エレクトリック・シティ:フォードとエジソンが夢見たユートピア

  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (322ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560098851

作品紹介・あらすじ

ダム、電気、自動車――100年前、フォードが主導したテクノ・ユートピア構想を取り巻く濃密な人間模様を描いた傑作ノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • プロフィール写真の著者は、スティーヴ・ジョブズのように片手を顎にあてたポーズをとっている。医化学系ジャーナリストとあるが本書を著すきっかけを聞いて以降、段々考古学者に見えてきた。

    自動車王フォードと発明王エジソンがタッグを組み、労働者フレンドリーな都市を創ろうとしていた事を知った著者。跡地に足を運んだ際、遺跡を発見した時のようなロマンを覚え調査を開始することに。(「近現代なのにもう遺跡扱い?」と冷笑しかけたが、よくよく考えれば100年以上も経っている…)

    アラバマ州にあるマッスル・ショールズという街がユートピアの舞台。
    しかし元は先住民が住んでおり、そのまた約100年前に彼らは追放されている。単身追放先から戻った女性の話は、また別の本で詳しく聞きたいくらいに驚いたし彼女と子孫の勇気には感極まった。
    2人が目をつける前から街は産業が盛んで南北戦争からの復興、硝酸塩工場や巨大ダムの建設計画と、ユートピアへの下準備は整っていた。

    2人の、特にフォードの半生はユートピア計画と連関しているように見える。(エジソンは全体的に影が薄かった)
    彼は農家の出身だが、純粋に機械いじりが大好きで農業ではなく機械工の道を選んだ。T型フォード開発後は事業のプロモーションといったビジネススキルも発揮するようになる。不学のせいで、反ユダヤ主義といった偏狭な思想をお持ちなのは残念だったが…。(そのせいか、ヒトラーから敬われていたことも)

    いつの時代の人物かすら知らずにいたが、彼の功績や人柄をこの一冊で熟知できるとは思ってもみなかった。(その代わり彼が得意とする工学系の話は熟知しきれず…汗)
    自動車王と言うからてっきり某不動産王みたいな人を想像していたが、蓋を開けてみれば超庶民派だった。田舎暮らしを愛し、自動車以外にも彼を育んだ土地や人々への恩返しにと、農業機械を開発。
    マッスル・ショールズを再起させる救世主としても人々から慕われ、大統領へ押し上げようとする流れまであった。(本人はそこまで乗り気でなかったところが某不動産王と違う…笑)
    フォードが身を退いた後も土地開発は継続されたようだが、結局ユートピアにはなり得なかった。

    不発に終わらなければ、歴史をも変える出来事になっていたのかもしれない。著者は膨大な新聞や手記の山を掻き分け、知られざる人々の存在までも照らし出してくれた。ノンフィクションなのに臨場感があって、正直読み切るのがもったいない。
    この「電撃的」な出会いをひと足先に体験、日経新聞で紹介してくださった鈴木透氏(慶應大学教授)にも感謝せねば。

  • ちょっとマニアックで、こんな本誰が読むんだろうというような本ですが、
    amazonの本の概要を見ると、とても面白そうなノンフィクションなのです。

    ===amazonから抜粋===
    「見果てぬ夢」の物語

    「狂騒の1920年代」、アメリカで最も影響力のある偉人、自動車王ヘンリー・フォードと発明王トーマス・エジソンがとてつもない「夢の町」建設プランをぶち上げた。巨大ダム、クリーンな水力発電、自家用車に幹線道路など、当時の最新技術を駆使して、アラバマ州テネシー川流域の貧困地帯を一大テクノ・ユートピアに変貌させようという壮大な構想だ。さらには強欲な金融勢力の支配を排除すべく、独自通貨も発行するという。
    地元住民や同州選出議員らはこの構想に希望を抱き、現地を視察に訪れた2人を熱烈に歓迎。だが一方、首都ワシントンでは一部の有力議員や慎重派がこれを巨大企業による詐欺まがいのスキームと見て猛反発した。ユートピアか、いかさまか―。両者の熾烈なバトルが10年以上にわたって繰り広げられた末、フォードを警戒する共和党保守派の重鎮、クーリッジ大統領との取引が暴露され、「フォード構想」は突然の幕切れを迎える。
    新たな暮らしのモデルを提供する「夢の町」構想と、それを取り巻く濃密な人間模様を通して、「ジャズ・エイジ」からニューディール政策へと転換するアメリカ社会を描いた傑作ノンフィクション。
    ===抜粋終わり===

