処刑人 (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488583057

作品紹介・あらすじ

ある日曜の夜。独善的な父親が開いたホームパーティで、ナタリーは見知らぬ男に話しかけられ、そのまま森の陰へと連れ込まれた。(たいしたことじゃない、何もかも忘れよう)おぞましい記憶を抑圧する彼女はカレッジの寮でもなじめず、同世代の少女に対する劣等感と優越感に苦しむ。やがて、トニーと名乗る少女との出会い、ナタリーは初めて他人に安らぎを見出すが……病んだ幻想世界と救いのない現実が交叉する、ジャクスンの真骨頂とも言うべき傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 昨年がちょっとしたジャクスン作品の翻訳ラッシュになったこともあり、手に取った。

    高校を卒業した良家の子女が、大学に入学して学生寮に住まうようになったことから遭遇するあれこれ。

    学生寮での新入りに対する当たりの強さ、イケメン先生への憧れ、学生から教師の妻になった女性への揶揄、仲良くしたいわけではないが一緒にいてしまう学生…と、読むと、実感を伴っていじいじする感覚が押し寄せてくる。うわーっ、自分にも少なからずあった、10代女子(じゃなくとも)学生あるあるだわー。そこで「ついていけない!私はこんな俗物たちと一緒にしないで!」と思いつつ、引きずられるエミリー。しかも、どれもが流行に過ぎず、くるくると話題が変わっていくさまも、エミリーの「ついていけない」を増幅するのだろう。ちょっとめんどくさそうだが知的なお父さんとの手紙のやり取りがガス抜きになっているのかもしれないが、個人的には、それが本当にガス抜きになっているのかどうかわからない(趣向は凝らされており、知的な遊びの様相を呈しているものの、ただ単に親への報告義務を果たしているだけに見える)。たぶん、いろいろとジャクスンの大学での実体験が織り込まれているんだろう。

    こういった息苦しい「学校も友達もめんどくさい、ついていけない感」を振りまきながらも、結末まで読むと、意外と切れがよく、実はまっすぐ芯の通った、少女の成長物語だったということに気づく。まあ、あれがどうなったのかというと、放っておいてはまずい事案だと思うんだけど、ちょっと変わったビルドゥングスロマンとして楽しめた。

    小説家・深緑野分さんの解説が充実しており、著者・作品周辺の情報も補足できるのも大いにプラス。

  • 1946年に起きた女子学生ポーラ・ジーン・ウェルデンの失踪事件に触発されて執筆された、シャーリイ・ジャクスン2作目の長編。おどろおどろしいタイトル(原題「Hangsaman」は直訳だと作中にあるように首吊り役人)、妄想癖のある変わった少女ナタリー、どこかイビツで不穏な家庭、大学の女子寮での不可解な事件、謎めいた友人トニーなど、何か起こりそうで起こらない、でもずっと不気味でそわそわする感じはいかにもシャーリイ・ジャクスンなのだけれど、意外にもラストがハッピーエンド(いや解釈しだいだけれど)ぽくて、少女の成長物語として普通に読むこともできる。というかたぶんそうやって素直に読めばいいだけなんですよね、こちらがシャーリイ・ジャクスンなんだから何か嫌なことが起こるに違いないという先入観を持って読むから不穏になるだけで(苦笑)

    終盤ちりばめられたタロットカードのイメージ、タイトルから連鎖的に思い浮かべる「吊られた男」のカード、しかしこのカードの意味は意外と前向き(修行、忍耐など)で、つまりやっぱり、女子大でのスクールカーストやマウンティング、友達を上手に作れない孤独で妄想癖のある少女が、ある試練を経て大人になる、という成長物語として読んで良いのでしょう。

    深緑野分の解説がわかりやすくて良かったです。なるほど、トニーをイマジナリーフレンドだと仮定して読むとまた様相が違ってくるかも。個人的にはピータージャクスンの映画「乙女の祈り」をちょっと重ねてしまったけれど。いずれにせよここではナタリーは失踪しないで戻ってくるし、消えた(失踪した)のはトニーのほうであり、それは彼女が自らそれを望んだのだからやっぱりハッピーエンドなんだろうな。

