走れ!移動図書館: 本でよりそう復興支援 (ちくまプリマー新書 208)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 45
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  • / ISBN・EAN: 9784480689108

感想・レビュー・書評

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  • 「食べ物は食べたらなくなります。でも読んだ本の記憶は残ります。
     だから図書館員として本を届けていきたいのです」
    「こんな時だからこそ、今、出会う本が子どもたちの一生の支えになる」

    シャンティ国際ボランティア会として、東日本大震災の被災地で移動図書館車を走らせるまでになった鎌倉幸子さんの活動記録。
    なぜ人には本が必要か、それを語れる人は数多くとも、ここまで実行できるだろうか。
    被災地に足を踏み入れ、たくさんの声に耳を傾ける。
    被災自治体とのきめ細かな連絡と話し合い。
    やがて多くの方々の協力を得てプロジェクトを立ち上げるまでの道のりだけで気が遠くなりそうだ。しかも平時ではないだけに、待ったなしの状況。
    おまけに鎌倉さんは運転免許も持たず車もなく、本の在庫にあてがあるわけでもない。

    「熱意とやる気」だけでは出来ない。ここにあるのは「思いと覚悟」だ。
    「ないのなら、作れば」というコトバを、この本で久々に聞いた気がする。
    ひと昔前は当たり前だった考え方が、何故忘れられたのかと忸怩たる思いだ。
    自分では良かれと思っても、他者に伝わらなくては意味がない。常に「誰のためにそれをするのか」を問い続ける姿勢に、ボランティアの真髄を見るように思われる。
    学ぶ点も多々ある本書だが、何がしかの事業を立ち上げる予定のある方にもきっと参考になる本だろう。

    1章と2章では移動図書館車が走り出すまでが書かれ、3章と4章では本を読むことと本の持てる力について語られる。
    感情を引き出し、忘れないために読み、情報を伝え、人と人を繋ぎ、文化を繋いでいく。
    その中で「選書」の大切さについて書かれた部分に非常に共感した。
    それは、「普遍の真理を伝えているものを選ぼう」ということ。
    少し引用してみる。

    「言語・国家・文化などが違えども、真理と言えるものがテーマとなっているものを選ぶこと。
    約束を守ること、嘘をつかないこと、友情、助け合い、生きることや失うこと、
    困難を乗り越えること、そんなメッセージを自然と伝えている本を意識して探す」
    そう、まさにその通り。おこがましいが、私自身も常に意識していることだ。

    「おわりに」と「あとがき」まで、娯楽を届けるのではなく「心の渇きへどう一滴でも潤いを届けるか」という著者の思いが詰まった渾身の一冊。

    ☆五つが続くなぁ。ブクログを通じて良き人と本に出会えた私は幸せ者だ。

    • えりりんさん
      読みたいです!
      読みたいです!
      2019/12/30
    • nejidonさん
      えりりんさん、ぜひお読みくださいな(^^♪
      取っつきやすいちくまプリマーですし、著者の文章も素直で平明で
      とても読みやすいです。
      ひと...
      えりりんさん、ぜひお読みくださいな(^^♪
      取っつきやすいちくまプリマーですし、著者の文章も素直で平明で
      とても読みやすいです。
      ひとは言葉ではなく行動が全てだなぁと、当たり前ですが思い直しました。
      ところで今年は3行日記が見事に根付きました。
      あらためて、ありがとうございます!
      2019/12/30
    • mkt99さん
      明けましておめでとうございます!(^o^)/
      本年もよろしくお願いいたします。m(_ _)m

      本への情熱が伝わってくるような一冊です...
      明けましておめでとうございます!(^o^)/
      本年もよろしくお願いいたします。m(_ _)m

      本への情熱が伝わってくるような一冊ですね!
      nejidonさんのレビューで私も読みたくなってきました!(^o^)/
      本って本当に良いですね!

      ところで年明けそうそうに『男はつらいよ』の最新作を観てきましたよ!(^o^)
      山田洋次監督の想いがぎゅっと詰まった素晴らしい作品だったと思います。
      私は何度か胸が詰まって泣いてしまいました。
      nejidonさんにとっても良い作品でありますよう!(^o^)
      2020/01/04
  • 東南アジアを中心に図書館事業や学校建設など教育・文化支援事業を行ってきたNGO法人シャンティ国際ボランティア会が、東日本大震災で大きな被害に遭った岩手県の各町で運行した移動図書館の開設経緯と活動をまとめた記録。

