死の10パーセント: フレドリック・ブラウン短編傑作選 (創元推理文庫)
- 東京創元社 (2023年9月28日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488146252
作品紹介・あらすじ
“これから起こる殺人”を通報してきた男に翻弄され、不可能犯罪に挑む刑事を描く「死の警告」。『シカゴ・ブルース』の青年探偵エドとアムおじの活躍譚「女が男を殺すとき」「消えた役者」。検死局の不可解な死体損壊の謎「球形の食死鬼(グール)」。ある男に自分のマネジメントを任せた俳優志望の青年の数奇な物語「死の10パーセント」など、本邦初訳3作を含む全13編。謎解きや〈奇妙な味〉等、『短編ミステリの二百年』の編者が選りすぐった名作短編のフルコース!
感想・レビュー・書評
-
フレドリック・ブラウンのミステリ短編を集めた日本独自の短編集。
好きでいえば表題にもなってる「死の10パーセント」は如何にもフレドリック・ブラウンという感じで好みだが、これってミステリ?という気がしないでもない。まぁ、面白ければどうでも良いことだが。
巻頭の「5セントのお月さま」はちょっとO・ヘンリーとかの短編を思わせるテイスト。「殺しのプレミアショー」なんかは割と本格なミステリといった感じでバラエティ豊かな短編集。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ブラウンのミステリ短編集第三弾。エド・ハンターシリーズから2作品入ってボリュームたっぷりの最高に楽しい一冊!→
シカゴ・ブルース大好きな私はエドたちがでる2作品がイチオシだけど、それ以外ももちろん良作。
「5セントのお月さま」は皮肉が効いていてマル(大衆が求めるのは月ではなく……?)
「球形の食屍鬼」「殺しのプレミアショー」は謎解き部分が好き。
「愛しのラム」は読み進めると感じる違和感の→
正体が分かった瞬間に「ああッ……」ってなる。
「どうしてなんだベニー、いったいどうして」はラストに「うわぁぁぁ」ってなったなぁ。
「死の警告」のなんとなく感じるコミカルさや「最終列車」の余韻など、ブラウンは空気を描くのが上手いんだよなぁ、としみじみ。
最高のコース料理でした。満足! -
作者との思い出を語った友人作家の文が収録されているのがいいなぁ!
『シカゴ・ブルース』のエドとアムおじさんに再会できたのも嬉しい。
小粋だったり、人の暗い面にゾッとしたり、飽きることのない短編集だった。 -
分かりやすい面白さではなく、後からじわじわ来るような面白さが癖になる短編集だった。
ミステリー、SF、奇妙な味…
この何とも言えない読み味が良い。
徐々に這い上がってくる恐怖が味わえる表題作はお見事。
この不穏さがたまらない。
『5セントのお月さま』の起承転結はかなり好き。 -
R6/4/3
-
2023/12/10読了。
フルコースの如き構成で、様々な“味”の短編13作品を収載。『殺しのプレミアショー』や引用した『殺意のジャズソング』のようながっつりミステリから『死の10パーセント』や『最終列車』のようなホラーの雰囲気漂う作品まで、作風の幅の広さが際立つ。表題作の『死の10パーセント』は、「○○の××を使ってしまった話」で、小松左京『黒いクレジット・カード』(『牛の首』収載)と共通する。 -
ミステリ短編集。フルコースになぞらえて並べられた作品は、一冊読めばおなかいっぱいになります。オーソドックスなミステリあり、奇妙な物語もありで楽しめます。
お気に入りは「球形の食屍鬼」。密室で起こった死体損壊事件の謎を描いたミステリです。真相がわかってみると、タイトルがあまりにもそのまんまで驚きなのですが。誰がこんな真相にたどり着けますか? ある意味笑える一作でした。
表題作「死の10パーセント」は、あれがテーマなんだろうな、とするとろくなことにはならないだろうな、ということがわかりますが。それでもやはり恐ろしい……やっぱりあんな取引なんてするものじゃないです。
