叫びと祈り (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (334ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488432119

感想・レビュー・書評

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  • はぁ〜
    すごいなぁ〜

    何が凄いってその文章力が凄い。
    新人とは思えないよ。
    読みやすいのに叙情的な文章で、異国の荘厳で牧歌的な雰囲気がひしひしと伝わってくる。
    深水黎一郎の短編『北欧二題』や『蜜月旅行』なんかを彷彿とさせる。

    肝心のミステリについてなんだけど…
    これまた凄い。

    まず『砂漠を走る船の道』
    砂漠という言ってみれば広大な密室の中で起こる連続殺人。
    一見無意味に思える殺人の動機が凄まじく、読者を圧倒する。とある仕掛けも寂寥感溢れる幕引きにすることに一役買っている。

    『白い巨人』はミステリとしては小粒だが爽やかな結末で魅せてくれる。

    『凍れるルーシー』だが、こういった味のものも書けるのかと驚いた。
    ミステリとしてもかなりのでき。

    『叫び』は冒頭の『砂漠を走る船の道』で見せてくれた驚きを違った世界で再現している。
    エボラ出血熱という今現在タイムリーな題材で、ほうほう、空気感染はしないのか。と少し勉強にもなったり。

    そしてラストを飾る『祈り』
    ミステリとしてより斉木青年の物語を締めくくる為の作品といったイメージ。
    今までの物語を振り返り、新たな門出を祝福するかのような幕引きには感慨深い思いさえ湧きます。

    あぁ…
    こんなにも長文の感想を書いたのは久しぶりだよ…
    それだけ衝撃的な作品だったってことかな。
    間違いなく傑作!

  • 海外を舞台にした雰囲気のある連作短編集。期待したが面白くはなかった。

  • 点と点をつなぐ旅は記憶に繋がる。

  • 目次より
    ・砂漠を走る船の道
    ・白い巨人(ギガンテ・ブランコ)
    ・凍れるルーシー
    ・叫び
    ・祈り

    ミステリなのであまり内容に触れられないけれど、これだけは伝えたい。
    日本人の常識に捕らわれている限りは、決して解けない謎がこの本には溢れている。

    『砂漠を走る船の道』では広大な砂漠で、『凍れるルーシー』ではロシアの人里離れた教会で、『叫び』では文明社会から隔たったアマゾンのジャングルで事件は起こる。
    「なぜ?」
    犯人が明らかになったとしても、「そんなことで?」

    異文化の、大きな大きな壁。
    理解できない。納得できない。
    犯人がわかったって、事件が解決したとは言えない。

    “「どんなに理不尽でも現実は残酷で、どんなに祈っても思いは届かない。常識はたやすく砕け散る。永遠に分かり合えないで殺しあう人間もいるし、分かり合った人間を殺すやつもいる。それが現実だ」”
    その現実に押しつぶされそうになったとき、人は叫ぶ。
    そして、祈る。
    心を折られても、現実に立ち向かわなければならないから。

    普通に殺人事件を解決するだけのミステリとしては、文章が甘い。
    叙述トリックを仕掛けようとしているところがはっきり見えるし、「いやいや、そりゃ無理だろう」と、ミステリのお約束をもってしてもそんな突込みをしたくなる部分もある。

    けれどもこの作品はそういうことを書いているんじゃないんだな。
    自分の常識(日本人の常識)がひっくり返されたとき、どれだけそれを受け入れられるのか。
    世界の広さと多様性を見せつけられて、叫びだしたくなったり、祈ったり。
    地に足の着いた落ち着いた文章と、圧倒的に説得力のある世界観にくらくら。
    すごい経験をさせてもらいました。

  • 読み終わって、思わず溜息をついた。それは話がつまらないだとか、とんでもないトリックにどっきりした、とかではない。純真たるミステリー小説において、ここまで文章を美しく書けるのかと驚く、感嘆の意である。
    こういうとなんだか語弊があるような気もするので大前提としていうと、もちろんストーリーそのものも面白かった。後付のようで申し訳ないが、ミステリーはミステリーとして面白くなければ文章がいくら美しかろうとよい作品とはいい難い。なのでストーリーが面白いのはあくまで前提。そのストーリーを彩るスパイスとして、文章の美しさがある。それにしてもこの作品にはそのスパイスがとびっきり効いていた。
    主人公は海外に関する雑誌を発行する出版社に勤めいている斉木。その彼が取材として訪れる国の先々において巡り会う謎が物語を形成する。
    中でも砂漠のキャラバンに襲いかかる連続殺人の謎を描いた『砂漠を走る船の道』、死後250年経っても死体の腐らぬ修道女リザヴェータのいる修道院で起きた悲劇にまつわる『凍れるルーシー』。この2つは是非とも読んで欲しい。読み終わったらつい溜息が出てしまうだろうから。ただ読まなきゃわからない作品価値が魅力のほとんどを占めているので、ストーリー紹介はこんなとこにしておこう。
    この作品の何が凄いって、作者の文章力が織り成す色彩の豊かさだ。計5つの話が入っているのだが、これら全部の色が違う。色々な国々での、という設定がこれほど生きた作品はない。登場人物たちと共に思わず色々な国を探検した気分になるのは、脳内にその豊かな色彩のおかげで無意識にでも情景描写が思い浮かぶからだろう。
    さらに肝心のミステリーのテイストも全然違う。古典派謎解きものから叙述トリック、人間の精神からなるちょっとしたホラーテイストまで上手い案配で配置されているからズルい。これがデビュー作品だというのだから梓崎優、恐るべし。
    残念ながら、2016年現時点において、梓崎さんの作品はこの『叫びと祈り』と『リバーサイド·チルドレン』の2つしかない。しかしこれだけの文章力を持つ作家だ。いつかミステリー界を唸らせる大作を引っ提げて来るに違いない。それまでに、是非ともこの作品を一読してみては如何だろうか。

