ガラスの顔

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (505ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488011109

作品紹介・あらすじ

地下都市カヴェルナの人々は表情をもたない。彼らは《面》と呼ばれる作られた表情を教わるのだ。そんなカヴェルナに住むチーズ造りの親方に拾われた少女はネヴァフェルと名づけられ、一瞬たりともじっとしていられない好奇心のかたまりのような少女に育つ。ある日親方のトンネルを抜け出た彼女は、カヴェルナ全体を揺るがす陰謀のただ中に放り込まれ……。『嘘の木』の著者が描く健気な少女の冒険ファンタジイ。カーネギー賞候補作。

感想・レビュー・書評

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  • ★5 地底都市で生き抜く少女が可愛い… 読めば読むほど夢見心地な世界に酔えるミステリ #ガラスの顔

    ■あらすじ
    地底都市を舞台に、健気な少女が街の謎を解き明かす、ファンタジーミステリー。

    この世界の人々はなんと表情を持たない。「面」という表情を「面細工師」から習うことにって身に着けることができる。上流階級は多くの面を持ち、労働階級は必要がないとされ、少しの面しか持っていない。

    そんな世界で、チーズ作りがされている地下迷宮に迷い込んでしまった少女。親方に拾われた彼女は、珍しい特徴をもっていたために顔にお面を付けられ、チーズ作りの修行を行うことになる。長い間、同じ場所にいた彼女は、外の世界に希望を見出すようになる。ある日、外に出られる穴を見つけた彼女は…

    ■きっと読みたくなるレビュー
    いつも見たこともない異世界に誘ってくれるハーディング。今回も夢見心地な読書を楽しませていただきました。幻想小説なので、是非じっくりと時間をとって読んでみて下さい。できれば二回、三回と繰り返し読むことで、真の味わいが得られる名作だと思います。

    本作は何と言ってもファンタジーな世界観が素晴らしいすぎる。物語の序盤、いきなり異世界を体験することになるのですが、すぐにワクワクが止まらなくなります。表情を持たない世界で、幻を見せるチーズ、記憶を操作するワインなど不思議なアイテムが物語をけん引してゆく。

    さらに読み進めていくと、まるで宮崎駿アニメのようなストーリー展開になってくる。好奇心が強い少女が街へ飛び出し、見たことのない景色や大切な人との出会いを経験してゆくのです。そしてトラブルに巻き込まれ、誰が味方で誰が敵か分からないなか、健気な少女が大冒険を繰り広げていくのです。

    主人公の少女は、自らの特徴がさらに問題を大きくしてしまうのですが、後半をその特徴を武器に難局を切り開いてゆく。ファンタジー冒険小説として、マジで完璧な設定と語り口で、もはや感嘆の声しかでませんでした。

    そして本作はミステリーとしても凄い。主人公の少女は何者なのか、なぜ重要なことを思い出せないのか、誰が敵で誰が味方か、支配層が隠している秘密とは何か、何故こんな格差社会になっているのか。

    他にもたくさんの不思議がありすぎて、半ば混乱もしますが、後半から徐々に真相が明らかになっていく。だからこうだったのか! そんな背景があったのか!と、納得性が鬼高なんですよね。さらに真相解明からラストシーンへ流れが美しすぎて、もはや感動レベルでした。

    なにより主人公の少女が一生懸命でカワイイんですよ。不安なこともいっぱいながらも、何にでも興味津々で前向き。勇敢で責任感が強くて友達思い。千と千尋の神隠しの「千」みたいに守って応援したくなるようなキャラクターなんです。こんなにも輝いている少女をみていると、何にでも挑戦できるような勇気をもらえてしまいますね。

    年末に素晴らしい作品を体験することができました、ありがとうございました。

    ■ぜっさん推しポイント
    表情「面」。この世界で富裕層はたくさん持ち合わせていて、労働層は必要とされていないものである。

    現実世界もおいても、最下層労働者は日銭を稼ぐのが精いっぱいで表情は乏しく、経済的に余裕のある人は色んな表情をたくさん持ち合わせているような気がします。

    ただ表情をたくさん持ち合わせていることで人は幸せになり、より良い人間関係が築かれるとも限らない。本書の主人公のように、素直で精いっぱいの人生を生きることが、自分自身を引いては周りを幸せにしてくれるのでしょう。

