普通の人びと: ホロコーストと第101警察予備大隊

  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480857569

作品紹介・あらすじ

ヒトラー時代、普通のドイツ人が、いかにして史上稀な大量殺戮者に変身したのか。知られざる警察予備隊の衝撃の実態。人間の心に潜む魔性の恐怖。ホロコーストの基本図書。

感想・レビュー・書評

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  • 最もナチ化の度合いの低い都市のひとつであるハンブルクで集められ、ドイツ社会で比較的低い階層の出身であり、高い年齢層であることから全員がナチ時代のものとは違う政治的基準や道徳的規範を知っていた、ナチスドイツの第101警察予備大隊。ナチの人種的ユートピアのために、大量殺戮者を募るには不都合とさえ言える彼らを、著者は「普通の人びと」としての好例と見出したうえで、彼らがなぜユダヤ人の虐殺に加担したのかを探る著作です。

    序盤は第101警察予備大隊が軍のなかでどのように位置づけにあったか、「最終的解決」ホロコーストの進捗がどのようなものであったかなどの事実が検められ、そのうえで第101警察予備大隊が辿った殺戮の道程と個々の隊員や指揮官たちの証言、言動、戦後などが詳らかにされます。その過程では正視に耐えがたいユダヤ人たちへの悪逆非道な殺戮・虐待についても明らかにされます。

    結論として、著書は社会実験も引き合いに出しながら実験と現実の戦争との相違点を考慮しつつ、何が第101警察予備大隊の隊員たちを殺戮へと向かわせたのかについて考察を重ねます。本文中には殺戮を拒否する隊員たちも多数登場しますが、彼らは全体のなかの割合としては多くて二割程度、つまり八割程度の隊員は最後までユダヤ人虐殺を拒否しなかったことになります。しかも当時の証言から彼らが殺人を拒否することは決して不可能ではなかったにもかかわらず、多くの隊員が殺戮を繰り返した理由は何なのか。著書はそこで、彼らの置かれた状況における「孤立化の脅威」を重視します。

    タイトルを見た時点の第一感と本書における結論が一致しており、その点での意外性はありませんでした。

  • アウシュビッツなどの強制収容所にユダヤ人を集めたのがナチスの犯罪であるというように言われる。しかし、実は警察予備隊というドイツの普通の市民が、ポーランドの村々でユダヤ人狩りをして、その場で虐殺をしていたという事実を書いた本である。
     ミルグラムの解説は不要で、やはり事実をそのまま書いた部分だけの方がよかったと思える。

  • 次は何読もうかと、ブクログランキングから、だけど、ブクログランキングのより前の出版のもの。
    ワイルドソウルを読んだ後、何でも過去の話に興味があったこと、アメリカでホロコースト博物館の話題がテレビで流れてたこと、あとはホロコーストに関しては、子供の頃アンネの日記を読んでて、それに関係するのかと少ない知識で思ったため。

  • 中学校とかの歴史の教科書に数行で書かれている悲劇について、全く本一冊でも書ききれない出来事であったことを改めてかみしめる。
    筆者は、一人一人が非人間的な行為を実行するに至った内面の動きを探ろうとする。なぜなら、この惨事が一人一人の人間の行動によってもたらされていること、そしてその人間はけして特異な人々ではなく、「普通の人びと」であったから。
    人間の心理的特徴と、時代の環境と、ある意味避けられないような条件に加えて、最終的には個々人の選択が、その行為を生み出しているということは、非人道的行為に対する各個人に責任の所在を明確に突きつけると同時に、積極的に自らの行動を選択して生きる力も与えるように思う。

    出来事だけじゃなくて、過去の人びとの経験について学ぶことから、多くの教訓を得られると感じた。

  • 流し読みだけど一応読了。機会があったらまた読み返したい。
    ユダヤ人の大量虐殺の様子が証言と共に生々しく語られている。「ユダヤ人を殺す際、本来なら首筋を狙うが、狙いがそれて頭を撃つと頭蓋が飛び散り、脳漿が降り注いで辺りがドロドロになる」「ユダヤ人に壕を掘らせた後、壕の中に入らせてドイツ兵は壕の上から撃ち殺していった。そのうち壕の中は血で溢れ、その中をユダヤ人の遺体が漂っていた」「ユダヤ人に深い墓穴を掘らせ、その後でユダヤうつ伏せに寝かせて首筋を撃った。そして、その上に次のユダヤ人を寝かせて首筋を撃つ。これを繰り返すと墓穴がだんだん埋まっていく。一撃で死ななかったユダヤ人は、上に積み重なっていく同朋の重みで呻きと怨嗟の声を上げていた」といった描写は想像を超えた地獄絵図で衝撃的だった。

    本書全体を通して、「普通の人々が、本来は優しいはずの人間の本能に逆らって、このような大量殺戮に加担したのは何故か?」という論調なのだが、この立場にはあまり共感できない。

