許されざる者 (創元推理文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (574ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488192051

作品紹介・あらすじ

国家犯罪捜査局の元凄腕長官ヨハンソン。脳梗塞で倒れ、命は助かったものの麻痺が残る。そんな彼に主治医が相談をもちかけた。牧師だった父が、懺悔で25年前の未解決事件の犯人について聞いていたというのだ。9歳の少女が暴行の上殺害された事件。だが、事件は時効になっていた。ラーシュは相棒だった元刑事らを手足に、事件を調べ直す。スウェーデンミステリの重鎮による、CWA賞インターナショナルダガー、ガラスの鍵賞等五冠に輝く究極の警察小説。

感想・レビュー・書評

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  • 退職した警官が過去の事件の調査を依頼され‥
    スウェーデンの人気シリーズの最終作。
    ガラスの鍵賞など、各賞総嘗めにした作品です。

    警官と言っても、このラーシュ・ヨハンソン、ただの警官じゃない。
    凄腕で知られる、国家犯罪捜査局の長官だったのです。
    退職後のある日、脳梗塞で倒れます。

    入院先の担当医の女性から、父親が気にしていたという、昔の事件を調べてほしいと頼まれます。
    牧師だった父が、犯人を知っているという懺悔を聞いたというのです。
    懺悔は本来秘匿すべきものなので、犯人の名前まではわからないのですが。
    すでに時効になった、25年も前の未解決殺人事件。
    かっての部下にも連絡を取り、少しずつ調べるうちにのめり込んでいきます。
    不自由な身となり命の危険を感じつつ、生への執念を燃やすように。

    ヨハンソンは兄との共同の事業でも成功しているし、年の離れた美人の妻もいる幸せ者。
    頑固なヨハンソンのもとへ、見た目が派手な若い女性の介護士が来たり、ヨハンソンを上回って押しが強い兄が心配して送り込んだ屈強な若い男性が傍に付き従ったり。
    思わぬ闘病&安楽椅子探偵生活を描く筆致はユーモラスです。

    当初は雲をつかむような話だった昔の事情が、微妙に違った角度で見え始める。
    部下たちが全幅の信頼を寄せている様子も微笑ましい。
    さぞ豪胆で頼りになる上司だったんだろうな、と。
    しかし倒れたというのに、好きなものを食べるのを全然やめないの、この男。
    引退したとはいえ、時効とはいえ事件を抱えているのだから、もう少し健康に気を配ったほうが!という気はしますが。

    最終作なのでオールスターキャストなのでしょう。
    この作品からの翻訳で、これっきり?なのかどうか。
    ちょっと、惜しいですねえ。
    次はどの作品が翻訳されるか?楽しみにしてますよ。

  • 国家犯罪捜査局の元凄腕長官ヨハンソン67歳。
    引退して悠悠自適だが脳梗塞で倒れ、後遺症の麻痺が残る。
    入院中に女医から過去の迷宮入り事件を相談される。
    女医の父は牧師で、懺悔で25年前の未解決事件の犯人について聞いていたというのだ。でも誰の懺悔か?誰を指したのかもわからず。
    9歳の少女が強姦されて無残に殺された事件だが、時効になっていた。
    ラーシュは相棒だった元刑事、義弟、介護士、兄から送られたボディガードらを手足に、事件を調べ直す。
    長編だが一気に読んでしまった。

    解説を読むと、このヨハンソンはシリーズ物らしくて、これが最終巻とのこと。
    なんでこれが一番初めに訳されて出版されるのか?