    本書は、移動図書館の立ち上げプロセスについて書かれた前半部分と、本の持つ力について書かれた後半部分の大きく2つの内容に分かれる。
    海外で図書館事業に携わってきたシャンティであっても、震災直後はまず衣食住、図書館などの文化的な支援は後回し、という意識があったという。ところが、気仙沼図書館がすぐに図書館を再開したというニュースを聞き、話を聞きに行く中で、今だからこそ本の力が大事だということに気づかされる。
    そこから組織内で自分の想いを伝え、プロジェクト化して詳細を一つ一つ決定し、実現に至る経緯は、緊急支援という特殊な場合だけでなく、通常のビジネスシーンでも非常に参考になる内容である。被災した多くの町の図書館に話を聞き、「人を感じる場づくり」をキーワードとして進めていくことにした移動図書館プロジェクトは、事務所の設置、車やスタッフの確保、移動範囲や運行日、本の仕入れ先などなど、さまざまな課題を周囲の人に助けられながら一つ一つクリアしていく。
    読んでいて感じたのは、こういったプロジェクトにおいて忘れてはいけないのは「誰のために」「何のために」行うのかを関わる人全員が共有し、ぶれないこと、また、必要性がなくなるまで継続することが大事だということ。当然のことだと思うかもしれないが、自分が関わってきたプロジェクトを振り返っても意外とこれがおろそかになっていることが多いような気がする。

    本書の後半では、復興支援の中で本や図書館の果たした役割について書かれているが、読んでいてはっと気づかされることがとても多かった。
    被災地の人にとって、「与えられる」のに慣れてしまってはいけないという思いがあること。本を読むことでプライバシーのない生活から自分の世界に入ることができるということ。
    自分の読みたい本を「選べる」ことが大事だということ。
    借りたものを返す、という約束を守る行為が日常を取り戻すのに大事だということ。

    通常とは異なる環境で生活することになったとしても、日々の暮らしは続く。小さいお子さんのいるお母さんは育児書を読みたいし、司馬遼太郎を読んで先人が歴史をどう切り開いていったのか知りたい人もいる。ばかばかしい本を読んで大笑いしたい人もいる。
    また、移動図書館を媒介にすることで、引きこもりがちな人が外出するきっかけとなるし、普段は話さない人ともちょっとしたおしゃべりをすることができる。特にエネルギーの行き場のない子供たちの居場所として、移動図書館はとても重要な役割を果たしたそうだ。

    本には「つなぐ」力がある、と著者はいう。過去と現在をつなぐ、人と人とをつなぐ本の力。
    また、本は生活を立て直していく中で必要な情報を提供する。さらに、本は失った感情を取り戻させてくれる。これまで経験したことのない状況に置かれたとき、人は言葉を失い、自分の中で渦巻く感情の行き場がなくなってしまいがちだ。そんなとき、本を読んで自分の感情を重ね合わせることで、気持ちがずっと楽になるのだという。

    頁数は多くないが、震災直後の貴重な記録として、復興支援のあり方や本の持つ力を改めて考えるきっかけとして、とても読み応えのある本だった。

  •  移動図書館、利用されたことがある方はどの程度おられるでしょうか。私も子どものころに何度か見た記憶はありますが、利用自体はあまりしなかったような。それでも、車いっぱいに積まれた本のイメージは鮮明に残っています、ワクワクした気持ちと一緒に。

     そんな、移動図書館を駆って岩手を走り回っている、とあるボランティア活動を追いかけたのが、こちら。

     “(東日本大震災という)こんな時だから、今、出会う本が子どもたちの一生の支えになる”

     東日本大震災後の2011年6月6日から、“本の力”を信じてプロジェクトはスタートしました。始めたのは「シャンティ」というNGO団体。今までは、カンボジアやタイなどで、文化教育に関連する難民支援の活動を行っている団体とのことです。

     スルッと入ってきたのは、こちらの一言。

     “ボランティアやスタッフは「触媒」であり、「主人公」ではありません。”

     主役はあくまで、現地で生きていく人々。かりそめの客であるボランティアは、あくまで地元の力を底上げするための支援に徹するべきだろうとの、考え方でしょうか。

     当時も、強い想いをもって現地入りしても、食事も寝る場所も考慮してこずに、反対に地元に迷惑をかけてしまったとの話を聞いたことがあります。こんな風に“救援が二次災害になってしまう”のでは本末転倒でしょう、、そのことを、説得力のある言葉で伝えてくれています。

     “本は、人と人とをつなぎます。”

