短編ミステリの二百年3 (創元推理文庫)

制作 : 小森 収 
  • 東京創元社
3.27
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本棚登録 : 129
感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (688ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488299040

作品紹介・あらすじ

第二次大戦後、クイーンが創刊した雑誌EQMMとその年次コンテストは、ミステリの進化に多大なる影響を与えた。短編ミステリの歴史をたどる巨大アンソロジー第3巻は、スタンリイ・エリンに代表されるコンテスト応募作家とその作品を中心に、ポースト、マクロイ、アームストロング、A・H・Z・カー、ブラウンなどの傑作11編を清新な訳文で収録する。小森収の評論には、資料価値抜群のEQMM年次コンテスト受賞作リストも掲載。

感想・レビュー・書評

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  • 大分ひねってるようだがEQMM受賞作家ら収録とのこと。ヘレン・マクロイ『ふたつの影』ウィルバー・ダニエル・スティール『女たらし』シャーロット・アームストロング『敵』ヒュー・ペンティコースト『子供たちが消えた日』が印象的。

  • 事細かな評論も収録された海外ミステリアンソロジー第3弾。EQMMコンテスト受賞作リストもついていますが。読んだことないのがほとんどだなあ。まだまだ面白い作品が山のようにあるのだと思えば、嬉しいような、気が遠くなるような(苦笑)。とりあえずヘレン・マクロイの作品は面白そうなので、読んでいきたいです。
    お気に入りはヘレン・マクロイ「ふたつの影」。幼い少女の想像上の友達としか思えないふたりの人物が関わる事件。彼らは実在しているのか否か、という謎だけでも不安感をかき立てられます。それに加えてどんどん事件が起こる展開にも引き込まれました。
    ミリアム・アレン・ディフォード「ひとり歩き」にはぞくぞくさせられっぱなしでした。犯行現場を目撃してしまったがそれを公にできない理由のある主人公。やがて事件は解決するかに見えたものの、とんでもない展開になっていきます。主人公の葛藤がとんでもなく痛々しく、追い詰められていくサスペンス感が凄まじかったです。

  • 「ナボテの葡萄園」
    メルヴィル・デイヴィスン・ポースト(1912年)
    ▷▷▷とある地主が射殺死体として見つかった。その後すぐ、行方をくらましていた使用人の若い男が発見され、犯行に使われたライフルを所持しているところを逮捕された。地元の判事は、裁判はこの男の有罪で簡単に片付くと確信していたのだが、公判の席で思いがけず、地主の家に出入りする若い女が、殺したのは自分だと涙ながらに訴え出た。
    ▶▶▶簡潔でドラマチック。しかし細かいところでは何点か疑問符が付く。①結果的に事件の詳細は複雑なものになってしまったが、当初の真犯人による犯行自体は短絡的で目論見が甘すぎる。②逮捕後の使用人の男の言動はわからないでもないが、女の訴えにはムリがある。③懐中時計がたまたま止まって、アブナー叔父が渡した鍵で懐中時計のゼンマイを巻いて……、という箇所はあまりにもできすぎ。

    「良心の問題」
    トマス・フラナガン(1952年)
    ▷▷▷強制収容所の生き残りがルガーで射殺された。すぐに逮捕された犯人は、かつてのナチス親衛隊の指揮官であり、現在は国際的に指名手配されていたフォン・ヘルチィヒ。……ってそれ、殺す方と殺される方がふつう逆ではないのか……?
    ▶▶▶『アデスタを吹く冷たい風』は未読なので人物設定がちょっとピンとこなかった。

    「ふたつの影」
    ヘレン・マクロイ(1952年)
    ▷▷▷不慮の事故で母を亡くしたばかりの3歳の多感な少女ルーシー。彼女がしばしば口にする”ショトン”と”グリダー”は果たして彼女が造りだした空想の人物なのか? それとも実在していて、彼らは母の死に大きく関与しているのか? そんな中、不審死が立て続けに発生する。
    ▶▶▶ヘレン・マクロイらしく、知的でテンポのいいエンタテインメント作品。

    「姿を消した少年」
    Q・パトリック(1947年)
    ▷▷▷母親べったりの男の子と子離れができていない母親。叔母たちは男の子を寄宿学校に送りこんで母親から引き離そうとするのだが、そうはさせじと男の子は、叔母の殺害を真剣に考え始める。
    ▶▶▶”事故をよそおって階段から転落させて首の骨を折る”という殺人方法にたまに出くわすだが、……そんな都合よく首の骨は折れないだろう。

