嘘の木 (創元推理文庫 Mハ 27-1)

  • 東京創元社
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感想 : 45
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  • Amazon.co.jp ・本 (473ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488151072

作品紹介・あらすじ

世紀の大発見、翼のある人類の化石が捏造だとの噂が流れ、発見者であるサンダリー博士一家は世間の目を逃れるように島へ移住する。そんななか博士が謎の死を遂げ、父の死因に疑問を抱いた娘のフェイスは事件を密かに調べ始める。父が遺した奇妙な手記、嘘を養分に育ち真実を見せる実をつけるという奇怪な木……。19世紀イギリスを舞台に時代の枷に反発し真実を追い求める少女を描いた、コスタ賞大賞・児童書部門ダブル受賞の傑作。

感想・レビュー・書評

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  • ウソを食べて育つ『嘘の木』の果実を食べると… 暗く静かでキレイなファンタジーミステリー #嘘の木

    ■あらすじ
    19世紀のイギリス、宗教の協議と進化論が折り合わない時代。
    博物学者を主とする一家が、研究結果捏造の中傷を浴びてしまい、島に移住をしてきた。島の住民に疎まれながら、肩身の狭い生活を余儀なくされる。
    娘であるフェイスは、ある日の夜中、博物学者の父に秘密の場所に引き連れられる。しかしよく朝起きると、父は不審死を遂げてしまうのだった。納得ができないフェイスは独自で調査を始めるのだが…

    ■きっと読みたくなるレビュー
    これがファンタジー小説というやつか… 美しく幻想的な作品でした。

    翻訳ミステリーは物語をいかに盛り上げていくかが読みどころなんですが、本作はひたすら静かに、そしてゆっくりと進行していきます。何もかもはっきりとは説明もされず、ずっと薄暗い世界を読み進むことになるのです。

    そこに現れるのが「嘘の木」。
    夢のような効果が得られる植物にも関わらず、やはりそこには暗澹たる世界しかない。素晴らしいダークファンタジーを体験することができました。

    本作は儚げな美人を眺めているような文章で、可憐すぎるんですよ。圧倒的な筆力。じわっと心の染み入る表現が素晴らしかった。

    本書 P81 引用:
    女性たちがひっそりと羽をのばして素の姿になっている。
    見た目の変化はなくとも、花が開くように、あるいは折りたたみ式ナイフを開くように、本当の姿を見せはじめていた。

    本作は登場人物の推しは、やっぱり主人公フェイス。
    控え目ながらも、父を想う優しい心と、問題解決に立ち向かう熱い姿が可愛い。19世紀イギリスでなくとも、現代の日本社会の第一線で戦っている女性たちを見た時と同じにように、勇気と生気をもらいました。

    そして事件の結末と真相も、まさに胃が締め付けられるような展開でしたね… ただこれから未来のフェイスには、一筋の光が差し込んでいるような気がしました。

    ■ぜっさん推しポイント
    書き連ねてくるテーマ性がめっちゃ痺れましたね。
    作者はまだまだいっぱい作品があるので、楽しみに読もうと思います。

    ・女性の生き方
    この時代における社会や家庭における女性の立場が、あまりにも痛み入る。どんなに優秀であっても、正しくても、権利が与えられないという現実がどれほど人の価値観を卑屈にしていくか…

    ・宗教と種の起源
    人はどこから生まれ、どこに帰っていくのか。キリスト教の禁忌を犯した者の運命は… 深い深いテーマに人の欲が絡み合ったとき、こんな物語になるのだと感動しました。

  • うん。予想外におもしろかった。

    読み始めるまでは文学文学してるような難解な話なのかな~とか、思わせぶりな隠喩だらけの抹香臭いような話なのかな~とか、あんまり期待せずに読んだのがよかったのかな。

    単純におもしろかった。

    冒険ヒロイックミステリー。
    封建的で男尊女卑な19世紀のイギリスが舞台で、「種の起源」が発表された九年後という設定もうまい。
    化石の捏造を指摘された高名な博物学者である父親の死の真相を調べます。
    主人公の14歳の少女フェイスが小気味いい。
    知恵も度胸も行動力もある。

    最初のうちは

    【十四年間かけて植えつけられてきた恐怖が頭の中を駆け巡る。見知らぬ男。わたしはもうすぐ大人の女になろうとしている娘。保護者やお目付けなしで、見知らぬ男の近くにいてはならない。そんなことをしたら、恐ろしいことが数かぎりなく起きる谷に落ちるだけだ。】

