悪い男

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488011314

作品紹介・あらすじ

レイキャヴィクのアパートの一室で、刃物で喉を切り裂かれた若い男の死体が発見された。男はレイプドラッグと言われるクスリを所持しており、どうやら酒に酔った女性にクスリを飲ませて意識を失わせレイプをしていた常習犯らしいことがわかる。被害者に復讐されたのか? 犯罪捜査官エーレンデュルが行方不明のなか、部下のエリンボルクは現場に落ちていた一枚のスカーフの香りを頼りに捜査を進める。北欧の巨人の人気シリーズ第7弾。

感想・レビュー・書評

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  • 殺害された被害者はレイプドラッグを所持しており… 家族の絆を細やかに描いた社会派ミステリ #悪い男

    ■あらすじ
    アイスランドの首都レイキャヴィークで発生した殺人事件、アパートの一室で男の死体が発見されたのだ。部屋からは女性のスカーフが見つかり、さらに彼はレイプドラッグを所持していたことが判明する。主人公である捜査官であるエリンブルクは、彼に乱暴された女性を探すために捜査を始めるのだった…

    ■きっと読みたくなるレビュー
    シンプルかつストレートな北欧ミステリーですね、胃にずっしりと来ました。タイトル『悪い男』とは間違いなくこの被害者であるのは想像がつく、一体この事件にはどんな背景があるのだろうか。

    本作エーレンデュル捜査官シリーズの第七弾ということなんですが、実はこのシリーズまだ一冊も読めてないんですよね、あはは(湿地をはじめ、もちろん手元には何冊かあるけど)。でもシリーズ初読みでも前作以前のネタバレもなさそうでしたし、目一杯楽しませていただきました。

    じっくり、本当にじっくりと捜査が進む。この静かさと重々しさが一番の魅力ですね。関係者や街の人々に聞きまわっても、解決の糸口すらつかめないというこの行き詰った重々しさ。それでもひたすら捜査を続けるエリンブルクの粘り強さが渋すぎて素敵です。

    しかもこの女性捜査官であるエリンブルク、彼女の日常やプライベートがたびたび描写されるんです。夫との距離感、多感な年ごろの子ども達との関係性など、家族の間に吹く隙間風が針の筵のように彼女の背中に突き刺さってくる。

    特に末っ子の娘に対して贔屓目に見てしまったり、猫かわいがりが転じて自分の甘える矛先になってしまう感覚なんかはホントよくわかるの。さらに娘を持つ親として、本事件の背景にある恐ろしさに対する震えを肌で感じ取ることができるのです。

    そして物語の後半になってくると、他の家族との巡り合わせがやってくる。被害者家族と加害者家族が背負っている十字架が、彼らのとってあまりに重大過ぎて辛すぎますよ。読めば読むほど苦々しさが胸を襲ってきて、許せない感情が爆発しそうになりました。

    ずっと水の底で本を読んでいるような錯覚に陥る、でも強い勇気も感じる渋いミステリーでした。

    ■最近わたしが思っていること
    性的同意アプリって知っていますか?

    性的同意を証明するものとして、書面での手続きはその場の雰囲気を壊してしまうため、比較的手軽に手続きができるように作られたらしいです。効果とかセキュリティの問題など、いろいろ批判が多いですが、こんなアプリがでてくること自体が悲しくてならない。

    そもそも手続きの問題なのではなく、愛している人とだけ性交渉に及びべきという、あたりまえの愛のカタチを目指すことのほうが重要ではないでしょうか。正しく教育され、ひとりひとりが成長していけば、同意なく人を襲うなんてことは起きないんですよ。

    ただ…きれいごとだけでは問題がなくならないことも知ってまして。もし本作のような被害者を減らせるのであれば、この性的同意アプリもきっと意義があるのではないか。辛い思いをする人が、ひとりでも少なくなるようにしたいです。

  • 『エーレンデュル捜査官シリーズ』は非常にメッセージ性の高いミステリーだ

    今回は卑劣極まりない犯罪の被害者たちに対して、あなたたちは悪くない、あなたたちに責任はない、世間から隠れて暮らす必要はない、堂々と生きろ!と強く主張している

    だけどその主張はまず「社会」に向けられるべきだと思うのだ
    「社会」こそが犯罪被害者たちを日陰の存在に押しやっているのではないか、声を塞いでいるのではないかと思う

