影を呑んだ少女

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488011017

作品紹介・あらすじ

英国、17世紀。幽霊が憑依する体質の少女メイクピースは、暴動で命を落とした母の霊を取り込もうとして、死んだクマの霊を取り込んでしまう。クマをもてあましていたメイクピースのもとへ、会ったこともない亡き父親の一族から迎えが来る。父は死者の霊を取り込む能力をもつ旧家の長男だったのだ。屋敷の人々の不気味さに嫌気が差したメイクピースは逃げだそうとするが……。『嘘の木』でコスタ賞を受賞したハーディングの最新作。

感想・レビュー・書評

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  • ピューリタン革命直前の騒然とした英国。10歳の少女メイクピースは、母と二人小さな町に、誰も信じず、ひっそり暮らしていたが、毎晩襲ってくる悪夢に悩まされ、毎月のように母に古い墓地の礼拝堂に置き去りにされることに反抗心を感じていた。ロンドンの暴動に巻き込まれて母を亡くした彼女は、彼女の中に入りたがっている母の霊を引き裂いてしまう。罪悪感を抱いた彼女は、湿地に幽霊が出るという噂を聞き、それは母ではないかと希望を抱く。しかし、そこには旅芸人が捨てた死んだクマがいるだけだった。クマの霊とぶつかり、感情や経験を共有した彼女は、そうとは知らずクマの霊を取り込んでしまい、意識を失っては暴れるようになった。ほどなく父親の実家から迎えが来て、グライズヘイズの大きな屋敷に連れて行かれるが、彼女は、家長フェルモット卿に死者の霊を感じる。同じ婚外子の異母兄ジェイムズと出会った彼女は、一緒に脱走しようと持ちかけられるが、二人の脱走計画は、それから2年以上失敗ばかりだった。満を持して決行を決めた十二夜の夜、彼女は「相続」の場面を目撃する。それは、被相続人が取り込んでいる古い先祖霊を、相続人が取り込むことで、それによって居場所を失った自らの霊が消滅してしまう危険を帯びたものだった。自分が屋敷に留め置かれている理由が、その霊たちの入れ物となるためだったと知り、脱走の必要をそれまで以上に感じていた彼女だったが、ある日、一族の霊を抱えていたサー・アンソニーが戦死し、その場に居合わせたジェイムズがその器となったことを知る。そして、急に具合の悪くなった家長フェルモット卿の持つ霊の器とすべく、一族は彼女への「相続」準備を始める。

    ピューリタン革命を背景に、自らの力を精一杯使って、味方を増やし、たくましく生き抜いていく少女の姿を描くファンタジーホラー。






    *******ここからはネタバレ*******

    時は、カトリックとピューリタンが争い、国王と議会が戦う時代。フェルモット一族には霊を取り込む能力があり、宿した古い霊たちの力を使って強い権力を維持していた。私生児ではありながらその能力を受け継いでいだメイクピースは、一族の入れ物となるために引き取られたが、彼らの禍々しさに耐えられす、脱走を試みるが、そこで役に立ったのが、意図せず取り込んでいたクマで、その後も、その力を使って役に立つ人物を取り込み、頭の中に複数人物を住まわせ、最後には上手に使いこなすことによって危機を脱する……と言うお話です。

    序盤、彼女が「相続」を目撃し、自らに霊を取り込まされる番になるあたりまでは、ツッコミどころ満載ながら惹きつけられて読みましたが、他の女スパイと連携して王宮に入ったり、敵地に侵入して裏切り者のシモンドと取引するあたりでは、もう、まだ終わらないの?と苦痛になってきました。
    それぐらい長くて(436頁)、複雑で、私には、いきあたりばったり感が強く感じられました。


    まず、幽霊についての考え方に東西の差を思い、いろいろと疑問が起こりました。
    母の霊が「入れて」と言ったとき、彼女はよろい戸を開けていますが、肉体がなくても扉に阻まれるものなの?
    「害虫駆除」の名の下、死者の霊が弄ばれ、「追いかけまわして、幽霊が力尽きるのを待っている」とありますが、幽霊って疲れるの?
    霊には「潜入者」と他の霊があるようだけど、潜入者は健康で無傷、他の霊は締め付けられて変形している。でも、潜入者は殻を突き破らないといけないから、時々核が流れ出るという危険がある。霊に形や大きさ、核があるんだ???そして、その一部は、損なわれることがあるっていうことなの?
    メイクピースに取り込まれた霊は、彼女と生死をともにするものだと思われていたが、同居人の一人のリヴウェルが「おれは精いっぱい、自分の魂に磨きをかけたからな」「長くとどまれば、また傷がつくじゃないか」と言っている。どうやって磨き、どうやって傷がつくのか???