  • このミスベスト10、2011年版3位、本屋大賞2011年6位。良質の小説。独自性の高いテーマ、意外性のあるストーリー、高尚な文学的表現、工夫を凝らした構成。連作短編集だけど全体が一つのストーリで構成されてる。お話も面白く飽きさせない工夫があるのですが、自分にとっては少しリズム感に乏しく、一気読みといった感じではない。こんなのが好きっていう人もいると思うけど、若干難解で読みにくい。読んでるときに意識を失ってしまうこともたびたび。村上春樹とかも毎年文学賞候補なるぐらい文学的だと思うんだけど文章はとても読み易いですよね。もう少し平易な文章で文学的な香りを出してもらえるとありがたい。まあ、こういった丁寧に作られた本は、読む方ももう少し落ち着いてきちんと正対して読めばまた異なる感想になったかも。細切れの隙間時間にバタバタと消費するような読み方ではもったいなさすぎるのかも。特に最近は何かとバタついてたし。

  • 独特、ですね。文体も、取り上げている題材も。

    世界各国を旅する斉木が、訪れた先で出会う事件。どれも、「極限状態で」「その場所でしか起こりえない」物語ばかりの短編連作。

    衝撃的だったのは、1作目。なるほど、国によって、民族によって、環境によって、そしてそこではぐくまれた人とその文化によって、「常識(価値観)」というのはここまでも違うのか、と。日本人の生きている世界はなんて狭くて平和なんだろう。

    そう思い知らされたのに、2作目以降でも同じように引っかけられる。

    ただ、最後の1篇がどうもすっきりしない。それまで描かれてきた様々な物語を、斉木個人の背負う「彼の生」へ収斂していく作りなのでしょうが、今一つわかりにくいというか、まわりくどいというか、謎めいたやりとりに終始してしまった印象。

    いずれにしても、どれも異世界のような不思議な余韻が残ります。描かれている舞台とそれを描写する文章の相乗効果なのだと思います。

  • 描写、構成、文章が緻密で濃厚。短編の一編一編がエスプレッソコーヒーの味わいのような。
    短編で描かれるシーン以外の部分を想像させる奥行きもいい。
    文章は抑えめで理性的。それでいて詩的でもある。

    ミステリの連作短編というと、一話完結のTVドラマのような物足りなさを感じがちだが、これは世界観を楽しめた。
    基本的には密室のような限定条件下の殺人ということになる。不可能な密室殺人ではなく、条件的に限られた場所で、複数人が介在し「この中に犯人がいる!」というもの。
    その「密室」の作り方が良い。

    広大な砂漠、どこかに誰かが潜むはずのないあからさまな場所。少人数の隊商内で起こる殺人。
    霧に包まれたロシアの正教修道院、または町から数時間かかる熱帯雨林の少数民族の集落。

    「こういう理由と条件があるから、ここには誰もいないはずだ」という無粋な説明はない。
    ただ、他に人はいないんだということを感覚的に知らせてくれる。
    「こういうやりとりがあったから、あの人があやしい」という余計な情報もない。
    ただ、そこにあった感情の動きが後で知れる。
    短編だから、何もかもは説明しない。けれど、そこに余白の美を感じた。

    作風が好みだったので★5。

  • 世界を又にかけるジャーナリストの斉木が各国で遭遇する事件の連作短編集です。
    その場所でないと成り立たない舞台で、その場所故の価値観により起こる事件の数々。納得するには場所の描写が欠かせません。色や空気感の表現にかなり力を入れているのは分かるのですが、抽象的なイメージで止まってしまって、そこから想像ができませんでした。動機についても、その場所特有の考え方により起こしたというよりは、大した理由なく被害者が増えていくミステリに慣れてしまっている読み手からすると「こんな理由でも殺せるよね」と作られたもののように感じられます。砂漠の事件では本筋と関係ないところで疑問が残り、スペインの事件ではトラップをあちこちに仕掛けすぎているのが目につき、さらには文章や言葉の使い方などに違和感を覚え、これは外したかなぁ?と思ったのですが。
    偉そうな言い方をさせてもらうと、後半の「叫び」と「祈り」で一気に化けました。著者が言いたいのはこれだったのかと。よくぞこの流れを作った。自分が自分である以上、どうやっても求めずにいられない理想や希望を追っていこうとする、まるで著者の決意表明のような二章でした。

  • 5つの短編から成る物語である。最初の1編はよかったが、残りはオチが微妙だったり、トリックがやや難解だったりして、微妙でした。ただ、解説で瀧井さんがおっしゃっているように、「文章の美しさ、豊かさ」が感じられます。読者を酔わすような表現が随所にあるのです。5つの短編はそれぞれ毛色が違うので、ミステリーをベースにした、ファンタジーや青春ものの話を書くことも今後おそらく試みてくるのではないかと個人的に推測しています。

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