- Amazon.co.jp ・本 (237ページ)
- / ISBN・EAN: 9784560071175
感想・レビュー・書評
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本当に優れた小説は、人の心の奥深くにあたたかな火を灯してくれる。険しい人生を生き抜く中での道しるべとなってくれるような、小さくても確かで、そして勇気をくれる炎。ジェイン・オースティンのイギリス的お家騒動、そしてユーモアと皮肉のこもった風刺を下敷きとしながらも、よりリアルで現代的な(と言っても書かれたのは1905年だが)価値観の相克を描き出す手法が見事としか言いようがない。
フォースターは大学生の頃に結構ハマったというか、かなり心酔してほとんど神棚に崇めていたが、若気の至りだったかもしれないと最近は考えていて読むのが怖かったのだけれど、若い頃の自分の感覚に間違いがなかったと気がつけて少し嬉しい。フォースターは最終的にヨーロッパを飛び出してアジアへとその目線を向けることになる。ゆっくりとその小説世界を網羅していこうと決意した。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
こまごまとした秩序とゴシップに、すんごいイギリスだな~と思いながら読み始める。
中野康司さんの訳とあって、文章の読み口もオースティンみたい……と思っていたら、フォースターはオースティンをとても尊敬していたらしい。なるほどそれも納得で、ユーモアと平易さの最強タッグな文章が素晴らしかった。
ストーリーは、保守的なイギリス中産階級の人々と、イタリアの秩序がない(かのように見える)朗らかな男が出会うことにより生じるあれこれに始まり、次第に思いがけない展開へも広がっていく。
異文化というよりは、生活の衝突という感じだと思った。異なる世界への戸惑いと、まぶしさと、自分の人生への疑問……なぜこんなにも、自分はくだらない人生を我慢して歩んできたのだろう? という疑問。
しかし、イタリアの眩しい陽光が、誰にとっても素晴らしいものであるとは限らない。古い因習に縛られてきた自己を省みながらも、「イギリス人」であり続ける彼らの胸中に頷くことしきりである。
そして、変化が必ずしもいい結果をもたらすわけではない、ということも、この作品は丁寧に描いていると思う。
フォースター、テーマの描き方がとても好みだったので、他の作品も読んでみたい。 -
ロンドン近郊の閑静な町、ソーストン。ヘリトン家の無思慮な未亡人リリアが、旅行先のイタリアで現地の青年と再婚すると言ってよこしたことから、一家は上を下への大騒動になる。1905年に発表された本作はフォースターの処女長篇に当たり、後の作品に比べてもひときわ軽妙で風刺の利いた喜劇である。
素晴らしくテンポがよく、フォースター一流の上品な諧謔を流麗な日本語に移した翻訳(中野康司)が見事。最初から最後まで楽しんで読める。
町の名士を気取るヘリトン家の人々はリリアの非常識な再婚を頑として受け入れない。糊塗と偽善に満ちた行為が皮肉な語調で綴られるが、彼らが悪役というわけではない。英国風俗小説の正統な後継者であるフォースターは、行き過ぎた戯画化や安直な大団円を巧みに避ける。特に終盤の怒涛の急展開、予想と全く別方向に転がっていく事件の顛末には唖然とさせられた。
フィリップやアボット嬢が、トスカーナの空気を吸って胸開かれていくさまは、後の作品にも通ずる豊かな情感を込めて描かれる。お話のおもしろさもさることながら、こういうしみじみとした人間描写がフォースターを読む醍醐味だと思っている。 -
2017.10.1一箱古本市にて購入。
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フォースターの書く、息の詰まるようなイギリスの保守的中産階級と、開放的な南の国イタリアの文化の相違。異なる価値観の衝突をこれでもか、これでもかと打ち出す執念に魅了される。ヨーロッパという文化圏の中の価値観の差異と、それを楽しむ感性というのは、遠く離れた国で生まれ、そこに根付くわたしには全く縁遠いものであり。理解できない存在であることが悲しく、ヨーロッパは遠く、しかしフォースターの世界はヨーロッパの中で閉じ込められたものであって、わたしはその遙か遠くにいることができる存在であると驚いた。
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古典の世界ではあるけど、典型的なイギリス人とイタリア人の対象的な姿を浮かび上がらせる本。
イギリス社会では浮きがちな奔放さを持つ女性が、
ラテンなイタリア人と結婚するが、、、。
周囲のイギリス人たちが、様々な思惑で動きまわり、
群像劇の様な物語になっている。
ラストのアボット嬢のまさかの述懐に驚きと、反面、納得を感じた。 -
題名は知っていたけれど、読むのは初めて。
最初のシーン、
イギリスに住む美しき未亡人リリアとご近所に住むアボット嬢が
一年間のイタリアの旅に出るところ。
慌ただしくみんながそれぞれにはしゃいだようになって…
まずイギリス上流社会の人々と、イタリアの田舎町の人々の
比較も面白い、が。
リリアの義理の家族
ヘリトン夫人、義姉ハリエット、義弟フィリップ、
またイタリア男ジーノ…
それぞれが持っている欠点が
うまく描き出されていて、
これぞ現実の世界。
お互いがお互いの自分が考える「嫌なところ」を
意識しながら、
毎日を送っているその描写がたまらなく真実味があった。
「この人はこういう風に言っているけど、
実は本心はこうだな。
でもそれをあえては言わない(気付かないふり)」
と言うこと、
普段意識していなかったけど、
こういうこと、確かによくある。
普遍的過ぎて当たり前に見過ごしていることを
ちゃんと「あっ(そうそう)」と思うように表現出来るというのが
作家の目、と言う感じがした。
完璧な人間はいなくて、
そしてそして生きていくうえで完璧な人間である必要は無いんだ、
と、勝手に解釈してしまった。