格差と分断の社会地図 16歳からの〈日本のリアル〉

著者 :
  • 日本実業出版社
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感想 : 62
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  • / ISBN・EAN: 9784534058706

感想・レビュー・書評

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  • 私は何も知らなかった―――
    ということが分かり、落ち込む。
    いやいや、想像以上に何も知らないんだわ、自分。

    今、この日本で、何が起こっているのか。

    数々のノンフィクションを書き、「日本で屈指の進学校の生徒、一流企業の創始者、国会議員に会う一方で、ひきこもり、外国人ギャング、暴力団構成員と膝をつき合わせて話を聞いてきた」石井光太さん。
    彼がつくづく感じるのは「大半の人は自分が生きてきた世界、あるいはそれに近い世界しか知らず、それ以外は想像できない」ということだそうだ。
    「子供達は同じようなタイプで集まり、そのまま大人になってひとつの階層を形成していく。」
    そしてそれが極まると「分断」による「無理解」そして「衝突」だ―――と書く。

    本書は豊富なデータと図で今現代の日本の「社会地図」を示し、事例も出しつつ、問題点をあぶり出す。

    金持ちと貧困、正規と非正規、男と女、夜の町と昼の町、日本人と在留外国人、健常者と障害者、若者と高齢者など、ともすれば対立関係に陥りがちな「分断」。

    それはお互い事情を知らない、ということが大きいのかもしれない。

    16歳からの〈日本のリアル〉という副題がある通り、石井さんは未来ある若者に呼びかけるように書いているのだが、自分の世界を広げたい大人の方にも読んでほしい。

  • これは若者に向けて書かれた本だが、とても良い本だと感じた。所得格差、職業格差、男女格差、家庭格差、国籍格差、福祉格差、世代格差と具体的な例を取り上げて説明してくれる。基本的に同じことを言っているのだが、ある世界にどっぷり浸かっている人間は、それ以外の世界にいる人を理解しないというか理解できない。それゆえに教育の欠落や心無い周りの態度で、多くの犯罪が生まれている中、ただ対象に理解のない非難の言葉を発するのみ。そういう人たちの偏見が、社会により深刻な闇を作り出している。若者に今、日本で何が起きているのかを知ってもらえることに、この本は注力していく。
    最後に若者に3つの提案をする。
    1.新しい仕事を自分自身でつくる。
    2.グローバルな世界へ打って出る。
    3.新しい生き方を見つける。
    不透明な未来だが、それを良い未来にできるのは若者たちのパワーだと思う。政治家や企業経営者などの利権に汲々とするオヤジたちには、そんな力はない。

  • 5552さんの本棚拝見して図書館で借りました
    〈16歳からの日本のリア〉とあります
    婆さんにも分かるかなあと
    分かってないんだなあ、わたし、平気な顔して暮らしてて
    なんて落ち込みました
    なんかもやもやと感じていたこと
    すっきりと問題提起していただいた本でした
    若者の「声」本当に大事ですよね
    でも高齢者も考えなくっちゃ
    この「分断」
    知らなければ!

    ≪ 無理解が 起こす衝突 勇気持て! ≫

    • 5552さん
      はまだかよこさん、はじめまして。

      分かりやすく、多くは平易な言葉で書かれているけれど、書かれている事実は重いです。
      日本の現状に目を...
      はまだかよこさん、はじめまして。

      分かりやすく、多くは平易な言葉で書かれているけれど、書かれている事実は重いです。
      日本の現状に目を塞ぎたくなるけれど、ちゃんと目を見開いていかなければ。
      知らなくても何となく生活できてしまうけれど、いつかしっぺ返しがくるかもしれない、と思いました。

      これからもレビューと川柳、楽しみにしています!

      2022/06/29
    • はまだかよこさん
      5552さんへ

      コメントありがとうございます
      いつも本棚眺めさせて頂いております
      読みたい本もいっぱい
      これもとても印象に残りま...
      5552さんへ

      コメントありがとうございます
      いつも本棚眺めさせて頂いております
      読みたい本もいっぱい
      これもとても印象に残りました
      それぞれがまわりの心地よいところだけ見るのではなく
      きちんと広く深く見つめなければと思わせてくれました
      そのためには「知る」こと

