木挽町月光夜咄

著者 :
  • 筑摩書房
3.68
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本棚登録 : 369
感想 : 37
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  • Amazon.co.jp ・本 (269ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480815118

作品紹介・あらすじ

あけてしまった玉手箱の中に、木挽町という町があって、そこに曾祖父が営む鮨屋があった。一代で消えた幻の店を探すうち、過去と現在がひとつになってゆく。日々の暮らしによぎる記憶と希望を綴った、著者初のエッセイ集。

感想・レビュー・書評

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  • 吉田篤弘がつむぎ出す物語は、どこかにありそうでどこにもない雰囲気を携えている。そんな吉田篤弘による自分のルーツを辿るエッセイは、実に吉田篤弘らしいものでした。

    曾祖父が明治の時代に上方から上京してきて、銀座木挽町の歌舞伎座の向かいに鮨屋を開いた。そのことを知った時からはじまる木挽町への想い。曾祖父への想い。
    想いは我が身に降り掛かり、少年時代から現在に至るまでを振り返る。
    振り返るたびに現在の姿が現れ、現在が過去と繋がっていることを意識させられる。そして曾祖父と祖父と父と繋がっていることを意識させられる。

    思考と現実と思い出と空想がないまぜになる。過去が現在に影響し、現在が過去を刺激する。
    連載とともに作者の歴史が積み重ねられ、そこにやってくる2011年3月11日。
    全てがひっくり返ったあの日を境にして、変わるもの変わらぬもの。
    紆余曲折を経て、物語は木挽町へと収束する。

    エッセイでありながら物語のような。それはいかにも吉田篤弘らしいものであり。あらゆる層を重ねて捻って丸めてしまうような、面白い読書時間でした。

  • 小説家と思ったらエッセイだった、吉田篤弘の本。彼らしい文体で、話の進み方はなんとなく小説にも近い。曾祖父の話と12キロ減量するためのウォーキングダイエットと過去の自分が嵌った本や音楽の話と日常雑記がツラツラと書かれていく。

    吉田篤弘のこういう文章、ハマった時には心地よいねんなぁ。
    三浦しおんとの邂逅の話、1人でとる食事の話は良かった。

    そして、雑誌連載時の最終部分になって、怒る東日本大震災、事実このエッセイの連載は一時中断されたらしいが、中断再開後の文章が、これまた感慨深い。それでも歩き出す最後の姿。人間ってこうあるべきで、こういう風に生きていくのが正道なんだなぁと妙なところで感動してしまった。

  • 914.6

  • ごくごく個人的な内容(自分の曾祖父を端に発した周辺事情)がだらだら続く話なのだが、散文風であり物語風でありごちゃまぜ風であって、なぜだかなんとも読み応えのある個人的エッセイ。完成度の高い「個人的な話」とでも言っておこうか。

  • 吉田さんらしい流れで語られるエッセイ。
    エッセイのような、物語のような、途中でエッセイである事を忘れて小説を読んでいるような気分になるスタイリッシュさ。私の中で少し謎だった吉田篤弘像が、少し理解できたような、でもやっぱり謎なような…。

  • エッセイ。

    あんまりエッセイは読みませんが、独特な世界観が滲み出てて物語みたいな読めました。
    色んな拘りなんかを感じれて面白かったです。

  • 木挽町月光夜咄。
    「咄」という字を使うところに、まず心震える。

      *

    

私は吉田篤弘が作家の中で一番すきなのだが、この本、まさに私にとって絶妙な読み時だった。



    開始1頁目に「セルジュ・ゲンズブール」の髭の話がでてきて、誰だっけ?どんな髭だっけ?と画像検索すると、なんか見覚えがある。彼のほとんどの写真が、これまた見覚えのある美しい女性がいて、この女性、実は私が最近気になっている歌手、ジェーン・バーキン。そしてそうだ、彼はジェーンの元夫。

    そして、向田邦子の話があって(吉田氏が向田邦子『父の詫び状』に影響を受けたことは知っていたが)、その話を読んだ後に美容室で出されて読んだ雑誌『リンネル』に邦子さんの妹・和子さんが載っていて、彼女の愛読書に吉田氏の『うかんむりの子ども』が挙げられていた。

    まさに。

      *

    2年、3年前に刊行された本だし、私がこんな経験をするなんて知る由もなく、吉田氏はセルジュ・ゲンズブールの髭や向田邦子『父の詫び状』のことを綴っているのだが、勝手にこの絶妙なタイミングで読んで勝手に運命みたいなもの(他にいい言葉が思いつかない)を感じてしまって、つまり、読むべくタイミングにこの本を読めたことを幸福に感じる。

    あぁ、こういうのも、本を読む楽しみのひとつだよなと思った。

  • 大は小を兼ねないこともある!
    うんうんうん、吉田さんの視点がとっても好き。ノートに広がる土地の上に構築される文字たちが、生き生きしてる様が浮かぶ。

  • 1981年5月、『お化け煙突物語』唐十郎の状況劇場。懐かしい6月に京都下鴨の糾の森でみたよ。小豆と一緒に、『大変な衝撃で、大変な心地よさで、大変に胸が躍り、しかし切なくもあり、そのうえ難解で』
    赤テントが一瞬開かれ、遠く先の森の樹に李麗仙が颯爽と現れたあの夜。懐かしい月夜の森のひとときを思い出しました。

  • 自分にせよ他人にせよこの世界にせよ、著者は色んなモノとの折り合いの付け方が実は得意なんじゃないかと思う。ご本人は色々仰っているけれど。気になって読み返した箇所は多々あれど、p212〜214の流れが好き。仕事内容に関わらず誰でも励まされそうな良さがあっていいなと思う。ゆるさと鋭さのバランスの妙を愉しみつつも、翻って気になるのは自分の本と付き合い方。本を読み始めた頃から薄々というか、はっきりずっと思っていた事が確信的になってやれやれという気もする。書斎ではなくコタツや台所で執筆していると知り、余計なお世話だが「らしい!」と思った。

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著者プロフィール

1962年、東京生まれ。小説を執筆しつつ、「クラフト・エヴィング商會」名義による著作、装丁の仕事を続けている。2001年講談社出版文化賞・ブックデザイン賞受賞。『つむじ風食堂とぼく』『雲と鉛筆』 (いずれもちくまプリマー新書)、『つむじ風食堂の夜』(ちくま文庫)、『それからはスープのことばかり考えて暮らした』『レインコートを着た犬』『モナリザの背中』(中公文庫)など著書多数。

「2022年 『物語のあるところ 月舟町ダイアローグ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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