君は永遠にそいつらより若い

著者 :
  • 筑摩書房
3.58
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感想 : 112
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  • Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480803948

感想・レビュー・書評

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  • なるほど…こういう作品が太宰治賞を獲るのか。
    そして芥川賞を獲るのか。

    純文学を読まず、芥川賞作品も読まずに今まで来ましたけど…初純文学(〃ω〃)

    女子大生ホリガイの日常、大学の友人達多数、バイトの後輩、いいなと思う男達、いいなと思う女達…

    処女喪失への笑えるほどの渇望、リストカット、自殺、自己肯定感の低さ、他人に対しての過ぎるほどの共感力…ホリガイやっかいな性格だ笑

    大学行ってないからわからないけど…大学生ってこんなんなの?ホリガイが特別?弱気なのか強気なのか、繊細なのか無神経なのか…笑

    たくましく生きていけホリガイ!!

    もう何冊か読まないと純文学とは何かは理解できないかもしれない(。>ω<)ノ

  • 大学生活の切り取り方が、なかなかに、エグい気がする。私の経験とは重ならない部分が多いのに、本当にそうだったか…?と読みながら、つらつらと、考えた。覗く角度を変えたらこうだったんじゃないか?とかそんなことを。
    別の作家さんを読んだ時にも思ったけれど、デビュー作とか初期の作品から読み始めていたら、この作家さんを追いかけていただろうか、と疑問に思うことがあって、今回もそれだった。
    ダルい感じで描かれる極端で繊細な描写。
    もうちょっと置いて読み直すと、違う感想が出てきそうな作品。

  • 冒頭───
    煙たい味のする雨が下唇に落ちて、わたしは舌打ちをした。傘を持っていないし雨合羽も着ていない。湿気と寒さを我慢して、自分はいつまで掘ってられるんだろうと算段して周囲を見回し、手に余る敷地の広さに辟易しつつ、できるのかできないのかについては考えるのをやめることにした。
    そもそもここが彼女の言っていた場所なのかどうかかすらあやしい。駅からタクシーに乗って、南に向かって海岸沿いを流してもらい、最初に見つけた廃車置き場がここだったから、衝動的に降りたのだ。
    不確かな啓示に従ってここに辿り着き、正解でなくてもいいと諦めながらもわたしは、キオスクで買ったボールペン一本で、執拗に浅い穴をいくつも掘り返している。
    ──────

    津村記久子のデビュー作にして太宰治賞受賞作。

    彼女の才能の片鱗を感じさせる作品だ。
    最近の完成度の高い作品に比べると、独特の文章の面白さは味あわせてくれるものの、少し肩に力が入り過ぎて、ちょっと重たすぎるような文章である。
    もともと、どちらかといえば暗いトーンの作品が多い彼女だが、このデビュー作ではそれが長く続く。
    それでも、自分の性器が大きすぎて彼女ができないと悩むヤスオカという大学生キャラの設定などは面白すぎる。
    大きすぎて痛がられるって、どれだけなんだよ! と笑いながら突っ込みたくなるほどだ。
    いつも思うのだが、大学生の女子で、清掃員や工場のラインのバイトをする子なんているのかなあ?清掃員やラインのパートの女子というのは、私のイメージではおばさんしか思い浮かばないのだが。
    ま、それはともかく、工場のラインのバイトをやっている主人公ホリガイとその大学仲間や、仕事仲間との色々な事件が綴られるお話。

    主人公ホリガイは、まだ女童貞。
    いつでもどうぞ、とは思っているものの、なかなかその機会に恵まれない。
    そして、なんと初めての相手は───。

    驚きの展開でしたな。
    おおお。そう来るかあ、と唸ってしまった。
    普通の女の子なのに、どこかちょっと考え方が変わっている、自虐的で、物事を深く考えすぎて、というような女子がメインのお話が多い津村さんだが、このホリガイも、そんな女子だ。

    実際には、幼児虐待、自殺、少女への性的暴行など、重い話が絡んでくる物語なのだが、最後には明るい光が射し込んでくるような読後感だ。
    津村記久子のその後の成長を知る意味でも貴重なデビュー作だと思う。

  • こう、なんていうんだろう。読後、うわあああって頭を抱えたくなった。ホリガイの持つ痛々しさの中にある、物事に対しての何本もの予防線でじりじりと心臓を擦られる、そんな感覚。ホリガイはのらりくらりと生きているようにみえるのだけど、実はひとを想いやる心もちゃんとあって、けれどどこかそれが通じない。諦めの境地に立っていて、自分を卑下していて。ああなんでこんなにもつらいんだろうなあこのひと。たまに考えなしで発した言葉で自分自身を切り刻んでいるような気もするし、気付かないうちに傷付いていたりもするし、とにかく自分のほんとのところは棚に上げているし。
    八木君とヨコヤマさんが付き合っていることにショックを受けるホリガイ。河北のあの言葉を聞き続けるホリガイ。ヤスオカとなるようになってもいいんじゃないかと思うホリガイ。イノギさんのことをすきだと気付くホリガイ。ホミネ君をたいせつに思っているホリガイ。もうなんなんだこのひとつらすぎる。
    最後は微妙に明るいものを感じる終わりだったから、そこは救いがあったような気がする。読みはじめたときのちょっとした笑いが、最後あたりではまったくなくなってしまって苦しくなったのだけど、この題名の意味がほんの少しわかったときのあの視界が開けたような感覚には心が震えた。
    個人的にはヤスオカの「なんで開き直らないといけないと思う?」がずとーんときた。