  • Frances Hardinge's Twisted City – official author website
    http://www.franceshardinge.com

    ガラスの顔 - フランシス・ハーディング/児玉敦子 訳|東京創元社
    http://www.tsogen.co.jp/sp/isbn/9784488011109

  • 地下世界カヴェルナは厳格な身分社会です。上流階級は表面的には平穏ですが、互いに不信で、意識や記憶に作用する不思議なワインやチーズを駆使しては陰謀や暗殺が横行しています。この不条理な世界を作者は精妙な想像力で作り込みます。表情を持たないカヴェルナの住民は多様な「面」で感情を代弁しますが、僅かな「面」しか持たない下層民は怒りや反抗の表情を見せることはありません。ウィグル弾圧を想起しました。ヒロインが下層の男の子やお嬢さまと友情を育みながら大人社会に怯まず戦い成長していくのはいつものハーディングテイスト。穴ぐらからウサギに導かれて外に出るのは、英国ファンタジーのルーツ「不思議の国のアリス」へのオマージュを感じました。

  • 私は『嘘の木』『カッコーの歌』『影を呑んだ少女』よりも楽しめた。3作のような歴史ファンタジーではなく、異世界ファンタジーだったから?好みの問題かとは思うけれど。

    細部から大枠まで、設定の作り込みがすごいよねえ。
    ラストもよかった。

  • 感想。フランシス・ハーディングの翻訳物はこれで4作目だけれどその作品群は常に少女が自分の周りの世界に受け入れてもらえず苦しみもがきながらも自らのアイデンティティを見出して立ち上がり仲間を得て駆け抜けて行くのが共通している。その苦しみや立ち上がる自由意志の底に常にあるのはそこはかとない怒り。特定の物事や人へ対する怒りではなく、自らが置かれた境遇への理不尽さへの、そして何故そうあるのかがわからない事によるどうしようもないふつふつとした怒り。その怒りは原動力となり主人公を駆り立てて行く。今回も主人公は止まることを知らず、というか止める事も叶わずに自らを知りたいという欲求のまま駆け巡っている。
    今回は地下洞窟に広がっている、魔法の効果を起こせる様々な食べ物や飲み物が生成されているとある国家に突然現れた記憶を無くした少女が主人公。地下世界で空気や光をどうやって取り込んでいるのかという世界設定も実に面白いのだけれど、この世界で暮らす人々には表情というものがなく、彼らの表情は全て「面」という 後天的に学習したものであること、豊かなものほどその「面」を多様に持ち、労働者階級の者達は数える程の「面」しか持たないというその設定が秀逸だった。感情の表質がどれほど人にとって重要かということを思い知らされたし、逆に表質出来ない時人は表情を無くすのだと現実の自分の周りについても思い知らされた。「面」というモチーフは内面の世界と外面の世界という個人が向き合う世界ということや、嘘をつく事つけない事という他人との関わりという事等多面的なことを表すものとして非常に効果的で主人公の孤独もそれによって際立っていた。
    フランシス・ハーディングの主人公達はいつも内面に火を宿しており、常にその火は燃え続けている。たとえ消えかけてように見えても決して消えてしまわずに燻り続け、そしてまた一気に燃え立つ。
    その心が追い続けている何かを私はとても愛しているのだと思う。
    私は彼女の作品が大好きなので評価は甘くて星5つ。読後いつだって勇気を貰える彼女の作品が好きだ。

