鳥―デュ・モーリア傑作集 (創元推理文庫) (創元推理文庫 M テ 6-1)
- 東京創元社 (2000年11月17日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (552ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488206024
感想・レビュー・書評
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ヒッチコックの映画でお馴染み「レベッカ」や「鳥」の原作者の短編集。
例によって私以外の方は高評価ですので、そちらの方を参考にしてください^^
●恋人
映画館で出会ったあの娘の正体
●鳥
鳥の大群に襲われる村
●写真家
ひと夏の浮気
●モンテ・ヴェリタ
山に呼ばれる
●林檎の木
妻を亡くした男と林檎の木
●番(つがい)
語られる一家
●裂けた時間
突然の迷子
●動機
自殺の動機は
「林檎の木」と「動機」がまあまあおもしろかったかな。
残念ながらもっさりした印象の話が多い。オチの切れが悪い。こういう話しなんだろうな、と予想したとおりに話が進む。意外な終わり方だったのは「番」だけだが、これは、ふざけんなーって感想だった(笑)
「鳥」もそうだが、さあこれからどうなるでしょうか——で、終わることが多い。
「裂けた時間」は、登場人物は理解できずに右往左往するが、読んでる方はわかっているので、早く気づけよとイライラする。
読み終わってからなぜかO・ヘンリーの短編集を思い出した。「賢者の贈り物」や「最後の一葉」などが有名だが、それ以外の話も短くてキレが良くて大変面白かった。機会があれば再読しようかな。 -
人付き合いを行わない語り手がひと目で恋に落ちた映画館の案内係。彼女と夜の帰路を楽しんだあと墓場に行った。自分はここで眠るからあなたは帰ってほしい。不思議な彼女の虜になった語り手だが、翌朝の新聞に凍りつく。
==”彼女”はホラー系の存在かと思ったらしっかり存在しているようで、それがむしろ不思議さと怖さを増している。語り手の心とともに読者も喪失感を味わう一作。
/『恋人』
海辺の町に住むナット・ホッキンの目に、海に浮かぶ何万というカモメの姿が目に入る。その夜ナットの家は鳥たちに襲撃される。突然芽生えた鳥たちの悪意。そしてその鳥たちの襲撃は、イギリス中に及んでいるらしい。ナットは家族を守るために家の守りを固める。
===ヒッチコックの映画は観たことがあります。「鳥が襲ってくる」というモチーフだけで、人間関係は全くの別物ですね。
この小説では、鳥が何万年もの積み重ねの自然の意思で突然襲って来ます。主人公は軍隊経験者で海の側に暮らしていて、自然観測やサバイバル面でなかなか頼りになります。イギリス全体が鳥に襲われますが、小説には書かれていない都市部のほうがダメージ大きそうでむしろどんな悲惨な状況かと怖い。
/『鳥』
若くて美しい侯爵夫人は退屈していたのだ。なんの不自由もない生活、天使のような娘たち、人々が必ず振り返るほどの己の美貌。だが夫は真面目でつまらない、上流階級の表面的な集まりももううんざり、友人たちは愛人を作っているのに自分はそんな相手もいない。
そんな侯爵夫人が彼女を崇拝する若い男と出会って…
===これは極めて現実的な話。オチも含めて、まあこうなるよねって感じだ。
/『写真家』
モンテ・ヴェリタに押し入った人々は、何も見つからなかったと私に語った。生きた人々も、死んだ人々も、そもそも人の痕跡も。
モンテ・ヴェリタという山は、女性たちを選んで呼んで山の中に導くという。語り手の”わたし”は、親友ヴィクターと組んで登山にふけっていた。やがてヴィクターはアンナという女性と結婚した。だが彼女はモンテ・ヴェリタに籠もってしまった。ヴィクターは毎年彼女がいる岩の崖に訪ねていっている。
長年モンテ・ヴェリタを畏れていた村の人々だが、次々と消える女性たちについに怒りを爆発させて山に攻め込むことにした。
そのモンテ・ヴェリタ最期の夜に、”わたし”は確かに彼女たちを見て、彼女たちとともにこの世の真の愛を知ったのだ。
===これは書き出しから終わりまで素晴らしい雰囲気を持った逸品。山に呼ばれ、岩の奥に籠もり決して年を取らない女性たち。彼女たちは太陽と月を信仰して本当の幸せの中に暮らしている。
