- Amazon.co.jp ・本 (350ページ)
- / ISBN・EAN: 9784532322175
作品紹介・あらすじ
急速に進むガバナンス革命、ESG投資の隆盛を「正のスパイラル」として取り込み、競争力に結びつける。そのために今なすべきことを、理論・実務の両面から解説、“即効の処方箋”を提示する。
ROE8%、株主還元、ガバナンス報告書、エンゲージメント、取締役会評価、ESG――急速に進むガバナンス革命。ますます増大する投資家の要求に対し、一連の改革の意義と問題点を認識し、前向きに、そして正しく対処している企業は極めて少ないのが現状だ。
今企業に求められるのは、原点に戻ること。その原点とは「競争力」(企業価値)の向上だ。優れた実績を残している企業は、イノベーションやビジネスモデル革命を引き起こし、かつステークホルダーからも信頼される「サスティナブルな経営」を行っている。経営者を筆頭に「自らの経営する企業のサスティナビリティ(持続可能性)について執念をもって立ち向かうこと」がまず重要なのである。
本書は以上のような問題意識に基づき、先進企業のケーススタディを通じ「サスティナブルな経営」とは何かを確認。その経営理念・進行状況を伝える役割を担う経営幹部の役割構造から情報開示までについて詳述する。特に、従来情報開示の対象が単純に機関投資家あるいはアナリストという括りであったものを、ESGアナリスト・投資家、イノベーション担当アナリスト、長期投資家、エンゲージメント専門投資家、議決権行使や取締役外部評価を行う情報サービス・コンサルティングサービス会社などに細分化するところに、類書にはない大きな特徴を持つ。
感想・レビュー・書評
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『サステナブル経営と資本市場』
【著書目的】
事業会社が資本市場に対して、どのように現状と未来を説明することが、投資家含めた資本市場からの信頼につながるのか?
※ビジネスモデルについての言及はなし。
※アニューアルレポートの重要性の高まりとそれを受けてのベターな対応方法の説明が中心。
【著書の魅力】
著者
元NRI,モルガン アナリスト
元IR協議会 事務局長
であること。
【結論】
事業会社がサステナブル(持続)にあたり、 投資家向に「価値創造プロセス 」の説明をすることは有効である。投資家が認知して、長期投資需要へと発展するため。
【財務の3つの役割】
企業価値↑(定量・定性)
↑
①経営戦略視点
②資金効率視点
③決算視点
【統合報告書/アニュアルレポート】
①背景
ESG投資は、グローバル投資全体の1/3まで拡大。
②役割/目的
長期投資家(5年超スパンファンダメンタル)が企業価値創造プロセスを理解するため。
③作成ポイント
考え方×しくみ*ひと
(理念)×(KGI,KPI) ×(価値、強み)
④アニュアルレポート構成
A)ファンダメンタルズ
1.経営理念
2.業界および企業特性
3.経緯、財務実績
4.CEOメッセージ
5.SWOT
6.ポートフォリオ
7.R&D
8.マーケティング
9.生産効率
10.社員モチベーション
11.コンプライアンス
12.人事政策
13.財務政策
B)ESG
1.環境
2.地域社会
3.サプライチェーン
4.コーポレイトガバナンス
C) 総括
ロードマップ
【リスクコントロール】
①範囲
業界固有、企業固有の開示
②方法
ハードコントロール
監査役監査、内部監査
ソフトコントロール
理念浸透
【ホールディングス、連結経営。本社の役割】
①対社内
情報のハブ
②対子会社
投資先として。
③対投資家
説明→関係づくり
外部環境→内部環境の順序で説明。
【読み終えて】
①アニューアルレポート
同一業界ならびに異業種のレポートの比較も実務に有効であること。
②IR優秀受賞企業の株価パフォーマンス
他社と比較して、長期スパンで優れていること。
③アナリスト向け対話
あらかじめ質問を受領して回答を準備すること。
業界共通のリスクとその対応方法の説明は、業界専門アナリストに特に喜ばれること。
④アナリスト向け資料
業界専門と共通の二段構えは、作り手および投資家にとっても理解しやすいこと。
⑤長期の取り組み
アニューアルレポートは、ESGへの考え方と具体的な取り組みを説明する機会として、有価証券報告書ならびに決算短信と比較して有効性が高いこと。
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サステナブル経営というものの内容は2021年現在からすると不足している。
コーポレートガバナンスコードの改訂も織り込まれていない。
詳しく書いてあるSASBも大半の日本企業には関係ない。ただ、株価の推移が意識の高い企業と低い企業で定量的な差を出していたのは参考になった。 -
