新版 魔女狩りの社会史 (ちくま学芸文庫)

  • 筑摩書房
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感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (608ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480510686

作品紹介・あらすじ

「魔女の社会」は実在したのだろうか? 資料を精確に読み解き、「魔女」にまつわる言説がどのように形成されたのかを明らかにする。解説 黒川正剛

感想・レビュー・書評

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  • タイトルから想像すると、魔女狩りの最盛期で何が起きたかまでを知ることができる著作だと誤解されやすいのではないだろうか。まず初めに、あとがき末尾にある訳者の言葉を紹介しておきたい。

    「コーンが追及したのは、魔女狩りの最盛期における魔女のイメージ(ステレオタイプ)の成立であって、15世紀末から17世紀初めにかけて西ヨーロッパ各地で行われた「魔女狩り」そのものではない」

    上記のように、本書が主に取り扱うのは魔女狩りそのものではなく、どのような思想的な背景によってそれが可能になったのかを探ることにある。そのため、最終章まで読み通したところで、魔女狩りの最盛期については補足的にごくわずかに触れられるに留まる。

    それを前提として、本書が追及するのは「魔女狩り」の時点で、「魔女」という観念がどのようなものであったかにある。その観念ははっきりと二つの異なる観念に分かれる。一つが農民などの民間における魔女であり、もう一つが指導的階級にとっての魔女である。12章立て、本文約500ページのなかで、本書が前半でとくに注目するのは後者にとっての魔女である。

    この魔女の観念は、反キリスト教的な(装幀に描かれているような)悪魔崇拝のイメージと直接的に結びついている。このような悪魔のイメージの由来は古く、原始キリスト教の時期にまでさかのぼる。そして、このようなイメージは民間一般のものではなく、指導的階級において生み出されたものであることがわかる。悪魔崇拝の観念は、魔女狩り以前にもしばしば時の権力者によって利用され、拷問と自白の強要によって悪魔崇拝の証言を捏造することで迫害を可能にしていた。「第五章 テンプル騎士団の壊滅」などで、この事実を端的に知ることができる。

    他方で、農民にある魔女の観念は、マレフィキウム(害悪魔術)と呼ばれる超自然的な方法でその隣人たちに害を与える女性に対するものだった。このように、ある種の魔女は古くから民間にも認められていたが、それは悪魔崇拝とは関係のないものだった。かつ、マレフィキウムにまつわる民間の争いとしては、民事訴訟に近い当時の訴訟のハードルが非常に高かったため、民間レベルでの大規模な魔女狩りは起こりようがなかったこともわかる。

    この二つの魔女の観念が最盛期の魔女狩りの背景を成立させたことが、本書を通して見えてくる。つまり直接的な原因は権力者たちの反キリスト教としての悪魔への怖れにあり、民間の魔女の観念は結果的に迫害に利用される材料を提供するものだったと考えられそうだ。

    全体への所感としては、先に触れた「第五章 テンプル騎士団の壊滅」など部分的にはとくに興味深く読める箇所もあるものの、魔女狩り最盛期の概要も併せて知ることができると誤解していた自分にとってはポイントを外しているうえに長く感じた。冒頭の記述と重複するが、本書は魔女狩りの概要を知るためではなく、むしろ基本的な情報は前提としたうえで、それまでの魔女狩り研究の瑕疵を突いて新たな解釈を求める意図が大きい。そのため個人的には、期待と書かれている内容のズレが大きかった。

    (本文内でも著者自身が「魔女狩り自体の歴史と社会学は(中略)本書の研究範囲外にある」と述べていることを踏まえると、本書の邦題は不誠実に思える。単行本から持ち越された邦題の由来は訳者あとがきでわかるが、新版を機に原題と内容に沿った邦題を検討すべきだったのでは。)

  • 誤解を招くタイトル。魔女狩りの歴史ではなく魔女狩りが広まった原因、被害妄想や官僚制による迫害構造を資料から分析する。キリスト教到来以前からあった農民たちの魔女観念には悪魔や悪霊との関連性は乏しかったが、それが支配階級や知識階級の、魔女は悪魔に率いられた背教的セクトの一員である、という偏見と合わさることで魔女狩りが発生したと。時代が下るほどにキリスト教において悪魔の存在感が増していくのは文明の進歩とともに人間が神経症的になっていくあらわれとも見えるがどうか。繰り返しや例が多く、さらに学術書然とした硬い訳文のため読むのに苦労したが内容は興味深かった。

  • 魔女狩りに限定する事なく、ヨーロッパの偏見の精神史という内容からだった。

  • 192.3||C66||Ma=1S

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著者プロフィール

ノーマン・コーン(Norman Cohn)
1915-2007年。オックスフォード大学クライスト・チャーチの研究員をつとめ、戦後、イングランド、アイルランドの諸大学で教鞭をとる。元サセックス大学教授。1968年に人種関係問題でアニスフィールド・ウルフ賞を受賞。著書に『千年王国の追求』(紀伊國屋書店)など。

「2022年 『新版 魔女狩りの社会史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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