    な~んてことを言ってたのに後半では

    【人は動物で、動物はただの歯だ。先にかみつき、食らいつけ。それが生き残る道なのだ。】

    と勇ましくなっていく。

    ジブリとかがアニメ化してくれないかなー。
    似合うと思うんだが。
    お仕着せのレディーの格好をさせられたフェイスが駆け回る姿を見てみたい。

    そういえば久し振りの★4評価です。
    去年の「百瀬、こっちを向いて。」以来。
    一年二か月振りでした。
    ちょっと点数甘いかなとも思いましたが、読み終わった後に拍手してしまいましたからね。
    ★4でいいです。

    惜しむらくは「嘘の木」ですね。
    これがなんだかわからない。
    京極夏彦さんの「塗仏の宴」に出てきた不死の生命体「くんほう様」みたいに、なんらかの解釈を与えて欲しかったな。

    • 1Q84O1さん
      いや、普通じゃないです
      (; ・`ω・´)
      ★5が付くときには、ブクログ通信の記事として流れるんじゃないですか!?
      いや、普通じゃないです
      (; ・`ω・´)
      ★5が付くときには、ブクログ通信の記事として流れるんじゃないですか!?
      2024/04/27
    • ultraman719さん
      要チェック!
      要チェック!
      2024/04/27
    • ハッピーアワーをキメたK村さん
      こちらにもお邪魔します
      大好きな百瀬と同じ星4。✧。・゚
      私はそれだけで気になりますよ
      こちらにもお邪魔します
      大好きな百瀬と同じ星4。✧。・゚
      私はそれだけで気になりますよ
      2024/04/27
  • 宮部みゆきさんが本よみうり堂で2017年一押しの1冊として紹介していた本。

    ダーウィンの進化論が発表された19世紀の英国。著名な博物学者、サンダリー卿の発見した翼ある人類の化石が捏造されたものだと噂が立ち、一家はとある島へ逃げるように移住する。
    14歳のフェイスは父の汚名を晴らしたいと願うが、当の父は何か秘密を抱えている様子。さらに、フェイスに不思議な植物を洞窟に運ばせた後、謎の死を遂げてしまう。
    父が殺されたのではないかと疑うフェイスは、残された手記から、洞窟に隠した植物が人の嘘を養分に育ち、真実を見せる実をつける「嘘の木」であることを知り、それを利用して死の真相を明らかにしようとする。

    児童文学とは思えないほど内容はハードだったが、とにかく面白くて一気に読み終えてしまった。
    物語の前半、フェイスは女性というだけでとにかく理不尽な扱いを受け続ける。彼女は常に男性の後ろに控えることを求められ、博物学に興味を持つことも許されないのだ。
    しかし、フェイスの心の中にくすぶる熱い思いは後半に爆発する。怒りに燃えた彼女は、前半の理不尽さを吹き飛ばすかのようにスパイ小説さながら知略を尽くし、嘘の木を使って真実に迫っていくのである。

    真実が明らかになる過程で、彼女は父や周囲の人たちの汚い部分を知り、自分自身も嘘を重ねて周りの人たちを不幸に陥れることになる。物語は決してきれいごとだけでは進まず、読んでいて気持ちが締め付けられることも多々あったが、最後は希望を感じさせる結末で、気持ちよく本を閉じることができた。

    弱い立場の少女が真実を追い求める過程で自分自身を取り戻していく話を中心軸に、嘘を塗り重ねる恐ろしさや真理を追究せずにはおれない科学者の性、進化論と聖書との歴史的な対立というさまざまな要素をミステリ仕立てでまとめ上げた傑作。宮部みゆきさん一押しも納得の一冊である。

    • しずくさん
      これは大、大好きな本でした! 台風直撃夜に停電になっても読めるように懐中電灯を準備して読み終えました。生まれて初めて怖がらない台風通過を経験...
      これは大、大好きな本でした! 台風直撃夜に停電になっても読めるように懐中電灯を準備して読み終えました。生まれて初めて怖がらない台風通過を経験して、それ以降台風夜間時にも読書を楽しむことにしたの。
      嫌だった台風時期がへっちゃらになりました。
      2024/03/19
  • 不思議な読後感。
    おもしろくて、ページをめくる手が止まらない!
    というわけではなく、どういう着地をするのか、
    気になって最後まで読んだ、という感じ。

    嘘を与えると成長する木、という、途方もない設定なんだけど、関わる者みんながそれに取り憑かれ、
    信じてしまう。そのことにそれほど違和感を感じなかったのは、それだけこの作者に筆力があったからだろう。

    主人公の少女は完璧なヒロインではなかった。
    悩み、時に卑屈になり、親の愛情に疑問を持ったり飢えていたり。かと思えば、この時代に似つかわしくない大胆さで意見や行動をする。
    世の中の多くの少女が持つそんな特性に、読んでいて共感する部分も多いかもしれない。

