サートリス

  • 白水社
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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560047880

感想・レビュー・書評

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  • 若者に老人に。男たちに癒着し停滞する時を閉じこめた散文詩。◆世界が醸す色・香り・気配を、血の轍を運命とし、同胞の死を身の内に縫い合わせられた者は感じることができない。◆時も歩みをとめる閉じた空間に聖書と銃が横たわる。仕舞い込んだもの・仕舞い切れなかったもの。静寂のなか、はみ出した呼吸・鼓動・脈動=体内の音だけが響くひとり(あるいはふたり)の眠れぬ夜。死を受胎したものにクリスマスの祝福はやってこない。◆宿命を持たぬ新しい名前と薄紫色にたなびく自然が予感として遺される。それらは嬰児の善き里親になれるだろうか…

  • 戦争で台無しになるのが血筋のサートリス家の物語。物語の中心、主人公として妥当なのはおそらく(ヤング)ベイヤード。彼は戦闘機のパイロット。戦場で同じパイロットの弟が目の前で撃墜されるという壮絶な体験[p234]をする。それが彼を苦しめ、周りの人間を振り回し、果ては短い生涯を閉じさせることになる(PTSD?)。フォークナーの陰鬱だが、美しい作品の出発点となる作品であるらしい[※解説p349]。ダラダラと長く(曖昧なストーリーライン?)、人物が浅いか。

    上手すぎて逆に窮屈なところどころの描写が、夜の自動車のヘッドライトのように尾をひきながら最後まで読ませられた。

    とりあえず、「この小説はいったい何が言いたいのだろうか」などと真剣に読まないで、(散文)詩として読む(読み飛ばしながら読む…)のが良いかも。絵画のよう。

    一般的にフォークナーを読むのは時期やタイミングが限られるか。

  • <斜陽を迎えたアメリカ南部の旧家サートリス家。
    第一次大戦を終え、息子ジョンを失い、
    もう一人の息子ベイヤードも心に深い傷を負って帰還する・・・。>

    著:ウィリアム・フォークナー

    記念すべきヨクナパトーファサーガの第一作。
    フォークナーは、これを書いている途中で、自分の中に語るべき物語の鉱脈を見つけ、
    それを掘りだし、磨き、世界文学に名を残すアメリカ南部ミシシッピ州の中にある架空のひとつの郡、
    ヨクナパトーファ郡という地域を作り出し、
    そこを舞台にした一連のヨクナパトーファ・サーガを創造したことでしょう。

    物語としては第一次世界大戦を経て、圧倒的な虚無感に襲われたベイヤードの、
    ロストジェネレーション的なもので、そこに南部貴族の血統を絡めています。

    少し冗長な話なのだけれど「サートリス大佐」という名で今までに出てきた
    ヨクナパトーファ・サーガを陰に陽に貫くひとつの家系、サートリス家を体感できます。


    「サンクチュアリ」のホレスとナーシサのベンボウ家や、
    「死の床に横たわりて」の胡散臭いピイボディ先生もしっかりとででてきたのには感動。

  • フォークナーの作品でキャラ萌えするとは思わなんだ。ヤング・ベイヤードに死んで欲しくなかったなぁ…。
    読了後数日して、アメリカで飛行ショーの墜落事故が相次ぎ、ガラにもなくしんみりしてしまった。
    帯に南部貴族とあるけど、アメリカに貴族社会って存在したんだろうか?あんまりピンと来ない。戦時中の英雄とか鉄道を敷いたりした名士というのは、「貴族」とは違う気がする。大して重要じゃないけど。
    初期の作品ということで、それほど難解でもなく、登場人物のそれぞれのキャラも立っていて面白かった。ミス・ジェニィがラストでナーシサに言う台詞がいい。女は強いんだ、いつの時代もどこででも。

  • 習作らしいが、なんせフォークナーなので習作?というような出来。ミス・ジェニイが素晴らしく素敵。フォークナーらしく近親相姦めいた双子ラブもアリ。

  • 作中で描かれる第一次大戦後の虚無感に駆られた「失われた世代」の若者達。これは20年程前の日本で流行した「不良」と言われる10代の反抗と捉えることができるかも。勿論サートリスに登場する若者は夜の校舎窓ガラス壊して回ったりしない(社会人だから)し、盗んだバイクで走り出したりもしない(金持ちだから車を買った)のだが、そこにある人生に対する虚しさ、社会に対する憤りは通底するものがある様な気がした。そしてそれが結局自己陶酔と社会的責任に対する逃避でしかないことも。

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著者プロフィール

1897年アメリカ生まれ。南部の架空の町を舞台にした作品を多く生み出す。著書に『八月の光』『響きと怒り』『アブサロム、アブサロム!』など多数。1950年ノーベル文学賞受賞。1962年没。

「2022年 『ポータブル・フォークナー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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