六の宮の姫君 (創元推理文庫) (創元推理文庫 M き 3-4)
- 東京創元社 (1999年6月20日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (283ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488413040
感想・レビュー・書評
-
これをミステリーと呼ぶのかどうか?大学の卒論でヒロインが友人・正(しょう)ちゃんこと高尾正子、江美ちゃんたちと芥川のこの作品を研究し、菊池寛の同名作品に到達する。二人の作家の交友と微妙な関係を探し当てていく書物探索の旅という小説。そして実は北村氏自身の卒論でもあったという解説!「男もすなる」土佐日記が登場するが、北村氏自身が紀貫之を真似たかのよう!
詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
佐藤夕子氏の解説によれば
この「六の宮の姫君」は作者が
早稲田大学第一文学部時代に
ものした幻の卒業論文のタイトル
という側面も事実としてあるそうだ。
この作品は普通のミステリー愛好者
にはお勧めしにくいが、大学で国文を
専攻しようと考えている人や、さして
考えもせずに国文学科に入ってしまい、
卒業論文なるものを書くということが
どういうことかも皆目見当すらつかない
という気の毒な人になら、お薦めできる。
ただし、シリーズ一作目から虚心に、
ただ作品の謎解きの論理展開を楽しみ、
その手法に少し慣れ、かつ面白いと
思えた人にだけ。
国文学の研究とはこのようなものだ。
人に与えられた問いかけではなく
文献を読み漁り、資料や史料にあたり、
観察に次ぐ観察を積み重ねる中で、ふと
浮き上がってくる謎。
それまで無闇に行ってきた「読む」と
いう作業に、少なくとも順路と出口が
あるかもしれない闇を手探りで進みつ
戻りつするだけの知的興奮とほのかな
期待が伴うようになる。
それを楽しいと思わない限り
国文学研究などという選択は
過ちだと思った方がいい。
どれほどの確信と自負を持って
このレビューを書いているか?
この作品が私の国文学科在学当時に
出版されていたら…私はもっと
謎解きを精緻に行いつつ、それを
心ゆくまで楽しめたろうに…。
そんな仮定法過去で悔恨を口にする
ほどに。
国文学研究の道筋がそのまま
ミステリーの王道をゆく。
稀有な名著だと私は思う。
小説家にしか書き得ない研究指南書。
私はこの作品に没入して
半日を過ごした。 -
難しいけど読みやすい。
-
やっぱり今回は難しい。
分かったのは菊池寛の作品に触発されて芥川龍之介が新たに書き下ろしたこと。キャッチボール。 -
「私と円紫さん」シリーズ、第4弾。
3冊目に続き、こちらも長編。
“私と卒論”
だんだんと成長していく「私」
恋愛なんて汚らわしい、そんな時間があったら本を読む…みたいな感じだった初期の「私」に比べると、ずいぶん色気づいたものだと思う。
いや、大学4年にして未だ“恋に恋する”ような段階であるのだが…
そこが「私」らしい。
さて、この本はどっぷり文芸である。
まるで、芥川龍之介と菊地寛が主人公の話を「私」が語っているような感じだ。
解説にもあったように、『研究』というものも、謎解きなのだ。
それが推理小説として、創元社から出ているというのも凄いのだけれど…
非常に難しかったです、と正直に言いましょう。 -
「文学部か、いいなあ」
「なぜです」
「思い残すことがないでしょう」
大学生の主人公が友人からこう言われる。本編のストーリーとは関係ないけど「好きだから文学部なんでしょ」。羨ましいセリフだ。後先考えて学部選択する昨今の風潮は嫌いだ。大学は知的好奇心に奉仕する場所なんだと信じてる。
しかしタイトルからして芥川がテーマになっていることは自明なのだが、それが分からなかったボクには高尚すぎるな。 -
芥川龍之介作の六の宮の姫君と菊池寛の謎解き
教科書で知ってるが、極一部しか読んだことがない。
が、読んでみようと思う。
円紫さんが今回は手助けだけで、私が謎解きをするのも楽しめる。 -
そしてシリーズ最高作。
六の宮の姫君と男、
芥川龍之介と菊池寛、
わたしと円紫さん