    物語の運びも、彼女が屋敷を脱出してからは都合よく進みます。
    レディ・エイプリルのフード付きの外套を奪って彼女のふりをしたメイクピースは、帽子なんてかぶっていなかった筈なのに、髪を帽子の中に押し込むとか、屋敷の外の世界や貴族のことを殆ど知らない彼女が、女スパイのヘレンとうまく渡り合って協力を得ることができたり、しまいにはヘレンのほうがリードしてくれたり、勅許状をさがすために手当り次第壊されていたホワイトハロウで、結婚式のため舞踏室が掃除されるとか、ジェイムズとメイクピースが、まだ古い幽霊を宿していると勘違いさせたまま屋敷に戻った時、ちょうどあと1時間程度で家長が死ぬところだったり、潜入者で一族側だったレディ・モーガンが、最後にはメイクピースの味方になってくれ、必殺技を繰り出して古い幽霊をひきさき「この技が使えるのは一度きり」と言ったり、レディ・モーガンが体をのっとって、霊保持者のふりをしてくれているのにメイクピースはうっかり足で犬をなでていたり、他の霊保持者が死んだときには棲家とされるべく襲われているのに、最後の一人、レディ・エイプリルのときには、なにも起きなかったり。


    難しい表現もありました。
    「メイクピースの心には山のごとき希望があった。それは、気力もくじけそうなほど暗く立ちはだかっていて、とても登れそうには思えなかったが、ようやく正面から見すえてみた」この希望、英語では何なんだろうと好奇心。

    日英翻訳の難しいところもありました。
    300頁、「助かるのか?おれは人殺しじゃないんだよな?」「ちがうよ」
    きっとこれが直訳なら、英語ではYesとNo。日本語だと両方Yesですよね?



    本作で、著者の邦訳作品3つを全部読んだことになりますが、私の一番のおすすめは「嘘の木」です。

  • 『カッコーの歌』、『嘘の木』に続くハーディング3作目のファンタジー。

    舞台は17世紀中旬の英国。何人(匹)もの幽霊を憑依させる能力を持つ少女メイクピースは、母親亡き後、父親の実家・フェルモット家(由緒正しき貴族)に迎えられ、下働きをするようになる。実はフェルモット家は、幽霊を憑依させる能力を持つ一家で、先祖の英雄達の霊を代々の当主が器として受け入れている不気味な一家だった。『古の慣習』で先祖の魂を相続した当主は、先祖の魂に支配されて自我を無くしてしまう。フェルモット家にスペアとして身柄をキープされていることを覚ったメイクピースは、何とか逃亡を図ろうとするが…。

    国王派と議会派が対立し、内戦が勃発する不安定な政情。ピューリタンとカトリックの宗教対立。重厚な時代背景の下で、フェルモット家の人々の様々な思惑に翻弄されながらも、機知に富み、逞しく生き抜く少女メイクピースの姿が印象的な作品だった。

    熊の霊と共生するって一体どんな感じなんだろう。自分の想像を完全に超えてるな。

  • 舞台は十七世紀の英国。いわゆる清教徒革命の時代。主人公の名はメイクピース。変わった名だが、ピューリタンが多く暮らす界隈に住むにあたり、母が改名したのだ。メイクピースは眠りにつくと自分の頭の中に幽霊が入りこもうとしてくる恐ろしい夢を見る。叫び声をあげると母に叱られる。母はそれと闘えと命じるばかりで、尋ねても父のことは教えてもらえない。しかも二人は周囲の人々とは明らかになじんでいない。

    母のつくったレースを売りにロンドンに出た日、騒ぎに巻き込まれ、母とはぐれたメイクピースは幽霊の噂を聞きつけ、一軒のパブに入り、そこで激しい怒りに襲われる。当時の英国には「熊いじめ」という娯楽があった。虐待にあって死んだ熊が死にきれず、霊が飼い主を恨んで暴れ回っていたのだ。その熊の霊がメイクピースに乗り移り、彼女は暴れ回り、気が狂ったものとして家に担ぎ込まれた。

