経済論戦は甦る

著者 :
  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (361ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532193829

感想・レビュー・書評

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  • 文庫版が手に入ったので再読。本書では創造的破壊、清算主義が主張の中核を成すシュンペーター的思考と、デット・デフレーション理論が中核を成すフィッシャー的思考の対比を通して、当時の小泉政権の構造改革や不良債権処理を論じたものである。章構成は以下の通り。

    第1章:二人の経済学者、二つの経済ビジョン
    第2章:日本経済の遭難
    第3章:「構造改革」と「デフレ対策」
    第4章:不良債権処理は「構造改革」か?

    それぞれの章を要約すると、一章では戦前の金解禁に絡めたシュンペーターとフィッシャー二人の経済学者の紹介と、二人の経済学者による清算主義とリフレ主義の理論の紹介、二章ではノーベル経済学賞を取ったジョージ・アカロフによる「レモン市場」と「逆選択」の理論説明、三章ではカバレロ=ハマーの実証研究によるマクロ経済が不調の時には、企業の新陳代謝が逆に進まないというシュンペーターの「創造的破壊」の否定、第四章では、「逆選択」の理論を用いた不良債権の話となっている。本書の構成を見ると、一章と三章の話、二章と四章が理論と実際に理論を用いた当時の経済状況の応用例になっており、一章三章がマクロ経済、二章四章がミクロ経済といったところか。

    多くの人が書評で、シュンペーター的清算主義とフィッシャー的リフレ主義との対比の話を評価しているけど、第四章の簡素なモデルを使って、不況時には”健全な銀行”が「逆選択」から自己資産比率の低い”不良銀行”と市場で同じ評価をされてしまうという話も同じくらいおもしろかった。初めて読む人には、この二つの話題両方を頭の片隅において読む事をお勧めする。あと「創造的破壊」を否定するカバレロ=ハマーの実証研究を日本で初めて紹介したのはこの本だったと思う。

    底本が不良債権処理が問題となっていた小泉政権下の2002年発行、文庫が2007年発行と文庫版から10年近く経っており、本書の時評は些か古びたものとなってしまっているが、現在においても清算主義を唱える論者がたくさんいるので、内容は今でも通じるものがある。間違いなく名著だけど絶版本。是非復刊して欲しい本である。

    評点:9点/10点。

  • 小泉改革、不良債権処理、リフレについて歴史的、理論的に分かりやすく詳述。
    その時期その時期の学者やエコノミストの発言等を批判的に検討してくれていて有用。
    最後の方にある「アエラ」記事に対する評価が爽快。
    本書で論考される時期とは少しズレるものの、1998年〜1999年日銀金融政策決定会合議事録も合わせて読むと面白い。

  • これは本当に面白い!私は単行本では読んでいないが、よくぞ文庫版で出してくれたと感謝したいです。本書を読んで一番感じること、それは経済は理論だけではだめだし、実証だけでもだめで、理論と実証があわさって始めてより真実に近づくということだ。本書では一貫してシュンペーターの「創造的破壊」論とフィッシャーの「デット・デフレーション」理論の対立が描かれ、小泉政権下の日本の状況を取り巻く経済論戦は基本的にこの2つの対立軸に帰依するとして解説されている。本書の素晴らしいところは理論の解説だけでなく、多くの経済学者(バーナンキなど)による実証分析の結果も踏まえてどうやらフィッシャーに軍配が上がっているということを明示しているところである。確かに創造的破壊論者の野口悠紀雄などはもっともらしい理論は言うがデータや実証分析の裏づけがない。いわんや本書でも解説されている情報の非対称性から生まれる逆選択やシグナリング、また最新の論文などについてもフォローしているか怪しいものだ。またジャーナリストやエセエコノミストたちが変な比喩表現を並べて「エセ経済理論」を振り回しているのにも警鐘を鳴らしている。本書を読んで本当に経済学は面白いと実感した。経済に関心のある人は必読本ですね。

  • 2007年(底本2002年)刊。著者は慶応大学経済学部教授。本書は、シュムペータ的清算主義とフィッシャー的リフレ主義とを対比し(途中から対比ではなくなってきているが)、不況における経済政策の要諦と日本における処方箋を開陳する。が、本書よりも水野和夫氏のデフレ論の方がよほど説得力があると感じるのは、私が経済学に疎いからか…。何か賞を取った本らしいが…。種々あるが、清算主義とリフレ主義とが二者択一というのも理解しがたく、また、最も重要なインフレの人為的な方向づけが可能とする著者の解説・議論も、説得力を感じず。
    清算主義派が懸念する財政破綻を著者は軽視しているが、いや、著者が問題のないという内容ですら問題があるでしょう、と言いたくなる程(165頁以下)。また、銀行実務、特に融資実務に暗いのではとの懸念も。貸出先の優良顧客が減少したのはその通りだが、景気動向・収益性よりも、融資における物的担保の加重重視、貸出先の新規創出が乏しく、新規需要先もサービス産業であって、第二次産業ほどの設備投資を要しないか、信用供与の必要額が多くないのが実情ではないか、との疑問。成熟国家における信用供与の乗数効果の逓減作用にも触れない。
    むしろ、人口増加率減、総人口や生産人口減による資金他の需要低迷の方がよほど判り易い。また、本書に限らず経済政策の関連書で、①説明のための列挙事例が、単純化とは異質な、非現実的な異常例(例85頁)を提示、②他説批判が不十分。特に経済事象の要因分析につき自説の方が他説よりもマシくらいにしか読めない。元来、複雑系が妥当する経済事象にて、多源的要因群から根源的要因の抽出は相当困難。再現不可能性もこの問題に寄助しているかも。もっとも著者の「不況を起こして既存会社を倒産させれば創造が進む…ほど簡単ではない」は至言。

  • 新年にふさわしい、読み応えのある1冊。
    ついていこうと必死に読みましたが、まだ浅くしか読めていない気がします。
    経済と言うテーマは、これからもゆっくり折っていこうと思います。
    以前読んだ、竹森先生の別の本を再読予定です。

  • 内容古いし(小泉構造改革のあたり)、よくわからなかった。

  •  フィッシャーの財政出動策とシュンペーターの創造的破壊。デフレへの処方箋はどちらが・・・。日本の現状に十分に通用する議論を展開している。

  • ◎「日本経済復活 一番かんたんな方法」(勝間和代/光文社新書/2010)で紹介

  • メモ
    イノベーションかデッド・デフレーションか。

    構造改革かリフレか。
    技術革新で新しい産業を。いやいやデフレは経済を死滅させるからデフレをなんとかしないとダメ。
    あんたどっち?

  • 今、旬の竹森俊平氏。

    一読の価値があります。

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著者プロフィール

慶應義塾大学経済学部教授
1956年東京生まれ。81年慶応義塾大学経済学部卒業。86年同大学院経済学研究科修了。同年同大学経済学部助手。86年7月米国ロチェスター大学に留学、89年同大学経済学博士号取得。2019年より、経済財政諮問会議民間議員

「2020年 『WEAK LINK』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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