日露戦争を演出した男モリソン 下

  • 東洋経済新報社
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  • Amazon.co.jp ・本 (298ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784492060483

感想・レビュー・書評

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  • まず、著者、ウッドハウス瑛子氏の研究に深く敬意を表します。
    丹念に資料をおい、世界史の中に日露戦争を位置付け、それをタイムス記者モリソンからの視点で描いたこの作品は非常に深い示唆を与えてくれます。

    ーーーーーーーーーーーーーー

    さて、日本の外交を見たとき、不平等条約の改正交渉、日清戦争後の三国干渉、日露戦争後のポーツマス条約(本書P181以降)、そして日独伊三国同盟からの第二次世界大戦突入などをあげて、当時の日本の外交の未熟さ、稚拙さを指摘することは容易であろう。

    しかし、一方でロシアによる旅順港へのスパイ侵入を高い感度で防いだ上海総領事代理小田切万寿之助など、インテリジェンスの領域で大国の向こうを張って活躍した外交官が多数いたことも事実である。
    本書でもカイザーをはじめとするヨーロッパ諸国の意向に紙幅が割かれている通り、当時の極東情勢は欧米諸国による中国、満州権益の争いの従属変数であり、外交の主舞台はヨーロッパであった。

    そんな中、ヨーロッパの複雑怪奇な諸国間の力学を見据えつつ、戦争の終わりを見据えて金子堅太郎を送ってアメリカを味方につけて、事実日露戦争を戦力のギリギリのとのろで講和に導いた外交力はあっぱれというべきであろう。

    こうした戦闘で危険なのは勝ち気に乗じて興奮する国内世論である。(原因を辿れば、軍事の実情の秘匿性と国民世論形成のジレンマにあるのだが)

    ナショナリズムに基づく「国民」の存在は、国家の必須条件であるが、その形作る世論が常に正しいとは限らない。
    軍部、外交、そしてそれを統制する政府首脳は、常に世論をリードし、「国の存続を守る」ことが最大の使命である。

    その点、国の存続が危機に瀕した明治維新から日清、日露戦争を経て、不平等条約の撤廃まで実現した明治期の政治、外交、軍部の力は、日本史上最強であったと言ってよいだろう。

    そして、外交の主舞台がヨーロッパから米中角逐する太平洋、すなわち日本の真正面に移ったいま、軍事力、外交力、そして世論を導く政府首脳の力が、明治期に勝るとも劣らないレベルで切実に必要とされている。

    日本を取り巻く状況は違えど、明治期のような国家への危機意識、大国を向こうに回して戦う力、短期的に沸騰する世論、メディアの論調を制御しリードする力を備えた人材の必要性は変わらない。

  • 1989年刊。下巻。叙述対象は日露戦開戦からポーツマス条約終了まで。◆旅順攻略戦勝利の際、モリソンだけが唯一入城行進に参加できた外国人であったことが、彼の日本軍における価値や位置づけを物語る。とはいえ、従軍が困難な中、北京で多くの女性と浮名を流すなどモリソンの実像を語るのは特徴的。◇一方、ロシア戦争遂行に困難を来させるべく仏国の資金で設立した露清銀行の取り付け騒ぎを画策するなど、英エージェントの役割も存分に。◆日露戦争が清朝を巡る欧米の代理戦争の趣きを持つところ、ドイツの思惑を詳細描写する本書は中々渋い。
    ◆また、外国人記者に従軍させたくない派と、従軍させて好意的報道を引き出したい派の対立、この間で従軍を実現させようと画策する記者らの活動に関する解説は、その後の戦場報道の先駆けの趣き。

  • ついに日露開戦!
    戦争の経過、日本を支援する米英の外交的駆け引き、ポーツマスにおける講和会議の展開、小村寿太郎外相の不手際とロシア全権代表ウィッテの手練手管。
    「戦争に勝って、外交で負けた」と言われた日露戦争の内実を描いています。
    乃木大将の苦戦で有名な二百三高地のステッセル将軍は何故降伏した?
    そして戦後の日本が選んだ道は・・・?
    意外にも、全然関係なさそうなドイツ皇帝ヴィルヘルム2世(当時、世界最大のトラブルメーカーw)が元気溌剌に謀略を駆使してます。

    ニン、トン♪

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