    (220P)

  • 先日何気なくジャケ買いして読んだ『とにかくうちに帰ります』が良い感じだったので、若い頃の作品も読んでみた。『とにかく』とは違った面が出た作品だと思うけど、これも気に入った。前情報なしで読んだのに、自分のことかと思うような描写があって心が痛かった。読み返すのは時間が経ってからになりそう。

  • 津村記久子という作家の本を何冊か読んできて、それまでの感想を綴ると、嫌味な女性が主人公で、周囲に対して嫌味や悪態を付き、相手にもそう思われているだろうと自覚しながらも変える意識は一切無く、その景色を描く、仕事を通しての人間関係を描いた小説かもしくは、その始まりから結果に流れゆく物語を描く作家だと思っていた。本書も正直言えば、売るor捨てるために読んだ一冊である。

    ただ、人生上手く行かないのは美味しいことなのか不味いことなのか、それは捉え方によるだろうが、この読書に関しては生憎手放すはずだったのに良い読書になってしまった。

    やはり、読み始めから文体はともかく一人称の主人公の嫌味や自覚しながら発してしまう余計な一言など、角が目立ち。読者としてはどうしても鼻に付いてしまう。それか読むことを停める必要が出てくる。簡単に言えば苦痛だった。
    読み進める度、舞台の大学、その生活から広げられる人間関係。何冊か読んでいれば作者のクセや書き方や流れの様なものを感じるのは当然だと思う。――以前読んだ作品と似たパターンだなぁ。というのがあると思う。本書もその例に漏れなかった。
    大抵のワンパターンな物語というのは、最初と最後に既視感があり、作者はその中を大きく変えたりするのだけれど、本作に関しては、その中に大きく情報を盛り込み、折り返すように最後に畳み掛けて来た。一言で言えば、驚いた。こんな重たいテーマを短く詰め込めるのか! これは読者の解釈の仕方に及ぶのだけれど、中だるみの中にこそ、最後にかけてのそれぞれの生き方、こうしてやってきた、そうじゃないと生きられないという使命に近い、そういうエピソードがあったと気づかされる。その種類が豊富だったことに気づかされた。
    ミステリーなどでは、ネタバレにたどり着く過程を伏線などと呼んだりするが、こういった文学と分類される物語の終着へ辿るための過程はなんて呼ぶのだろう?
    この一冊に関しては是非に最後まで読んでこそ価値があると言えるくらい、凄みというのだろうか、面白さがあった。結局最後まで主人公を好きになることは無かったが、けれど、それだけで済ませるには惜しい。こういう物語があるからこそ、読書は止められないのかな、と思わされた。

    追記:本音を言えば、読んだら売ろうと思っていた一冊だったが、今後も読み直す一冊になるだろうと感じている。

  • 津村さんのデビュー作。

    主人公のホリガイは大学四年生。 地道にコツコツと準備して地方公務員の試験に受かった彼女ですが、他人から見た自分に価値観を見いだせず、かと言って自分を変える気持ちもなく・・・。
    津村さん、デビュー作で太宰治賞をとっちゃったんだね。(驚)

    私は遅れてきた読者だから、今、せっせとさかのぼって作品を読んでいるんだけど、最新作の「ウエストウイング」が一番面白くて、次がそのひとつ前の「とにかくうちに帰ります」である、ということに、なんていうか、ありがとうございます、と言いたいです。

    だって、誰とは言わないけど(大汗)デビュー作が一番面白い人って結構いると思うんだよね。
    長年、たくさんのお話を書いてきていて上手にもなっているんだろうけど、やっぱり最初の作品のキラメキは越えられない、と思ってしまう、たとえば よしもとばなな(彼女の場合は大学の卒論だった!)とか。・・って言ってしまったけど。


    この「君は・・」もにももちろん津村さんの匂いが濃く漂っているのだけど、実年齢の若さ=素材のナマさ加減といった感じで、その痛さがちょっと辛い。
    とはいえ、津村さんという人は最初から巧い作家さんだったのだ、ということも実感。
    痛さが私の年齢ではちょっと辛いけれど、イソガイの自信のなさがたとえばただの引っ込み思案とかいう性格なのではなく、どこかに自分を投げ出してしまいたい、とゆるく願っている彼女が好きだなぁ、と思わされるあたりが、うん、津村さんはやはり只者ではないってことなんでしょうね。

