日本探偵小説全集〈2〉江戸川乱歩集 (創元推理文庫)

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  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (782ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488400026

感想・レビュー・書評

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  • 江戸川乱歩と言われると、小学校の図書館にあった少年探偵団シリーズを思い浮かべる。想像力の逞しかった時分のことだから、藤田新策氏のあの表紙絵を怖がりながらも読む手が止められなかったことを覚えている。

    しかし、これまで少年探偵団シリーズ以外の怪奇小説や幻想小説には触れてこなかった。そのため、収録されている『陰獣』や『パノラマ島奇談』などの怪奇的な性格の小説群は新鮮な気持ちで読むことができた。特に『人間椅子』は、題からは想像していた内容とはかなり違う話で、また登場人物の語り口に常人ならざるものを感じて引き込まれた。

    個人的には、幻想的でありながら狂気さは薄く、それでいてストーリーや描写を楽しむことのできる『押絵と旅する男』と先行作品への敬愛とそれに終わらない独創性が持ち込まれている『二銭銅貨』が気に入った。特に前者は二次元の女の子に夢中になりその絵の中に入りたがる男が出てきて、1929年に書かれたものとは思えない普遍性に感心した。

    また、巻末の付録に掲載されている著者本人の自作についての詳細なコメントや年譜などから、人となりをうかがい知ることができ、より作品を楽しむことができた。

  • 江戸川乱歩の長編・短編合わせて12編収録されている作品集。

    名前だけは知っているけど…という名作たちをいろいろと読むことができたので個人的にはかなり満足した作品集です。

    印象的なのは『心理試験』いわゆる心理トリックを使ったものは時々納得のいかないものがあるのですが、この作品はストンと腑に落ちました。一点集中で完全犯罪を崩す明智小五郎の推理がお見事!

    『屋根裏の散歩者』は事件そのものはオマージュ作品を先に読んでいたので、明智がどのように犯人を追いつめるかより、犯人が天井から他人の生活をのぞき見する生活に徐々にはまっていく様子が面白く読めました。

    『人間椅子』もこの場合は椅子に入り込むことになる男の熱っぽい語り口が気持ち悪いなあ、と思いつつもどこかでこれって本当に楽しくて気持ちいいのかも…と思わされる不思議な感覚が残ります。かなりの変態チックな話ではあるんですけど(苦笑)

    『パノラマ島奇談』は独創的な島の描写が圧巻! 映像化されたとするならどんなものになるんだろう、と考えるのもまた楽しかったです。

    『芋虫』も描写力もさることながら、もはや異形と化してしまった兵士を介護する女の屈折した感情が妙に生々しくて印象的。

    ページ数の多さに少しビビりますが、有名どころが結構入っているのでおススメです。これだけの作品が詰まっている以上☆5にせざるを得ない、という気がしないでもない(笑)

  • 怪しくも美しい作品集でした。

    『二銭銅貨』
    巧みな大泥棒と、二銭銅貨のつながりとは…
    有名な作品のためトリックは知ってしまっていたのですが、引き込まれる文章で、江戸川乱歩が好きになりました。

    『心理試験』
    蕗屋(ふきや)清一郎の綿密に考えられた殺人が、明智小五郎の心理試験により暴かれるという話です。頭が切れる二人の裏のかき合いがおもしろかったです。

    『屋根裏の散歩者』
    何をやって見ても面白くない郷田三郎が興味を覚えたのが「犯罪」でした。
    押入れで寝ているうちに天井板がはずれると気付いた三郎は、「屋根裏の散歩」をはじめ、他人の秘密を隙見します。そうして、天井の節穴から毒薬を垂らして、遠藤を殺害することを考えます。
    変態的で、犯罪嗜好癖ともいうべき病気を持っていて、その犯罪の中でも殺人罪に最も魅力を感じた三郎という人間に、興味を惹かれました。

    『人間椅子』
    醜い容貌の椅子職人が、自分の作った椅子の中へはいり、その椅子に座る人の肌に触れることで恋をします。そして、書斎の椅子によく座る、閨秀作家である夫人を愛します。
    その告白に恐怖を感じ、ゾッとしました。

