金融依存の経済はどこへ向かうのか: 米欧金融危機の教訓
- 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版 (2013年7月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (244ページ)
- / ISBN・EAN: 9784532262044
作品紹介・あらすじ
いま経済は、大規模な金融緩和への依存度をますます強めている。この実態は、どのような状況を招きうるのか。リーマンショック、欧州債務危機の経験から、私たちは何を学ぶべきなのか-。一級の研究者が、金融と実体経済の関係について、多様な側面から検証する。
感想・レビュー・書評
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はじめに
第1章 金融拡大の30年間を振り返る (池尾和人・慶應義塾大学経済学部教授)
第2章 グリーンスパンの金融政策 リスクテイクへの働きかけは経済成長を促進するか (翁 邦雄・京都大学公共政策大学院教授)
第3章 世界的バランスシート調整がもたらす「日本化現象」 アベノミクスで脱「日本化」は可能か (高田 創・みずほ総合研究所常務執行役員調査本部長)
第4章 グローバル・インバランス 金融危機と日本の企業部門 (後藤 康雄・三菱総合研究所主席研究員・チーフエコノミスト)
第5章 アベノミクスと日本財政を巡る課題 現実の直視から、財政再建は始まる (小黒 一正・法政大学経済学部准教授) -
日経にしてはバランスのとれた作品。
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金融に依存した、近年の経済状況と、これからの経済について、考えた本。日本は、各国よりに先立って、バランスシート調整やデフレなど「日本化」を先に経験した。各国も「日本化」してゆくはず。
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これも出版前に日経新聞出版社の方から頂いて拝読しました。経団連の21世紀政策研究所での議論のまとめです。内容的にはやはり池尾和人教授の項目が一番参考になりました。
特に、池尾教授が紹介しているノースウェスタン大学のゴードン教授の、基幹技術の発明とその社会的普及が経済成長をもたらすという部分を紹介しますと、第1波の産業革命につながった基幹技術は1750年から1830年の間に発明された蒸気機関、綿紡績、鉄道など、第2波は1870年から1900年の間に発明された電気、内燃機関、室内配管を伴う水道技術、第3波の技術革新が1960年頃から始まるコンピューターとインターネットで、この基幹技術が社会全体の仕組みを作り変えるまでに長い時間がかかり、それが経済成長の原動力になるが、一旦社会全体に行き渡ってしまうと経済成長は鈍化すると言っています。そして、金融それ自体は実物的な投資機会を作り出すことはないにも関わらず、金融に経済成長の源泉としての期待をするようになったことが、1980年代以降の金融の肥大化を招いたとしています。
それから、池尾教授がしばしば紹介している「金融抑制(Financial Repression)」の考え方についても改めて勉強になりました。現在、世界各国で公的債務が肥大化しており、もし利子率が成長率を上回るような状況になれば財政再建が不可能になってしまうため、金利を実勢水準より低く抑える「人為的低金利政策」を採用する必要があるが、現在、金利の安定化や景気対策のために行われている中央銀行による大量の国債購入は、結果的に金融抑制の効果をもたらしていると言っています。そして、これは金融危機以降、国債を流動性が高くリスクは低い資産であるとみなす国際的な金融規制の枠組みによってバックアップされているということです。
つまり、今の日本の国債大量発行と低金利の並存は、インフレ2%という日銀の目標が達成された後でも継続する可能性があり、これは日本だけの特異な現象ではなく、世界的に見られる傾向であると同時に、それがグローバルな金融規制によってサポートされているという、優れて世界共通且つ構造的な問題だということです。
勿論、こうした無理な金融抑制が長く続けば、何処かで国の信用問題が発生して、世界の金融が一瞬にしてクラッシュする可能性はあるのですが、それまではかなりの長期間に亘って人為的な低金利が継続する可能性があるということになりそうです。