  • フランシス・ハーディングの邦訳4冊目にあたる小説。といっても、先の3冊よりは前に書かれたものらしい。舞台は架空の地下都市「カヴェルナ」。カヴェルナで暮らす人々と違い、面(おも)を持たない少女ネヴァフェルが自分のルーツと、カヴェルナの真相を解き明かしていく物語。冒頭からチーズづくりの描写や、虫くいランタン、記憶を消すワインなど、設定が摩訶不思議で、前回の小説の感想にも書いたが、良くこんな事思いつくなあと感嘆する。カヴェルナの人々は表情を持たず、面と言われる技術(その場面にふさわしい表情)を習得するのだが、ネヴァフェルは面を持たず、普段は仮面を着けて暮らしている。
    ネヴァフェルが無自覚に行動していくたびに、最低必要限の面しか持たない貧困層と、いくつもの面を習得できる裕福層に分かれ、格差社会の構造が浮き彫りになっていく。最初はなんかパッとしないネヴァフェルが、仮面を外したあと覚醒したかのように成長していく様子と、社会の大きな歪みが元となり崩壊していくカヴェルナが物語のクライマックスである。最後に夢にまで見ていた、美しい地上に降り立つネヴァフェルたちのラストシーンは印象的だった。

  • とても面白い本だと思いました
    没頭して読みました

    ファンタジーではありますが、現代社会と同じ問題があり、主人公は巻き込まれていきます

    まず、階級社会は永遠に続かないということ
    現代社会では、いつの時代も革命や戦争によって、同じ社会、同じ時代は続いていません
    日本ではあまり見ませんが、海外ではストライキやデモによって常に労働者は社会へと働きかけ、社会環境を変化させています
    この本では、変化を妨げる手法として、労働者には限られた面しか与えられておらず、労働者が怒ったり悲しんだりする面をすることはできません
    これらの面を持たないことが、変化への妨げになりうるとは、コミュニケーションで表情というのはとても強力な意味を持つということが裏付けられています
    しかし、小説も現実世界も行き過ぎた階級社会は何かのきっかけで、必ず崩壊します
    ここで、危険を犯しても、真実や革命のために動くネヴァフェルの勇敢さというより無鉄砲さには、ぼんやりと日々を過ごす私にはとても惹かれるものがありました

    次にズエルの存在です
    私はどうしてもズエルは最後の瞬間まで信用することができませんでした
    これはネヴァフェルと同じだったと思います
    読み手とネヴァフェルの感情がリンクする数々の心理や状況の描写は見事だと思いました
    一族の忠誠心という洗脳くさいものより、友人を選んだズエルはとても優しい子なのだと思いました
    後にズエルのワイン、ネヴァフェルのチーズが地上世界の技術として認められたのは、狭い世界にいながらも彼女らは一流であり、求めるものを求めれば、広い世界の人たちからも認められるのだと思いました
    視野を広くすることはいいことだと思いますが、今自分にあるものをより極めていくことも生きる上では大切なのかもしれません

    マキシム・チルダーシンがネヴァフェルを救うためにした演説には私も心を動かされました
    後になって、マキシムは大長官暗殺に関与しており、ネヴァフェルを本当に思ってのことではなかったとわかるのですが、まるでネヴァフェルのために演説してくれているように感じさせるその演説は見事です
    そして、現実世界にいそうだなと思いました
    会社で、上の立場の人はだいたい、魅せる能力はあります
    演説であったり、文章であったり、上に立てるだけの能力、カリスマはあります
    しかし、それだけです
    忠誠心があるだろうという曖昧な考えでは考えが変わりつつある人にこうもあっさりと裏切られてしまうのです
    実際に現実の組織も似たようなことがあるのではないでしょうかと思いました
    大きな陰謀を裏切りにより打ち破られてしまい、その裏切り者はズエルなのですが、自分の物語の読み浅さを感じるのはこの部分で、ズエルがチルダーシンを裏切ると決心したのはいつだったのかがわからなかったです
    友人を選んだのはわかりますが、ズエルはいつ決心したのか、そのあたりはで誰かと話してみたいです

    最後に、エピローグ部の「無表情のまま涙を流す」人の描写がとてもよかったです
    地下都市で暮らしていた労働者が、地上を知り、地上の物を食べたことによって涙を流します
    面こそ変わらないものの、感情は動いたのでしょう
    とても感動して涙を流したのだとわかります
    これは私個人の感性なのですが、青空の下で自然に触れて、大地を感じて生きることは、この地に生まれた私達の特権だと思っています
    家での生活が充実し、学校や会社等で屋内にいる時間が圧倒的に多いのが今の日本ですが、動物としては、かつては外で自然とともに暮らしていたと思います
    屋内という1種の地下のような空間にとどまるのではなく、広い世界を見るために、外へ向かい、文化を共有し、大地のぬくもりを感じて生きていくことが、幸せと定義できる1つの生き方なんだと思いました