    そして、作者のアーナルデュル・インドリダソンはこのシリーズを通して、常に家族の絆についてスポットを当てているように思う
    そして今作は主人公がいつもと違ってエーレンデュルの部下、女性刑事のエリンボルクとなっている
    つまりいつもと違う家族が登場し、また違う種類の家族の問題が母親視点で描かれている
    明確な答えは用意されていない
    読者に提示されるのは問題だけだ
    答えはそれぞれが自分の力で見つけるべきだとアーナルデュル・インドリダソンは言っているのだろうか

    そして今、私が強く思うのは、素晴らしい物語なんだが、アーナルデュルとかエーレンデュルとかエリンボルクとか聞いた時点で心折れてる人多いだろうなってことですw

    • みんみんさん
      Σ(ll゚ω゚(ll゚д゚ll)゚∀゚︎ll)
      Σ(ll゚ω゚(ll゚д゚ll)゚∀゚︎ll)
      2024/02/16
    • yoshi1004さん
      まじ初めましてのヨシです。いつも参考にさせてもらってます。コメントがこんなに楽しそうで、読後も➕アルファの余韻を味わえるみたいで今後も目がは...
      まじ初めましてのヨシです。いつも参考にさせてもらってます。コメントがこんなに楽しそうで、読後も➕アルファの余韻を味わえるみたいで今後も目がはなせません
      2024/02/18
    • ひまわりめろんさん
      ヨシさんこんにちは!

      初めましてでしたっけ?まぁいいかw
      うちにいる輩が余韻感出してるかどうかは甚だ疑問ですが、あらためて今後ともよろしく...
      ヨシさんこんにちは!

      初めましてでしたっけ?まぁいいかw
      うちにいる輩が余韻感出してるかどうかは甚だ疑問ですが、あらためて今後ともよろしくです
      コメントともどんどん入れてくれれば嬉しいです!
      2024/02/19
  • アイスランド・レイキャビク警察のエーレンデュル捜査官シリーズ第七作。
    と言っても、今回はエーレンデュルは休暇のため不在(長すぎるし連絡も取れなくてこっちも気になる)。
    ということで、今回はこれまで脇役だったエリンボルク捜査官(女性)が主人公となる。

    このシリーズは被害者が気分が悪くなるような『悪い男』であることが多いのだが、この作品もそうだった。
    レイプドラッグと言われる薬品を女性に飲ませて強姦するレイピストが、自ら使っていたレイプドラッグを口に詰め込まれて殺されていた。
    全く同情出来ない被害者なので、自業自得な最期については寧ろ良かったと思ってしまうのだが、警察としてはそうはいかない。

    日本の警察小説だとアウトローな刑事ものでない限り二人一組で捜査をするのだが、このシリーズは基本単独捜査を行っている。
    訳者あとがきによると、アイスランドでの殺人事件は年間4、5件、人口10万人単位での殺人事件発生率としては日本に近いくらい少ないようだ。ヨーロッパの中でも比較的平和な国ということでこういう捜査スタイルになっているのかも知れない。
    だが今回の作品のような強姦だったり過去に扱われた虐待や暴行事件などはそれなりに起こっているようで、エリンボルクの母親は、娘が捜査官という職業を選んだことを心配している。

    捜査の行方の方は、現場に残されていた女性ものと思われるスカーフやTシャツ、そして被害者の人間関係、さらに目撃者探しといったことをエリンボルク一人で担っているため、遅々として進まない。
    この辺りは過去の作品で経験済みなのだが、訳者の柳沢さんの文章と相性が良いのか、読み進みやすかった。

    同時にエリンボルクの家族関係についても描かれていて、こちらはエーレンデュルほど極端な家族ではないので親近感があった。
    現在の夫・テディの大らかさに癒され、長女で三番目の子供のテオドーラに勇気づけられる一方で、長男ヴァルソルとの関係は全く上手く行っていないし、次男アーロンも徐々にエリンボルクから距離を置こうとしている。ヴァルソルとの確執が養子ビルキルが家を出たことに端を発していると知ったエリンボルクは過去の自分の対応に思い悩む。

    こうしたことには正解というものはないので悩ましい。なるようにしかならないと大らかに構えるか、とことん藻掻くのか。距離を置いた方がいいのか、向き合ってとことん話し合うのか。
    個人的にはエリンボルクは仕事も家事も家族にも頑張っている良いお母さんに見えるが、三人の子供たちそれぞれの観方は違うだろう。だから夫テディの大らかさは救いになるかも知れない。

    一方で捜査の方も新展開を見せたりして面白くなってくる。『悪い男』だと思った被害者は『悪い男』ではなかったのか?別の側面があったのか?
    信用ならないと思われていた証言や、見逃しそうな証言を丹念に探っていくエリンボルクはやはり優秀な捜査官だと思う。

