真っ白な嘘【新訳版】 (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488146238

作品紹介・あらすじ

短編を書かせては随一の巨匠の代表的作品集を新訳。読了後、背筋のぞっとする「叫べ、沈黙よ」や、江戸川乱歩編の名アンソロジー『世界推理短編傑作集』にも選出された「危ないやつら」、夫婦間の秘密を描いた表題作までさまざまな趣向の短編が勢ぞろい。奇抜な着想と軽妙なプロットで、結末の一行まで先を読ませない、まさに名編ばかり。どこから読まれても結構です。ただし巻末の作品「後ろを見るな」だけは最後にお読みください。

感想・レビュー・書評

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  • 1940年代アメリカの短編集、18篇。300ページ強。
    ミステリといっても推理もの以外にサスペンスや奇譚まで幅広く、純粋な謎解きは一部だ。質的にも満足できる作品から読み終えて納得いかない作品まで様々で、ばらつきがある。トリックや動機、結末が微妙な作品もそれなりにあり、短編集ということもあってアイデア勝負の傾向が強く感じられる。テレビ番組の『世にも奇妙な物語』の元ネタになりえそうなストーリーが多い。

    書店で帯で「ぜひ最後にお読みください」と大々的に煽られている「後ろを見るな」が気になって購入したが、これはやや拍子抜けだった。表題作はそれなりで、タイトルにはたいして深い意味はなかった。

    個人的に印象に残ったのは、「メリーゴーラウンド」「叫べ、沈黙よ」「カイン」「ライリーの死」あたり。あまり期待しすぎず、移動や休憩中など空き時間の読書に向いている。

  •  旧訳を読んだのはずいぶん前のことで、「後ろを見るな」がどうしても記憶に残ってしまっているが、そのほかは、全くの初読と変わらない状態。

     謎の提示や不安感の盛り上げ方、そしてラストのサゲと、作り方が巧いなあというのが率直な印象。「闇の女」や「真っ白な嘘」、少し違うが「危ないやつら」がそんな感じ。

     「背後から声が」や「キャスリーン、おまえの喉をもう一度」は、メロドラマチックではあるが、夢破れた男の悲哀を上手く描いている。

     法律や通常の世界では対処できない、危険で嫌なヤツをどうすれば良いのか、「笑う肉屋」では本格ミステリー風に、「むきにくい小さな林檎」では犯罪小説風に描かれる。

     いろいろな風味の作品が一冊で楽しめる、贅沢な短編集。お勧めしたい。

  • 日々の仕事帰りに、頭をリセットするにちょうどいい長さと面白さ。

    “古典”の域に入っているのか、様々な出版社が編成した「短編集」が多く出ている。しかも時代により新訳されることで、再び編成しなおされ世に出る。
    「叫べ、沈黙よ(沈黙の叫び)」「町を求む」「危ないやつら(ぶっそうなやつら)」は、少し前に読んだ星新一訳の『さあきちがいになりなさい』と話がかぶっているが、だからと言ってとばす気には全くならなかった。

    フレドリック・ブラウンは20世紀中盤に活躍した作家だけど、こうやって新訳になるたびに、これからもその時代に違和感なく読まれ続けるのでしょう。

    明治の文豪が西欧の小説を日本で定着させようとしたとき、最終的に何から学んだかというと“落語の小噺”だった。
    ブラウンの超短編は、それに似ている。

  • 短編集、しかもショートショートでここまで楽しめるとは!
    ゾッとしたり、ハッとしたり、ニヤリとしたりで忙しい。
    どのストーリーも面白く、予想外の結末ばかり。
    次はどんな話が読めるのだろうと頁を捲る手が止まらなかった。
    「危ないやつら」がお気に入り。
    「後ろを見るな」は言わずもがな。

  • フレドリック・ブラウン『真っ白な嘘』読了。切れ味抜群のミステリのショートショート満載の短篇集。SFのイメージがあったけど、スリラーからコミカルまで縦横無尽に駆け回るアイデアの秀逸さもさることながら緻密に描写する筆力に舌を巻く。上質な短篇集を読めて満たされた思い。続巻にも期待。

  • 〈笑う肉屋〉
    [あらすじ]
     元サーカス団員が集まって暮らす村で。肉屋がリンチ死を遂げた。村の外れに住む農場主が不可解な状況で死んだのを肉屋の仕業と推測した村人によるものだと予想されている。不可解な状況は雪の上に続く現場の、二つの足跡が途中でぱったりと途絶えていること。“わたし”は二週間前に訪れたこの村で、何があったのかを知る。黒魔術で嗾け、体の弱い農場主レンを弱らせ殺そうと画策していた肉屋。その黒魔術を逆手に取ったレンが自らの死を逆手にとって黒魔術に見せかけるトリックを作る。雪原まで小人のジョーを担ぎながら歩いていきそこで死ぬ。ジョーはもと来た道に履いている大きな靴で足跡をつけながら後ろ向きに帰っていくと、雪の真ん中で二つの靴跡が途絶えて、犯人はそれ以上先にも後にいかないで、忽然と消えたように見えたのだった。

