冒険小説論: 近代ヒーロー像100年の変遷 (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社
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感想 : 2
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  • Amazon.co.jp ・本 (640ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488488116

感想・レビュー・書評

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  • 北上次郎『冒険小説論 近代ヒーロー像100年の変遷』創元推理文庫。

    本の優れた読み手として、数多くの優れた書評を残し、2023年に逝去した北上次郎が8年の歳月を掛けて執筆した労作にして、大傑作。

    1993年に早川書房より刊行された同名作の最終版である2008年刊行の双葉文庫版を底本に復刊。第47回日本推理作家協会賞受賞作。

    改めて北上次郎の鋭い感性と読書量の凄さに驚愕した。冒険小説の捕らえ方一つを見ても、単なるヒーロー物の娯楽小説として括るのではなく、時代背景や歴史、文化を酌み取り、冒険小説を文学史の高みにまで押し上げている。そういう点で本作は北上次郎が語る冒険小説論というよりも、冒険小説史といった色合いが強い。


    第1部は、ロバート・ルイス・スティーヴンソンの『宝島』から紹介される海外の冒険小説。自分が冒険小説を意識して読んでいたのは1970年代以降の作品からだろう。本作にもジャック・ヒギンズ、ギャビン・ライアル、アリステア・マクリーン、クレイグ・トーマス、ディック・フランシスと懐かしい作家が紹介される。

    第2部で、中国の『水滸伝』を紹介し、滝沢馬琴の『南総里見八犬伝』との関連が描かれる。

    第3部は、いよいよ日本の冒険小説の紹介なのだが、時代小説、剣豪小説、少年向け小説などを経て、ようやく大藪春彦、西村寿行、北方謙三、船戸与一といった馴染みのある冒険小説作家が登場する。締めを飾るのは夢枕獏で、『餓狼伝』『獅子の門』といった格闘冒険小説の他、将棋の真剣師を描いた『夢果つる街』が紹介される。


    自分は、北方謙三のハードボイルド小説を全て読んだが、比較的初期の作品である『逃れの街』が一番気に入っている。北方謙三がハードボイルド小説から時代小説へと転身したことが残念でならない。最近、馳星周もピカレスク小説から時代小説へと転身しつつあるのが気に掛かる。

    船戸与一も全作読んだが、最初に読んだ『山猫の夏』に大きな衝撃を受けたことを覚えている。

    夢枕獏の作品もかなり読んでいる。未完の『餓狼伝』にやきもきしつつ、完結した『獅子の門』『東天の獅子』には満足している。個人的には夢枕獏の最大の傑作は『神々の山嶺』ではないかと思っている。

    本体価格1,500円
    ★★★★★

    • 土瓶さん
      「神々の山嶺」いいですね。記憶がちょうどよく薄れているので読み返したいところです。
      「魔獣狩り」シリーズ
      「涅槃の王」
      あ、「風果つる...
      「神々の山嶺」いいですね。記憶がちょうどよく薄れているので読み返したいところです。
      「魔獣狩り」シリーズ
      「涅槃の王」
      あ、「風果つる街」なんかもいいな~^^
      2024/03/03
    • ことぶきジローさん
      『魔獣狩りシリーズ』も面白かったですね。夢枕獏はかなり読んでいます。
      『魔獣狩りシリーズ』も面白かったですね。夢枕獏はかなり読んでいます。
      2024/03/03
  • 2024/3/6読了。
    本をたくさん読む人なら分かると思うけど、読んだ本は自分の読書歴の中に位置付けられていって、自分の中にたくさんの本をパーツとする文脈、自分なりのコンテキストが形づくられていく。
    それを書評家が「宝島」「水滸伝」「南総里見八犬伝」まで遡り、文献も合わせて引きながらきちんとやると、ある種の文学史と呼んで良いもの、生きた文学史とでも呼ぶべき評論になるのだなあと思った。これはそういう本。
    特に冒険小説のようなエンターテインメントの文学史というのはあまりないと思うので貴重。本書自体が読んでいて滅法面白いエンターテインメントでもある。

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著者プロフィール

1946年生まれ。東京都出身。明治大学文学部卒。エッセイスト、文芸評論家、編集者。本名:目黒考二(めぐろ こうじ)。ジャンルごとに異なるペンネームを使用。私小説の目黒考二、ミステリー文学評論家の北上次郎、競馬評論家の藤代三郎(ふじしろ さぶろう)など。2000年まで「本の雑誌」の発行人を務める。 2011年「椎名誠 旅する文学館」の初代名誉館長に就任。主な著書に『書評稼業四十年』『冒険小説論』『息子たちよ』『余計者の系譜』『エンターテインメント作家ファイル108 国内編』『感情の法則』『記憶の放物線』などがある。

「2021年 『阿佐田哲也はこう読め!』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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