

作品紹介・あらすじ

普天間、辺野古、嘉手納など沖縄の全米軍基地を探訪し、この島に隠された謎に迫る痛快無比なデビュー作。カラー写真と地図満載。解説 白井聡

感想・レビュー・書評

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  • 2010年、本書の取材をした矢部宏治さんの人生が変わったように、1990年「沖縄の人はみんな知っていること」を知って、私の人生も少し変わった。そのことを書けば怖ろしく長くなるので、何とかして1/1000にまとめる。

    沖縄には、日本の矛盾の塊りがある。一言で言えばそういう事を知ったのである。

    単なる職場の平和サークルの学習旅行のために、今考えればどうして、ひめゆり隊の生き残り宮城喜久子さんが「語り部出張」にやってきたのか?どうして、あの有名な反戦地主の島袋善祐さんが対応してくれたのか?沖縄平和委員会事務局長が「安保の見える丘」を案内してくれたのか?

    と、書いても本土の人の大部分には知らない人たちだろう。詳しく解説する余裕はない。本書にも登場しない。ただ、矢部宏治さんも驚いたように、未知の単なる物好きのような矢部さんの取材にも沖縄で会う人全員が親切丁寧に沖縄基地の案内をしてくれたらしい。当初数ヶ月かかるかと思われた取材が2週間で完結したのは既視感があった。何しろ、私たちは2泊3日で沖縄の真髄に触れたのだから。沖縄で普通にニュースで流れていることは、本土では全然流れない。沖縄の人たちは、みんな知ってもらいたいのである。沖縄のことを。

    矢部宏治さんが、沖縄問題や基地問題について何冊も本を書いて、ベストセラーを連発するようになったのは、2010年6月鳩山内閣の崩壊に疑問を持って沖縄に乗り込んだ時かららしい。その時まで誰からも本質的なことは聞けなかったのに、沖縄の人は一様にその本質を知っていたと言う。

    「13年前と同じなのよ」
    しびれるコメントです。基地の問題にくわしいキャスターや新聞記者、学者もいるはずなのに、どうして本土ではそういうことを言わないのか不思議でしかたありません。(68p)

    1997年12月21日、辺野古の海上基地建設をめぐって名護市で市民投票が行われ、反対派が勝利した。その結果を受けて、反対派として当選していた比嘉鉄也市長(当時)は東京に行って橋本龍太郎首相と会う。すると、なんと「受け入れ」を表明。「同時に辞任する」意向を伝えた。

    その仕組みは、遡れば細川首相が福祉税導入に失敗したからではなく「北朝鮮の核」のために辞任したことにも繋がるらしい。細川首相辞任のことは知らなかったけど、ある程度平和運動に関わり沖縄に何回か来たことのある者にとっては、矢部宏治さんの話は既視感のある話ばかりである。近くは仲井眞知事が東京で一夜で県民を裏切り、辺野古容認に走ったのが2013年年末だった。その直後に翁長知事が誕生しなかったら、どうなっていたか。反対に言えば、沖縄は良くぞあの時踏ん張ったのだ。そういう危機感を本土は共有していない。

    本土では、お昼の番組で北朝鮮のことは毎日しゃべるけど、沖縄のことはその1/100も喋らない。

    矢部宏治さんと同じように、矢部宏治さんよりも前に、私は沖縄に行き世界観が変わった。そのきっかけとなり得る、沖縄の地図と解説と写真と歴史的解説がこの本にある。騙されたと思って、この本をガイドに2泊3日で沖縄旅行をしてみるがいい。「この本には、こんな事を書いているのですがホントですか?」そう言って沖縄の人に聴いて見てみたら?もしかしたら、貴方の人生も変わるかもしれない。

  • 【感想】
    沖縄と日本の関係は香港と中国の関係と似ている。

    香港は1842年のアヘン戦争後にイギリス領となった。1997年に中国に返還されることになったものの、一国二制度のもと、中国の領地でありながら高い自治性を維持する都市となった。しかし、2010年代から、中国政府による強硬な同化政策への反発が起き、多くの民主化運動が起こっている。
    一方沖縄は、古くから日本よりもアジア各国との交易が盛んであり、ヤマトとは異なる一王国としての独自性を保ちつづけていた。しかし、江戸時代に幕府に組み込まれると徐々に日本の影響を受けるようになり、1879年には琉球王国が崩壊、現在の沖縄県が誕生する。1945年から1972年までアメリカ軍による占領を受けたのち日本に返還されたものの、日米地位協定における戦略拠点として、日本の領土でありながら米国の影響下にある。アメリカの干渉に対して見直しを求める動きが、沖縄県民の中で強く起こっているのが現状だ。