    『鏡地獄』
    レンズ狂の彼は、ついに鏡のガラス玉の中にはいって、発狂してしまいます。怪奇と幻想の世界でした。

    『パノラマ島奇談』
    人見広介は自分と瓜二つの菰田源三郎が死んだことを知り、自分が源三郎の身変りを勤めて墓場から蘇生したように見せます。そして、莫大な財産を手に入れ、沖の島に理想郷を建設します。
    「恐怖に色づけされたとき、美が一層深みを増す」「夢幻世界の美」(p230)が描かれていました。

    『陰獣』
    「犯罪ばかりに興味を持ち、たとえ推理的な探偵小説を書くにしても、犯人の残虐な心理を思うさま描かないでは満足しないような作家(p293)」大江春泥(本名平田一郎)から小山田静子あてに、復讐を誓ったというおどかしの手紙が届きます。そして大江春泥の復讐として、静子の夫小山田六郎が殺されてしまいます。
    「常に並々ならぬ猜疑心、秘密癖、残虐性をもって満たされ(p314)」異様の鬼気がつきまとう小説を書き、厭人病である大江春泥とは、一体何者なのでしょうか。小山田六郎は残虐を行う変態性慾者なのでしょうか。
    探偵小説家である私(寒川)は見事な推理をしたかに思えました。しかし、直接の懺悔を聞かないうちにその者が自殺してしまうと、こうも恐ろしい疑惑が深まるのだと気付かされ、恐ろしくなりました。本当の陰獣は誰だったのでしょう。

    『芋虫』
    戦争で両手両足はほとんど根もとから切断され、視覚と触覚のほかの五官をことごとく失ってしまった須永中尉と、その妻時子の物語です。夫をほんとうの生きた屍にしてしまいたいという時子の残虐性も、須永中尉の恐怖の世界も、想像するだけで恐ろしいです。

    『押絵と旅する男』
    私は人物が生きている「奇妙」な押絵を老人に見せてもらいます。それは、押絵の娘お七に恋こがれたあまり押絵になってしまったという老人の兄でした。

    『目羅博士』
    まねの恐ろしさと月光の妖術が生んだ殺人の、あやしき物語でした。

    『化人幻戯』
    大貴族大河原氏の寵を得ていた姫田と村越、そして村越の友人が殺されます。
    「探偵趣味と手品趣味の感化を受け、あのおびただしい蔵書を耽読した人でなくては考え出せないような稚気に満ちていた(p692)」トリックに騙されました。「極愛するが故に相手を殺す(p703)」という動機も思い付かず、“異常な性格”を持つ犯人を恐ろしく感じました。

    『堀越捜査一課長殿』
    全警視庁の力をもってしても隙を発見することのできなかった「完全犯罪」をなしとげた人から、堀越課長に手紙が届きます。犯罪者と、その秘密を分け合った人間がこの世を去れば、犯罪は『無』に帰するのですが、“人間は自分の秘密を、完全に消滅させることを好まず、誰か一人にだけは伝えておきたいという願望を持つものなのでしょうか。(p756)”

  • 初期の名作「二銭銅貨」から戦後の「化人幻戯」あたりまでを収録。
    作者をトリックに使った前代未聞な傑作「陰獣」はイラストがついており、こちらも印象的。

  • 末尾の作者自らによる作品の註がかなり客観的に評していて感心する

  • 屋根裏の散歩者のみ読了。
    小学4年だったかな。先生がわら半紙に刷ったそれを読ませてくれたとき怖くて怖くて。
    反面その世界に引き込まれ何度も読み返した。部屋に寝転がって天井が見えると思い出してはまた読んだ。
    果てはそのわら半紙刷りの「屋根裏の散歩者」は宝物となり単行本のサイズに自分でカットしノリで貼り合わせ本の形にし何年も大切にしていたのを思い出す。
    でもずっと「屋根裏の訪問者」だと思ってて…今回検索してタイトルが違う!!!って衝撃を受けました(笑)

  • 9/13 読了。

  • 乱歩のどれを読んでて何を読んでないのか収集つかなくなってきた…ちょっと整理しないと…

  • 2/27二銭銅貨、読了。

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著者プロフィール

1894(明治27)—1965(昭和40)。三重県名張町出身。本名は平井太郎。
大正から昭和にかけて活躍。主に推理小説を得意とし、日本の探偵小説界に多大な影響を与えた。
あの有名な怪人二十面相や明智小五郎も乱歩が生みだしたキャラクターである。
主な小説に『陰獣』『押絵と旅する男』、評論に『幻影城』などがある。

「2023年 『江戸川乱歩 大活字本シリーズ 全巻セット』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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