海賊たちは黄金を目指す: 日誌から見る海賊たちのリアルな生活、航海、そして戦闘

  • 東京創元社
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488003982

作品紹介・あらすじ

梅毒治療には尿道から水銀を注入し、数か月も風呂に入れず、水と食料が徐々に少なくなっていく恐怖に怯える。もちろん血で血を洗う死闘の数々も――。17世紀後半、カリブ海でスペインの植民地や商船を襲撃してまわった海賊たち。彼らが実際に書き残した日誌を基にしてリアルに描く、海賊たちの喜怒哀楽の激しすぎる日常とは? なんでもありの時代の空気を見事に表現し、ノンフィクションを読む喜び、ここに至れると思える傑作!

感想・レビュー・書評

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  • 後世まで語り継いでいただきたい。

  • イギリスの海賊バッカニアの物語。海賊達の日誌や記録をベースにしたノンフィクション。海賊といえば、よく映画に登場する荒くれ者で金銀などの財宝に目がくらみ 残虐行為も辞さない恐ろしい人達というイメージがあった。当然、世間のルールは無視、一般社会とはかけ離れ、上下関係の厳しい世界を想像していたが、重要な決め事は多数決、指導者は選挙で決める民主主義的な世界だったようだ。逆に掟を破ると追放されるし、船という狭い世界においては逃げ場がないので、それは当然の帰結だったのかもしれない。また航海は必ず記録を取り、各人が航海日誌をつけていた。海賊の中には、医者がいたり、博物学に詳しい人物(ウィリアムダンピア)もいた。数世紀後の私達が、この航海を辿ることができるのも彼らの記録があったおかげだ。
    この本では、ウィリアムダンピア等数名の経歴、海賊になった経緯、カリブ海からパナマ、ペルー周辺の海賊活動、ライバル国スペインとの戦い、その後の逃避行、南アメリカ南端を回ってカリブ海諸島に到達し、本国へ帰還するまでの状況を細かく紹介しており、大変面白く読めた。
    著者は数名の航海日誌を相互参照し、彼等の行動や考えを詳細に検証して、多少の推測も含めているが、大変信憑性の高いノンフィクションとなっている。強大なスペインに立ち向かうイギリス海賊も、スペインとイギリスが友好関係を結ぶと立場が微妙になる。海賊たちのその後の人生もいろいろ。自分の航海日誌を元に本を出版した ウィリアムダンピアは、合計3回も世界就航し、何度も危機に会いながらも生還して博物学にも大きく貢献。彼は海賊という カテゴリーを大きく超越した人物だった。 彼の波乱の人生を見ると、幸運な人物というのはこういう人のことを言うのだろうと思った。とにかく面白い本で翻訳も大変読みやすかった。

  • 漫画化され、復刊もしたダンピアの冒険記を読み、さらに深掘りできないかと探していたところに見つけた一冊。
    本作はダンピアだけでなく、シャープ、リングローズなどの日誌を読み取って冒険を再構成したものだ。漫画や冒険記ではキャラ・人物を良く見せているが改めて海賊たちの行動を読み通すと、無計画すぎて、ヤバい。よく生きて帰って来れたな。それでまた海に戻ろうとする連中が大勢いたところがすごい。

    ただし、私のように深掘り用サブテキストにするには本作は物足りない。その理由は、参考資料がまさに岩波文庫のダンピアの日誌や、海賊の生活を研究している歴史家・ベナーソン氏『海の盗賊の日常』などだからだ。
    とはいえ、海賊がなんで毎度砂糖や小麦粉を町や船からゲットしてたのかとか、意外と気づかなかったところが分かるのは面白い。冒険に出かけた海賊たちの精神を知るのに良い。

  • 17世紀に活躍(?)したバッカニア海賊団のうち、7名の航海記を元に書かれたノンフィクション海賊ストーリー
    某有名海賊漫画で度々出てくる、政府公認の7つの海賊組織なんなの…?海賊なのに公式?とか思っていたが、結構遠からずで当時のイギリスの海軍事力を補完するような役割を担っていたらしい。
    荒くれ者の集まりなので略奪や内紛シーンが多くありつつ、意外と民主主義的な部分や一般的な倫理観を持った一団だったんだと、面白かった。