  • 「ずっとお城で暮らしてる」が怖くて面白かったので他の作品も読みたくなった。
    この話は、ぼんやりしすぎてて少し難解だった。一体これは何の話なんだろうと思いながら読み進めていたけど、結局最後までぼんやりしたままだった。ナタリーの成長物語、なんだろうなぁ。シャーリィ・ジャクスンの描く「少女の危うさ」はとてもいい。

  • 文体は読みやすいし表現はうつくしいし、空想に没入しがちの主人公の懊悩の過程は読んでいてたのしいのです。そしてウルフの作品みたいに作品全体に妙な緊張感もあります。それにしても、比喩表現と仄めかしと空想世界の描写が渾然一体となっており、巻末の解説を読んでやっと得心した箇所もままあり。私には難しい作品でした。

  • 年末でバタバタしていたのですっかり読み終えるのが遅くなってしまった。
    文遊社からも邦訳が出たが、本書は創元推理文庫版。
    所謂『シャーリイ・ジャクスンっぽさ』は初期作品のせいか薄めではあるが、随所に片鱗は見て取れる。
    文遊社版は割と外側から主人公を見ているような感じがして、それ故の怖さというのがあったのだが、創元推理文庫版は主人公の苦悩や感情に寄り添っている感じで、道を踏み外しかけるような危うさが強かった。

  • 独善的な父親と人生への希望を失った母親の元に生まれた空想好きな少女ナタリー。
    ナタリーは両親との暮らしから離れ、大学の女子寮に入る。
    やっと両親から解放されたと悦ぶのも束の間、同級生や上級生に戸惑うことになる。

    ありがちな成長物語かと思いきや、どことなく様子が異なる。
    文章に多くのメタファーが隠されており、読み方次第で解釈も膨らんでくる。
    そこばかりに気を捉われると、物語そのものを見失ってしまいそうになる。
    こう書くと難しい印象になってしまうが、特に難しい問題を提起しているわけではないため、普通に読んで気づけばそれで良いし、気づかないならそれはそれで問題ないと思う。

    物語全体に比喩暗喩が多いため、幻想的な空気が漂っている。
    好みは別れる作品かもしれない。
    わたしは正直に言うと、そこまで作品の魅力に浸れたわけではないのだが、他の作品はどうなのかという興味は覚えた。
    解説で深緑野分さんが、『ジャクスンの作品に惹かれる者は、魔術に憧れているか、魔女見習いであり、あるいは本物の魔女である。』と書いており、そうなのかもしれないと感じたため、恐らくわたしは魔女に憧れていないし、魔女見習いでもなく、もちろん魔女でもなかったということだろう。

    主人公ナタリーは17才。それくらいの年頃は、自意識が過剰であるのに自己肯定感が乏しく、理想と現実との乖離に戸惑い悩み、腹立たしく感じるものだと思う。
    そういう少女が親元から離れるということは、とてつもない大事件であり、環境に上手く適応できないことも多い。
    そういう少女の様子が、作者の文章によって効果的に描かれていると感じた。

    ナタリーがやっと出会えた友だちと感じたトニー。
    彼女は本当に存在していたのか。
    トニーはナタリーの一部、または理想の具現化ではないのか。
    そう考えたほうが、ラストへ無理なく繋がるように感じた。

    この作品は読むたび、読む時期によって見えてくるもの思うことが変わってくるだろう。
    読者自身の成熟度がわかる作品というものは面白いと思う。
    暫く経ってから、わたしがこの作品から何を読み取るのか楽しみではある。

    こうして献本で、自分では買ってまで読まない作品に出会えることは本当にありがたい。
    生きていれば、この先まだ多くの作品を生み出したであろう作家シャーリー・ジャクスンを知ることができて嬉しい。他の作品も探して読んでみたい。

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