ジャンピング・ジェニイ (創元推理文庫) (創元推理文庫 M ハ 3-6)
- 東京創元社 (2009年10月30日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488123062
感想・レビュー・書評
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探偵ロジャー・シェリンガムが出席したパーティーでおきた殺人事件。被害者は亡くなっても惜しまれるどころか、やっと人の役に立ったと言われるような女性。さて、ロジャーは真実にたどり着けるか?
読者には真相が分かっているので、ロジャーの捜査を楽しむ構成になってます。被害者の性格を考えると、犯人を告発するのも忍びない。しかし自分の興味としては真犯人が知りたい。という訳で、真犯人と目される人物を庇おうとあれこれ策を練るんですが…自分が犯人だと疑われたり、有利な状況を作り出すはずが余計追い詰められてしまったり。この展開と、イギリスの畏まった言葉によるユーモアにクスクス笑いが止まりません。とどめは最後の一言。何かあるに違いないとは思ってましたが、やはり持ってましたねかくし球。
名探偵としては失格のロジャーですが、冒頭にもある通り彼にとっては真犯人を捕まえ刑罰に処すことよりも、人間観察をしたり事件をまるく収めたりすることのほうが意味あることなのです。こんな人好きのする探偵さんなら仲良くなってみたいもんです。 -
絞首台にぶらさがった藁人形を余興に設置した、〔殺人と犠牲者〕パーティという舞台がまずふざけています。悪趣味!でもおもしろそう!
しかもみんなの嫌われ者イーナが藁人形と代わって絞首台にぶら下がって発見される、という事件のはじまりはインパクト大です。
自己顕示欲が強く目立ちたがり屋のイーナははたして自殺なのか?他殺なのか?
全てを見ている読者としては、(迷)探偵シェリンガムの迷走っぷりが楽しい。
必死に推理している姿がこうも滑稽になってしまうとは。
しかも、正義の為に事件を追うのではなく、保身と嫌われ者イーナを殺してくれた犯人を守る為に、偽証したり捏造したり、あらぬ方向にがんばるシェリンガムには苦笑いです。
しかし、シェリンガムを「どうしようもないやつだなぁ」とにやにや眺めていたわたしも、最期には作者の手腕にがつんとやられてしまいました。
事件を動かしているのは華々しい探偵や狡猾な犯人ではなく、むこう三軒両隣のそこらへんの人たちなんだなぁ、と感じます。 -
何を解くかではなくいかにして解くかを追求した作家、という評価の意味がわかった。
展開はかなり驚かされる。こんな推理小説あるんだな、と思った。主人公の行動はいかにも古き良きイギリスらしいというか…古典海外ミステリってたまにこういうのあるよね。
バークリーは人気みたいやけど、毒入りチョコレート事件は主人公の話し方が合わなさすぎて読むのやめた。
でも初めて主人公に共感できなかったなぁ。友人コリンに同情する。その不完全さが魅力?にもなるのかな?
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これはなかなかまた凝った構成のミステリー。登場人物がパーティに過去の有名犯罪者の扮装をしてあらわれ、本名と仮装名とが入り乱れるので、誰が誰やら読み始めは頭が痛くなる。事件はその中の鼻つまみ者である女性が絞首台で殺されるというものなのだが、はっきりと犯行場面が描写されるので誰が犯人かは初めからわかっている。ということは倒叙物なのかというとそういうわけではなく。読者はわかっていてもその他のパーティの参加者は疑心暗鬼になり、中にいた探偵役のシェリンガムが推理をめぐらせるという筋書き。周囲の状況から殺人であるということは明らかだが、被害者が被害者だけに犯人が誰であれそれを告発するよりも自殺としてうやむやにしてしまおうといろいろ画策する。とはいえ事実を隠ぺいするにはあちこちにほころびが生じて警察にそれをかぎつけられ、さてさて最後にどうなるのか。最後の最後に読者も知らされてなかった意外な事実が明らかになり幕となる。なかなかうまい。単なる犯人探しではないのにスリルがあって最後まで読ませてくれる。ただ、殺されたイーナが、どんなに不快な女だったか知らないけれど、死んでくれて誰一人悲しまずみんながせいせいしているというあまりといえばあまりの扱われようにかわいそうになってしまう。殺人は殺人だろう。犯人はきちんと告発されるべきだ。
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『第二の銃声』を読んですぐさまファンになったバークリー。すこぶる面白かったです。本格物ながら、ひとひねりもふたひねりもある趣向で、ユーモアもあります。被害者は自己中心的で人騒がせ、注目を浴びるためだけに平然と嘘をつくばかりでなく、嘘で他人を貶めることも厭わない厄介な女性イーナ。この作品を成り立たせるためではありますが、「生きていては害ばかり、死んで当たり前」(!)という、極端な人物として描かれていて、実際にこんな女性が居たら絶対関わりたくないと思いました。というわけで、実際に手をくだすかどうかはともかく、関係者全員に非常に嫌われていて、また何人かは具体的な動機になるような脅迫めいた嫌がらせの予告をされており、全員が犯人の資格ありというか、誰が犯人であってもおかしくないという設定になっています。とりわけ一番それらしいのはこの女性と不幸な結婚をしているデイヴィッドと弟想いのその兄ロナルド。最初は自殺と捉えられた事件は、パーティがお開きとなり仲間内だけが残った時間帯に起こるので、必然的に容疑者はわずかに限られます。この小説が普通のミステリと違うのは、動機が最初から明らかにされているだけでなく、事件がどのように起こり誰が関わっていたのかが、早い段階で作者によって明らかにされていること。普通は犯人を探して糾弾しようとする探偵ですが、シェリンガムは気の毒なデイヴィットか、又は義憤に駆られ犯罪を犯す犠牲を払って世の中に善をもたらした高潔な人物が犯行に及んだと思いこみ、彼もしくは彼女をかばうため、殺人ではなく自殺だ、という結論に導こうと、縦横無尽の大活躍(というか空回り)。イーナの人物設定と、「死んで当たり前」「犯人は善いことをした」という前提はものすごく強引なのですが、嫌な女ぶりが本当にイキイキと描かれているので、そうだよなぁ、と思わされてしまい読んでいる最中はあまり気になりませんでした。本当に面白かったです。
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探偵が殺人現場に居合わせたら、事件をつぶさに調べ証拠を見つけ真犯人を見つけ出すものだが、ロジャー・シェリンガムはひと味もふた味も違う。
現場を引っ掻き回し勘違いし迷走する。
彼は有能な探偵であり、ピエロでもある。
古典ミステリは王道だけど単調でありきたりなイメージを持っている人は読んでみて欲しい。
ある意味ぶっ飛んでるから。 -
こ れ は ひ ど い 。
壊滅的に性格が悪い女・イーナを殺してくれた素晴らしい人間がどうして罰せられなきゃならない?と証拠を隠滅、捏造、証言を詐称する名探偵。この時点でも相当ぶっ飛んでいるのに、下手に細工に動いたせいで“論理的推理に基づいて”シェリンガム=犯人の疑いを掛けられてしまう始末。この推論が実に尤もらしい内容で唸ってしまった。怖いですね、冤罪って。
黄金期にこんなミステリが書かいていたことに驚き。 -
あとがきにこの作家の入門書として最適と書かれている通り。
作家の入門書であり、主人公である名探偵の入門書でもある。
なんだ、こいつ。 なんなんだ、こいつ。
ああっ、またそんな事を!
読みながら突っ込む事しばしば。心の広い大人な読者には「あらあら、まあまあ」と笑って許して貰える可能性も有り。
どちらの読み方でもラストに驚かされるのは必至。 -
2023.7.14読了