      もう「しっぺ返し」きてますよね

      またよろしくお願いいたします
      2022/06/30
  • "両者は、同じ地域に住みながら乗っているレールがまったく違うので、接点がないに等しい。だから相手のことを理解することができず、何かあれば「貧しいのは努力していないからだ」とか「金持ちは不当に富を独占している」と自分の想像だけで相手のイメージをつくり上げるので、距離は開くばかりになる。
     無理解の先にあるのは、衝突だ。 (p.10)"

     本書は、5552さんのレビューで知った。
     決して誇張ではなく、読んでいてくらくらと眩暈がしてくるような、衝撃的な内容の本だった。

     筆者は国内外の貧困、児童問題、事件、歴史などの社会問題を長年取材されてきたノンフィクション作家。本書では「16歳からの〈日本のリアル〉」として、主に中高生の読者に向けて日本にある格差の現状を示すとともに、この問題を解決するため何ができるのか考えるように促す。

     「格差」と聞いて多くの人がまず思い浮かべるであろう「所得格差」について、日本の相対的貧困率が15.4%(2021年度)であることをご存じだろうか? これは先進国中最高レベルの数値である。格差・分断は、今や日本社会の至るところ、その奥深くまで蝕む病魔となっている。社会の「分断」が最初に生じる原因は不景気だったり社会通念だったり様々だと思うが、分断の最も救いようがないところは、それが再生産されるという事実にあると感じた。
    ”貧困の連鎖の悲劇は、いったんそのループに入ると、なかなか脱出できなくなることだ。そのため、何世代にもわたって貧困がつづくことになる。
     ただし、貧しい家庭に生まれ育った人全員が、そこから抜け出せないわけじゃない。中には努力を重ねて人生を一発逆転させる人たちもいる。
     そうしたことから、大人の中にはこんなことを言う人がいる。
    「貧しさをバネに成功した人はいくらだっている。がんばれば、なんでも成し遂げることができるんだ」
     この意見は間違いではない。でも、誰もが逆境を跳ね返して成功を成し遂げられるわけじゃない。
     なぜかわかるだろうか。それは下流の人たちが、上流の人たちと比べて、ある体験をつみ重ねやすいからだ。それが当事者が生きる上での大きな障壁となる。
     その体験とは、挫折体験だ。(p.55)”
     チャンスは皆に平等に与えられているわけではない。ある人がアクセスできる資源は、明らかに彼の属する階層に依存するからだ。そして格差は、遂には人々の心まで侵す。一度分断が深まると、ある階層の人間は他の階層の人間との交わりが断たれ、無理解が広まる。すると、階層間の差異(格差)から敵意が芽生え、分断が一層拡大する。
    ”ホストは若いからコロナになっても死なないつって平気で店をやってコロナをバラまいている。政府はさっさと歌舞伎町のホストクラブを全部ぶっ潰して追い出せ! どうせ税金も払ってねえようなヤツらに好き勝手やらせるなんてないし、あいつらに医療費をかけるだけムダ(インターネット上の書き込み、p.153)”
    ”(ホストは)ほとんどが10代で社会からドロップアウトした人間ばかり。そんな人間にまともな仕事なんて用意されていない。だから、歌舞伎町に来てなんとか金を手に入れて、まともな暮らしをしようとしている。ホストには賞味期限があるのをわかっているから、みんな若いうちに1日でも長く働いて稼ぐことに必死だ。
     そんな連中に対して、国がコロナが流行っているから店を閉めましょうと言ったところで、『はい』ってなるわけがないよね。(略)これまでホストは国を頼りにしてこなかったし、国だって見捨ててきた。だから、コロナに関係なく、自分たちは生きていく道を自分たちで決めていくってことだ。(ホストクラブのオーナーの話、p.155)”
    (社会問題に限らず)過激なことを言いたがる人は世の中にごまんと居るが、彼らは結局、その言及対象のことをよく知らないまま放言しているに過ぎないのではないかと思う。対象のことを少しでも知れば、切って捨てるような発言はできないはずだと信じているからだ。無理解の上には、何の解決策も立ち上がらない。
     逆に言えば、現状を打開するための第一歩は、問題を直視することなのだ。
    ”未来を担う君たちがすべきことは、大きく2つある。
     1つ目が、日本社会の足元で起きている格差や分断の問題にきちんと目を向け、何が原因でどういうことが起きているのかを学び、それを改善していくこと。
     2つ目が、君たち自身が地に足をつけて生きることで新しい価値観を示すことだ。(p.343)”