     一見すると衣食住とは無関係にも思える“本”、そんな時でも人はどうして本を求めていくのでしょうか。「人とのつながりを求めて」「感情に溺れるために」「“いま”を忘れるために」「亡き人を思いだすために」「現実に戻るために」、そいて「“いま”を切り開くために」などなど、、人それぞれです。

     それだけ多彩な理由で人は本を必要とするのだと、あらためて。

     ん、“人に本を届けるということ”についてあらためて考えさせられました、私がどうかかわっていきたいのかとの点も含めて、、そんな一冊です。

    • 8minaさん
      ohsuiさん

      はじめまして。
      レビューを読んで考えさせられました。当時何も動くことができず、義援金をお送りすることしかできませんで...
      ohsuiさん

      はじめまして。
      レビューを読んで考えさせられました。当時何も動くことができず、義援金をお送りすることしかできませんでした。
      地域の図書館で、なくなった図書館のために、子供たちに絵本を贈ろうというプログラムに参加しました。少しでも喜んでいただけたら嬉しいですね。
      2014/01/25
    • ohsuiさん
      8minaさん

      はじめまして。
      私も結局は、金銭的なサポートしかできていません。
      現地にも行ければと、登録はしているのですが、なか...
      8minaさん

      はじめまして。
      私も結局は、金銭的なサポートしかできていません。
      現地にも行ければと、登録はしているのですが、なかなかタイミングもあわず、行けていません。。

      図書館関連だと、陸前高田の図書館の支援に参加させていただきました。

      皆さんの元気に少しでもつながればと、思います。

      2014/01/30
  • 東北各地を襲った大震災から3年以上の月日が過ぎていった。あの日、遠く離れた東京でさえも大きな揺れで自宅の本棚、戸棚からものが散乱。しかしながら、直後に飛び込んできた東北の事態に言葉を失いました。

    その後、多くの方が支援のために被災地に入りボランティア活動を開始。支援する側も受ける側も様々な思いで続けていらっしゃるのでしょう。

    シャンティ国際ボランティア会の鎌倉さんチームは、いち早く岩手地区に入り地域の方々が生活を再建していくなか、本を通じて皆さんを支えておられる。

    ライフラインも復旧していない状態で移動図書館を立ち上げ、本の力を信じて皆さんの待つ地区から地区へ本を届けている。苦しい状況の中でも、本を読むことによって自分の世界と時間を取り戻していいける本の力。

    当時、多摩地区の図書館でも、本を失ってしまった子供たちに絵本を届けるプロジェクトがあり、自分の子供たちが好きだった本を購入してお送りしました。

    シャンティの活動はまだ継続しておられます。広く海外でも活動される皆様をすこしでもご支援できればと思います。

  • ☆震災でも、本は必要なんだ。じんわりいい本だった・・。

    〇誰かがその本を巡回させること。そして、簡単なものでもいいので、仕組みを作り、ルールを伝えることが大切なのだと。(p35)
    ☆やろう、と思ったとき、続けられる仕組みが大切なんだよね。

    〇食べ物は食べたらなくなります。でも読んだ本の記憶は残ります。だから、図書館員として本を届けていきたいのです。(p39)
    ☆記憶は誰にも奪えない。

    〇改めて感じたことは、平時の人間関係やネットワーク作りが緊急時にも生きるということです。
    ☆平時が大切。毎日を大切に過ごす。

    〇移動図書館を回すことは、ただ本を届けるだけのことではないのですよ。(p54)
    ☆市民が何を求めているのか、何を思っているのか、それをくみ取る場としての「移動図書館」もある。
    届けるだけではない。やはり、そこの人と何を話すか、が大切。
    震災の時、「絆」という言葉がすごくもてはやされたが、絆っていうか、人と人との関わりなんだよね。

    〇ボランティアを見つけては、「今日何くれるの」と言って取り囲む子どもたちの姿(p69)
    ☆これはつらい。親は、自分自身で何かを起こす力がなくなるのではないか、と案じたそうだ。私でもそう思ってしまうと思う。
    借りる→きちんと返す、この約束を移動図書館で守っていくことが、日常に戻る訓練になると考えてくれた親もいたようだ。明橋大二先生が著書の中で、「しっかり与えられてからでないと、相手には渡せない」というようなことを言われていたことを思い出した。
    今日は何くれるの、といった子は、今どう生きているのだろうか。

    〇(東京から来た団体が)「移動図書館です」といって仮設住宅地を訪れて、次回天気が悪いからやめた、というのはやめてください。(p86)
    ☆これも約束だね。続けること。

