- Amazon.co.jp ・本 (351ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488747039
作品紹介・あらすじ
「深刻に、ぼくはくだらない話を書く必要に迫られていた」――雑誌『トランジスタ技術』を“圧縮”する謎競技をめぐる「トランジスタ技術の圧縮」、〈ヴァン・ダインの二十則〉が支配する世界で殺人を企てる男の話「法則」など著者自ら精選した16編を収録した傑作集、ついに文庫化。吉川英治文学新人賞・三島由紀夫賞受賞、直木・芥川両賞候補など活躍めざましい著者のもう一つの顔。解説:酉島伝法
感想・レビュー・書評
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11月にテレビで放映された『世にも奇妙な物語』の『トランジスタ技術の圧縮』が面白かったのでったので、原作を読んでみました。
時は2036年。雑誌『トランジスタ技術』の広告ページを除いて圧縮する競技の最後の大会が開催された。『アイロン派』 (アイロンで背表紙の表紙を溶かして広告ページを取る派)関本のもとで修行した梶原は、『毟り派』(アイロンを使わずむしり取る派)の坂口と対戦する。
もう、しょうもないネタなのに熱く、お約束の「こんな修行、何の役に立つ?」ネタあり、笑いっぱなしでした。
16の短編があり、かぎ括弧で殺人事件が起こる世界など(かぎ括弧職人、山際の存在がいい)、設定が面白いものから、お父さんが楽しみにしている日めくりカレンダーを勝手にめくったのは誰だ、という日常の謎解きまであります。
物語生成人形と少女の友情物語『アニマとエーファ』は、おふざけナシの心温まるお話。
母国語の物語を聞くことの大切さ、物語生成人形が作った創作物は物語を作らせた人を映す鏡であること、など、考えさせられることがいっぱいでした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
シリアスからユーモラスを通り越して(良い意味で)バカみたいな短編まで、宮内さんの引き出しの多さ、アイディアの多彩さに驚き、そして時に呆れる短編集です。
シリアス路線では「アニマとエーファ」がよかった。少数言語を操って小説を書くロボットを描いた短編。革命や紛争、消えゆく文化への郷愁、数奇な人間たちの運命、小説、そして物語の意味……、ロボットの繊細な語り口と、どこか虚無的な作品の空気感とテーマが何とも言えない余情を残す。『盤上の夜』『ヨハネスブルグの天使たち』など、初期の宮内さんの空気感の強い作品でした。
宮内さんというと、どちらかというと上記したような文学的な雰囲気と、人間の拡張やロボット・アンドロイドを掛け合わせた抒情のあるSFのイメージが自分の中では強いです。
しかし本人のあとがきいわく、そうしたイメージが初期につけられたことにだいぶ苦しんでいたらしく『洒落や冗談の通じないやつだと思われてしまわないだろうか』と深刻に悩み、『くだらない話』を書く必要性に迫られていたそう。
そんなわけで、この『超動く家にて』はどちらかというと、そのくだらなさが印象に残る作品が多かったです。
分厚い雑誌を圧縮する架空競技に人生を懸ける男たちを描いた「トランジスタ技術の圧縮」
競技はよく分からないけど、少年漫画のスポ根物を読んでいるような熱さとお約束を詰め込みつつ、至極真面目に雑誌を圧縮する技術やその大会の歴史を描いているのがシュール。
「文学部のこと」はタイトル詐欺だわ、これ(笑)
自分たちの世界とはまったく違う、文学部のことが延々と語られる短編。文学に対する皮肉もあるのかな。どことなく森見登美彦さんっぽさも感じました。
宇宙ステーションでの野球盤対決を描いた「星間野球」も面白かった。宇宙という舞台を生かした、心理戦あり、イカサマあり、熱さありの野球盤勝負! 自分たちだけのルールを作り、ゲームに興じる様は男子っぽいあほらしさを感じます。「テレビ千鳥」で千鳥が二人だけの企画に興じてるシーンが思い浮かぶ。
そんなあほらしさの中に人生の酸いもかんじさせる。あとがきによると、この「星間野球」をはじめは『盤上の夜』のラストに収録するつもりだったそうですが、もしそうなってたら、宮内さんの作家人生全然違うものになっていた気がする(苦笑)
ミステリ系の短編もいくつか収録されていますが、これも一筋縄でいかないものが多い。
日めくりカレンダーをめくったのは誰か、という日常の謎が描かれる「今日泥棒」は、登場する一家のコメディチックなやり取りが面白い。
駆け落ちしたカップルと二人の二人のヒッチハイカーが何者かに追われる「ゲーマーズ・ゴースト」のドタバタなやり取りがツボにはまりますが、そんなのはまだまだ序の口。
罠、罠、そして罠だらけのまさにバカミスと言うべき表題作「超動く家にて」
