- Amazon.co.jp ・本 (435ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488115050
作品紹介・あらすじ
銃撃戦で相棒を失い自らも重傷を負った刑事スコット。心の傷を抱えた彼が出会った新たな相棒はシェパードのマギー。アメリカ私立探偵作家クラブの巨匠賞受賞の著者の渾身の大作。
感想・レビュー・書評
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プロローグからやや涙目…
軍用犬と警察官の傷を負った者同士の
出会いと第一歩
犬を相棒にした作品はD・クーンツの何作かと「約束の森」と言う作品くらいだったけれど…これはど直球過ぎて、細かなケチをつける隙もなくのめり込みました。
この人の作品、シリーズモノ含め復刊して欲しい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
犬好きは熱くなる。犬好きじゃなくても熱くなる小説。
アフガニスタンで戦闘に巻き込まれ、相棒の兵士・ピートを喪い、自らも銃撃を受けた軍用犬のマギー。パトロール中に銃撃事件に遭遇し、マギーと同じように相棒のステファニーを喪い、自らも重傷を負った刑事のスコット。
心身共に大きな傷を負った一人と一匹の絆と再生を、緊迫感溢れる事件の様相と共に描いていくミステリーです。
冒頭からなかなかにたまらない書き出し……
銃撃戦に巻き込まれピートが倒れ、マギー自身も撃たれてしまうのに、それでもマギーはピートを元気づけようと顔を舐め続ける。しかし、ピートの体温は次第に冷たくなっていき……
さらにスゴいのが、この場面を犬であるマギーの内面と共に描いていること。
動物が語り手になる小説というと、宮部みゆきさんの『パーフェクト・ブルー』であったり、有川浩さんの『旅猫レポート』が思い浮かぶのですが、その二作以上にこの小説は、犬であるマギーの内面に踏み込んでいく印象。
それも動物の内面を単に擬人化して描くのではなく、マギーが感じる匂いや感覚を媒介に、読者をマギーの内面と同調させていきます。この描写は圧巻の一言!
作中で説明されているけど、マギーの嗅覚は人間の一万倍近くあり、その嗅覚を頼りに様々な判断を下します。そしてそれはパートナーの感情を理解することにもつながる。
人間は緊張したり不安になったり、あるいはリラックスしているときなど、そのときの感情に応じて、目には見えない発汗量などが変わり、体臭もごくわずかに変化します。
マギーはその臭いを嗅ぎ分け、スコットに寄り添っていく。
その嗅覚の描写がとても丁寧かつ、真に迫っている描写がなされるから、マギーとスコットが徐々に精神をリンクさせていく感覚が、下手に言葉や文章、描写を重ねるよりも、何十倍もリアルに感じられる。
マギーの内面を描く描写は、作中で何回か出てくるのですが、その場面ごとにマギーの穏やかな感情、興奮した感情、そしてスコットを相棒と認めていく感情が感覚を通してより伝わってくる。
おそらく生涯で、これ以上に動物の内面を的確に描く作品とは会えない気がします。
マギーとスコット、互いに銃で撃たれた後遺症を引きずり、それはPTSDに近い症状も引き起こします。夜毎悪夢にうなされるスコット。そして発砲音のような大きな音がするたび固まってしまうマギー。これは警察犬には致命的な弱点。
そのためマギーは警察犬には向かない、矯正のしようがない、と当初は評されます。しかしマギーに自分を重ね合わせたスコットは、マギーを自分に任せてほしいと頼み込む。
スコットはステファニーに関しても大きな悔いを抱えています。それは助けを呼ぶためとはいえ、「置いていかないで」と叫ぶステファニーを、置き去りにしてしまったこと。だからこそ、最後まで相棒のそばにいたマギーにより強い感情を抱く。このドラマ性といったらない!
