人口減少社会のデザイン

著者 :
  • 東洋経済新報社
3.73
  • (39)
  • (69)
  • (54)
  • (9)
  • (5)
本棚登録 : 1005
感想 : 86
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (316ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784492396476

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 将来世代にツケを回す政策を徹底して批判。
    財源として消費税の大幅なアップを提言している。
    とはいえ、法人税上げなどは効果がないのだろうか。
    死生観とか倫理の話はどうでもいい。
    今のシャッター商店街まみれなのは、アメリカ型の都市政策が成功したから。
    東京集中型か地方分散型の発展か。
    財政、格差、孤立の持続可能性が課題点。

    人口減少にまつわる問題は、日本人ならあまり考えたくもないだろうが、将来世代へのつけまわしを、消費税・相続税・環境税などの強化でやめよう主張している。また、東京への集中から地方分散型のくにづくり実現によって、少子化等の問題の解決をしたいらしい。コロナ前に書かれた本だが、いま現状を見てどう考えているだろうか。これを機に地方分散がすすむとかんがえているのだろうか。

  • 人口減少社会を正面から捉えて、持続可能性を考える。

    地方分散を軸として、財政立て直し、人生前半の社会保障の向上、人口定常化に向けたローカルな経済・社会・福祉のあり方を提言。

  • 突出した高齢化率と世界的に見ても低い出生率の日本。社会保障費の増大を見据えた社会政策の実現について主にヨーロッパ諸国の取り組みを例に解説された本。大学の社会学の講義で使われそうな本ですので、結構、御堅いと感じちゃうかも。

  • コロナ前に読んで示唆豊かな本でしたが、コロナ禍において読み直してみました。

    まず、人口減少社会をとらえる上での基本的な視点が示されます。
    【幸福度の規定要因】
    ・コミュニティのあり方(人と人との関係性)
    ・平等度(所得等の分配)
    ・自然環境とのつながり
    ・精神的、宗教的なよりどころ等
    【時代認識】
    ・人口増加の時代とは「集権化」、あるいは社会の「求心性」が強まっていった時代
    ・「時間軸」優位の時代から「空間軸」優位の時代へ
    【少子化・家族政策をめぐる国際比較】
    ・少子化・家族政策をめぐる国際比較では、①子育てや若者に関する公的支援、②伝統的な性別役割分担にとらわれない個人主義的志向、これらがある程度実現している国で比較的出生率が高い。北欧は両方備えており、逆に日本は両方希薄。
    ・「良き意味での個人主義というものが、これからの日本社会において非常に重要なポイントになる」