  • 鎌倉さんに「READYFOR?のことも書きましたよー」と
    言っていただけてから、ずっと楽しみにしていました。

    なぜ人は本を読むのか、本がどれだけのものを人に与えるのか、
    それは知識や智慧だけではなく、人をつなぐもの、
    人の日常を支えるもの、人を人たらしめるもの。

    それが、本の力であることを指し示してくれた一冊でした。

    私自身、本が大好きで、本に助けられてきたけれど、
    あらためて、図書の必要性、図書を通した場作りの重要性を
    教えてもらいました。

    図書館プロジェクトが、今後も続くよう、
    READYFORの一員として気を引き締めよう。

    走れ!移動図書館を読んだら、図書館戦争が読みたくなった。
    「本を焼く国は、いずれ人を焼く」

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「それが、本の力であることを指し示してくれた」
      この本も、「復興の書店」も読んでてウルウルしっ放しでした。
      「それが、本の力であることを指し示してくれた」
      この本も、「復興の書店」も読んでてウルウルしっ放しでした。
      2014/03/14
  • 次第に遠くなっていく東日本大震災の記憶。今度は南海トラフ地震が起こる可能性について色々な検証が行われていますが、ほぼ確実に発生するという計算らしく、発生した時の経済的損失は1000兆円を超えるそうですね。そうなったら日本は本格的に終わってしまう事になるんでしょうか。少子化で体力が無くなっている頃に発生するとしたら、中国や韓国の実効支配の可能性もあるのではないかと思うとひたすら悲しいし怖いです。
    さて、これはそんな震災の時に移動図書館を立ち上げて人々の心に寄り添った記録です。同じく震災と本の関係を書いたノンフィクション、名著「復興の書店」で既に読んでいましたが、人がいかに本を必要としているのか、食べ物だけで生きているわけでは無いのだという事が、この本でもよくよく見てとれます。
    本を読むことによって現在の状況から一時的にでも頭を切離し、リフレッシュする事が出来るというのは何よりも大きな効能だし、新たな事にチャレンジする事においても、入門書やガイドが有るだけで一歩踏み出す勇気にもなります。

    これだけ読んでいると、本が無い生活というのは考えられませんが、電車に乗っていると全然本を読んでいる人を見かけないのです。これは一体どうした事なのでしょうか。震災の時には一部の人だけが本を求めているたのでしょうか?それとも非日常に図らずも放り込まれた時に、日常を取り戻すために皆が本を求めたのでしょうか?
    もし皆が本を求めたとしたら現在デジタルで本を流通させる事がメインとなった時に、移動図書館どころか、インフラが無いが為に誰も本が読めないなんて未来がくるのでしょうか。デジタルコンテンツの脆弱さはちょっと想像すれば分かりそうなものです。何百年もの時を超えても残っているのは紙の本です。データは破壊されたら終わります。是非もう一度紙の本を見直すという点でも移動図書館に思いを馳せてみてください。

  • それを読むであろう誰かのことを考えながら本を選ぶこと、
    本を介して人が集まる場所をつくること、
    自分はなんてすばらしい職業についたのだろうか、と
    久しぶりに感じることができました。

    分からないなら、想像せよ
    ないのなら、作ったらいい
    シャンティの方々の姿勢、見習いたい。

  • 被災地で移動図書館を始めるための準備のことはもちろん、実際にスタートしてから、現地の利用者がどんなリアクションで、どんな本に興味を持ち、どんな変化をもたらしたかを、沢山の事例で紹介されていて興味深かった。改めて、このような日常を奪われた場面であっても本のちからは凄く頼りになるんだなと分かった。そしてスタッフも利用者もとても楽しそうで、私もスタッフとして働きたいなと思ってしまった。。でも、スタッフの方はやはり、生半可な気持ちではなく、プロとしてすごい責任感をもって運営しているのが印象的だった。
    ・継続しなければ意味がないから、最低でも2年は続ける。
    ・利用者との約束を守りたいから、どんな悪天候でも決まった時間に運行する。
    ・現地の書店を支援するために、本の調達は現地の書店で行う。
    ・ボランティアは主役ではなく、あくまで触媒という意識でやる。
    ・利用者の声を聴きながら、選書を行う。
    ・自分たちの考えを押し付けることなく、様々な利用者を想定しながら、居心地のよい利用しやすい図書館になるように、アイデアを出し合う。

    などなど、自己満足ではなく、仕事として強い責任感をもって取り組んでいる姿にぐっときた。

  • 手元において、わすれないようにしたい。
    図書館の力、本の力を信じられる一冊。

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