- Amazon.co.jp ・本 (268ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488413033
作品紹介・あらすじ
絵に描いたような幼なじみの真理子と利恵を苛酷な運命が待ち受けていた。ひとりが召され、ひとりは抜け殻と化したように憔悴の度を加えていく。文化祭準備中の事故と処理された女子高生の墜落死-親友を喪った傷心の利恵を案じ、ふたりの先輩である『私』は事件の核心に迫ろうとするが、疑心暗鬼を生ずるばかり。考えあぐねて円紫さんに打ち明けた日、利恵がいなくなった…。
感想・レビュー・書評
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今まで読んだミステリーのどんでん返しというジャンルとはまた違うが、結末を知ったあとにまた読み返したいと思った作品だった。
トリックとか犯人が誰ということではなく、犯人が分かったあとにしっかりドラマがあり、考えさせられた。
ミステリーというと犯人がわかる過程が重視される気もするが、この作品はミステリーにはそういったスリルだけではないということを教えてくれる。
また、他のミステリー作品の中には現実には起こり得ないだろうという前提から構成される物語もある。
しかし、この物語は大学生という「私」という立場から事件に向き合うことでフィクションがノンフィクションに感じるリアル感があった。
正直、緊張感やハラハラするといった物語ではない。ただ、ドラマがあるミステリーという印象を受けた。
仮に人に勧めやすいミステリー作品を聞かれたらこのシリーズを推したいと思う。
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先日、仕事場の同僚とミステリの話をしていて、ふと話題にのぼった。
数年ぶり何度目かの再読だが、迂闊なことにブクログ登録していなかったな。
北村薫さんデビュー作の空飛ぶ馬からはじまる円紫さんと私シリーズの、3作目にして初の長編…しかも、シリーズではじめて殺人事件が起こる物語でもある。
読み始めた頃は好きすぎて諸手を挙げて絶賛したものだが、やはり30年以上も前の作品となると時代のギャップに違和感を覚えるダメな読者っぷりを発揮してしまう。
引用される文学作品の数々に、若干辟易したり、心を閉ざした女子高生の、それでも行儀よく思い出を語るシーンに、
こんな状況でこんなに話せるかな?とか余計なことを考えてしまったりする。
…するのだが、
真打が登場する7章から怒涛の盛り上がりで、それまでの違和感をすべて包括しながら、細かい伏線が次々と回収されるこの展開にやはり今回もやられました。
肝となる謎がこれ以上ないかたちで解消されるのは勿論なのだが、
7章以降のすごいところはそれ以外のところで情緒をこれでもかと揺すぶられるその展開。
数年ぶりの再読なので少し忘れていたけど、めっちゃ泣かされるお話だったわ、コレ。
20代の頃も、50が近くなってきた今も、心を動かされるシーンは同じで、それがあるからこそやっぱりこのシリーズを好きだな、と再確認する。
ミステリとしても間違いなく一流で、(読み終えたあと、最初から読んだら仕掛けの凄さに唸りました)文学作品としても本当に素晴らしい作品。
近いうちに野菊の墓も読まなきゃな。
再読バンザイです。
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つらい。苦しい。
きっと学生の頃、読むのと、親の立場で読むのと、捉えかたも変わると思う。
あと、警察は何してる? -
2023年10月12日購入。
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円紫がなかなか登場しないため長編。謎解きよりも生活感に重きを置いたお話。
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このシリーズはじっくり読みたくなる。
私を取り巻く日常が瑞々しく、思わず自分の学生時代を回顧してしまう。
日常の中にふと浮かんだ謎を掬い上げ、優しく解明してくれる円紫さんの語り口も快い。
今回は女子高生の転落死の真相を探る初長編。
読後は切なくも穏やかな気持ちにさせられた。 -
円紫さんと私シリーズ三作目。日常の謎を扱った連作短編の過去二作品と違い、転落事件を扱った長編作品になります。
幼馴染みで仲の良かった二人の女子高生。その一人が転落死し、もう一人は心ここにあらず、といった状態になってしまう。
そんな二人を子どもの頃からよく知っていた語り手の「私」。私の元に奇妙な教科書のコピーが届いたことから、話は展開していく。
北村作品特有の静謐さが、この作品の味わいを深くしているように思います。
ミステリとしてみるなら意外性や劇的な展開、というものではないです。しかし真相が明らかになるにつれ見えてくる、事件の当事者の孤独や痛み。
これを想像させる余白や行間といったものが絶妙だったと思います。
今回は円紫師匠の出番は終盤の推理のみになるけれど、その存在感はやっぱり大きい。ヒーロー的な名探偵のような圧倒的存在感ではなく、事件に惑う「私」に、そして事件の関係者たちにそっと心を寄せて、先へ導くような優しさが印象的。
個人的にちょっとホタルっぽく感じます。事件や暗闇に惑う人たちをそっと照らし導くような存在です。
あとは今を生きる人たちに対しての視線の優しさも印象的。
円紫さんから「私」へ送る未来への希望。
円紫さんが語る未来へ残るもの。
北村さん作品だと『鷺と雪』のラスト近くの言葉も印象的だったけど、そうした未来を創る人たちへの希望や優しい視点が、北村作品に一種の暖かさを与えてくれているのかもしれないとも思います。
事件自体はシリアスな雰囲気が漂っていたけど、「私」とその友人の女子大生たちのやりとりや日常が、ところどころではさまれることで、重くなりすぎず作品を読み終えることができたように思います。
悲しさと温かさが、重苦しくさと軽やかさが静謐な空気感の中で同居する、北村薫さんのそして「私」の作品らしい味わいの一冊でした。 -
人が死ぬなんて北村先生らしくないな…っていうのが読み始めた当初の感想。
けど読み進めていき、北村先生らしさがたっぷり含まれた優しい語り口に安心した。
運命で定められた悲劇に向かって、2人の少女は出会い互いを心の片割れだと縋ったのなら、あまりにも悲しい。 -
本が好き。言葉が好き。そんな人たちの為の物語。
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私シリーズ三作目。
初めての殺人(?)事件勃発。
ストーリーは死という形で無二の親友を無くしてしまうという切ないミステリー。
その中で「人は生まれるところも、どのような人間として生まれるかも選べない。自分を育てるのはある時から自分自身であろう。」
という意味の言葉があるのだが納得。
その自覚を持っていたなら今の自分はどのようになっていたのだろう?
巻末解説に出てくる著者の講演での言葉
「小説が書かれ読まれるのは人生がただ一度である事への抗議からである」
ってのもイイなあ。