    そして強姦の被害者に対して『恥は暴行した男が感じるべきものよ』と言ったエリンボルクには共感するが、『彼らの受ける罰と言ったら、馬鹿馬鹿しいほど軽いのよ!』という被害者の言葉にも大きく頷く。
    もっと被害者に寄り添った『正義を下す方法』があれば良いのだが。

    もう一つ印象に残ったのは被害者の出身地である村の雰囲気。まるで横溝正史先生の作品に出てきそうな、排他的な空気でちょっと怖い。

    事件としては解決したのだが、様々な謎は残っている。
    次作はなんと、問題児(と私が勝手に呼んでいる)シグルデュル=オーリが主人公らしい。
    時間軸としては今回の作品と同時らしいので、エーレンデュルはまだ不在らしい。こちらの作品のその後やエリンボルク家族のその後、エーレンデュルの行方なども描かれるだろうか。

  • シリーズ7の一冊。

    今回はエーレンデュルではなく、同僚の女性刑事エリンボルクが主役。

    それでも陰鬱な世界観で惹き込むリーダビリティは健在。 

    極悪非道のレイプ犯が殺された事件。

    被害者女性による復讐か?
    現場に残されたスカーフの残り香から地道に捜査を進めていく過程はやっぱり面白い。

    レイプは殺人と同等というエリンボルクの考え、被害者女性の心の傷に寄り添いつつ、沈黙は無に値すること、そのやりきれなさを説く姿が実に好印象。

    そんな彼女の家庭事情も意外と深い渦が巻く。

    一人の女性としての一面、感情に随所で共感できたのも良かった。

  • 北欧のミステリーシリーズ。エーレンデュルかと思えば彼の部下のエリンボルクが主人公。
    彼女の日常が細かく描かれていてとてもリアル。緻密な捜査や被害者の家族の感情が前面に出ている。エーレンデュルはどうしたのか、刑事仲間でなくとも気になる。

  •  『湿地』以来、いずれも高水準を保っているこのアイスランド・ミステリーは『エーレンデュル捜査官シリーズ』として出版社より紹介されてきたが、本書では当のエーレンデュル主任警部が不在というシチュエーションで女性刑事エリンボルクが初の主演を果たす。時に助け役なのか邪魔する役なのか判断が難しいかたちで三人目の刑事シグルデュル=オーリが登場するが、こちらも友情出演程度の顔出し。本書は、一作を通じてあくまでエーレンデュルを主役とした作品なのだ。

     序章にして既にトリッキーである。まず女性にデートドラッグを飲ませレイプするという目的を持つ病的な犯罪者が一軒のバーで獲物を狙うシーンから本書はスタートする。続いて死体発見現場で本書のストーリーは正式発動されるのだが、思いに反して被害者はレイプされた女性ではなくデイトドラッグを仕掛けたほうの犯罪者の方であり、彼は自分の住むアパートの部屋で喉を掻き切られるという無残な姿で死んでいた。

     アイルスランドという、北極圏に近くフィヨルド地形が目立つような小さな国。人口は30万ととても少なく、しかもその大半がレイキャビックに集まっているという。この小さな国で世界の言語に翻訳されている作家と言えば本シリーズの原作者の他にラグナル・ヨナソンで、ぼくはこちらの作家も日本語翻訳作品は全読して注目しているのだが、こちらはアイスランド北部にあるシグルフィヨルズルという田舎町の警察署に所属する若き警官アリ=ソウルを主としたシリーズ。ヨナソンでは女刑事フルダのシリーズ三部作が立て続けに翻訳されその衝撃的内容に震えたものである。

     アイスランド・ミステリーに何よりも注目を集めたのが本エーレンデュルのシリーズで初邦訳された『湿地』であり、その後も主人公が抱えている過去(雪山で見失って以来行方のわからないままの弟、という未解決な事件)のトラウマは、執拗にシリーズに影を落とし続ける。さらにその事故、あるいは事件の真相究明にのために、エーレンデュルはレイキャビックから毎年決まって姿を消してしまう。

     本書でもエーレンデュルが不在であるわけはおそらく雪山の事故を思い出し真実に辿り着くための旅なのだと思う。なので本書では主人公をエリンボルクが務め、日頃あまり語られなかった彼女の私生活の描写が随所に語られつつ、彼女が執拗に本書の事件究明に携わる姿のどこかに、改めてエリンボルクという女性の大切にしているものが明確になってゆく。ちなみに料理へのこだわりが強く料理本を出版までしていることは過去作にも書かれていたたが、その辺りの拘りは本書でも頻出、刑事というよりも女性という側面を主体に男性作家によって書かれた作品である、という捩れのようなものも面白い。