    次に、「コミュニティ」や「地域」をめぐる課題とともに、これからの社会の方向性を考えます。
    【日本社会とコミュニティ】
    ・コミュニティには「農村型コミュニティ」と「都市型コミュニティ」がある。両者は人間にとっていずれも本質的で補完的なもの。
    農村型コミュニティ:「情緒的な一体感」をベースとし、強固な結束性をもつ一方、外部に対して排他的
    都市型コミュニティ:個人が独立しながら、そうした個人同士がゆるくつながるようなコミュニティのありようで、理念の共有や公共意識をベースとする
    ・日本は「農村型コミュニティ」に傾斜しがち。例えば、見知らぬ者同士のコミュニケーションが海外では多いが日本では少ない。「集団が内側に向かって閉じる」日本社会における人と人との関係性を、いかに外側へ開かれたものとしていくか(「都市型コミュニティ」の確立)が、もっとも基本的な課題。大きな「関係性の組み換え」の時代にある。
    ・日本では戦後も「カイシャ」と「(核)家族」という「都市の中のムラ社会」がつくられたため、高度成長期には従来型の「農村型コミュニティ」的な関係性が維持された。しかし人口減少社会では、カイシャなどの組織が流動化し、家族も多様化して一人暮らし世帯も急増する中で、「集団を超えて個人と個人がつながる」ような関係性をいかに育てていくかが日本社会の最大の課題となっている。
    【コミュニティと都市】
    ・高度成長期に起きたこと(若年世代の首都圏流入)と逆向きの支援策が必要。地方に移住する若者への基礎的所得補償や住宅支援、農業所得補償など。
    ・日本の首都圏に住むシニア男性へのアンケート結果では、自宅以外の「居場所」として、図書館、公園、「見つからない/特にない」が上位。
    ・ヨーロッパの街は生活の質が高い。高齢者に限らず人々が、ごく自然に市場やカフェなどでゆっくり過ごす。そうした場所が街の中にあるのは、医療施設や福祉施設をつくるより重要な意味をもつ。都市政策と福祉政策の統合、「福祉-環境-経済」の相乗効果という発想が求められる。
    ・その意味で、「歩行者が歩いて楽しめる街」が望ましい。実例として、
    独フランクフルト、独ザールブリュッケン、仏メッス、瑞チューリッヒ、丁ヘアニング
    高松、姫路、熊本
    【多極集中へ】
    ・東京への一極集中が言われる中、札幌、仙台、広島、福岡など人口増加率の大きい地方都市もある。福岡は東京を上回る増加。これを「少極集中」と呼ぶなら、今われわれは「一層の少極集中」に向かうか、「多極集中」に向かうかの分岐点に立っている。
    ・「多極集中」とは、「一極集中」でも「多極分散」でもなく、多極的でありながら各々の極は集約的であるような都市・地域像。これが「人口減少社会のデザイン」の基本思想の一つとして重要。
    【伝統文化の再評価】
    ・全国の神社、お寺は約8万あり、コンビニの約6万より多く、約1万ある中学校区で言うと、校区ごとに神社・お寺が8つずつ存在することになる。
    ・神社・お寺は狭い意味の宗教施設というより、祭りや「市」が開かれる場所としての経済的機能、寺子屋のような教育機能など、コミュニティの拠点的な機能を担ってきた。ヨーロッパでも教会が地域コミュニティの中心。
    【ローカライゼーション】
    ・社会資本整備の「S字カーブ」を明治以降の日本について経時的にみると、鉄道→道路→各種インフラ(都市公園、下水道、空港など)と推移し、成熟・飽和段階に達した。これら工業化時代の社会資本整備は、「ナショナル」な空間範囲に関わるものであり、国家レベルの、中央集権的なプランニングになじみやすい性格。これは、東京を核とするナショナルな集権構造強化の背景となった。
    ・その後、グローバルな性格をもつ「情報化・金融化」の波を経て、今後大きく浮上していく新たな波は、①高齢化の中でその規模が急速に拡大している福祉・医療(ないしケア)、②様々な対人サービス、③自然エネルギーなどを含む環境関連分野、④文化、⑤まちづくりやデザイン、⑥農業等といった領域となる。これら領域は、いずれも一定の「場所」や「コミュニティ」に根ざした基本的に「ローカル」な性格。これからは「ローカライゼーション」が進行する。
    【情報から生命/生活(life)へ】
    ・「情報の消費」から「時間の消費」へシフトする。「生命」がフロンティアないし中心的コンセプトとなる。日常に根ざした「生活」の豊かさや幸福を求めることが、「時間の消費」と重なる。
    ・「情報化」を極限まで伸長させることで人間の未来をとらえようとし、最終的に「生命」を「情報」に還元できるという世界観の、カーツワイル的な「シンギュラリティ」論とは異質な、単なる情報の集積ないしアルゴリズムを超えた「生命/生活」そのものに科学的探究や人々の関心が向かっていくという「ポスト情報化」の展望。