    [感想]
     本作が初めての推理小説だったので、新鮮だった。本筋の事件の前後を回想して、三者に聞かせるための構図。聞き手である人物もしくは、謎解きに挑戦する役割人物を設定して、お題を提出し、本編に入る。
     先ず環境設定から工夫されている。元サーカス団員が集まって暮らす村という特殊な環境。中型車くらいなら片手で持ちあげられる怪力男、身長が1mに満たない小人、マジシャン。一種の閉鎖空間にビジターとして訪れる。
     忌み嫌われているのが状態化している肉屋は、黒魔術を逆手に取られ、レンの思惑通り、普段から村人に持たれている負の感情に引火させられる。
     少し俯瞰して眺めてみると、犯罪や事件が突発に起こることもあるにはあるが、もしかすると多くの場合には、前提条件が満たされてしまっている可能性があるのではないかと思う。

    〈四人の盲人〉
    [あらすじ]
     “四人の盲人”という寓話がある。それぞれの盲目人が、尻尾や腹、脇腹、脚を触り、他の何かを連想したために、思い込みによる水掛け論が起こるという話。刑事2人がその話をしているところに、サーカス団の冬季宿舎で演技監督が死んだと通報が入る。空砲で死んだというので自殺の線で調査を始める警部たち。銃声は三度鳴ったために自殺にしては不自然だ。死人は人でなしでサディストで下で働く誰もから憎まれていた。死人は最近、昇進し近々仕事で今まで以上の給料を得て、昨日保険の審査を通ったばかり。自殺の可能性は乏しい。死体はアリーナの固く閉ざされた閂の内側にある。通報者も第一発見者も怪しい言動はない。現場には目撃こそしていない三人の従業員と、二匹のジャガー、一匹の象がいる。
     事件が解決する。パラフィン検査から犯人は象だと断定された。普段から虐待をして来た監督の怨恨をもっていたのは象も同じだった。二発の空砲虚しく、内側から閂のしまったドアまで追い詰められた監督が自ら命を絶ったのだった。

    [抜き出し]
    “手掛かりはひとつだけじゃ意味がない”
    “知ってることは話さなきゃいかんけど、想像や思いつきは喋らなくていいんだ”

    [感想]
     ミスリードを誘う書き出しが中核になっている。そして一度出てきた象が、寓意的なイントロダクションに用いられたことで、そんなはずはないだろう、推理小説で大切な犯人を惜しげもなく晒しはしないだろうと、無意識化に象を犯人から外してしまい、それ以上の関心を象に持てないよう誘導する情報開示になっている。
     死亡した人間は「笑う肉屋」に続いて、〈嫌われ、憎まれて〉いて〈殺意を買う人間〉だった。この、誰にでもいる(?)殺してやりたいほど嫌な奴は、読者にとって歓迎される〈仮想敵〉としての役割を果たしていると感じる。
    (2023.4.10続投)

  • アメリカの作家フレドリック・ブラウンの短篇ミステリ作品集『真っ白な嘘(原題:Mostly Murder)』を読みました。
    ここのところアメリカの作家の作品が続いています… フレドリック・ブラウンの作品は2年半くらい前に読んだ『さあ、気ちがいになりなさい』以来ですね。

    -----story-------------
    どの短編から読まれても結構です。
    しかし「後ろを見るな」は、ぜひ最後にお読みください。
    奇抜な発想と予想外の展開が魅力の18編
    巨匠の代表的ミステリ短編集
    名作ミステリ新訳プロジェクト

    編を書かせては随一の巨匠の代表的作品集を新訳。
    雪の上の足跡をめぐる謎を描いた「笑う肉屋」、緊迫感溢れる「叫べ、沈黙よ」、江戸川乱歩編の名アンソロジー『世界推理短編傑作集』に選出された「危ないやつら」など、奇抜な着想と軽妙なプロットで書かれた名作が勢揃い! 
    どこから読まれても結構です。
    ただし巻末の作品「後ろを見るな」だけは、ぜひ最後にお読みください。
    解説=小森収
    -----------------------

    1940年(昭和15年)から1950年(平成25年)に発表された以下の18篇が収録されている短篇集です。

     ■笑う肉屋
     ■四人の盲人
     ■世界が終わった夜
     ■メリーゴーラウンド
     ■叫べ、沈黙よ
     ■アリスティードの鼻
     ■背後から声が
     ■闇の女
     ■キャスリーン、おまえの喉をもう一度
     ■町を求む
     ■歴史上最も偉大な詩
     ■むきにくい小さな林檎(りんご)
     ■出口はこちら
     ■真っ白な嘘
     ■危ないやつら
     ■カイン
     ■ライリーの死
     ■後ろを見るな
     ■解説 小森収

    奇抜な着想、軽妙なプロット、論より証拠、まず読んでいただきましょう… どこからでも結構、、、

    ただし最後の作品『うしろを見るな』だけは、最後にお読みください… というのは、あなたがお買いになったこの本は、あなたのために特別の製本がしてあるからです―― さて、その意味は?