     本書の内容が強く心に訴えかけてくるのは、筆者が取材によって得た、生の「現実」の重みゆえに違いない。思わず目を覆いたくなる痛ましいエピソードは、自分がこうしてそれほど不自由なく暮らせていることの有難みについて省みることを促す(少々皮肉だが、この本を読む機会があるかないかということに既に格差が顔を覗かせている)。自分のことで恐縮だが、高校から大学に進学して付き合う人間の幅が広がったとき、世の中には色々な人がいること、いかに自分が一つの階層の中に居たかを思い知らされたことを思い出した。自分が今生きている世界のすぐ隣には自分の知らない世界が広がっていて、(とてもじゃないが話が通じなさそうに見えても)そこに生きる彼らの言い分に飽くまでも寄り添おうとすること。これは非常に困難で、しかも「損」な役回りを担うことになるが、全てはそこから始まるのだ。

    1 日本の格差はいかにつくられるか――所得格差
    2 弱者を食い物にする社会――職業格差
    3 男と女の不平等史――男女格差
    4 格差と分断の爆心地「夜の街」――家庭格差
    5 移民はなぜギャングになるのか――国籍格差
    6 障害者が支援をはずされるとき――福祉格差
    7 高齢者への「報復」は何を生み出すのか――世代格差

    • 5552さん
      BRICOLAGEさん、こんばんは。

      私のレビューがきっかけでこの本を手に取ったとのこと。
      光栄です。
      この本を読んだときには確かに衝撃を...
      BRICOLAGEさん、こんばんは。

      私のレビューがきっかけでこの本を手に取ったとのこと。
      光栄です。
      この本を読んだときには確かに衝撃を受けた記憶があるのに、ほとんど覚えてないのが情けなくなりました。
      社会に生きるものとして、忘れてはいけない問題ですよね。
      久しぶりに石井光太さんの本を読みたくなりました。

      2024/03/09
    • BRICOLAGEさん
      5552さん、こんばんは!
      コメントいただき、どうもありがとうございます。

      レビューを拝読して以来、読みたいなと思ってはいたのですが機会が...
      5552さん、こんばんは!
      コメントいただき、どうもありがとうございます。

      レビューを拝読して以来、読みたいなと思ってはいたのですが機会がなく、今回図書館で見かけたのでようやくという感じです(今見たら5552さんのレビューは2022年とのことで、随分前に読まれた本についてお名前を出してしまってすみません)。

      昔読んだはずの本の内容を忘れていて情けなくなる気持ち、僭越ながら私も分かります。
      実のところ、私がブクログを始めたキッカケがまさに、「レビューを書けば多少は本の内容が頭に残るかな」と考えたことでした。
      それは結局大して改善せず、今はしょうがないなと最早諦めの境地ですが、ブクログを始めたことは、自分とは違った趣味・嗜好をお持ちの読書好きの方々と出会えたのでとても良かったと思っています。

      話が少し逸れましたが、本書で扱われている格差の問題、決して他人事ではいられないなと強く思わされました。
      ノンフィクションというジャンル自体、今まであまり手に取ってこなかったのですが、私もまた石井光太さんの本を読んでみたいと思っています。

      改めて、コメントありがとうございました。
      これからもどうぞよろしくお願いいたします。
      2024/03/10
    • 5552さん
      こちらこそ、レビューを挙げられ、名前を出していただき、ありがとうございました。
      もっと広く本書が読まれるといいですね。
      これからもよろしくお...
      こちらこそ、レビューを挙げられ、名前を出していただき、ありがとうございました。
      もっと広く本書が読まれるといいですね。
      これからもよろしくお願いいたします。
      2024/03/11
  • こういう本が今必要だなと思っていた。新書で同じような格差や能力主義の本が出版されているが、それらを読むのは意識の高い人だけになってしまう。専門書よりは裾野は広がるとはいえ、若者の手にまでなかなか届かない。
    この本は16歳くらいの若者を対象としているが、大人も手に取れる体裁である。
    格差がどうして起こるか、それがどのような弊害をもたらしているか、現在見られる現象と結びつけ、データも思い切ってわかりやすく編集しているところに、著書の本気度が伝わる。

    これは本当にいい本だ。

  • 「いま、国を動かしている政治家、実業家、あるいは発言力のある有名人を考えてほしい。彼らのうち、どれだけの人たちが日本で起きているリアルを知っているだろうか。
    彼らの大半は格差社会の中で超エリートのレールを歩いてきた人たちばかりだ。そんな人たちが教育格差の底辺にいる子供の気持ち、夜の街で働く女性の気持ち、外国籍の不就学児童の気持ち、虐待を受けた障害児の気持ち、ひきこもりの気持ちをどこまで理解できるだろうか。それが難しいからこそ、抜本的な解決策を打ち出せないでいる。」