だがただのファンタジーではない。最期の夜に彼女たちが示したのは、「モンテ・ヴェリタは決して天国でも夢でもない。ここは紛れもない現実」ということだった。これは現実、夢のように見えても実際に暮らしている人たちにとっては現実。
/『モンテ・ヴェリタ』
妻のミッジが死んで彼は確かに自由を味わっていたのだ。だが彼には、庭の貧相な林檎の木がまるでミッジのように見える。陰険で小言屋で人に罪悪感をもたせる女。彼女は死んだあとこうして自分につきまとうのか。
===これは夫婦ともにちょっと可哀想。生活に疲れて陰湿な性格の妻の人生は楽しむことなどなかっただろうし、そんな妻が死んでたしかに夫は自由を満喫したけれど、お互いのすれ違いが最後までという感じ。
/『林檎の木』
ああ、あの爺さん、湖のそばにかみさんと一緒に住んでるんだ。掘っ立て小屋みたいなもんだ。むかしは四人の子供がいたが、ある日手放してしまったんだ。そんな爺さんと婆さんだが、本当に寄り添い合って尊重しあっているのは感じるんだよ。
===現在で言えばモラハラ虐待親父の話かと思ったら…、おお、そういう話だったのか。ラストの飛翔が清々しい。
/『番(つがい)』
夫を亡くしたミセス・エリスが家に帰ったらすっかり様相が変わっていた。警察も娘の学校も頼りにならない。わたしを騙す悪党どもに家を乗っ取られたのだわ!
…という感じで、終始ヒロインが頑なで精神的に攻撃的。話としてはSF的で、読者にはどういう状況かは分かる(察する)ようにはなっている。
たしかにこの状況は焦燥感に駆られるだろう。しかしこのヒロインの性格が非常にクレーマー気質というか自分だけが世界で正しい!なので、読者としては「いいから相手の話を聞け!」と言いたくなる。(作者がそのように書いているということです)
そして彼女が入り込んだ”避けた時間”も使いようによってはもっといいものにできただろうに、結局彼女が築いたものがこんなものだったんだよね。
/『裂けた時間』
幸せいっぱいの妊婦が突然自殺した。諦めきれない夫が私立探偵に動機探しを由来する、という話。
動機もなかなかやりきれないが、親切と思っていた相手が密かに自分を騙していたという事実が明らかになってゆくのもやりきれないな。
/『動機』 -
デュ・モーリア傑作集の中ではこれが一番好き。短編集なのに物語の世界があまりに濃密で追い詰められるような気がする。こんなにすごい作家だったとは!
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ダフネ・デュ・モーリアの短編集は「いま見てはいけない」に次いで2作目。
表題の「鳥」がめちゃくちゃ怖かった。これは、映画にもなっている有名作。鳥が襲ってくる「動」の描写も勿論恐怖だったのですが、海の白波がよく見たらカモメの大群だったとか、家の周りにいる鳥がじっとこちらを監視しているとか「静」の描写にもゾッッ…と来た。鳥恐怖症になりそうです。
他お気に入りは「写真家」あの不穏なラストはとても好み。身勝手で調子に乗った侯爵夫人がたどる未来を思うと爽快感すら覚える。
「林檎の木」庭に立つ老木を亡き妻に重ね、嫌悪する夫。陰鬱で醜塊な老木の描写がすごい。目に浮かぶようだ。
「裂けた時間」これもかなり厭な話で面白い。
一話一話が短編とは思えない濃さで、どの話も楽しめました。満足。 -
恋人:案内嬢に一目惚れした男は、翌日連続殺人事件の事を知る。切ない。
鳥:ヒッチコック映画の原作。
裂けた時間:帰宅すると鍵が開かない。居場所も知る人もない不条理な世界。
動機:出産間近で幸福な女が自殺。探偵が動機を探る。「にんじん」の言葉が鍵。 -
書名になっている「鳥」はヒッチコックが映画化したことで知られる作品。さすがのヒッチコックでも、この原作は越えられなかったか。いや、むしろ別ものとして楽しむべきかもしれない。戦慄をおぼえるエンディングは映画よりはるかに恐ろしい((((;゜Д゜))
映画にはまだしも救いがあるけど、原作には絶望しかない。ある意味、ディストピア。いやはや。
個人的な意見だけど、鳥って何となく不気味。
鱗みたいな脚の皮膚とか、歩きかたとか。
まぶた(?)があるような無いような目とか。