    『嘘の木』『カッコーの歌』のフランシス・ハーディングの新作ファンタジーである。乗りに乗っている感がある。騒動で母と死に分かれたメイクピースは、亡くなった父の屋敷に呼び戻され、名門貴族の厨房の下働きとして暮らし始める。どうやら、母は、ここで働いていたころ、貴族の嫡子に見初められ、メイクピースを身籠ったらしい。この館には同じように貴族が遊び心で手をつけた女の子どもたちが集められている。

    それというのも、フェルモット家の血を引く者には不思議な力が授けられているからだ。いや、力と言っていいのかどうか? それはむしろ呪いの一種だろう。この名門貴族の血を引く者は、幽霊と交流できる力が異常に強い。死者の霊はそのままにしておくと弱まり、最後には消滅してしまう。しかし、死者の口から出た霊は、傍に入れ物としてのからださえあれば、新しい住まいを見つけて別の口に入り、そこで生き続けることができる。

    ふつうは、それに相応しい教育やしつけを受け、準備の整った嫡子が、古くからそうして生き延びてきた霊を受け継ぐことになる。そのための儀式も呪文も代々伝えられている。ところが、当時、英国は王党派と議会派が激しく争っていた。戦争ともなれば、貴族は王を守って戦わなければならない。頭首が急に倒れたとき、傍に後継ぎが控えていれば問題ないが、いつもそういう訳にはいかない。

    そこで、先祖の霊を入れておくための予備のからだが必要になる。庶子たちが集められているのは、正統な跡継ぎのからだに入れるまでの当座の宿所をつとめるためだ。しかし、問題がある。霊は一人分とは限らない。今のフェルモット卿のからだには八人の上座の人々が入っている。宿主の霊が強ければ、自分の霊と共存させられるが、それに耐えられなければ自分の霊は先祖の霊によって圧し潰されてしまい、もとの自分を失ってしまうのだ。

    屋敷にいた腹違いの兄のジェイムズと仲良くなったメイクピースは、この家の秘密を教えてもらい、ここから抜け出そうと試みる。しかしその度に二人は連れ戻されてしまう。そうこうするうち、戦争は激しさを増し、一家の住む一帯まで敵が迫る。戦のどさくさに紛れて脱走を企てる二人だったが、兄は兵士となって戦場に行き、残されたメイクピースにはとんでもない災いが降りかかる。

    危惧した通り、戦争で一族のめぼしい貴族が敵に討たれ、霊を移すためのからだが急遽必要になり、館にいたメイクピースに白羽の矢が立つ。捕らえられ、無理やり口を開けさせられたメイクピースの中に潜入者の霊が入り込んでくる。多くの霊を移すため、様子を見るためのスパイ役だ。自分の頭の中に異者が侵入する恐怖がこれでもか、というくらい気味わるく描かれる。いやあ、これは怖い。

    戦闘のさなか、近くにいた死者から出た霊に兄のジェイムズもからだを奪われる。再び相まみえた兄はすっかり様変わりしていた。新聞で脳の手術で幽霊を追い出した医者のいることを知ったメイクピースは、その医者を探して敵の真っただ中に分け入る。道中一緒になった女スパイや、医者、ピューリタンの逃亡兵、などといった連中と喧嘩したり、協力したりしながら、王党派と議会派とが睨み合う戦闘地帯を、兄を助ける手立て探し回る。

    嘘を書かせると、ハーディングはうまい。ファンタジーということにすれば難しい理屈はいらない。次から次へと新手を繰り出してはハラハラドキドキさせ、読者を飽きさせない。なかでも、自分の頭の中に複数の人物を同居させるアイデアが秀逸だ。メイクピースの中に入ってくるのは先祖の霊と限らない。もともと熊が入居済みだ。多重人格とは異なり、入れ替わることなく異なる人格が同居するのだ。仲よくできる相手ならいいが、ウマの合わない相手もいる。そのやりとりが実に愉快。

    人類はそもそも遺伝子を乗せる乗り物だ、という説を唱えたのはドーキンスだったが、からだは優れた力を引き継ぐ入れ物だ、という発想はそれに近いのかもしれない。その血を引く者には有無を言わせず、先祖代々の経験や技術を継承させるという点では伝統芸能である、能、狂言、歌舞伎の一門を思い出す。おそらく、見る人が見れば、ひとりの演者の中に、それまでの名人上手の舞い踊る姿が見えるのではないだろうか。