     また真相に辿り着くための執念、そしてたった独りの捜査を通じて知り合ってゆく関係者たちとの接し方も通常捜査というよりは、より個人的な被害者である<悪い男>への怒りと殺害者への情さえ感じ取れてしまう辺りが通常のミステリと完全に逆転していて面白い。おそらくこの作品にしか登場しないキャラクターたちも、皆どこか魅力的でしっとりした情景描写に、いつもながらのインドリダソン作品のディープな味わいを感じてしまう。

     次作は同じ時期(つまり真の主人公であるエーレンデュル不在時)のシグルデュル=オーリを主人公にしたものだそうである。87分署みたいに人数はいないけれど日替わり主人公のような楽しみまで加わってきた本シリーズの今後、そして何よりもいずれ明らかになるであろうエーレンデュルの行方知れずの弟の行方という解に辿り着くまで本書は読み続けてゆかねばならない。その意味でも順に辿って全作を読んでゆきたいシリーズなのである。

  • 男は目立たぬようにバーに入ってゆき、サンフランシスコの文字のあるTシャツを着た女性に声をかけた。で始まる描写が続き、一行空いて、エリンボルグが現場に到着すると、血の海の中で若い男が倒れていた。血まみれのサンフランシスコの文字の入ったTシャツを着ていた。・・と続く。

    男はこの若い女性のTシャツを着て殺されていた、という出だしから、殺された男は「悪い男」なのだな、と思う。その予想のごとく、エリンボルグは男殺害の真犯人を見つけ出すのだが、男がもたらした「悪」の空気が作品全体を包みやるせない。男の故郷はアイスランドの田舎。若い者は村から出て行って、村人の行動はただちに村じゅうに知れわたる。暗くて寒い空が覆っている。それが「サンフランシスコ」の明るくて暖かいTシャツと対照をなす。男の母親はとても厳しく男を育てた。

    もう少し「悪い男」の内面を描写してほしかったかな。なぜそういう性癖になったのかインドリダソンの見解を知りたい。でも一気に読んでしまった。エーレンデュルは東部地方への休暇をとっている、とだけわかっていて出てこない。次作は「黒い空」でシグルデュル=オーリが主人公だ、と解説にある。オーリもけっこうおもしろい性格だな、と思いながら読んでいるので、次回作が楽しみ。


    2024.1.19初版 図書館

  • 筆致は好みやけど、膨らみがないかなー
    2回目読んだら印象変わりそうやけど。

  • 作家、舞台共にアイスランド。
    人口わずか30万人とはいえ、気骨が感じられる国と映る。
    ヨナソンから食いつき、インドリダソンも邦訳は完読。
    思い込みかもしれないが、独特の癖も含めて、他の国や作家のが読めないほど お気に入り。

    いつの間にかエーレンデュル捜査官シリーズという看板がついていたんだ・・ただし、今作は主役が休暇中で不在(弟探しの旅に出ているのか??)オーリが助っ人で登場しているのは嬉しい。

    だが女性かちゅ役の国、主役留守とはいえ、女性捜査官エーレンデュルがじっくり、丹念な捜査をものにしている。
    相変わらずの天気が背景となって作品の情念世界の暗さを表現している・・暗い、湿っている、そして雪空?
    エーレンデュル捜査官の家庭事情も何やら複雑、母子家庭のような状況を呈し、長ずるに従っての反抗的な息子に心をなやまっ姿は等身大の現実社会に酷似。

    事件自体は、北欧にあるあるタイプ。ロヒプノール、連続レイプ魔・・・レイキャビクに蔓延したポリオ事情は史実と思われる。
    ネットフリックスで放映されるアイスランドの刑事ものもはまってしまった‥日本と匂いが全く異なる社会事情と風土。でもしっかり人々が生きていることに小さく感動する。

  • エーレンデュル第7作ではあるが、エーレンデュルは全く出ず、エリンボルクが主人公のスピンオフ的な作品。
    面白くないわけではないが、エーレンデュルに比べると、エリンボルクは申し訳ないが魅力にかける印象。
    ちょっと堅苦しくて、取り調べの会話は少しイライラした。
    話としても今一つ。
    次作もエーレンデュル不在らしい。ちょっと残念。

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