    2つの地域は、本国からの独立機運があるかないかこそ相違しているものの、根底に潜むイデオロギーは同じだ。つまり、政府が掲げる「民主主義」に不信感を抱えているのだ。

    そうした不信感を抱くのはおかしいことではない。本土決戦の先兵として多大な犠牲を払った後に、肉親を殺した敵国の統治下に置かれた。27年におよぶ占領政策を耐えてやっと解放されたと思ったら、「東アジアの平和を守る(実際には対共産を名目にした侵略だったのだが)」という建前のもと、本土の人間を守る生贄になったのだから。

    もし沖縄に駐留する軍隊が、アメリカ軍ではなく自衛隊であったならば、沖縄の人はまだ溜飲を下げられたことだろう。しかし、実際に起こったのは米軍による占領の継続だった。こうした欺瞞を国家ぐるみで見て見ぬふりしたばかりか、アメリカの国益に叶うように反対意見を潰してきたのだ。

    これが真っ当な「民主主義」と言えるのか?
    その思いを彼らは抱え続けているのだ。

    多くの日本人は次のように思っている。日本は紀元前より1つの国・1つの民族として繁栄してきた、歴史ある国家なのだと。
    しかし、それは大きな勘違いだ。

    沖縄で起こっているのは紛れもない「民族・領土問題」だ。香港、北アイルランド、クリミアのように、日本人が「われわれには無関係だ」と思っている自治問題が、日本国内で今まさに勃発している。
    沖縄県民が日本政府に抵抗するのは、決して彼らが外交知らずの無責任な集団だからではない。日本政府が掲げる外交政策に意義を唱え、「自分たちの土地の権利は自分たちにある」という至極当たり前のことを提唱しているだけなのだ。

    決して忘れてはならない。われわれ本土の人間は、弱者に一方的な負担を押し付けることで、今の平和を享受しているということを。
    ―――――――――――――――――――――――――――――

    【本書のまとめ】
    0 まえがき
    沖縄の人たちは決して反米思想の持ち主ではない。ただ彼らが訴えているのは、「日米安保条約が日本の防衛に必要なら、日本全体でその負担を分け合ってほしい」というごくまっとうな要求なのだ。

    1 ペリーがまず那覇に訪れた理由
    実は、ペリーが浦賀に来たときは、太平洋横断ではなく、大西洋を7か月かけてグルっと回って来ている。そのとき、浦賀よりも先に那覇に訪れていた。
    那覇に訪れた目的は、同じく大西洋航路で香港に訪れていたイギリスに対抗するべく、太平洋経由のルートを開拓しようとしていたからだ。日本本土を足掛かりとし、覇権国家イギリスを抑え込む。その「予備地」として、沖縄の占領を見込んだのだ。


    2 戦後占領下の琉球政府
    占領時代の日本人による「琉球政府」は、政府とは名ばかりで、米軍の「総督たち」の下請け機関として、植民地の中で一定の自治を認められた存在にすぎなかった。これは戦後から続くアメリカ政府と日本政府の関係と同じである。
    現在の沖縄や本土で起きているアメリカがらみの不可解な事件は、裏で米軍と日本政府が密約を結び、米軍の不利益にならないよう動いているために起こっている。 

    沖縄に完全な自治はない。民主的なルールは、アメリカ側の方針に反しない場合のみ適用される。ピラミッドの10段中9段は民主主義で運営されていても、一番上の段だけは特例なのだ。

    普天間基地やキャンプ・フォスターなどの米軍基地は、民間人の所有する土地を米国が強制的に取り上げた末に建てられている。占領は70年経った今も終わっていないのだ。


    3 天皇に切り捨てられた島
    1947年に、沖縄の半永久的な占領を求めるメッセージを、昭和天皇が側近を通じてマッカーサー司令部に伝えていたことがあきらかになった。その意図は、米国の高い政治能力と政治的リアリズムに加えて、共産主義革命への強い恐怖があったからだ。