    さらに、今、個人的にはスマートシティに興味がありまして、
    スマートシティのように全体の街づくりのビジョン策定や
    全体像をデザインするときの参考になるのでは?と思って読んでみました。
    もちろん時代背景は全然違うのですが、フォードがどんなことを考え、
    街の全体像をデザインしたのかが気になったのです。

    結論から言うと、自分の求める情報は本の中にはあまりなかったのですが、
    それでもノンフィクションとして中々の面白さでした。
    さらに、自分の学びとしては、やはりこれくらいの壮大な計画を実現させようとすると、
    関係者の利害が複雑に絡み合い、
    理想だけでは中々実現させるのは難しいということ。
    ブームに乗っかる悪党のような奴もいたみたいですし。
    (これは当時も今もそんなに変わらず、笑。)
    一方、アメリカ特有のカネの匂いがしたら、
    一気にそこに向かおうとする力・流れが働く様子も
    中々ダイナミックかつ、昔からあるんだなという印象。
    大昔は、ゴールドラッシュ、少し前ではネットバブル、
    今では、NFTとかメタバースとかビットコインとかが当たるのかな。
    過去を見て、今や将来を見据えるのに参考になる本だと思います。

  • 第一次世界大戦後(いわゆる「狂騒の一九二〇年代」)、ヘンリー・フォードとその理想都市の計画がマスコミの話題をさらった。が、絶大な人気を誇る大富豪でもなかなか思い通りに行かないのが民主主義の真骨頂。すったもんだの末、結局フォードの提案は否決され、公的機関ダム建設を中心とする、テネシー川流域の超巨大開発中プロジェクトを担うこととなった。本書は、この政争の顛末を綴ったノンフィクション。田園都市的な「ユートピア」=エレクトリック・シティ建設を巡る「見果てぬ夢」の物語(解説)。

    事の発端は、第一次世界大戦。敵方に海上封鎖されてしまうと、爆薬製造に死活的に重要なチリ硝石を入手できなくなるリスクに気づいたアメリカ政府は、硝酸塩合成の巨大プロジェクトを立ち上げた。硝酸塩の合成には莫大な電力が必要であり、アラバマ州マッスル・ショールズに巨大な水力発電所と巨大な硝酸塩工場(ただし、ハーバー・ボッシュ法より旧式で非効率な合成法を用いたもの)を建設する計画だった。ところが、ダムの完成や硝酸塩工場の稼働を待たずに戦争が終結してしまう。

    米国政府は、維持経費ばかりかさみ無用の長物と化した巨大プロジェクトの残滓の売却先を探し始めた。

    そこに名乗りを上げたのが、自動車王ヘンリー・フォード。フォードは、テネシー川流域全長75マイルに未来的な完全電化型の巨大都市を建設する構想、電化された小規模な工場をテネシー川沿いの村や町に点在させ、労働者たちが「緑豊かな地域一帯に分散して暮らし、職場へ通勤する」スタイルの「田園都市」(ガーデン・シティ)、各労働者は農地を持ち、進化した農機具を使って工場労働の合間に農作業を行う(古き良きアメリカの暮らしとテクノロジーを融合させた)ビジョンを示した。もちろんフォードの真の狙いは、安価で大量に得られる電力を用いて一大自動車産業都市群を築こうというものだった。

    この計画に立ちはだかったのは、ダムや電力、治水等は民間企業に委ねるべきでないとの信念の持ち主、ジョージ・ノリス上院議員(上院農林委員会の委員長)。「国民にとってどちらが望ましいのか、民間による開発か、公共事業としての開発か」。

    長期間にわたる激しい攻防の末、夢破れたフォード。結局、ノリスの法案に基づいてテネシー州流域開発公社(TVA)が設立され、巨費が投じられて「二十世紀のアメリカの平時における最大の偉業」が実行に移された。だが、今振り替えるとその成果ははかばかしいものではなかったという。「テネシー川流域はTVAの恩恵を受けたが、ジョージ・ノリスやローズヴェルト大統領が望んだほど劇的ではなかった。そしてアメリカのほかの地域もすぐに追いついた」。