    手塚治虫の『鉄腕アトム』のエピソードの一つに「群体」を扱ったものがあった。単独のヒーローとしてではなく、アトムが群体のひとつとなって闘う姿を描いたものだ。多くの者が、固有の生を残しながら一つになるシステムというアイデアは、小学生にも新鮮だったことを覚えている。メイクピース一人ではどうにもならない難局を、敵対する相手とも手を組み、次々と切り抜けていく姿には、単独者にはない新たな可能性を感じる。こんな時代だからこそ、相手の中に敵を見るのではなく、共闘できる存在を見つけたいのかもしれない。

  • メイクピースという女の子の10才から15才までの冒険・成長物語。旧家の血を引くヒロインは魂を支配されるというオカルト的な因襲から逃れるため、知恵を絞って城を抜け出しますが、城の外でも社会は激動の時を迎えていました。戦火を駆け抜け、追手を退け、幸せを手に入れることができるのか。

    舞台は1638~1643年の英国。広義の清教徒革命(1639~1660)の前期にあたります。大航海時代の影響でインフレが進み、地租収入に頼る王室の財政は逼迫。チャールズ1世治下の英国も同様ですが、議会の反対で予算が取れず、また、チャールズのKYや王権を制限したい議会の思惑が交錯し、生じた王党派vs議会派の対立は、ピューリタリズムの影響を受けた民衆を巻き込む内乱状態になります。この時代背景を頭に入れて読みます。

    魂に別人格を入れてキャラ変したり、自分の内面で対話したりするのは趣向ですね。なかなかのアドベンチャーで面白いのですが、前作「嘘の木」には、加えて、「宗教vs科学」という対立軸があり物語の深みがありました。欲を言えば、もう一工夫欲しかったという気がします。

  • おもしろかった。
    ピューリタン革命という、歴史が激しく動く時代を背景に、邪悪で強力な一族から逃れようとする少女、メイクピースの奮闘を描く物語。
    メイクピースには死者の霊を取りこんでしまう能力があるのだけど、それを邪悪な一族に利用されることを拒否して、生きのびるために、道々出会った霊をとりこんでいく。
    受動的なら「取り憑かれる」と表現するのがふさわしいのだけど、彼女の場合は、あたかも成長の過程でさまざまな人たちと出会って、ケンカしたり議論したりしながら、相手のいいところを学んで成熟していく過程のよう。なので、仕掛けはまぎれもなくファンタジーなのだけど、成長小説のような趣が強い。

    危機に次ぐ危機を乗りこえていくのも、魔力ではなく、あくまでも知恵と策略と意思の力。そしてときには、クマの爆発的なパワー。このクマが、ずっとクマらしくて、でももうメイクピースの一部であることも自然と了解できて、とてもよい。

    ハーディングって、ほんとうに、こういう異常な設定をリアルな舞台背景のなかで説得力を持って描くのがうまいなああ。

  • 「嘘の木」が面白かったので、引き続きフランシス・ハーディングの小説を読んでみた。今回の小説はミステリではなく、ゴシックファンタジーと言うべきか。よくこんな設定が思いつくなあ。舞台は17世紀の英国、ピューリタン革命が起こった内乱の最中、死者の霊を取り込む事ができる一族の末端に生まれた少女の生き様を描いたもの。ほとんど知らないチャールズ1世の統治時代、wikiでちょっと調べてみたり。前回の小説と同様、たくましく、真っ直ぐな少女メイクピースが良い。児童文学というカテゴリだが、ホラーな箇所もたくさんあって、私が児童であった時にこの小説を読んだら、トラウマになりそうだ。特に、死に間際の霊の移動が怖い。にも関わらず、絶体絶命な事態に負けじと立ち向かうメイクピースに引き込まれて読んでしまった。正直、好みではなかったけど面白かったです。

  • ダークファンタジー。舞台は17Cイギリス。

    幽霊を脳内に住まわせることのできる一族の血を引く、メイクピースという少女の話。
    単なる憑依体質かと思っていたが、あくまでもメインはメイクピースで、疲れていたり眠っていたりすると、取り込んだ幽霊たちが現れることもあるとのこと。

