陸軍将校の教育社会史(下) ――立身出世と天皇制 (ちくま学芸文庫)

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  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480510549

作品紹介・あらすじ

陸軍将校とは、いったいいかなる人びとだったのか。前提とされていた「内面化」の図式を覆し、「教育社会史」という研究領域を切り開いた傑作。

感想・レビュー・書評

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  •  とても面白かった。「百姓や貧乏人が行」き、立身出世を求める人生一発逆転のチャンスとしての陸軍の学校と陸軍の様子を豊富な資料から描き出す1997年発の博士論文を書籍化したものである。非常にナイーブに学校の課程を立身出世への道だと信じて邁進する百姓や貧乏人(や軍人)の子らの様子は、はてどこかで見たことあるような。しかしその期待は一部を除いて裏切られ、多くの大尉や少佐が窮乏に追い込まれるわけである。習ったことが社会ではほぼ無価値であり「右向け右」と尤もらしい訓話を一席ぶつくらいしかできない辞め将校の描写は涙がちょちょぎれる。上と下に誰かがいないと不安で堪らない階級社会でしか生きれない奇妙な生き物の成れの果ては惨めなものである。その様子を見た昭和の若手将校が、手柄を立てて自分だけは軍隊で出世しようとニ二六事件や満洲で暴発するわけである。これが教育の成果な訳だ。「陸軍に入れれば食いはぐれない」と意気込んだ百姓や貧乏人が、それが食いはぐれない方法だと信じて、訳の分からない軍人精神(理屈もへったくれもないお話の羅列を丸暗記することで教育と称していたらしい)と自主的に一体化していく過程は正直言って胸糞悪い。

     陸軍士官学校での教育が如何なるものだったのか、精神訓話については割合に詳しく書かれていたが、軍事学についてはどのような水準にあったのか詳細に乏しく、もう少し知りたかった。陸軍将校としての態度や規律を身につけることは大変結構だが、米軍に軽く蹴散らされた太平洋戦争での結果は、あまりに精神主義に傾斜して実学を軽視した結果だったのか、あるいは軍事学としてはよくやっていたが国力差によって敢えなく敗北したのか、興味があったのだが本書の内容には含まれていなかった。

     教官の言ったことをただ丸覚えした生徒がそのまま教官になりまた生徒に口伝えでそのまま覚えさせるバカがバカを作る「教育」なのでまあ品質に期待はできないだろう。
     当時から考えると都市部に人口が流入して久しいので今の東京とか田舎者の巣窟が無限にあることは忘れてはいけない。府立一中入れた水準がどれほどなのかは本書の内容ではないが。

  • 390.7||Hi||2

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著者プロフィール

1959年生まれ。現在、日本大学文理学部教育学科教授。研究領域は、近現代の教育を広く社会科学的な視点から考察する教育社会学。1997年、『陸軍将校の教育社会史』(世織書房)で第19回サントリー学芸賞受賞。著作に『教育は何をなすべきか――能力・職業・市民』(岩波書店)、編著に『歴史としての日教組』(名古屋大学出版会)など多数。

「2022年 『学校はなぜ退屈でなぜ大切なのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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