心地よく秘密めいたところ (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (434ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488548018

作品紹介・あらすじ

「ぼくは死んでるんです」マイケルは言った。「分かってますよ」レベック氏はやさしく答えた。ここはニューヨークの巨大な共同墓地。彼は十九年もの間、死者たちの話し相手としてここに暮らしてきたという。孤独に怯える彼らが、何もかも忘れて漂い去っていくのを見送りながら…。生と死の間をほろ苦く描く都会派ファンタジー。著者がわずか十九歳にして世に問うた永遠の名作。

感想・レビュー・書評

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  • モラトリアムな中年男の話と言ってしまうと身も蓋もないのだが、この物語は「この世に救済はあるのか?」ということにつきるのだと思う。

    この作者の他の作品「最後のユニコーン」、「風のガリアード」も佳品。

  • 仲畑貴志推薦 墓地が舞台

  • 2017.1.15 日経新聞「文化」中畑貴志
    「正月用、書籍選び」

  • #浴室、鉄塔、肘掛椅子、樹上、エレベーター、ボーリング場。ヘンテコな場所から出てこず、けれどひきこもりと言うにはやけに活動的で、創意と工夫に充ちた生活を送る作中人物たちが好きで、そんな作品を見るたびに脳内コレクションしている。本作はニューヨークのミニチュアのような共同墓地に19年間住み続ける男と、そこに眠る死者たちとの交流を描いた作品。悪態をつきながらレベック氏に日に二度の食事を運ぶカラスや、クラッパー夫人の「かぶってますとも」のキュートさ、全体の奇妙に老成した雰囲気は、どこか須藤真澄の初期作品を思わせる。

    #以下、自分用ブックマーク。P79「きみときたら、葬式も終らないのにまるで、ゼラニウムの新芽みたいに出てきちゃったじゃないか」、P138「すべての生物は二つの基本要素で構成されている」「目的と詩だよ」、P203「たった今お産したばかりの女たちの目によく見かける」「眠そうな、独善的な表情」、P345「それは真実じゃないわ。あなたは親切で、そしてやさしく、それに朝ご飯や日没なんかと同じようにちっとも邪悪じゃない」、P369「あ、なあるほどな、電球みたいにひねられてるぜ、あんたは。あばよ」
    P73「嘘をつくのと、さようならを言うのが大嫌いだ、と彼は思った。なぜなら、どちらもあまり上手じゃないんだな」

    (2009/08/25)

  • かなしさとやさしさと希望に包まれた作品。
    メレンゲのように頼りないものである愛を取り扱うために、彼らは我々はどう動くべきか。
    ところどころ作者自身の哲学がマイケルによって語られる。少々理解し難いところもあれば心に訴えるものもあり。マイケルとローラの刹那的愛の永遠性と、レベック氏とクラッパー夫人の哀しきかな、俗性を帯びた愛の対比。つまりそれが肉体と精神の差なのかもしれない。
    私はカンポスのような人でありたい。
    皆で歌う楽しい夜のシーンが好き。その夜に対するマイケルの思いを含めて。

  • 死者が見えたり、会話できたり、
    鴉に養われて話ができたり墓場に20年近く生活したり、現実の世界ではない虚構の中で、
    肉体を失った死者は
    純粋な理性と感情を個人で顧みるしかないなかで、
    生きている者は死者の思い出(理想)と
    生者の現実のなかで、
    死者と生者の狭間に閉じこもった者は
    過去や自己の保全に足を取られすぎて、
    こじらせた中で、世界の中で生きる(生まれ変わる)
    ことを取り戻す(何かを捨てて後に置いていく)、
    二つのラブストーリーが脇に流れる物語。
    レベック氏の世界に対する怖れ、
    自分を守る頑なさ、何か他の作品で見た気がするけど
    思い出せない。
    世界にとってとるに足りない自分であることは
    あたりまえなのに、向き合ってくれるひとにとって
    おなじ反応でいいのか、いやよくない。

  • 東京創元社の2014年復刊フェア書目。
    墓地を舞台にした静謐なファンタジー。ややセンチメンタルな気もするが、作品の雰囲気には合っていると思う。
    解説によると、著者19歳の作だそうだ。まだ10代の若者がこの完成度の作品を仕上げたのは凄いが、作品の持つある種の潔癖さや叙情性は10代の感性ではないだろうか。

  • 事前にタイトルしか知らずに手に取った作品。本編の読後、解説をに目を通して驚いた。まさか50年以上も前の作品だったとは。今でも全く古さを感じさせない。
    作品の端々からうかがえる作者の死生観が興味深かった。死んだ後、元の姿のまま、幽霊はその場にぼんやりと立っている。時間と共に記憶が徐々に零れ落ち、それにつれて存在そのものが空気に溶けるように透明になっていく。
    人を「その人」たらしめているものは何だろう、と時々思う。その要素の多くは、過去の経験や記憶ではないかと思う。これまでの記憶を全てなくし、最初の状態にリセットされたとしたら、それは果たして「私」なのだろうか。
    私は忘れることと、忘れられることが何より恐ろしい。だからどうでもいいことでも無駄に記憶に溜め込んでいるところがある。だから、こんな風に経験や過去が徐々に失われていく時、平静でいられるとは思えない。自分の肉体がこの世を去る時、記憶も同時にぷつんと途切れる形で、旅立ちたい。透明なものではなく、色づいた何かのまま、去っていきたい。

    こんな風に書くと宗教色の強い作品だと思われそうだが、そんなことはない。大きな事件のない、淡々とした話だが、タイトル通り「心地よい」読後感だった。何だかこの本を読んだせいで、鴉が憎めない存在に映ってきた。鴉はそのくらい魅力的な登場人物だったなあ。

  • 事業に失敗して以来19年間幽霊と鴉を話し相手に墓地に
    隠れ住んでいる男の物語、と書いてしまうと身も蓋もないですが
    ほんわかとした不思議な雰囲気に包まれた、純文学的な
    ファンタジィです。

    自分が死んで消えていくのを認めたくない男とは対照的に
    人生に執着も無く若くして死んだ娘、皮肉な哲学を語る鴉と
    外の世界を恐れ墓地に引き籠り続ける男の静かな暮らし。
    そして夫を亡くして間もないお節介な婦人との出会い。

    驚くべきことにこの物語は作者が19歳の時に書かれたもの
    なのだそうです。「只のものはない。もし君に友人があるなら
    遅かれ早かれ友人を持った代金を支払わねばならなくなる。」
    なんて言葉が幽霊によって語られたりします。

    世間を拒絶し孤独に慣れ切った主人公が、友人を持って初めて
    幽霊の世界と現実の世界との狭間で揺れ迷うことに。
    私が生まれる前の作品ですが、時代を超えた価値のある
    純粋かつ深遠な珠玉の物語です。

  • 広大な墓地をさ迷う、幽霊たちの物語。

    それだけ聞くとホラーなようですが、このお話をつつんでいる雰囲気は粋で、穏やかで温かみがあって、それでいて人や町の明暗、時間の過ごし方をよく捉えてあります。

    こんなカラスさんと語り合ってみたいなぁ…
    カレはいやがるだろうけんどもっ


    出かける度に何度も何度も読み返しています。

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