  •  本物の海賊が書いた実際の日誌を元にした超絶ノンフィクション。
     17世紀、イングランド人を主体とする海賊たちがカリブ海のある小島を拠点にしていた。中南米を植民地化したスペイン人たちが蓄えていた金銀財宝を略奪するため、海を航行する商船だけでなく富が集積しているだろう沿岸の街を次々と襲っていく過程を、胸躍るリアルさで見事に再現している。
     最初は、スペイン人たちにさらわれたパナマ先住民の娘を奪還するという名目だったが、当然それだけで満足せず、お宝を目指して海賊たちは南へ南へと下っていくことになり、命がけの航海と苦難、そして帰国後の驚くような運命が待ち受けていた。

     野蛮な海賊行為だけでなく、航海術が未発達だった頃の帆船上での飢えや渇き、壊血病に対する恐怖に加え、海賊団内部のいざこざや、スペイン人と裏で取引しているらしい先住民に対する疑心暗鬼など、道中の海賊たちの心理描写がありありと再現されているのが見事だ。
     なかでも本書を読んで驚いたのは、ならず者ぞろいで豪胆なイメージのある海賊たちが意外なほど民主的だったことだ。他に頼るもののいない海の上ではすべてが平等であり、階級や経験、リーダーシップよりも、全員の意見を公平に聞いて投票結果を重んじるという、極めて民主的な風潮が出来上がっていたようだ。たとえ信頼のおける経験豊富なリーダーの決断であったとしても、勝手に決められたことに怒って部下たちが叛旗を翻すことが何度もあったという日誌の記録を知って驚いた。

     また、犯罪の証拠となる日誌をこれだけ詳細に残していた海賊が複数いたことにも驚いたが、そこは大航海時代、平時なら海賊行為など行わないようなまっとうな家系の筆まめな人物が、冒険心に負けて私掠船に乗り込むことを選んだことがわかってくる。おかげで詳細な航路や記録が後世に残されることになり、グーグルアースで世界地図を横目に見ながら、海賊たちの航跡をたどることができた。
     これらの日誌や残された記録を丹念に調べて、海賊たちが日誌の話を盛っていることも考慮しながら、興を削がずドラマチックに再現していった著者の手腕はお見事だ。ただ「絞首刑になるために生まれてきた(Born to Be Hanged)」というせっかくの原題の痛快さを活かせず、インパクトの薄い凡庸な日本語題名になっているのが悔やまれる。

  • 17世紀の日誌を元に再構成した、海賊たちの日々。
    生活の全般を描いたのではなく、本当にその特定の航海を七人の海賊の航海日誌から語っており実に興味深い。

    海賊本人が書いていることから、不都合なことを省いて色々誇張、美化もある前提であり、肉付けも薄いがその分生々しい部分もある。
    意外に民主主義的であったり、無駄な殺人は嫌悪したり、勇猛に戦ったりするが、所詮は違法行為。
    しかしというか、この時代にある程度以上の収入を得ようとしたら、一部の大資産家、事業家になるのか、その富を奪うのか、どちらかになるくらい生産性が低かったのかなと思うところもあり。

    良書。

  • どちらかというと原題のborn to be hangedのほうが合ってる。バッカニアの荒っぽさよ。日記が残るのはすごいことだなあ。

  • 海賊の最大の謎は、彼らがなぜヒーローとして描かれる事が往々にしてあるのかという事。17世紀中南米を荒らしたイングランド人からなる海賊団の行状を追う本書から、その謎が見えた気がした。即ち連中は悪い事でやってない事は一つも無いが、海戦もやり、陸戦もやり、探検もやり、商売もやり、宝探しもやるという、子供がわくわくするような全てをやってもいるということ。海賊一味にはのち博物学で名を成すようなインテリも含まれており、そんな知識層達が海賊船に乗り込んだのは、固定された身分社会からの脱出にあったといい、現に能力主義が貫かれる船の上には、投票で重要事項を議決(衆合知を思わせる)したり、船員雇用に際して働きに応じた報酬(または義務を怠った場合の罰則)を定めるきめ細かな契約が締結されるなど、一種スマートで公平な「社会」があった。一隻で海を荒らせば海賊だが艦隊でそれをやれば王である、の一節は海賊あるいは全ての武装集団の本質を示す至言で、乱世では国家も海賊も同じ穴の狢。免状一つで海賊が私掠船として国に貢献する英雄に早変わりするのはその証拠だろう。先述のインテリによる記録含めた海賊行為に伴う海と陸の冒険は、貴重な地理情報として国と科学に寄与する事になり、こうなると仕事の価値の話にまでなってくる。同じ悪者でも、海賊と軽犯罪者とでは訳が違うのだ。アウトローがヒーローになり得る理由の一つもその辺にあるかもしれない。

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