    更に、人類史や資本主義の展開といった、より大きな枠組みの中で新たな時代を展望します。
    ・人口や経済が拡大・成長から成熟・定常化に移行する過渡期において、人間の精神や文化における革新的な変化が生じた。紀元前5世紀前後にギリシャ哲学、インドで仏教、中国で儒教や老荘思想、中東でキリスト教やイスラム教の原型となったユダヤ思想、これらが同時多発的に生成した。これら諸思想は、何らかの精神的あるいは内的な価値・概念を新たに提起した点でそれまでと異なる。そして、近年の「環境史」と呼ばれる分野の研究によれば、森林の枯渇や土壌の浸食といった資源・環境的な限界への直面が、こうした思想登場の背景にあったのではないかとされる。物質的生産の量的拡大が限界に直面し、資源の浪費や自然の搾取を伴わないような精神的・文化的価値の創造・発展への移行、「拡大・成長から成熟・定常化へ」という時代の推移は現在と重なる。
    ・大きな時代のシフトと関連して、著者はポスト資本主義の考察に触れる。「資本主義=市場経済+限りない拡大・成長への志向」という理解のもと、それを支える人々の価値意識や行動パターン、基底をなす思想に言及する。資本主義の勃興期に「私的な悪徳が公共的な利益である」という副題の『蜂の寓話』を著し、私利の追求を積極的にとらえたマンデヴィルが例示される。マンデヴィルの考え方は、経済全体のパイが拡大していくことと表裏一体。これが富全体の拡大しない社会においては、自分の利益追求で取り分が増えることは他人の取り分が減ることを意味し、私利の追求は社会的に肯定されない。このように、規範や倫理は、時代を通じて一律ではなく、その時代の社会経済の状況に依存して生成する。
    ・われわれはマンデヴィル的な時代状況と逆の地点に立とうとしている、と著者は考える。これに呼応して、人間の協調行動、利他性、関係性という点に注目するような研究や著作が各学問領域で目立つという。「ソーシャル・ブレイン」論、「ミラーニューロン」、「社会疫学」、「ソーシャル・キャピタル」論、進化生物学、行動経済学、神経経済学、「幸福研究」など。背景として、限りない拡大・成長の後に来る「第三の定常化」時代、あるいは「ポスト資本主義」的状況を迎えていることがある。他方、更なる拡大・成長に活路を求める考え方もある。人口光合成、地球脱出または宇宙進出、シンギュラリティあるいは「ポスト・ヒューマン」論。しかし著者はこれらに対して懐疑的である。アベノミクス以降のGDPを政策目標とした「量的・ノルマ的思考」にも否定的で、政府はベーシックな生活保障や、個人の自由な創発が可能となるような条件整備をしっかりと行い、それが結果として経済の活性化や好循環にもつながるという社会のありようを構想していくべき、とする。

    本書の後半は、著者の専門領域の一つである社会保障の議論に移ります。
    ・ベーシック・インカムや予防的社会保障が重要で、「貧困に陥る前に、失業する前に、病気になる前に、介護が必要になる前に」等々、早い段階でより包括的な支援を展開することが望ましい。
    更に、医療政策や死生観についての議論へ展開していきますが、ここでは省略します。

    本書の最後で著者は、グローバル化の先に「持続可能な福祉社会」を展望します。
    ローカルな経済循環やコミュニティから出発し、それをナショナル、グローバルへと積み上げる方向性であり、ドイツ以北のヨーロッパに特徴的とされます。
    「持続可能な福祉社会」は、環境・福祉・経済を総合的にとらえるものです。
    日本でも経済や経営の領域で持続可能性という価値が重視された流れがあるとして、「経済と倫理」では近江商人の三方よし、二宮尊徳、大原孫三郎、渋沢栄一、「経営と信仰」では松下幸之助が挙げられます。長い時間軸でみると、「持続可能性」という価値や「経済と倫理の統合」という理念は、明確な底流として存在し、日本社会において十分なリアリティをもつというのです。
    「持続可能な福祉社会」というビジョンの土台となる思想・哲学は、どのようなものでしょうか。著者はテツオ・ナジタ『相互扶助の経済』に言及し、江戸期までの日本社会に存在した「相互扶助」の経済において、「自然はあらゆる知の第一原理であらねばならない」との確固たる認識があった、という指摘に注目します。
    日本社会の閉鎖的なコミュニティを開いていく方法として、一つは「公共性」のベクトル、すなわち独立した個人が特定のコミュニティあるいは共同体の境界を越えてつながるという方向性があります(「都市型コミュニティ」に対応)。もう一つ、「自然」が共同体を超える原理になりうると示唆します。ここでいう「自然」は、具体的な里山や生き物を指すのではなく、普遍的な理念として把握されたもので、その限りにおいて個々の共同体やコミュニティを超えた「つながりの原理」として成り立つものです。江戸期までの日本では、このような価値原理としての「自然」、原初にある神道的(ないしアニミズム的)な自然信仰と、より高次の普遍宗教ないし普遍思想である仏教や儒教が融合していました。明治期以降、このような伝統的な世界観・価値原理が失われあるいは変質し、集団の「空気」しかよりどころのない、それぞれの集団や個人が自閉するような社会状況となってしまいました。「集団を超える価値原理」を取り戻していくことが、個別のコミュニティや集団を開き、つないでいく通路になるのではないか、と著者は提言します。「個人」の確立という「公共性」への志向と、(神仏儒という)伝統的な世界観や倫理の再評価を通じた「自然」への通路回復、この両方が重要になってきます。
    これらを踏まえ、「神仏儒(伝統的な価値)プラス個人(近代的な原理)プラスα」という基本軸が提示されます。プラスαは「地球倫理」と著者が称するもので、風土的多様性を全体的に俯瞰する「地球的公共性」と、自然信仰の再評価、原理としての自然という「自然」に着目する視点を併せもつものです。