「殺意のジャズソング」も見事。謎の襲撃から始まった事件の顛末は、なんとも思いがけないところへ。思いがけず罪を暴かれてしまったあの人だけれど、なんだかとってもすっきりとした読み心地でした。 -
・フレドリック・ブラウン「死の10パーセント」(創元推 理文庫)を読んだ。私はフレド リック・ブラウンをほとんど知らない。どちらかと言ふとSF 作家だと思つてゐた。さうではあるがミステリー作家でもあつ た。「フレッドは“二面を持つ作家”で、SF作家としてもミステリー作家としても同じくら いよく知られていた。」(ウィ リアム・F・ノーラン「序文ーフレッド・ブラウンを思い起こして」13頁)ここではミステリー作家としてのブラウンである。本書では「序文」以外はフルコース仕立てになつてをり、 最初のオードブルから始まつて最後のコーヒーまで13編所収、うち3編は初訳で、それらはいづれも第二次世界大戦前の若い頃の作品である。
・オードブルは「5セントのお月さま」、これが「ブラウンの商業誌デビュー作で」(「編者解説」436頁)あり、初訳である。月を望遠鏡で5セントで見せようといふ男の話、最後はそれが「望遠鏡で犯行現場の見物、五十セントだよ!」(26 頁)と変はる。ごく短い作品である。記念すべきデビュー作ゆゑにオードブルにふさはしい。スープは「へま」、これも戦前の作品だが旧訳がある。ただし初出誌のみである。当時、敵国だつたドイツのスパイになれといふ、これもごく短いから、 スープにはふさはしさうであ る。以下、魚料理2,口直し1,コールドミート3,サラダ 1、ローストミート2,デザート1、コーヒー1と続く。魚や 肉料理はさすがに食ひ出があ る、いや、読み出がある。コー ルドミートの「フルートと短機関銃のための組曲」「死の警 告」は初訳、戦前のパルプマガジン発表作である。「組曲」がおもしろい。「日本の大家の有名な作品に類似のアイデアがある」(439頁)らしいが、私はそれを知らない。これも密室物なのであらうか。外から撃たれたといふのだから違ふのだらう、たぶん。個人的にはこのタイトルが気が効いていておもし ろいと思ふ。これがポイントになる。かういふ曲、フルートの 吹き方はどんな楽器でもあり、 それはミステリーにもなるのであらう。ミステリーをよく知つ てゐる人には当然のことであつても、私には決してさうではなかつた。「死の警告」には「犯人のしゃあしゃあとした登場ぶりが、最後まで主人公を苦しめるところ」(同前)とある。私にはこれよりも旧訳のある今一つのコールドミート、「球形の食屍鬼」の方がおもしろかつた。食屍鬼はもちろんグールとのルビがつく。これも戦前のパ ルプマガジン発表作、大江健三郎の「死者の奢り」みたいなも のだといふのはあまりに大雑把だが、検死局の死体置き場とい ふ点では似てゐるとも言へる。 主人公が学生であり、ここのバイトで稼いでゐる点も似てゐる。違ふのは事件性である。こ ちらは殺人事件が起きて主人公はそれに巻き込まれる。密室である。ただし、人が通れないほどの換気扇口が外に開いてゐる。主人公は第一発見者である。さてどうなるか。「金枝篇」を読む主人公ゆゑにポイン トは食屍鬼であらう。といふことで、大江とは全く別の世界が展開する。グールが出てくると ころなどはパルプマガジンにふさはしい。タイトルは原題の直訳である。勘の良い人ならばこれで犯人を推測できてしまひさうである。これ以外は戦後の作 品である。私にはエド・ハンター物2編以外はパルプマガジ ン所収作の方がおもしろかつた。さういふ作品を読んできた といふことがあるかもしれない。ブラウンであらうが誰であ らうが、古くて安つぽいけれど パルプマガジンはおもしろいのである。本書は日本オリジナル 傑作集であるらしい。短編全集もある作家である。それをこのやうに並べるのは一つのアイデ アであつた。