    些細な証拠から犯行現場を推測して、そこから地道に捜査をする。
    自分は動けないので周りの者を手足にして犯人にたどり着く。
    さて、そこからどうするか?時効によって刑事責任は問えない。
    1.このまま放置する。
    2.殴り殺す。
    3.マスコミにばらす。
    4.被害者の父親にばらす(父親は米国で成功した有力者)
    5.犯人に悔い改めて自ら刑務所に行く選択を与える。

    ここから何を選択するのか?
    長い割に物語自体は割ととんとん拍子に進むので飽きは無い。

    面白かったのは、ミレニアムの登場人物の名前が結構出てくる。
    名探偵カッレ君とか(これは登場人物ではないけど)
    ラーシュが介護士にネットは使えるか?と聞くと「リスベット・サランデルほどじゃないけどね」とか。

    最近読む小説の主人公が高齢者(戻り船の伝二郎は68歳)が続くが、皮肉屋で台詞「」の後に、自分の本音がはさまって、なかなか愉快。
    もっと邦訳が出て欲しい作家。

  •  2018年秋に読んで、とても印象に残る作品だったので、昨年の『このミス』では5位に投票したのだが、今思えばもっと上位に入れてもよかったかもしれない。本国スウェーデンでは、いくつかのシリーズ作でヒットを飛ばし、うち何本かはTVシリーズにもなっているこのレイフ・GW・ペーションであるが、日本ではほとんど知られていない。本邦初訳となるペーションのこの作品は、各賞を総舐めにした傑作である。この作品に出会えて本当によかった。

     主人公は国家犯罪捜査局長官のラーシュ・マッティン・ヨハンソン。何と、この主人公、作品のスタート時点で、ホットドッグ屋台の前で脳塞栓を起こし、意識不明の状態で病院に運ばれてしまう。やがて意識は戻るが、元の体に戻る見込みは相当に薄い重病である。このヨハンソンは、シリーズ主人公であり、これはその最終作なのである。シリーズ読者は驚くだろう。ぼくのように邦訳作品を手に取る者は、初対面の主人公がいきなり病床で、未解決事件の捜査指示を開始しやがて解決に導いてゆく本書の構成を、普通のこととして読んでしまうが、巻末解説で各種シリーズの紹介がなされており、実は、これがこの存在感ある主人公の結末かと思うと、とても複雑な気持ちになった。もっと早くシリーズ初作から邦訳されていれば……。

     スウェーデン本国のファンには後れを取ったものの、それでもこの一作は素晴らしい。身体は動けないが、事件と生命への執念を燃やす頑固親父の主人公は、25年前の幼女殺しという未解決事件にのめり込む。彼を手助けする個性的なメンバーが集められ、古い資料が取り寄せられ、ここからは捜査の面白さの中で、最初は薄ぼんやりとしている人間関係の深淵が、次第に明確な真実の形を成してゆく様を読んでゆくことになる。捜査小説の王道である。ディテールから徐々に見えてくる真実。ほぼ捜査だけで、事件を終結させる一冊であり、その語り口に一切のけれんも感じさせない。

     しかもこの事件は、時効法成立前の未解決事件であるため、もし真犯人がわかったとしても法的処罰を下せない。罪と罰という因果に、この作品はどう決着をつけてゆくのか?

     本作で最も素晴らしいのは、いわゆる「キャラが立っている」ことだ。多くの人物が登場するのに、それぞれに見事なほど存在感があり、個性がある。アンナ・ホルト刑事もエーヴェルト刑事も、それぞれが主役でのTVシリーズになっているらしいので、人物像がしっかりしているのもむべなるかな。さらに本書も、3話構成でドラマ化されており、この作家は、小説のみならず映像作品でも本国では著名であるようだ。

     最後に、緻密な捜査について。作者自身が犯罪学者として、国家警察省長官の補佐役まで勤めた経歴のある現実に根を下ろしたという、文芸界では極めて稀有な存在であるため、地に足のついた捜査模様が積み重ねられてゆく、本書ならではの着実なリズム感も、そうした素地から生み出されたものだろう。

     北欧ミステリの面白さは、歴史的かつ社会的事実に、時間軸かつ地形軸で、しっかり考証された現実味というところあるように思う。現実は、小説世界と読者の側の世界とを結びつける共通のものだからである。本書の犯罪一つとっても他人事とは思えぬリアルな事件であり、いくつもの真実の要素を身に纏っているからこそ、我々読者側の真剣さを引きずり出してくれるものなのだろうと思う。