スコットが襲われた事件の捜査が続く傍らで、マギーのトラウマを克服する様子も描かれます。
大きな音がする度にスコットはマギーを優しくなでて、声をかけたり、好物のソーセージを与えたりして、大きな音が呼び覚ます、辛く苦しい記憶を楽しい記憶で塗りかえようとします。
そしてスコットは大きな音がする工事現場に、マギーと共に足を向け、マギーを落ち着かせつつ、そこの作業員や、ホットドックの売り子とも、穏やかに言葉を交わす。
そんな過程を経て、事件後、孤独を極めていたスコットも、徐々に穏やかな感情を取り戻していき、そしてマギーの警察犬としての能力にも信頼を寄せていく。
この日常の穏やかな描写もいいし、マギーとスコットを厳しく指導しつつも、しっかりと支える警察犬隊の同僚や上司の刑事のキャラも良い。
スコットとマギーが絆を深めていく描写、スコットのマギーに対する声かけであったり、マギーの行動であったり、それら一つ一つが本当に丁寧! だからこそ、この一人と一匹の行く末を、見守っているような気持ちになっていきます。
そして、スコットが襲撃された事件も新たな展開が見られていく。事件の真相に迫っていくのに、マギーの嗅覚がちゃんと生かされているのも、ストーリーとしてよく出来ている。
そして終盤孤立無援の状況に立たされるスコットに、クライマックスの銃撃戦と、王道の展開を押さえつつ、盛り上がりのポイントもしっかりと読ませます。
自分は特別犬好きというわけでもないですが、この『容疑者』を読み終えた後だと犬に対する感情は、大きく変わったように感じます。多くの人は「犬っていいなあ」と思うのではないかな。
一人と一匹の再生を優しくも熱く描いた『容疑者』。動物が登場する小説の中でも、屈指の傑作です。 -
互いに大事な存在を喪った警察犬と警官の出会い。
警察犬マギーの感覚が伝わる表現で、胸が熱くなる物語です。
アフガニスタンの海兵隊で、爆発物探知犬だったマギー。
ハンドラー(指導手)のピートが撃たれ、かばって被弾したマギーはアメリカに戻っています。
大きな音に怯えるため、警察犬としては無理だろうと思われていましたが…
スコット・ジェイムズは、ロサンゼルス市警の巡査。
銃撃事件に遭遇して相棒を亡くし、自らも重傷を負いました。
復帰後に警察犬隊を志望したのは、人間の相棒の悲痛な叫びを忘れられなかったため…
9か月後、マギーに出会って、コンビを組むことにします。
警察犬隊の主任指導官リーランドは、犬にかけては凄腕で知らないことはない。
心と体に傷を負い、警察犬隊にはあまり向いていないかもしれない犬と人に、もしかしたらと期待をかけます。
犬につけるリードとは、ただ人間が命令を伝えるものではなく、犬と人間が双方向で様々な感情を伝え合うものなのだとか。
マギーが人間とは桁違いの匂いを細やかに嗅ぎ分け、様々な状況を賢い犬なりの価値観で見抜いて判断していく様子がリアルに、ありありと描かれます。
ハンドラーのピートだけが大事な仲間で、彼を守り喜ばせるために生きていたマギー。
(もう、たまりません…)
初心者でぎこちないスコットの誠意を受け止め、新たなパートナーへと絆を深めていくのです。
スコットの事件は9か月たっても未解決でしたが、これも捜査官が変わり、動き出します。
スコットの記憶の切れ端や、現場に行ってみたマギーの反応など、わずかな兆候からも進展が見えてくる。
盛り上がる結末にも満足感がありました。
2013年の作品。
ロバート・クレイスは、2010年にMWA生涯功労賞を受賞しています。 -
ちょっとズルをして解説から読んだ。どんな犬なの? 興味津々だった。
北上次郎さんは
これは、心に傷う撃った人間と犬の物語だ。ミステリー・ファンはもちろんだが、犬好き読者にも是非おすすめしたい、もう、たまらんぞ。
肉声を聞くような 笑
犬も猫も好き。猫語は少し分かる気がする。犬はいなくなって随分日がたった。
家に来た子供の時はくりくりした丸い眼でそれは可愛いかった、コッカースパニエルだ。大人になると金色の長い毛を持ち成長するにしたがって優美になって声も低く、怒ったこともない。夕方の散歩にいくと逆光で長い毛が光の玉のようになって走る姿が今でも浮かぶ。病気になって、いなくなってしまってからもう犬は飼わないと決めた。
でもこの本を読んで、ジャーマンシェパードと一緒に歩きたくなった。
勇敢なのにメスでマギーという。、仕事が出来るががなんとも優しい雰囲気を持っている。元は有能な爆発物探知犬でしっかり教育を受けている。アフガニスタンでハンドラーが撃たた時にかばって腰を撃たれた。それが深いトラウマになっていて、訓練所でも優れた力があるが勇敢さに欠けるように見える。
そこに、パトロール中に銃撃に巻き込まれ同僚を失った警官スコットが来る。休養の勧告を無視して、現役を望み、犬と組む仕事を選んだのだ。
勧められた警察犬の中から、ストレス障害だといわれたマギーをとっさに選んでしまう。
