聖なる酔っぱらいの伝説

  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (170ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560042427

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  • 更新される世界


     ヨーゼフ・ロートの代表的な短編から、三篇。

    ☆表題作『聖なる酔っぱらいの伝説』
     橋の下に寝泊まりするボヘミアンが、小さな聖女テレーズさまのご加護で、思いもかけぬ大金を手にします。返済までの道のりには、必ずのように邪魔が入ります。しかし奇跡は続く……。人生の最期を金色の美酒で飾る寓話です。
     この主人公、確かに飲んだくれですがプライドがあります。ただお金を受け取る人間ではなかったのです。彼を描く文章は少しも酒くさくない。透きとおったアルコールリヴァーに洗い流されたように、いつも新鮮に始まる日々が軽やかです。

    ☆『四月、ある愛の物語』
     小さな町でアンナと愛し合っていた「私」。女について、「彼女たちは世界を更新するためにつかわされている」と感じていたとか。文章が詩的です……。
     ある日、「私」は窓辺の娘のあまりの美しさに心奪われます。愛にも満期があるのでしょうか? 「私」にも更新日が来たのかもしれません。つまりは心変わりを描いた短編なのですが……、さらっと明るい。再出発によって世界がみずみずしくなる感覚がさわやかです。

    ☆『皇帝の胸像』
    「近年、世界の歴史がやらかした気まぐれのおかげで」と、茶目っ気さえのぞかせて前置きしつつ、オーストリアの過酷な史実をふんわり説明。国家も更新日をむかえるのか。時代の変わり目というのは、ただ静かに立ち会うしかないものと感じさせる物語です。
     誇りは、悲しみを優しさで包むことができるのだなぁ……。

     いずれも、ヒトラーのユダヤ人弾圧が始まり、著者の妻が精神を患ってからの作品です。いくらでも暗いものが書けそうな時期に、ロートは小さな楽園の物語にペンをふるいました。さすらう魂が束の間あたたまるような、ささやかな夢が守られています。

    追記:Uブックス版に寄せて、訳者はさわやかに書き切っています。
    「私はこんな小説がいちばん好きだ」
     同感☆

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著者プロフィール

1894年、東ガリシアのブロディに生まれる。1939年、亡命先のパリで死亡。1923年からドイツの代表紙「フランクフルト新聞」の特派員となり、ヨーロッパ各地を巡ってユニークな紀行文を書き送り、売れっ子ジャーナリストとなった。その傍ら創作にも手を染め、1930年の長編小説『ヨブ─ある平凡な男のロマン』は現代のヨブ記と称された。1932年にはかつての祖国ハプスブルク帝国の没落を哀惜の念を込めて描いた『ラデツキー行進曲』を発表し、小説家ロートの名をも不動のものにした。

「2021年 『ヨーゼフ・ロート ウクライナ・ロシア紀行』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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