    「敵」
    シャーロット・アームストロング(1951年)
    ▷▷▷少年フレディの愛犬ボーンズが毒殺された。こんな酷いことをする犯人はきっと近所に住むクソじじいマトリンに違いない。おとなに告発しても埒があかないと悟ったフレディと友達らはその夜、ついに一線を越えた行動に移ろうとする。いっぽう事態を重く見たマイク・ラッセルはフレディの学校の担任ミス・デーナに協力を求め、ボーンズ毒殺事件の真相を明らかにしようとする。
    ▶▶▶真実を知ることは勇気がいること……。テーマもストーリーもキャラクタライジングも素晴らしい。最後の一行も。

    「決断の時」
    スタンリイ・エリン(1955年)
    ▷▷▷引退した脱出マジック専門の奇術師がある頑迷固陋な男と賭けをするハメになる。その賭けとは、奇術師が男の用意したクローゼットに閉じ込められ、そこから脱出できるか否かというもの。なおクローゼットの中では1時間で酸欠状態になってしまうというのだが……。
    ▶▶▶もし奇術師が負けると、奇術師は自らの地所〈デーン館〉を男に譲らなければならない。……しかし奇術師の”負け”はすなわちその”死”を意味しているのだからそもそも〈デーン館〉どうこうの問題ではない。

    「わが家のホープ」
    A.H.Z.カー(1969年)
    ▷▷▷ティモシーは両親自慢の優等生。高校の学内誌の編集長を務めており、大学進学のための奨学金受領も決まって、これからは将来の夢、ジャーナリストに向かって邁進するのみ。そんな中、父親の上司の息子であり素行の悪さで有名なデニーが学内誌の編集に首をつっこんでくる。のみならずこいつ、陰でとんでもないことをやらかしているのがわかって……。
    ▶▶▶原題は"The Options of Timothy Merkle"。上記の「決断の時」(原題は"The Moment of Decision")と同じく、その「選択」の内容には触れられることなく物語が終わってしまう。

    「ひとり歩き」
    ミリアム・アレン・ディフォード(1957年)
    ▷▷▷ラーセンは少女が車で拉致、誘拐される一部始終を目撃していた。しかしその当日彼は仮病を使って仕事をサボっていたので、それがバレることがいやで自分が見たことを警察に通報できなかった。……やがて少女の遺体が発見されたというニュースが。ラーセンは良心の呵責に苛まれることになるがその心痛に追いうちをかけるように、目撃した車の男とはまるで別人の若い男が逮捕されたことを知る。さらにその若い男には、裁判の結果死刑の判決が下されてしまった。
    ▶▶▶三者三様の”ひとり歩き”が交差する一点に、非情な運命の落とし穴が姿を現す。

    「最終列車」フレドリック・ブラウン(1950年)
    ▷▷▷このくだらない日常から脱出する手立てがもしあるのならば……。
    ▶▶▶深夜のバー。杯を重ねたハイボール。遠くの大火事、あるいはオーロラ。そして最終列車……。フレドリック・ブラウンらしい詩情が、夜の空に光る。

    「子供たちが消えた日」ヒュー・ペンティコースト(1958年)
    ▷▷▷一方には湖を臨み他方には急勾配の崖が迫るおよそ1.6㎞の切り通しの道路。その途中のどこかで、9人の子供たちと若い男の運転手を載せたステーションワゴンが忽然と消えた。運転手は当地では有名な好青年。だがその評判は一転し、子供の親たちは彼を殺人鬼と決めつけてその父親のもとに怒鳴りこんでくる。しかしもと芸人であった父親は事件のショックのため頭がおかしくなったのか、場違いにもステージでの昔話などを語りはじめて……。
    ▶▶▶(トリック的には相当ムリがあるのを承知のうえで、)傑作。キラキラのカウボーイの衣装をつけたパット爺さんが、むちゃくちゃにかっこイイ!

  • このシリーズは歴史的価値(?)が作品選考の基準のようで、必ずしも傑作集ではないようだが、ヘレン・マクロイの「ふたつの影」やトマス・フラナガンの「良心の問題」は面白かった。評論部分は半分くらいを斜め読みした程度だが、ブラウンの短編を巡って「哲学的だとして、だからどうした」と言う一文があって、ミステリ評論なんて、全部まとめて「だからどうした」と言われたら終わりなんじゃないか、とツッコミを入れたくなった。そんなこと、考えたこともないのかも知れない。

  • 2020/08/30読了

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