王朝、近代、現代の時間を越えてドラマの歯車がぴしりと噛み合う。 -
何と芥川龍之介と菊池寛の謎を解くという高尚な話。分からないことが多いのが悔しい。でもやめられない。芥川を読み直すかな。
-
最終学年を迎えた「私」は卒論のテーマ「芥川龍之介」を掘り下げていく一方、田崎信全集の編集作業に追われる出版社で初めてのアルバイトを経験する。その縁あって、図らずも文壇の長老から芥川の謎めいた言葉を聞くことに。「あれは玉突きだね。…いや、というよりはキャッチボールだ」―王朝物の短編「六の宮の姫君」に寄せられた言辞を巡って、「私」の探偵が始まった…。
-
最近出た『太宰治の辞書』が、シリーズの続編だと知り、少し再読のペースをアップ。
やっぱりこのシリーズの中で、これが1番好きだ。 -
卒論をミステリの題材にしてしまう北村さんに敬服。これまでのシリーズとは毛色が違って、「私」と一緒に本当に芥川と菊池を追いかけ回し、卒論を書き上げてる気分でした。これが北村さんの意見なんですかね。私自身も国文学専攻で卒論を書いたので(芥川ではないです)懐かしくもありました
-
芥川龍之介の謎にせまる長編でした。
テーマとなった専門的分野については、私の力では理解できない部分もありましたが、様々な資料を使って、謎を解いていこうとする私の姿勢には目を見張るものがありとても勉強になりました。 -
就活と卒論をやっと終えたタイミングだと「勘弁して下さい」。先生に説教されてるみたいだ。
北村薫による作品・作家論。芋づる式に文献を辿る。予感を裏付ける本に出会う喜び。小説であるのは分かるけど「私」の背後に在る作者の気配が濃すぎる。それとは矛盾しつつ「私」の自意識の生々しさにもあてられるし、自分の無知も思い知らされるしで疲れた。
文学作品研究は謎解きであり先行論に積み重ねるオリジナルである。ロマンチストじゃなきゃ出来ない作業で、想いが込もった批評は面白い。卒論時の悩み苦しみとか、多くにされる「何で文学部にしたの?」という質問がふとよぎったりして、そういう意味で色々思うところのある『六の宮の姫君』だった。
「私」の姿は文学部の理想コースでうらやま。 -
読み応えがあった!
-
坂木司さんの「先生と僕」で出てきた作品です。芥川龍之介が六の宮の姫君について「キャッチボールいや玉突き」と言ったと聞いたところから始まる言葉の真意を探るミステリー♪ミステリー?いや、でもどんどんと真意に迫っていく様はミステリーのようでした。きらびやかな文豪たちの書簡などを通して疑似体験できる当時の世界が昔の事なのに新鮮でワクワクが止まりませんでした。文中の会話は古い言葉もありますが警戒で生き生きしていて、とてもお洒落に感じます。好き嫌いはあるようですが私はとても楽しめました。菊池寛を読みたくなります。
-
こんな本がちゃんと理解して読めるような人間になりたいです。
こんな本が、ちゃんと理解して読めるようなそんな人間になりたいです。芥川や菊池の時代を理解して(ここまではできるかも…)それを記憶してつなぎ合わせるという作業は、ワタシにとってはなまなかな事ではありません。どんどん記憶できるそういう頭脳を持ちたいです。
帯に「芥川龍之介」と書いていましたが実はこの本の主人公は菊池寛。この人の人柄や芥川賞、直木賞について楽しく読ませていただきました。また、「好評のシリーズ第4作」ともありましたが、北村薫さんの本を、この作品の前作3編を、読むにはなかなか勇気が要ります。でも、もし気持ちが乗ったらチャレンジしたいと思います。 -
ミステリという言葉の多様性がために、本作が求めていたものと違うと思う方も当然いらっしゃるのだろう。
私は、なんて地に足のついた日常ミステリなんだと思った。これまで円紫師匠シリーズは、謎解きよりも、文章の美しさや、時にぞくりとするほど見え方を変える世界の描写の巧みさを味わってきたので、謎解き自体を主体として楽しんだことはなかったからだ。
世界は謎に溢れていて、それを解き明かす研究は、とてもスリルある探偵だった。
作者と主人公が同化していて、どちらの台詞なのか作中でも分からなくなってくるのも面白い。(かっこ書きのところとか、特に。)
いろんなことを知って、楽しめる人間になりたい。主人公の新たな旅立ちと重ねて、そう思った。