     折角の機会だ。この作品を機に、ペーション作品が多く邦訳されることを強く願ってやまない。

    追記:ちなみにタイトルの『許されざる者』だが、ジョン・ヒューストン(1960年)、クリント・イーストウッド(1992年)、李相日(2013年)、いずれの監督作品とも無関係である。

  • 渋い。渋すぎる。

    まず、主役が
    脳梗塞を患い
    右半身に麻痺が残っている
    元警察庁長官。

    治療やリハビリを受ける中で
    ある時効を迎えた
    女児殺害事件に行き当たります。

    主治医である女医から

    牧師だった父親が
    生前「事件の犯人を知っている」
    という懺悔を耳にしたらしい

    と 告白され
    犯人探しが始まるのですが

    いわゆる
    『安楽椅子探偵モノ』に近く

    自らは ベッドに横たわったまま

    当時の捜査資料などを紐解きながら
    想像力と経験値で 
    推理を進めていきます。

    ピアスやタトゥーを施した
    介護士の若い女性や

    同じく年金生活者で
    元警察官の親友

    非常に細かい
    元会計士の義弟

    孤児で 並外れた
    体格の持ち主である
    ロシア人の若者など

    脇を固める配役も
    一癖あって 魅力的。

    主人公が 

    酸いも甘いも噛み分けた
    中年以降の男性警察官で

    男同士の友情や
    どうにもならない理不尽さ
    などが入り混じる

    決して 手放しで
    ハッピーエンドとは
    言えない

    苦み走った
    翻訳ミステリーが
    大好きな私にとっては

    たまらない作品でした。

    CWA賞など5冠に輝く
    警察小説。

    好みは かなり偏ると
    思われますが…



  • これは面白かった!長官の生き方が美しい。犯行を防げたかもと自責の念を抱き続ける人々が細やかに描かれている点に好感。見た目と異なり素直で真っ直ぐなマティルダも良いけど、イチオシは正義をなす人、マックス。その後のマックスで新作書いてくれたら絶対読む(笑

  • キャラたってる思ったら全員主役級やねんね。テーマも決着も最高やった。

  • 時効となってしまった殺人事件を、引退した警官が捜査していく物語です。

    犯人自体のめぼしは割合早くついてしまうのですが、時効になっているケースだからこそ、「犯人をどう罰するのか?」というテーマについても触れられていて、これが中々興味深かったです。

    また、事件と同じくらいのボリューム感で、主人公の人生模様についても同時進行で話が進んでいきます。

    個人的には事件の真相に迫っていく一連の流れは面白く、読むのを止められませんでしたが、主人公自身の話の割合がちょっと多いかなと思いました(途中で中だるんでしまいました…)

  • ストックホルムにあるスウェーデン一のホットドッグを出す屋台「ギュンテシュ」の、挽きたてのコショウとパプリカ、オニオン、軽く塩漬けにしてから粗く挽いた豚肉でつくられたジプシーソーセージをバゲットにはさんだやつ、想像しただけでお腹がなる。
    脳梗塞で倒れた国家犯罪捜査局元長官が時効になってしまった25年前の事件を調べ直す。主人公がいつまた倒れるのじゃないかとはらはらしながら読了。長官が美しい景色のなかで幸せに幕を降ろせてよかった。事件当時も25年後も仕事のできない警部が最後はそれ故にうまく絡んでニヤリとさせられる。

  • スウェーデンの小説は初めて読んだとおもうが、こんなの表現が面白いとは思わなかった。ストーリーも単純ではあるが引き込まれる。

  • 福祉国家、人権重視国家でさえ、子供への性犯罪は止められぬと思うと、絶望的になる。スウェーデンミステリは陰鬱な印象があるが、本作はユーモア系といってもいい程。
    そういえば、『名探偵カッレくん』、読み逃していたな。
    ラーシュの長兄とダメ捜査官のファーストネームが同じなのは何か意味があるの?綴りが違うのか?
    警察幹部の妻が銀行重役なんて、まず日本ではあり得ない。
    マックスの存在は真犯人の邪悪さを際立たせる。
    ラストで、真犯人に下されたのは人の手によるものだが、ある女性を見舞った運命は天意なのだろうか。
    <いかなる慈悲も与えるな>

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