    国内で広く支持されている天皇制と世界最強でありつづけた米軍が深く結びついたことが、戦後日本のどうしようもなく複雑なねじれ現象を生んだ。


    4 日本国憲法と日米安保条約
    日本の歴史教科書は、次の3つを明確に記すべきである。
    ①日本の憲法が、アメリカの、しかも軍部によって書かれたこと
    ②占領終結のための平和条約に調印した6時間後に日米安保条約が調印され、占領軍はただ名前が「在日米軍」と変わっただけで、占領は継続されたこと
    ③絶対平和主義にもとづく日本国憲法と、国内に米軍の駐留を認めた日米安保条約は、実は表裏一体の関係にあること

    日本国憲法は日本占領政策とセットで制定された。だから、改憲について討論する際に、日本国憲法を「単独で」語っても意味はない。安保とセットでその意義を語らなければならないのだ。


    5 CIAと戦後日本
    CIAが1950年代から60年代にかけて、自民党に数百万ドルを援助していたことが発覚した。
    CIA秘録を作ったティム・ワイナーによれば、自民党というのは「岸がCIAに金を出して作ってもらった政党」だという。岸は、自分へのサポートと引き換えにアメリカの外交政策を支援する取り付けをしていたのだ。
    岸がCIAから資金提供を受けて作った自民党の本質的機能とは、「安保体制を守り、運営する」ことだった。アメリカの言うことを忠実に実行した者が、日本社会のイニシアチブを握り、出世コースを歩むことができる。この構図は現代においても変わっていない。

    その力関係に楯突いた者――普天間基地を県外移設しようとした鳩山由紀夫は、外務省を中心とする官僚たちによって潰された。もはや一国の長ですら、アメリカの意向を無視した政策決定に踏み切れなくなっているのだ。


    6 60年安保
    1960年の日米安保は、実質的には、米国による日本基地使用協定だった。

    日本人の間では、「戦争が起きたらアメリカが守ってくれる」という思いが広く一般的になっているが、決してそんなことはない。
    1970年に、当時のジョンソン国務長官は、「日本防衛の責任は日本にあり、われわれは直接、日本の通常型防衛に関するいかなる地上・航空戦力も持っていない」と述べている。
    核の傘という言葉があるが、それも、米軍が自らの世界戦略に基づいて駐留していることが「他国への抑止力」なのであって、日本のために核を打ち返してくれるわけではない。日本の防衛そのものに関しては、基本的に日本の責任なのだ。
    今のアメリカと日本国は、大日本帝国と満州国の関係と同じと言っていいだろう。一言で言えば傀儡政権だ。


    7 日米合同委員会
    在日米軍の「円滑な運用」を協議する「日米合同委員会」こそが、日々、無数の密約を生み出している国の暗部だ。日米合同委員会では、議事録と合意文書は作成されるが、それらは原則として公表されない。

    合意文書の法的な位置づけをチャートにすると、
    日本国憲法→日米安保条約→日米地位協定→日米合同委員会・合意文書(密約)
    となる。つまり、上位の取り決めに入れるとマズイものを、どんどん下位に送って密約にしているのだ。
    密約には、事前の承認無しの私有地への立ち入り、裁判権放棄などの重要条項が盛り込まれている。

    安保特例法はさまざまな分野に対して40以上もある。核持ち込みなど条約レベルでの密約や、日米合同委員会レベルの密約などとあわせて、在日米軍を超法規的存在とする「安保法体系」ができあがっている。日本国憲法にもとづく「憲法法体系」を、「安保法体系」が侵食しつつあるのが現在の日本の姿だ。
    ある密約は検察や裁判所に伝えられ、求刑や判決の結果を(米軍におもねるように)左右している。

    驚くべきことに、日本の法体系では「条約は、憲法以外の国内法に優先する」のだ。
    また、その憲法判断でさえ、米国が絡むと、最高裁は違憲判断を放棄している。

    国内法があろうとも条約を遵守しないといけないのは当然、と思うかもしれない。しかし、「条約にもとづく巨大な外国軍」が駐留していれば、話が変わってくる。刑法、民法、条例など、さまざまなレベルで外国軍に有利な無数の「合意事項」が生まれ、日本の国内に、自国の法律より上位の巨大な法体系が存在することになってしまうからだ。

    この視点に立つと、密約は官僚の悪事や違法行為とは言えなくなってくる。密約は、自国民の権利より外国軍の権利が優先するという植民地的状況を、なんとかアメリカに対等なふりをしてもらって国民から見えないようにした「外交的技術」であるのだ。


    8 米国と対等な日本を取り戻すために
    2005年の日米合意によって、米軍が世界中で行う「予防戦争」において、日本は「適切な貢献」を行うこととなった。

    アメリカは今や世界中に700か所以上も基地を構える帝国になっている。国内では民主主義を、国外では帝国主義を貫くアメリカは、各国への内政干渉によって世界を実効支配しようとしている。

    憲法が歯止めとならない状況下での、条約にもとづく大規模な外国軍の駐留は、絶対に認めてはならない。それは自国の法体系を根底から破壊してしまう。

    では、希望はあるのか?