ヴァン・ダインの20則が支配する世界での殺人計画を描いた「法則」など、ミステリ好きが悪ノリに悪ノリを重ねたような短編があったかと思いきや、
ついにはかぎ括弧が凶器にまでなってしまう(自分で書いていても訳が分からない……)「かぎ括弧のようなもの」。
架空の都市伝説をwikipedia風に紹介する「エラリークイーン数」など、どれだけ『くだらない話』という強迫観念に縛られていたのか、と宮内さんの心理をおもんばかってしまう……
宮内作品を何冊か読んで、その魅力にハマったならこの『超動く家にて』も読んでもらいたい。さらに宮内作品にはまるか、はたまた理解が遠のいてしまうか。面白さは保証できないけれど。 -
超楽しかった!手元に置いて、頭が疲れたときに読み返したい。
やっぱりゲームものの「トラ技」と「星間野球」が好き。
「トラ技」なんて、最初は愉快に感じた設定が、熱い展開を読み進めていくうちにリアルに感じてくる。真剣にふざけてて、いや、ずっと真剣勝負なのかもしれないけど、面白い。
著者あとがきと解説もよかった。物語と著者の背景が知れてうれしい。 -
いやー楽しい、面白い。
読んでる時はどんな感想書こうかなーとか考えてたんだけど、あとがきと解説を読んだらなんか特に自分が書く事もないかなーとか思えてきてしまった(笑
いやでも本当にあとがきはありがたい。
『クローム再襲撃』の文体がくどいなと思っていたら春樹パロだったのね、とか。
『パン屋再襲撃』も『クローム襲撃』も読んだことないので、そういう意味でもやはりあとがきは大助かりでした。
真面目な作品もあるけれど、ほとんどがおバカな作品。
その振れ幅があっても違和感なくまとまった作品集として読めるのがこの本のすごい所。
大満足の一冊です。 -
く、く、くだらねえええ・・・。と切り捨ててしまうのは惜しすぎる、バカミスおよびバカSFを16編も収めた短編集です。こういう作品ばかり描かれても困るけど、重たい作品ばかりじゃ書くほうも読むほうも精神的にきついだろうし、たまにはいいんじゃないですかね。一本目の「トランジスタ技術の圧縮」やラストを飾る「星間野球」あたりの、しょーもないところに真剣にコストをかけているあたりが結構好きです。ヴァン・ダインの二十則とかシュレディンガーの猫とか、まあ表題作のネタなんかもそうなんだけど、割とマニアックな題材を扱っているので一般人向けには少々敷居が高くなっているのが難点かな。「今日泥棒」や「かぎ括弧のようなもの」なんかはだれでも楽しめると思うけど。しっかしこれだけの多種多様なネタ、よく思いつくなあと感心します。やっぱり宮内さんは天才ですわ。
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宮内悠介は、「盤上の夜」という短編集で初めて知ったのだけれども、大変シリアスなSF短編集でまじめな人なのかと思っていたらこの短編集。
最初から最後まで笑いが止まらなかった。
トランジスタ技術という実在の雑誌をいかに圧縮できるかを競う様を描いた「トランジスタ技術の圧縮」、もうなんて表現したらいいかわからない「超動く家にて」、ウィリアムギブスンの代表作「クローム襲撃」をメタ小説的に村上春樹的にアレンジしてもう何言ってるかわからないけど明らかに村上春樹な「クローム再襲撃」。ほか、本当にくだらない短編ばかり16編を集めている。
この人がすごいのは、発想がくだらないだけではなく、くだらない発想をきちんとこちらに伝える圧倒的な筆力。笑いながら感心してた。
一応SF小説の部類だし、一部元ネタがわからないと「?」ってなるところもあるとは思うけど、それを差し引いてもSFファン以外でも十分楽しめると思う。 -
22/02/07読了
あとがき含めてフィクションの面白さを堪能。好みは、今日泥棒、超動く家にて、エラリー・クイーン数あたり。エターナルレガシーとゲーマーズゴースト、星間野球もよかった。 -
初読み作家先生。
何となく表紙のイメージとオビの「宇宙ステーションでの野球盤対決」の文言に混乱して購入。
自薦短編作品16編を収録。
まず扉のメロスの文章でなんかおかしいぞ、と不安になり、「トランジスタ技術の圧縮」でまた混乱する。
そこからはもう文章の虜。
あとがきが面白い!確かに本編とあとがきで急にテンションが変わるタイプの先生っていらっしゃる。
一作一作にコメントを付されているのも丁寧な印象。
酉島先生の解説で「バカ短編」と切られているが、宮内先生を知る最初の1作品にしてはかなりハジけた1冊のようだ。勘違いしているのも何なのでシリアスな作品に手を伸ばしてみようと思う。
個人的には表題のほか『法則』『スモーク・オン・ザ・ウォーター』『かぎ括弧のようなもの』そして『星間野球』が好き。
建物の図も先生自身が描くものなんですね…。
1刷
2021.5.28