    性別、世代、国籍、…さまざまな観点からの格差社会を描かれ、ティーンエイジャー向けに書かれているのでわかりやすく、かつ涙が出るほど胸が苦しくなるような現状ばかりだった。

    自分自身の苦しみを説明するほどの語彙力を持ち合わせておらず、ごはんが食べられない、食べ方すらもわからない。置かれた状況から自分の力だけでは抜け出せず、毎日生きるので精一杯の人たちは何もアフリカのような途上国だけではない、日本国内にこんなにも存在してるなんて、どれだけの人が想像つくだろうか。

    今起きている事に真剣に向き合い、負のスパイラルを止めるのは私たち若い世代の動きなくしては実現不可能だと思う。

  • 図書館の新刊コーナーから手に取った。
    よく見るノンフィクション作家だなぁ、くらいのきっかけ。

    無理解の先にあるのは、衝突。
    違うからぶつかり合うのではなく、相手を知っていい影響を与え合おうよ、という内容。

    違う職業でも国籍でも、どこかでは繋がっている。
    この考えは、『人新世の「資本論」』や『21Lessons』にも通じている。
    一部の人が、他の人を使って無茶すると、将来的に共倒れになっちゃう。

    家庭環境の章では、かねちーの『むき出し』を思い出した。
    ノンフィクションで問題を知って、物語で当事者を理解するのは、とてもいい。

    自分の立ち位置にこだわらず、学び続け考え続けるのが必要だ。

  • 日本における格差について分かりやすくまとめられた本。
    導入には最適。
    自分が生きる世界以外の世界を知ることはとても大切。
    自分さえ良ければ、という人ばかりになったその先にあるものをみんなが想像することが大切。

  • 自分の知らない世界が存在していることを認識するべき。
    人生のステージが進むにつれ、自分とは異なる階層にいる人達は少なく(見えにくく)なっている。自分のスタンダードが社会のスタンダードではないということを理解したほうがいい。

  • いまの日本は階層ごとに断ち切られている状態
    かつては学力がなくても手に職を身に付ければ稼げる時代だったが、オートメーション化が進み、シャッター街は潰れ、大型店の雇われ社員になり、給与が抑えられた。大型店の小売やサービス業は価格争いの最前線で、
    重要なのは自ら望んでその生活をしているかどうかということ。選択の余地がない中で、現状に苦しんでいるのであれば、それは「貧困」と呼ぶべきものである
    貧困の連鎖というのは、教育格差と自己否定感が両輪になって引き起こされる
    職業格差は待遇の差だけでなく、特定の職業に対する軽視や差別のようなものを生んでいる。格差の下位に位置づけられる職業であればあるほど精神的な負担は大きくなるいまの日本にはインドのカースト制度、江戸時代の身分制度のような目に見える形での差別制度は存在しないが。
    コロナ禍において女性の自殺率が顕著であるにもかかわらず、男性の自殺は前年比減である
    職業や職務によって男女の性差ができてしまっていること。それを男女の職業分離と呼ぶ。
    少年院にいる子どもの5割が虐待経験、2割がスパルタ教育経験がある
    些細な行動が、相手にはとても温かく伝わるものなのだ
    豊かな社会というのは、そんな温かさがどれだけあるかということだ
    日本の法律では外国人は義務教育の対象外
    子どもは真実を映し出す鏡である。彼らにはおごりも、敵意も、偽善もない。もし思いやりに欠け、嘘つきで乱暴な子供がいたなら、罪はその子にあるのではなく、両親や教師や社会にあるのだ。
    子供が虐待を受けると、脳に甚大な影響が及ぶことが明らかになっている。脳の海馬や扁桃体などが萎縮し、さまざまな機能が低下する恐れが生じる。
    行動障害とは、障害ゆえに社会的に相応しくない言動をとってしまうことだ。
    ホームレスの62%に何かしらの障害があることが明らかになった

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著者プロフィール

1977(昭和52)年、東京生れ。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。ノンフィクション作品に『物乞う仏陀』『神の棄てた裸体』『絶対貧困』『遺体』『浮浪児1945-』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『こどもホスピスの奇跡』など多数。また、小説や児童書も手掛けている。

「2022年 『ルポ 自助2020-』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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