    ホロコーストに参加し裁判にかけられた兵士たちの証言から、「殺戮に参加しない、という立場をとることで、兵士内の社会から『男ではない』『臆病者』とレッテルを貼られたくなくて参加した」という要素が多かった、と筆者はのべているけれど、この感覚は現代社会を生きる中で、あまりにも馴染みがあるし理解できる。

    集団に同調せず爪弾きにされたくないから、「男らしくない」というレッテルを貼られたくないから、善悪の判断を停止して権威からの命令に従う。戦争という非常事態においては特にこれが顕著になることは容易に想像できる。普通の人々「なのに」ホロコーストに参加したのではなく、彼らは普通の人々「だから」ホロコーストに参加した。

    多分、現代日本がナチス支配下のドイツみたいになったとしたら、日本人の多くが当時のドイツの普通の人々のように虐殺に参加すると思う。集団の同調圧力の中で個人が善悪の判断を失うこと、権威を与えられた瞬間善悪の判断が狂うことなんて、日本社会に身近に溢れているし。ブラック企業の社員たちしかり、技能実習生を虐待して失踪させている職場しかり、いじめの末の自殺を出してしまうような学校社会しかり。そういうのと地続きのところに、戦争があるんだなと改めて感じた。

    だからこそ、「何故普通の人々がホロコーストに参加したのか」という問は疑問視するまでもないことだったようにも思う。むしろもっと、普段の生活とホロコーストで殺戮者となることがいかに地続きであるか、いかに生きれば同調圧力に逆らえない「普通の人々」にならないですむかが知りたいと思った。

    もちろん、ホロコーストに参加した兵士の証言からその心理状況を分析することは大切だし、社会に警鐘を鳴らす第一歩として同調圧力や男らしさの問題を示すのは大いに有意義なことだとは思う。当時は「普通の人々も状況次第では善悪の判断を失う」ってことを研究で示すのは新しいことだったんだろうなと思うし、ある意味エポックメーキングな研究だったんだろうな。

    あと、驚いたのは、こんな中でも「自分はやりたくない」と最後まで殺戮に参加しなかったドイツ兵がいたこと。どうやったら彼らのように、異常事態や集団の中でも自己の倫理観を守り行動で示せるのか、そこがもっと知りたかった。

  • ナチスドイツのユダヤ人虐殺手段のひとつ、軍隊が巡回してのユダヤ人虐殺について、当事者のインタビューを行って調査した本。
    第101警察予備大隊は、最前線に送るには年齢が高すぎる、社会で生計を持つ一般市民を中心に動員された軍隊で、指揮官も多くは「普通の人々」でした。
    しかし、彼らは占領地帯に住む老若男女のユダヤ人を捕らえ、銃で虐殺するという行為の異常さを時に感じながらも、結果的には効率的な虐殺組織としてユダヤ人を町から連れ出し、虐殺していきます。
    戦争を語る上で、読んでおくべき本として本書は前から意識していましたが、実際そのとおりでした。

  • 「Ordinary Men: Reserve Police Battalion 101 and the Final Solution in Poland」の翻訳(1997/12/10発行)。

    第2次世界大戦時、ドイツ第101警察予備大隊の隊員によりポーランドで行われた、ユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)とポーランド人に対する虐殺の実態について扱った研究書。

    召集された普通のドイツ人たちが、いかにして人類史上極悪非道な犯罪へ熱心に参加する大量殺戮者となっていったのか、関係者の証言や裁判や第101警察予備大隊の記録などを元に詳しく分析されており、その内容は衝撃的なものです。

    本書はドイツの通常警察による戦争犯罪を明確にすると共に、自分達は警察がSSへ統合されたことによる被害者であり、ゲシュタポなどとは違いナチスの犯罪とは無関係であると云う主張を否定しています。
    近代西洋史を知る上で、本書は必読の書籍ではないかと思いました。

  • 通常警察と最終解決に最初に関与したのはポーランドでなくソ連。1941年。
    ユダヤ人への数々の残酷、残虐な行為にぞっとする。抹殺するって恐ろしい。
    ゲットーを一掃するために必要な人力をどこに求めるかが問題だった。
    そして普通の人々がユダヤ人を狩り出し、トラックに載せて処刑場に連れていかねばならなかった。普通の人たちがユダヤ人を射殺していた。しなくてはならなかった。軍人だけでは手が足りなかった。
    順応への圧力、軍服を着た兵士と僚友との根本的な一体感。
    例えばユダヤ人狩りをしていたのは、普通の理髪店のオヤジさんたち。
    虐殺に人間はなれてしまうんだ。
    元隊員たちは千五、沈黙が目立っている。
    ドイツ人の中にはユダヤ人労働者を救ったり、食事を与えていた人々もいた。
    みんな戦争では人間も変わってしまうんだ。

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