    以上が本書の概観です。

  • 2020.23
    ・持続可能な日本社会になるかどうかの一覧の分岐点は、「都市一極集中社会」か、「地方分散型社会」か。後者でなければ持続可能性は担保されない。
    ・死生観を改めて問い直す。死=無ではない。
    ・経済成長が行き詰まり、その後の社会像としての福祉国家。

  • 読んでから時間がたってしまい忘れてしまった。
    けっこういい評価が並んでいるので、もういちど読んでみよう。
    こういうデータや示唆に富む本は、通勤には向かないかもしれない。家でメモをとりながら読むべきか。

  • 30年後も日本が持続可能であるための10のシナリオをAI分析によりシミュレート。消費増税など個人的には承服しがたい提言もあるが、若い人こそ真剣に考えるべき問題を提示した一冊。

  • 現在は、拡大・成長の時代から成熟・定常化の移行期にあるが、前時代の流れに固執する勢力と新しい時代に向かう流れがせめぎあっている時代と思う。ただ持続可能な社会を考えるとこれまでの拡大・成長路線で行くのは無理なのは火を見るより明らかであり、そこに歴史の必然性を感じる。医療や健康に関しては、コミュニティやまちづくり、環境といった領域を含む広い視点からとらえなおして、包括的な政策展開や実践を行うことが必要という提言は非常に共感できる。また社会保障の人生前半への強化、具体的には教育や住宅問題など、というのは今後の持続可能な社会には必要であり、そのような政策転換が必要と思われる。また東京一極集中から、地方などに多極集中すること、そして地域のコミュニティを重視していくことなど、もっともな考えだと思う。財源問題は消費税しかないというのは少し考えは違うところであるが、全体的に持続可能な社会への提言は納得できるものであり、本書を読み、なぜか未来に希望が持てた。

  • この本では人口減少社会における問題点と、その解決策となる案が提言されている。
    印象に残ったのは農村型コミュニティから都市型コミュニティへの転換が課題であるということ。
    「社会的孤立」的な状況が見られる中で、「集団を超えて個人と個人がつながる」ような関係性をいかに育てていくかが日本社会の最大の課題として挙げられている。
    筆者はこの課題の解決策として、「コミュニティ空間」として都市というハードの面を中心とした提案をしているが、個人的にはこの本ではあまり言及されていない、教育にこそ都市型コミュニティを形成するための鍵があると思っている。
    教室は小さな社会である。
    そう言われるからこそ、この本に描かれている人口減少社会における課題と教室における課題はリンクしているように感じた。

  • 図書館でかりて読んでみたけど、自分の置かれている状況が時期的に良くなかったのか、読みづらかった。

    手元においてもう一度読みたい。

全86件中 51 - 60件を表示

著者プロフィール

広井 良典(ひろい・よしのり):1961年生まれ。京都大学人と社会の未来研究院教授。専攻は公共政策、科学哲学。環境・福祉・経済が調和した「定常型社会=持続可能な福祉社会」を一貫して提唱。社会保障、医療、環境、都市・地域等に関する政策研究から、ケア、死生観、時間、コミュニティ等の主題をめぐる哲学的考察まで、幅広い活動を行っている。著書『コミュニティを問いなおす』(ちくま新書、2009年)で大佛次郎論壇賞受賞。『日本の社会保障』(岩波新書、1999年)でエコノミスト賞、『人口減少社会のデザイン』(東洋経済新報社、2019年)で不動産協会賞受賞。他に『ケアを問いなおす』(ちくま新書)、『ポスト資本主義』(岩波新書)、『科学と資本主義の未来』(東洋経済新報社)など著書多数。


「2024年 『商店街の復権』 で使われていた紹介文から引用しています。」

広井良典の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×