    一族は、何世代も前の「上の方たち」が永遠に生きるために、何人もの子孫を犠牲にしている。メイクピースや異母兄、従弟たちは予備の器……。

    クマ好きには堪らないがなにせ暗い。
    クマと友情もしくは愛を育むメイクピース。クマかわいい、クマを愛でよ。

    『嘘の木』でも思ったんだけど、ハーディングの書く「母娘関係」はツンデレの雰囲気がある。
    メイクピースの父親は既に故人だった。
    父親に会わせてあげたかった。父の兄なる人が、メイクピースの母親を愛してたらしく……ちょっとそこの三角関係について詳しく!と追及する前に退場してしまう。かなしみ。

    メイクピースの成長物語。
    なんとなく『ゴーメンガースト』を思い出す。
    カトリックとピューリタンの話が主軸に絡んでくる。
    イギリス史懐かしいなと思って読んだ。
    個人的には『嘘の木』の方が好きだ。

  • ファンタジー系あまり読んだことなかったけど、結末が気になって楽しく読めた。

  • 『嘘の木』は素晴らしかった。『カッコーの歌』は好みではなかったが、よくできているし、アイデアもオリジナリティがあると感心した。
    で、翻訳3作目のこれは。
    舞台は一番古く17世紀。清教徒革命初期。なのに、主人公の喋り方がイマドキなんだな。日本の読み手を意識して読みやすくしたのだろうが、「そのことを恐れてるかもだけど。」(P331)とか、やりすぎではないか。喋りを読みやすくしたところで、この歴史的背景や錯綜した筋が、サクサク読みたい読者には大きな障壁となっているのだから、もう少し落ち着いた喋り方で良かったと思う。
    この作者の作品(日本語訳されたもの)はどれも、ファンタジーと歴史を組み合わせたものだが、前二作より歴史的背景が前面に出ていて日本人、特に若い読者には分かりにくい。えーっと清教徒革命ってどんな経過だったっけ?チャールズ一世ってどんな人だっけ?と思ったし。(メアリー・スチュアートの孫でした。)前二作にあったミステリー要素が減ったのも物語の求心力を下げたように思う。
    主人公が一筋縄ではいかない少女であるという点では共通しており、『カッコーの歌』の主人公程ではないが、クマに支配されたときの様子は凄まじく(牙を剥く、襲いかかるだけでなく、蟻を食べたり、魚を生でかじったりする)、幽霊との会話などを考えても映像化は難しそうだ。
    作品の出来も前二作より劣る。取り込まれた幽霊に核があるとか、傷つくとか、いなくなるとか(なのにクマはいなくならないと言う)その辺がツッコミどころ。どうしても物語を作るために考えた、という感じがしてしまう。
    幽霊を取り込む一族という発想は良いし、クマと折り合いをつけていくところは面白いのだが、乗っ取られ小説としては『73光年の妖怪』や『たったひとつの冴えたやりかた』という名作があるからなあ。あれくらいぐいぐい引き込まれるものが欲しかったし、コーティくらいキュートな女の子ならもっと楽しかっただろう。歴史ものにしないで、架空の中世を舞台にしても良かったかもしれない。
    三作読んでみると『嘘の木』の主人公が一番普通だった。彼女は現代を生きる私たちにも共通する問題をかかえていたから、共感しやすかった。
    『嘘の木』は、万人におすすめしたいし、『カッコーの歌』は、『嘘の木』を読んだ人なら読んでみたら?と言えるが、これは、うーん、前二作を読んだ人に、前のより面白いと期待しないでね、と言って渡すかな。
    これが初めてのハーディングの人には、「いや、『嘘の木』はホントにいいんだよ!」と伝えたい。

    読んでいる間、ロシア民話『てぶくろ』がずっと頭の一部で繰り返された。
    「きばもちいのししだよ。わたしもいれてくれ」「ちょっとむりじゃないですか」「いや、どうしてもはいってみせる」
    「うぉーうぉーのっそりぐまだ。わたしもいれてくれ」「とんでもない。まんいんです。」「いや、どうしてもはいるよ」「しかたがない。でも、ほんのはじっこにしてくださいよ。」てぶくろはいまにもはじけそうです。

  • ピューリタン革命のロンドンを舞台にしたファンタジー。が、メイクピースが屋敷に引き取られた後半からは物語に脈絡がなく辻褄も合わなくて、ファンタジーだから仕方ないのかと納得させられた。

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