    少女の母親も含め、登場する女性の描き方がおもしろい作品だった。

  • 初のフランシス・ハーディング。
    児童文学賞とか嘘やん笑、と言いたくなるほどがっつりミステリ。

    序盤は主人公のフェイスに襲いかかる苦難が読んでいて辛くて辛くて。
    19世紀のイギリスという時代背景も含め、女性がとことん生き辛い世の中、父の捏造の噂からの死。自殺で処理されると埋葬もできない、加えて後半判明するが資産相続もできないため、これから生きていくためには、父は殺されたのだという証明=犯人探しが必要となる。
    このあたり、中盤以降に登場する「嘘の木」の性質をうまく利用し、フェイスが島の裏で暗躍する段になってからがかなり読み応えが良くなった印象。児童文学としていいかどうかは置いといて笑
    犯人に至るまでの過程も見事。伏線がうまく張られていた。

    帯にもあったが、終盤の親娘の会話も良かった。
    19世紀の女性の闘い方で家族を守ろうとした母親、新しい時代を切り開こうとした娘。どっちも正しいよなぁと。

    評判どおりの面白さで、次作も楽しみ。

  • 以下、若干ネタバレ含みます。
    ミステリー要素も強い作品なので注意!




    高明な博物学者の父を持つ、娘フェイス。
    物語冒頭、まるで旅というより逃避のような後ろめたさを感じていたフェイスは、それが父の詐欺行為の露見によるものだと知ってしまう。

    島での不便な暮らし、躾られていないメイドたち、噂話を振りまく島民。
    作品の大半は、なんだか児童文学に相応しくないような、人々の好奇や悪巧みに彩られていたような気がする。

    さらに、タイトル「嘘の木」の持つ蠱惑的な魔力も恐ろしい。
    誰も入ってくるなと命じた父の、普段とはかけ離れた、どんより黄色く濁った目に対し、阿片をやっているのでは?と考えてしまうフェイス。
    その、見てはならないものを見た空気感に、読んでいても息が詰まった。

    物語としては非常に楽しめたのだけど、星をあと一つ付けるか迷ったのは、主人公フェイスに共感しきれなかった所が大きい。
    時代ゆえ、彼女がどんなに知恵をつけても独り立ちすることは難しく、不器用な弟ハワードに養ってもらわなければ生きていけないフェイス。
    それでも、自分の才を父に認めてもらうために、自分を正当化し続けていく所に、馴染めなかった。

    明らかに父の行いが間違っていても、そこは死によって覆われてしまい、結局は、フェイスに危害を加える可能性があるものとの対峙になってしまったような気もする。

    宮部みゆきが帯で触れた、終盤の母との会話や、ハワードが賢者の人形を潰してしまう場面によって、フェイスの物語で収まらず、家族それぞれがフェイスをどう想っているかに触れられていた所は、良かった。

  • ミステリ。ファンタジー。
    初めて読む作家。
    イギリスでは児童書だったらしい。
    背表紙のあらすじ的にはSF要素もありそうだったが、実際はほぼなし。ファンタジー。
    全体としては、主人公フェイスの頑張る姿を応援する作品、という印象。
    中盤の実験と捜査と工作、終盤の解決、どちらも面白いが、個人的に一番良かったのは序盤。
    ミステリとは関係なく、19世紀のイギリス・小さな島という環境によって主人公が置かれた立場が興味深い。
    特にジェンダー論に関して、かなり考えさせられる。
    児童文学としては難しい気もするが、面白いのは間違いなし。

  • やはり私には海外作品は難しい…。色々とイメージするのが…。
    最初から、ずっと陰鬱な雰囲気で話は進んでいく。主人公フェイスの奮闘のかいあって真実にたどり着くのだが、最後のフェイスと母との会話が印象に残った。

  • ○良い意味で児童文学。家族への想い、冒険、少しファンタジックでミステリアスな要素あり、で申し分なし。
    ○前半これでもかと言うほどに、「子ども」で「女」で抑圧されたシーンが多いだけに、物語の核心が現れたあたりからの展開のワクワク感がすごい!
    △最後が素敵なんだけどあっさりめ。もう少し見させて!いや、十分かも? 賢くて我慢強くて人並みに意地悪な主人公のキャラクターが好きなので、終わり方的に無さそうだけど、続編が出たら絶対読みたい。

  • 舞台は19世紀イギリス。価値観や風俗が現在と異なるのでタイムスリップしたような気分になれます。
    前半は男尊女卑の甚だしさにちょっと辟易しましたが、半ばから物語が動き出してそこからは面白くて一気に読んでしまいました。
    SFでありミステリーであり冒険であり、ストーリーの面白さだけでなく文学としても素晴らしく、傑作と謳われるのに納得しました。

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