- Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480804037
感想・レビュー・書評
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感動的だった。
ただ軽い気持ちでアーサー王伝説を知りたいと思って手にとったアーサー王宮物語全3巻、それは悲しい物語だったけれど、同時にとても優しい物語だった。
現代に育った僕らには親族という認識は希薄だ。
しかしアーサー王を含め円卓の騎士たちは本当に親族を大切にし、血を大切にした。
そして、アーサー王を裏切る形となってしまったランスロットさえ、アーサー王を心から敬愛し、血を分かち合っていなくとも強い絆で結ばれていた。最後まで。
アーサー王は自分を裏切ったランスロットを許し、王妃を許し、そして忠義を尽くしてくれたガウェインに出来うる限りの最大の愛を持って接した。
例えガウェインの眼が曇ってしまっていても、彼を決して見限らずに妥協点を探り、そしてそのために心を痛めた。
ひかわさんの描くアーサー王は慈愛に満ちた神のような存在で、戦場というのが似合わない人だった。
彼ほどの平和主義がいただろうか?
彼はただただキャメロットの幸福と安寧だけを願っていたのに、そのためにあらゆるものを我慢したのに
結局、彼を取り巻く騎士たちの心に振り回され彼は全てを失った。
個々の気持ちを思んぱかるあまり自分をないがしろにさえした。
それでも全てを許し、死さえ受け入れるアーサー王は立派だった。
ひかわさんの描くアーサー王宮物語は実際のものと細部が違っていた。
けれど、この物語は愛に満ちていて素晴らしいものだった。
彼女の目にはアーサー王宮はこのように映ったのかもしれない。
久しぶりに良い本に出会えた気がする。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
819.初、並、カバ小スレ、帯付。
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ひかわれいこのアーサー王物ファンタジー最終巻。「聖杯の王」の続き。<br />
どの作品を読んでも最後の戦いにいたる経緯、特にガウェインの心情は切ない。この作品ではそれにプラスして、追い詰められていくモードレッドの心情も切なくて涙だ。父アーサーを思うがゆえにランスロット一族と対立し、挙句に父とも対立してしまうモードレッドの行動と、どうしてもモードレッドを肯定できないガウェインが哀れ……。<br />
全体がメリウェルとフリン兄妹、モードレッド、ユウェイン、ガウェインという若い世代の物語なので、アーサー、ギネヴィア、ランスロットの関係はかなり背景に引っ込んでいる。ギネヴィアとランスの恋を背景化する事で「不倫」という生々しさを避け、幻想を壊さないように配慮しているのだが、二人には生身の男女としての輪郭が乏しい。特にギネヴィアは主人公メリウェルのご主人なのに、三部作通じてほとんどセリフがない(メリウェルが女官として働いてるシーンが少ないからなのだが)。きれいで素直なおばかさんというギネヴィアのイメージは、わたしには物足りなかった。このあたりは、今回の「宮廷物語」の前史として、幼いモーゲンも含めてアーサー王国誕生時の話も書いて欲しいと思う。