金融依存の経済はどこへ向かうのか: 米欧金融危機の教訓

制作 : 池尾 和人  21世紀政策研究所 
  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (244ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532262044

作品紹介・あらすじ

いま経済は、大規模な金融緩和への依存度をますます強めている。この実態は、どのような状況を招きうるのか。リーマンショック、欧州債務危機の経験から、私たちは何を学ぶべきなのか-。一級の研究者が、金融と実体経済の関係について、多様な側面から検証する。

感想・レビュー・書評

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    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/685183

  • はじめに

    第1章 金融拡大の30年間を振り返る (池尾和人・慶應義塾大学経済学部教授)

    第2章 グリーンスパンの金融政策 リスクテイクへの働きかけは経済成長を促進するか (翁 邦雄・京都大学公共政策大学院教授)

    第3章 世界的バランスシート調整がもたらす「日本化現象」 アベノミクスで脱「日本化」は可能か (高田 創・みずほ総合研究所常務執行役員調査本部長)

    第4章 グローバル・インバランス 金融危機と日本の企業部門 (後藤 康雄・三菱総合研究所主席研究員・チーフエコノミスト)

    第5章 アベノミクスと日本財政を巡る課題 現実の直視から、財政再建は始まる (小黒 一正・法政大学経済学部准教授)

  • 日経にしてはバランスのとれた作品。

  • 金融に依存した、近年の経済状況と、これからの経済について、考えた本。日本は、各国よりに先立って、バランスシート調整やデフレなど「日本化」を先に経験した。各国も「日本化」してゆくはず。

  • 金融と実体経済に関する経団連の21世紀政策研究所での議論のまとめで、複数の論文からなり、新書としてはやや専門的であるが、興味深い内容が盛り込まれている。

    歴史的な経済の流れは、戦後の復興と高度成長を経て、それが成熟し終焉すると共に実物面への投資機会が乏しくなり、また、金融部門においてもそれまでの預金を集めて貸し出すというビジネスモデルが有効性を失っていった。そうした時代背景の下に80年代以降、新たな金融イノベーションが起こり、今日の金融資本主義へと変化していく中での、種々の問題点の解明を試みようというものである。

    【FEDビュー政策】
    特に興味を引いたのは、FRBの前議長であるグリーンスパンの金融政策がリーマンショックを引き起こしたという主張。
    その彼の手法は「FEDビュー」あるいは「後始末戦略」と呼ばれる。「バブルかバブルでないかは、弾けてみるまで分からない。それゆえ事前の対応よりも事後的な対応が重要である。一旦バブルが崩壊したと分かれば、潤沢に資金を供給して流動性を確保するなどして、その損害を最小限に食い止めように行動する」というものである。この金融政策は、ブラック・マンデーやITバブルの崩壊の際に有効に機能した。
    しかし、株価上昇の行き過ぎは容認するが、大幅な下落は防止するという金融政策は、市場参加者に安心感を与え、歯止めなくリスクテイクを拡大し、それが住宅バブルからリーマンショックへと繋がって行ったという説である。そしてその時には、同じバブルと言っても過去の「株式(equity)」にだけ関わったバブルから、「信用(credit)」にも関わるバブルへ変貌しており、その後遺症の大きさは大きく異なっていた。つまり、米国の住宅バブルは従来の株式型のバブルではなく、「影の銀行システム」という信用仲介システムを主舞台としいた。その結果信用収縮が進行し、もはや金融システムの内部だけに留まらず、経済全般の危機に転じていった。
    これによって、住宅バブルと無関係であった日本経済までもが、急激な外需の減少に見舞われ、金融危機を飛び越して、経済危機的な状態に陥った。
    今日のアメリカはその反省にたっていると思うが、昨今のFEBのバーナンキ議長の金融緩和の出口戦略については、かつてのグリーンスパン前議長の二の舞にならないように願う次第である。

    【金融との役割分担】
    もう一点注目したのは、金融それ自体には実物経済的な投資機会を作り出す働きはなく、実物的な投資機会の発見は、企業家の仕事であり、その種となる技術の開発・発展は科学者や技術者の仕事であるという。そうした社会的な役割分担が十全に遂行出来なかったがゆえに、金融拡大の30年の最期の10年は「金融の肥大化」に堕してしまったという主張は納得が行く。

    【金融抑圧政策】
    これも面白かったが、ボリュームが大きくなりすぎるので、割愛。

    【ゴードン教授の仮説】
    そしてゴードン教授の仮説。基幹技術の発明とその社会的普及が経済成長をもたらすというものである。逆にいうと、既存の技術の普及が完了し、新たな基幹技術が発明されなければ、経済成長は終わる・・・現在の我々が置かれている状況について少々不安になる仮説です・・・新しいイノベーションやいずこに?

  • これも出版前に日経新聞出版社の方から頂いて拝読しました。経団連の21世紀政策研究所での議論のまとめです。内容的にはやはり池尾和人教授の項目が一番参考になりました。
    特に、池尾教授が紹介しているノースウェスタン大学のゴードン教授の、基幹技術の発明とその社会的普及が経済成長をもたらすという部分を紹介しますと、第1波の産業革命につながった基幹技術は1750年から1830年の間に発明された蒸気機関、綿紡績、鉄道など、第2波は1870年から1900年の間に発明された電気、内燃機関、室内配管を伴う水道技術、第3波の技術革新が1960年頃から始まるコンピューターとインターネットで、この基幹技術が社会全体の仕組みを作り変えるまでに長い時間がかかり、それが経済成長の原動力になるが、一旦社会全体に行き渡ってしまうと経済成長は鈍化すると言っています。そして、金融それ自体は実物的な投資機会を作り出すことはないにも関わらず、金融に経済成長の源泉としての期待をするようになったことが、1980年代以降の金融の肥大化を招いたとしています。
    それから、池尾教授がしばしば紹介している「金融抑制(Financial Repression)」の考え方についても改めて勉強になりました。現在、世界各国で公的債務が肥大化しており、もし利子率が成長率を上回るような状況になれば財政再建が不可能になってしまうため、金利を実勢水準より低く抑える「人為的低金利政策」を採用する必要があるが、現在、金利の安定化や景気対策のために行われている中央銀行による大量の国債購入は、結果的に金融抑制の効果をもたらしていると言っています。そして、これは金融危機以降、国債を流動性が高くリスクは低い資産であるとみなす国際的な金融規制の枠組みによってバックアップされているということです。
    つまり、今の日本の国債大量発行と低金利の並存は、インフレ2%という日銀の目標が達成された後でも継続する可能性があり、これは日本だけの特異な現象ではなく、世界的に見られる傾向であると同時に、それがグローバルな金融規制によってサポートされているという、優れて世界共通且つ構造的な問題だということです。
    勿論、こうした無理な金融抑制が長く続けば、何処かで国の信用問題が発生して、世界の金融が一瞬にしてクラッシュする可能性はあるのですが、それまではかなりの長期間に亘って人為的な低金利が継続する可能性があるということになりそうです。

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