  •  ミステリ要素や、革命、出世の秘密と盛りだくさん。対象が中高生となっているけれど大人も楽しめると思うけれど…
     ファンタジーは読んでこなかったので読むのにとっても時間がかかった。29章、30章には作者の気がふれてるかと思う程意味不明で読みづらい箇所もあった。けれど、大半は歳を重ねるたびに萎む創造力を掻き立ててくれる作品だった。

     色彩豊かで奇想天外な創造力に満ちていたし、極彩色の魔法の料理や、滝や偽物の森もあれば綺羅びやかな装飾や空想動物や幻想的なライトもある。時計脱や虫取りランタン、うさぎの穴、などあとから効いてくる詳細な世界観の作り込みが素晴らしい。

     面(表情)は、私達には元々備わっているものだろうか?この世界同様訓練してあるいは身につけたのと同様かもしれない。それこそ赤子の頃から。
    そういう意味では、作り笑いや、仕事のときの顔に既視感を覚える。版で押したような仮面さながらに。

     嘘がつけない無垢な存在の主人公は、絶対的権力に対しても、裏切りの展開にたいしても、もののように抑圧支配された悲しい人々を目の当たりにしても、変わらず自分の好奇心と信念に従って人生を切り拓いてゆく。外へ外へと。ジャンヌ・ダルクさながらに。周りの人を巻き込み力や友人への信頼は彼女の強さを表していた。
     たいてい革命者というのは頭がイカれているものだ。

     凄い展開だったし、展開激しいラスト120ページは一気読み。予測外だった。
     ホントのラストは美しかった。解放感でいっぱいになった。
     本物の青空に叶うものはないのかもしれませんね。

     時々、〇〇のような面や、シリーズ作何番の面をまとってというような記述がなく、表情をもつネヴァフェルのように、他の登場人物が表情を変える記述があるので混乱した。
     あとは召使いの動きが謎。
     
     実写は難しいだろうから、是非ストップモーション、クレイアニメで映像化してほしい。きっとこれを映像化するとき一番難しいのは表情と面だろう。



  •  地下都市の中で繰り広げられるダーク・ファンタジー。
     拾われっ子のネヴァフェルは、他の都市住人と違い、生まれながらにして多彩な表情を浮かべることができ、その珍重さから地下都市を長年支配する大長官の毒味役にまで抜擢される。時には命を狙われたり、出会った仲間たちと数奇な運命に巻き込まれていくうちに、徐々に地下都市と自分の出自の真相にたどりついていく。

     これまで読んだ同じ作者の『嘘の木』『影を呑んだ少女』同様、けなげで強い意思を持つ少女が逆境に立ち向かっていく小説なのだが、現実の世界を舞台にした前作と違い、本作では虚構の地下都市とその住人の独特な風習がよくのみこめず、いまいち物語世界に没入できなかった。

  • 前3作と異にした設定・・地下世界という異次元の空間~カヴェルナ。そこに住むチーズ作り親方に拾われた少女ネヴァフエル。

    周囲の人々は≪面≫と呼ばれる表情を学んで生きて行く・・が少女はそれを持たない。
    ≪面≫の下に隠された様々な陰謀を潜り抜けて行く少女は徐々に学習を積み重ね・・と真、成長物語。

    サクッと言えばそうなるのだが、最初はなかなか異空間に踏み出せず、流れに乗り切れなかったが、一時もじっとして居ないネヴァフェルの好奇心のジェットコースターに同乗する感覚でおもしろ炸裂・・一気読みしてしまった。

    ≪面≫の世界という事で19C末に活躍したJ・アンソールの傑作を思い出してしまった。絶頂期に書かれたこの絵の雰囲気も、「花飾りに囲まれた仮面がいっぱいの中にいるアンソール・・周囲から孤立していると見えつつも、自分を強く持ち 想いを主張する彼の精神」が強く伝わってきていた。

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