    新訳で読みやすかったし、発想が豊かな作品が並んでおり、愉しく読めましたね、、、

    そんな中でも、印象に残ったのは、

    雪の上に残された足跡… サーカス団のOBならではのトリックが秀逸な『笑う肉屋』、

    犯人(?)の意外性が愉しめる『四人の盲人』、

    聞こえてなかったなんて… 皮肉な結末が印象的な『背後から声が』、

    納得の結末で「むきにくい小さな林檎」という呼び名が最後に皮肉な意味(実際はむきやすい)を持つ『むきにくい小さな林檎』、

    夫は殺人者? 疑心暗鬼に陥る妻の恐怖を描いた『真っ白な嘘』、

    お互いを殺人鬼と思い込んだ二人の緊張感を描いた『危ないやつら』、

    ゾクっとさせられる結末が印象的な『後ろを見るな』、

    あたりかな… でも、その作品も面白かったです。

  • ミステリ短編集。短めの作品が多い印象ですが、読みごたえはばっちりです。
    お気に入りは「叫べ、沈黙よ」。音に関する哲学的な議論から始まる物語。その議論が事件とどのように関連しているのか、その結びつきといいスリリングな読み心地といい、そしてこのラストまで実に見事です。
    「カイン」も恐ろしくて好きな作品です。弟を殺し、死刑に怯える男の物語。これは本当に怖いです。最大級の罰になるのかも……。
    スリリングな読み心地だけれどオチにくすりと笑わされてしまうのは「闇の女」。なるほど、伏線といえば伏線がありましたが。そういうことだったのか。

  • 収録されている短編がどれも結構な読み応えで、読み終えるのにかなり時間がかかってしまった(さぞやジャスティンは待ちくたびれただろう)。そういうとき大抵は最初の方に読んだものは忘れていったりするのだけれど、すべてのタイトルで内容を思い出せるというのはすごいかもしれない。
    どの話もミステリ要素はあるものの、表題作のようにハラハラするサスペンスもあれば、なんだかほっこりさせてくれるものだったり、かと思えばグロテスクな描写が続いたりと、振り幅が大きいため最後まで飽きずに楽しめた。
    直接的表現をせず、それとなく真相を匂わせるのがお好きなよう。そして最後にゾクッとさせられるものが多い印象。
    どれも良かったが、『叫べ、沈黙よ』はタイトルも含め気に入った。
    『メリーゴーラウンド』も好き。犯人がアリバイ工作をする話は数々読んできたけれど、こんな展開は初めて。メリーゴーラウンドの中(?)で寝てるおじさんを想像したらなんだか笑えるし。

  • 海外小説はオチや展開がわかりにくく、自分には向いていないと思った。それと少し猟奇的な描写がある。そこまで強くはないものの、メンタルが弱い人は一応注意。
    やはり前半は読みにくかった。後半は展開もスムーズでオチもわかりやすく、捻りもあって面白かった。油絵を野菜のごった煮と表現するのは面白かった。ただ、短編集だから読了できた部分が個人的に強い。
    海外で名作と言われていても、日本語訳で面白さが大きく変わってしまうのが勿体無いと思う。海外小説の入門としては一番おすすめしたい。
    後ろを見るな、は一人称と二人称の使い方が秀逸で、これまでの話を総合しての作りだったので、作品の中でも飛び抜けて面白い。しかし、この短編集と流れだったからこそできたのであって、発想と構造の観点で評価したい。ワクワクはしたが、他の方が言うようなこわいとかそういう感じはなかった。
    表題でもある、真っ白な嘘、の他に、危ないやつら、カイン、歴史上最も偉大な詩、出口はこちら、が面白かった。
    なぜ法律は、殺人者が〜の文は、そのような考えが浮かぶことにただただすごいと思った。



    誰かの顔や笑い声が気に入らないというだけで口出しするのは、お節介というものだ。

    知ってることは話さなきゃいかんけど、想像や思いつきはしゃべらなくていいんだ。

    手がかりは全くあてにならない。十のうち九が間違った方向を指し示す。ただし、全体像をつかむ役には立つ。

    その道を極めた人物には、他人の干渉を受けずに自分の流儀を通す特権があります。

    生きる意欲を保つためには、思い出さないことが肝心だ。
    あの苦痛や口論や過労など、精神に異常をきたして記憶を失うに至った全ての原因を忘れた方がいい。

    異常者に理由はいらない。

    (異常者は)普通の人間と全く区別がつかないことがある。

    なぜ法律は、殺人者が被害者に対してかけた情けと同じものを殺人者に対してかけないのだろうか。

    英雄的行為とは不思議なもので、時にはだしぬけに思いもよらない所で姿を見せる。

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著者プロフィール

フレドリック・ウィリアム・ブラウンは、アメリカ合衆国オハイオ州シンシナティ生まれの小説家、SF作家、推理作家。ユーモアあふれるショートショート作品で知られている。

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