    あるとすれば、日本の政権が勇気をもってアメリカと対等に交渉し、「沖縄に海兵隊は必要ないから出ていってくれ」と言うことだ。もしそれがはっきりと言えたら、世界の歴史を変える非常に大きな一歩となる。

    具体的には、米軍が日本から撤退することを憲法に定めるのだ。

    日本とアメリカは、在沖縄米海兵隊のグアム移転協定を結んでいる。海兵隊を国外に移動させる準備は整っているのだ。海兵隊の撤退が実現したあと、具体的な期限を定めて、嘉手納や横須賀など、すべての米軍基地を撤退させる。

    フィリピンでは1987年に、外国軍と基地の受け入れを原則として禁じる新憲法が発効された。これにより、米軍はフィリピンから完全撤退した。
    日本も同じように「外国軍の駐留を禁止する憲法」を可決すれば、問題は一気に解決に向かうのではないだろうか。

  • 2022年9月読了。

  • 私達は事あるごとに沖縄の基地問題に触れている癖に、絶対的他人事を決め込んでいる。
    現地に行っても帰ってきたら忘れる。
    自分の家族や恋人をレイプした犯人が同じ島に住んでいるのに、何もできないことが常態化している。

    特にこの書で触れたことで知ったアメリカの姿に驚きを隠せない。以下はネタバレもあるのを承知で読んで下さい。

    アーミテージ氏は、対テロ戦争でアメリカに協力しない場合、パキスタンに対して「味方でなければ敵だ」と伝えたことは認めた。

    なんでイラクから7年で撤退したのに、沖縄には75年経ってもまだ居座っているんだ米軍は。

    司馬遼太郎さんが1972年の月刊現代で
    中国とは絶対に仲良くしなければいかんのです。と語り
    アメリカの問題を考える上で、もし侮米という気持ちが起こるとしたら、アメリカと戦争できるかどうかを、まず考えてみなければいけません。とも残している。

    フィリピンにできたことは、日本にも必ずできるとし
    20xx年以降、外国の軍事基地、軍隊、施設は、国内のいかなる場所においても禁止される
    この一行を国会と国民投票で決議すればそれで終わると。

    何とかしなくてはいけない。
    私が沖縄のために出来ることは、選挙でしっかりこの問題に取り組んでくれるであろうリーダーに票を投じて行くことなんだと思う。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/759336

  • 沖縄の米軍基地を中心に据えた「沖縄ガイドブック」。

  • 日米安保体制の問題点に関する重要トピックがわかりやすい形で提示されていてよかった。

    “沖縄の人たちは決して反米思想の持ち主ではない。ただ彼らが訴えているのは、「日米安保条約が日本の防衛に必要なら、日本全体でその負担を分けあってほしい(略)」というごくまっとうな要求なのだ。このシンプルな論理に反論できる人間は、地球上どこにも存在しないだろう。”(p.15)

    という書き出しで期待しながら読んだが、著者自身の提案は、外国軍の駐留を禁じた条項を追加する憲法改正案(p.227)で肩透かしを食らった。少しくらい基地引き取りに触れてくれてもよかったのでは。

  • 東2法経図・6F開架:395A/Y11h//K

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/759336

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著者プロフィール

(やべ こうじ)1960年兵庫県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。株式会社博報堂マーケティング部を経て、1987年より書籍情報社代表。著書に『知ってはいけない――隠された日本支配の構造』(講談社現代新書)、『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』『日本はなぜ、「戦争ができる国」になったのか』(以上、集英社インターナショナル)、『本土の人間は知らないが、沖縄の人はみんな知っていること――沖縄・米軍基地観光ガイド』(書籍情報社)、共著書に『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』(創元社)。企画編集に「〈知の再発見〉双書」シリーズ、J・M・ロバーツ著「図説 世界の歴史」(全10巻)、「〈戦後再発見〉双書」シリーズ(以上、創元社)がある。

「2019年 『日本はなぜ、「戦争ができる国」になったのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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