SDGsという言葉を目にする機会が増えている。SDGsは、Sustainable Development Goalsの略で、「持続可能な開発目標」と訳されたりする。2015年9月の国連会合の中で、2015年から2030年までの長期的な開発の指針として「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択され、その文書の中核をなす「持続可能な開発目標」がSDGsと呼ばれている。
具体的には17の目標と169のターゲットが設定されている。
地球環境や気候変動に配慮しながら、持続可能な暮らしや社会を営むための、世界各国の政府や自治体、非政府組織、非営利団体だけではなく、民間企業や個人などにも共通した目標とされている。
民間企業は、営利団体であり、収益を上げようという行動と、例えば中長期的にGHGを削減してく行動は矛盾する可能性があるのではないか、営利団体が地球全体の持続可能性のために協力する、あるいは、一歩進んで積極的に貢献するというようなことは難しいのではないか、との疑問は自然に浮かんでくる。
私自身は、それは矛盾するものではない、むしろ、地球全体のSustainabilityに貢献し得ない企業は、今後生き残れない、すなわち、企業としてのSustainabilityを保てない、と考える。
民間企業は事業存続のために、数多くのステークホルダーの協力を得る必要がある。
株主、顧客、取引先、社員、行政、地域社会等々。この本は、その中でも、特に「資本市場」すなわち、株主との関係に焦点を当てたものである。
株主、すなわち、投資家にも大きくは2種類が存在する。短期の株価変動による利ざやを稼ぐことを狙う短期の投資家と、中長期的にその会社の株を保有し中長期的に投資リターンを狙う中長期の投資家だ。中長期の投資家は、すなわち、その会社の中長期的な成長にお金を賭けるわけである。
企業が自社の中長期的な成長をどのように実現しようとしているのか、ということは、その企業の統合報告書に示されるべきことである。その実現の方策を、中長期に渡って継続的に実施していく会社の仕組みは、その企業のガバナンス報告書に示されるべきことであり、モデル的には、それを中長期的な視点から評価する中長期の目を持った投資家が、その内容に納得すれば、その会社の株を買い、納得できなければ、その会社の株から離れ行ってしまう、という構造となる。ある株式会社の株を買う人がいなくなれば、基本的にその会社は存続し得ない。要するに、中長期的な視点を持たない企業は、中長期的な視点で資金を運用している投資家から資金を得ることができなくなる、という構造が成り立つ。
その他のステークホルダー、例えば、人財についても、中長期的な視点で地球規模の課題解決に取り組むことを外部に対して明快に示さない限り、そのような意図を持った、あるいは、その課題解決に必要な専門能力を持った人財は集まりにくくなるという関係も成り立つ。
中長期的な視点で経営を考えない企業は生き残りにくくなる可能性があるということである。
考えてみれば、これは、資本主義の弱点の一つ(目の前の収益のみに集中)を弱める効果を持つ可能性があるわけだが、実際にそうなるかどうかは、まだわからない。 -
企業経営において「サステナブル」が重要視されてきた中で、投資家ではなく企業経営者目線でESG・自己開示・ガバナンスなどのキーワードで語られており勉強になった。企業経営者へのインタビューなども含まれており、理論ベースではなく実態に即したインプットができたと感じている。
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企業の長期的な企業価値の増大に取り組むために経営者サイドの視点で書かれた本である。2019年に書かれたものなので最新のコード改訂については触れられてないが、2014年と2015年に立て続けにスチュワードシップコードとコーポレートガバナンスコードが導入された背景から2017.2018年の改訂による企業を取り巻く環境の変化について書かれており、導入の意図や当時の環境について理解することができた。
また今後の日本企業の目指すべき姿について考えさせられた。今までの日本型経営システムの安定な環境下では経営戦略がなくとも過去の踏襲でなんとかなっていたが、激変する環境の中では、そうはいかない。
経営者にとっては対処すべき範囲が増え、大変な時代になったが、いわゆるプロ経営者を増やし、資本市場との適切な関係を築く上場企業が増えれば日本の復活もあるのではないかと思った。
経営者だけでなく、従業員も長期的な目線で企業価値を増大させることを意識して働く必要がある。そうさせるためには企業理念の浸透も必要であり各々の会社の文化、DNAをうまく表現し共感してもらえるような理念、ビジョンが必要だと思った。
経営者視点の本だが、管理部門で働く人などは経営者ではなくても読むべきだと感じた。