この傷ついた2人組がいかにもたまらん、この結びつきを折に触れて、ちょっと、これでもかと書いてある部分は、泣かせる気?解っていてもウルウルとなってしまう。
そんなマギーとスコットの友情が深まるにつれ、銃撃の犯人を捜すことも核心に近づき、ますます危険が迫ってくる。
情け容赦なく発砲した犯人たち、殺された2人の側からつながりを探しだそうとする、危険な仕事に足を踏み入れる。
そういったストーリーも面白い。マギーの特殊な嗅覚は驚くべき力を発揮する。嗅覚の鋭敏さは全ての犬が持っているが、マギーのような犬種はそれが特別に優れているそうで、その鼻腔の構造も、関知細胞も人とは比較にならないほど発達していると言う。
殺された相棒が「置いていかないで…」といった最後の言葉が悪夢になって苦しめる。犯人探しは止められても止められるものではない。だが徐々にマギーもも回復しているようだ。
事件は意外な展開を見せてくる。
これを読んでいる間中、スコットがそばで座っているマギーを撫でていると、なぜかそばに犬がいるような気がした、余りに従順で勇敢で、言葉に敏感である。落ち込めば気配を感じて慰める眼をする。
マギーを読んでいる時はマギー一色になった。久々の一気読み。 -
字ぃちっちゃいのよ、創元推理文庫。同程度の厚さでも、講談社文庫と比べたら文字数は倍くらいちゃうか。というのは言い過ぎか。老眼が来るとついつい創元推理に及び腰になってしまいます。この文字の小ささで400頁超やけど、読むのに何日かかるやろと思ったら。こんなん反則、プロローグから涙がこぼれる。
パトロール中に事件に巻き込まれ、相棒女性を亡くしたロス市警の刑事スコット。アフガニスタンで狙撃され、ハンドラー(指導手)を亡くした雌のジャーマンシェパードの軍用犬マギー。心身ともに深い傷を負った一人と一匹が出会うとき。事件から9カ月経つも挙げられない犯人を見つけようと、スコットはマギーと組み、捜査を開始する。
私は犬よりも猫派ですが、このマギーはたまらん。しばしばマギー目線で綴られる部分は、有川浩の『旅猫レポート』を思わせます。大切な人を失って、悲しみのどん底にいたマギーがスコットと心をかよわせる過程が良い。また、ミステリーとしても非常に面白く、一言多いけれど人情味のある上司や、そのほか警察関係者も個性豊か。犯人との対峙のシーンは「お願い、スコットもマギーも死なないで」と思わず祈りました。
猫派の私でもやられましたから、犬派の人はもっとたまらんことでしょう。人間を喜ばせるか救うかのためにしか動かない犬たち。べっぴんマギーに私も惚れ込みました。海外ミステリーはなんだか読みづらくて手が伸びないとお思いの方にもお薦めです。 -
タイムラインで見つけて気になっていた本。
犬好きにはたまらないとのことでしたが、本当にたまらなかった…冒頭、軍用犬だったマギーがアフガニスタンで最初のパートナーを失うシーンからすでに号泣。
ストーリーとしては、銃撃事件に巻き込まれ、パートナーを失った警察官のスコットが、同じくパートナーを失ったマギーと出会い、警察官と警察犬としてバディを組み、スコットが巻き込まれた銃撃事件の容疑者を探す…というものですが、犬好きとしてはとにかく犬と人間の絆描写が素晴らしくて、本編のストーリーがかすむ(笑)
最初はスコットへ警戒心を抱いていたマギーが、徐々にスコットを信頼するようになり、最後は自分の愛するパートナーとしてスコットを守り、戦う姿に涙…。マギー視点から描かれるスコットへの真っすぐな愛情に、ああ犬っていいなぁ…としみじみ。
スコットが、マギーのことを「大きいお嬢さん」と呼ぶのがかわいくて好き。人には厳しいけど犬には優しい上司のリーランドも素敵でした。
犬好きに是非ともお勧めしたい本です!!
続編も出てるのかな?出てるのなら読みたい。 -
人は喪失の体験からいかに再生するのか。
動物にも同じ感覚があるのか。
初対面ながらも試行錯誤して、たどりつく、ロス市警スコットと相棒の雌のシェパード、マギーの成長の物語。 -
徐々に心を通わしていくふたりの様子は、愛犬家にはたまらない物語。
突然の銃撃戦に巻き込まれ、良き相棒を死なせてしまったロサンゼルス市警のスコット。
アフガニスタンで軍用犬として従軍していた時に唯一無二の相棒を死なせてしまったジャーマン・シェパードのマギー。
ともにPTSDを背負ったふたりがバディとして徐々に変化していく。
相棒の死の責任からかガムシャラに真相に近づこうとするスコット……遭遇した銃撃戦の真相を、ひとりで突き止めていこうとする。
最初は他人だった主人公スコットに対し、徐々に“守るべき仲間”として認識していくマギー……次第に、本来の優れた能力を発揮していく。
徐々にマギーが“道具”から“相棒”に変わっていく様子がとてもよく、愛犬家でなくてもバディ物語として、少し感動してしまった。