ほかに7編の短編。いずれも初期の作品とは思えぬ完成度。こちらもじわじわくる心理的な怖さ。
翻訳もこなれていて読みやすい。 -
原書1952年刊の短編集を、まるごと邦訳したもの。
作者ダフネ・デュ・モーリアといえば、新潮文庫で上下巻に分かれて出ている『レベッカ』(1938)を高校生の頃読んで、これはなかなか面白く気に入ったものだ。読書好きの当時の友人も本作を褒め讃えていたことをよく覚えている。しかし、デュ・モーリアの他の作品は文庫版では当時他に無かったので、それきり読む機会が無かった。
2000(平成12)年に本文庫本を出して以来、創元推理文庫からこの作家の小説が何冊か発行されたらしい。これは素晴らしい出版だったと思う。というのも、本書を読んでみると実に面白くて、エンタメ系でありながら巧みに書かれた文学作品としても成り立っており、この作家の価値はもっと知られるべき、と感じたからだ。こういう地味な(?)企画の邦訳文庫は、得てして早々に絶版になってしまうので、そうなる前に買い集めておいた方が良い。
本書の表題作「鳥」は、もちろん、あのヒッチコック映画の原作である。あのひときわ有名なサスペンス映画の原作が『レベッカ』の作者のものだと、私は気づかずにいた。もっとも、鳥が不条理に人間を襲ってくるという設定以外は、ヒッチコック映画は全然別のストーリーになってるようだ。
読み始めてすぐに、ぐいぐいと引き込まれていく。文章が実に流麗で、素晴らしい。描写とストーリー展開のテンポとのバランスが絶妙であり、イメージの連想と変化のさじ加減が卓越しているから、とてもナチュラルな文章ストリームとして脳に入ってくる。
どちらかというと、ストーリー展開はゆったりとしている。次々と驚くような展開が迫ってくるようなことはなく、自らの生死を賭けたサスペンスフルな状況を描いている「鳥」ですら、筆致はじっくりとディテールを描写し、「めくるめく」感じとは異なるストリームだ。このテンポは速くてもアンダンテ、ともすればラルゴくらいの遅さで、それでも描写は必要以上ではないし、実にナチュラルに文が連なっているため、じれったくはならない。
本書の各編は多彩でそれぞれに異なった雰囲気を持つが、アイディアやオチだけで勝負するのではなく、各登場人物の心理の襞に丁寧に分け入りつつ、文章として一定の重みを持った充実が見られる。
このような充実感はそうありふれたものではない。必ずしも収録の8編すべてが最高とは言わないが、全体にとてもレベルの高い、すこぶる「良い」小説集であると思った。このような短編集に出会ったことに、驚いた。 -
最高に面白かった!!バラエティに富んだお話がぎっしりですごい楽しめた。
「写真家」「モンテ・ヴェリタ」「動機」が好き。
「動機」は最後のページで声出たわ。ミステリーだぁ!! -
「レベッカ」の作者デュ・モーリアの傑作短編集。
「レベッカ」はお好きだろうか。
私は物語性が面白くて夢中で読み、そのそくそくとした迫り方にぞっこんの書なのだ。
そんなに好きなのに不覚にも「風とともに去りぬ」のマーがレット・ミッチェルと同じで、「レベッカ」一作しかデュ・モーリアは書かなかったと思い込んでいた。
帯にも解説にも「レベッカ」「レベッカ」の作者と繰り返されているほどだから私だけではない。この作者の他作品は日本で知られていないらしい。否、なぜかミステリとして継子扱いだったらしい。
17の長編、10数冊の短編。(過去に何冊も翻訳されたらしいが、入手困難とか)しかも、1984年までご存命だっとは。
偶然手に入れ、そしてこの短編集を読了。期待は裏切られなかった。なんともいえずの味わいがある。少しも古くない、わかり易い、けれど一筋縄ではない。謎が解けた後の深い条理、余韻。
「レベッカ」がお好きなら絶対、私のお薦め!!
恋人
鳥
写真家
モンテ・ヴェリタ
林檎の木
番(つがい)
裂けた時間
動機
ああ、内容を話したいが、ネタばれになってしまう。やめておく。
どれもこれもいいが、「モンテ・ヴェリタ」が「レベッカ」と同じくらいときめいた。最初に結末が語られているのも「レベッカ」と同じパターンだが、読み終わって浸れるものがあるのも同じである。
そして、土瓶師匠は安定の★2
ナイスです!w
そして、土瓶師匠は安定の★2
ナイスです!w