- Amazon.co.jp ・本 (487ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488425111
作品紹介・あらすじ
「赤痣の女」をはじめとする、警視庁鑑識課技師・緒方三郎もの全短篇などの本格推理作品を収録。
感想・レビュー・書評
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警視庁鑑識課技師・緒方三郎シリーズを含む短編集。
大変読み応えがありました。
タイトルの作品よりも印象に残った「涅槃雪」、解説によるとやはり名作らしく、雪の果て(涅槃雪)がちらつく山寺を舞台に、戦争によって浮き彫りになった三角関係の悲劇的な終わり。その描写の鮮やかな暗さが忘れられません。
文章にこだわった大坪が、描写に悩み苦しんだ跡が実を結んでいます。
終戦直後の煮詰まった人生の重みが犯罪そのものよりも重く伝わる話が多く、軽く読み流せる推理小説ではありませんでした。
また解説もどれも素晴らしく、後半は作家として不遇だったという大坪その人にも興味が湧きました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
収録作どれも優劣付けがたいが、「涅槃雪」「大師誕生」が好み。単純にトリックではなく、ドラマ性込みで読ませる感じが良いですな。
一方で「幽霊はお人好し」ではコメディタッチに楽しませてくれたり、ショートショートサイズの「浴槽」では大阪圭吉を彷彿とさせる鮮やかさでこれまた面白かった。 -
返却期限が迫っていたため慌てて読んだ。
買ってじっくり読むべきである。いずれ買う。 -
「赤痣の女」
「三月十三日午前二時」
「大師誕生」
「美しき証拠」
「黒子」
「立春大吉」
「涅槃雪」
「暁に祈る」
「雪に消えた女」
「検事調書」
「浴槽」
「幽霊はお人好し」
「師父ブラウンの独り事」
「胡蝶の行方――贋作師父ブラウン物語――」
凝り性らしい文体は、流麗で読んでいて感心させられる。
ただ一気読みではなく、時々一遍読むくらいのペースで良かったかも知れない。
何となく意外だったのが、作中でよく登場するトリックのタイプ。文体が生み出す雰囲気からこういったものが来るとはあまり思わなかった。特に「三月十三日午前二時」。あんまり解ってなかったり。 -
乱歩が『凝り性の遅筆家』と評した、『戦後派の五人男』のひとり、大坪砂男。こういうリズムの文体でぱっと浮かぶのは久生十蘭だけど、大坪砂男はもうちょっと落語っぽいというか、音読した時に気持ちよさそうなリズムを持っている。
収録されている短編はどれも面白かったけど、書簡体を利用した『三月十三日午前二時』がユニークで印象に残った。他には『涅槃雪』『暁に祈る』『検事調書』辺りが好みだが、『幽霊はお人好し』のユーモラスな語り口調も捨てがたいところ。
小説の他に和田周、谷崎終平、澁澤龍彦、窪田般彌の解説が併せて収録されている。久生十蘭を絶賛した澁澤龍彦なら、確かに大坪砂男も好きそうだ。