    自殺、リストカット、虐待、レイプとその後遺症、レズビアン、そして不思議な失踪(誘拐?)、など、社会の負の部分を一挙に集めてしまったようなお話なのに、イソガイとの距離感の面白さ、また話の中で無理のない展開だと思わされてしまうところは、凄いなぁ、と思います。

    イソガイは、ちょっと危うくて前のめりで、というところが、たぶん、津村さんご本人を反映しているんでしょうね。これは一貫して津村さんの小説の登場人物のキャラだし。

    でも、何作か書いたことによって、キリキリとした描写だけではなく、ふっと笑えるようなものを入れるようになった、と対談か何かで言われていたことが、うん、そうだね、だから、私、最近のものの方が好きなんだね、と。

    痛いばかりでは読んでいる方も身動きができない。
    だから、少し感じ方にものりしろがあったほうが好きです。

    自殺を美化するわけでは全然ないのだけど、

    自殺した男子大学生の遺書には引き込まれるものがあり、物語の先が気になるというのにそこで立ち止まって、三度ほども読み直してしまいました。

    「理由は聞かないでください。僕にもわからないので。死んでから後悔するかもしれないとも思ったんですが、すぐに後悔も何もないから死なのだと気付きました。気がかりや、心残りはいくつかあるのですが、焦燥がそれに勝ってしまいました。友達と今まで付き合った女の子たちに。お世話になりました。本当にありがとう。下の階の翔吾君にもよろしく」


    翔吾君とは親に虐待されている小さな男の子で、イソガイがその子のへ部屋に入り、救出する場面もとても印象に残っています。

    話がどこに着地するのか、初読ではつかめなくて、また、登場人物たちの名前が無機質的に提示されるので、読んでいて誰のことだかわからなくなることがあり、そもそも、タイトルの意味も最終ページが近くなったあたりで明かされる、という、ある意味不親切な小説だったから、これはもう一度ゆっくり読むお楽しみがありますね。


    イソガイ
    身長175センチ、処女。

    なかなかめんどくさいヤツだけど、私、あんたのことが好きだよ。

  • うまく言い表せられないけれど、とにかくガーッと一気に読ませる力を持った本だった。読むスピードがひどく遅い私に、家事そっちのけで没頭させ、午後の数時間で読み終わらせたのだから。
    下品な言い回しが沢山あるし、どちらかと言うと好きな類の内容ではなかったにもかかわらず、である。
    でも、なんでもないようなフレーズの中に、自分の思うことを代わりに表現してくれているようなところもあり。不思議だ。そしてなんだか疲れた。

  • 若者の恋愛かなという気軽な気持ちで読みはじめたのに
    最初の出だしの主人公ホリガイが雨の中廃車場であてもなく
    誰かの自転車の鍵を探す場面になんだこれ?と思った。
    すぐにまた大学に通い就職も決まったホリガイという女子の
    のんべんだらりとした日常の場面になったので
    また油断してのほほんと読んでいたら最後には結構重い話に
    なっていて、びっくりした。
    全く予備知識なしで読んでいたので。
    子供や少年少女が理不尽に人生に傷をつけられてしまうことは
    本当に切ないし辛い話だ。そういうことを考えさせられる
    物語だった。結構重かった。のほほんからえっっていう風に
    話がどんどんかわっていく手法にまんまとはまった。

    そしてタイトルの意味が深かったことに感銘を受けた。

  • ようやく手に取った、自分の中での赤丸急上昇作家津村さんのデビュー作。彼女の持ち味である、主人公のユルダル感がうまく描かれているが、既読の作品のように「ふははっ」と声を出して笑えるものとはちょっと違い、思ったよりひりひりと痛い内容でびっくりした。
    構成に散漫な印象を感じた部分もあったけど(何人か出てくる男友達が私の中でごちゃついて名前がなかなか覚えられなかった)、男友達と主人公ホリガイの距離感が、丁度よい温度で好感が持てた。とにかく、ホリガイのキャラクターが大好きです。

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著者プロフィール

1978年大阪市生まれ。2005年「マンイーター」(のちに『君は永遠にそいつらより若い』に改題)で第21回太宰治賞。2009年「ポトスライムの舟」で第140回芥川賞、2016年『この世にたやすい仕事はない』で芸術選奨新人賞、2019年『ディス・イズ・ザ・デイ』でサッカー本大賞など。他著作に『ミュージック・ブレス・ユー!!』『ワーカーズ・ダイジェスト』『サキの忘れ物』『つまらない住宅地のすべての家』『現代生活独習ノート』『やりなおし世界文学』『水車小屋のネネ』などがある。

「2023年 『うどん陣営の受難』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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