    アメリカ政治のダイナミズムを感じることができた。読み応えたっぷりだった。そういえば、途中、発明王エジソンも登場するが、老害甚だしい道化役といった感じだった。「実際は本格的な研究者ではなく、熱意と才能を併せ持つアマチュアと言うほうが当たっている」。科学者としても実業家としても、エジソンは一流の人物じゃなかったんだな、やっぱり。

  • 今から100年前のアメリカで繰り広げられた「スマート・シティ」の夢と、それを巡る政治的な駆け引きのドラマを描いており、とても興味深く読んだ。

    20世紀の初めに、テネシー川の流域にあるアラバマ州マッスル・ショールズという地域に、大規模な水力発電のためのダムを建設し、巨大な工場、改良された水運に支えらえた新しい街をつくろうという構想を最初に描いたのは、ジョン・W・ワージントンとフランク・ウォッシュバーンという2人に土木エンジニアだった。

    2人はこの構想を実現するために多くの人に売り込みをかけたが、その中でこの構想に大きな関心をもち、自らその実現に向けて動いたのが、自動車王ヘンリー・フォードだった。

    フォードの構想はさらに膨らみ、巨大な肥料工場だけではなく、豊富な電力に支えられたさまざまな産業を誘致するとともに、緑豊かな住環境を提供し、最新の電化設備と自動車が使える職住近接型の新しいライフスタイルが展開されるという、全長75マイルの田園都市構想へと膨らんでいく。それは、19世紀の終わりごろから生まれてきた田園都市運動を、フォードなりに近代化した理想都市の構想だった。

    広大な地域のインフラを整備し、まったく新たな産業と都市のクラスターをつくるというこの構想をフォードは政府に強力に働きかけて実現しようとする。しかしそこに立ちはだかったのが、本書の後半の主人公ともいえる、ジョージ・ノリス上院議員である。

    筋金入りの公益の守護者であったノリス上院議員は、電力や水運といった公共の利益は政府によって管理されるべきであり、民間企業がこのような領域で利益を上げようとするべきではないと考えていた。そのため、フォードによるこの開発計画を認可することを徹底的に妨害した。

    ハーディング、クーリッジ、フーヴァーと、アメリカ合衆国大統領が3代も入れ替わる間、長い政治的な闘争を中央政府、議会において繰り広げたのちに、フォードはこのプロジェクトから撤退する。しかし、歴史はそのまま終わらず、続くルーズベルト大統領の時代になり、ニューディール政策の象徴的なプロジェクトである「テネシー川流域開発公社(TVA)」として、この構想は復活する。

    民間のインフラ参入には反対していたノリス上院議員も、政府が主導するこのプロジェクトには大いに賛同し、TVA法案が可決する。そして、そこから約20年をかけて、16基のダムと数多くの都市がつくられ、流域の開発が進められた。

    本書は、壮大な理想都市の構想と、それがもたらすさまざまな紆余曲折を描いており、開発物語としてとても興味深く読んだ。それとともに、このような公益的な事業の意義についても考えさせられる本だった。

    ノリス上院議員は、民間企業は必ず利益を求めるものであり、そのような企業に電力事業などの独占的な権利を与えると、市民は高い電力を買わされ、資本家が多額の利益を独占すると主張していた。したがって、公益事業は政府の管轄下で行われるべきであるというのである。一方でわれわれは、国営企業の効率の悪さと、それによりサービスの低下や価格の高止まりが起こるということも知っている。

    TVAについても戦後さまざまな検証が行われたが、電力の普及や価格の面で、TVAが事業を展開した地域とそれ以外の州で明確に差があったという結果にはならなかったという。また、産業の成長速度についても、TVAが展開した地域とその他の地域で、顕著な差はみられなかった。

    このように、公共事業としてのTVAの成果については賛否両論があるようである。それでは、フォードが計画した民間事業による「全長75マイルの都市」が実現していれば、TVAよりも大きな成果を挙げあれたのか?このこともまた、検証ができないと言わざるを得ない。

    筆者は、民間による開発と公共による開発は、「あれか・これか」という二者択一のものではないのかもしれないと述べている。そして、大規模な地域開発事業というのは、これらのせめぎあいの中から生まれてくるものなのかもしれないと結論付けている。

    おそらく、事業の主体が民間であろうが公共であろうが、そこに対するチェックや競争の力が働かなければ、事業の効果は生まれてこないであろう。また、巨大な事業は巨大な利権を生み、強力な監視と高い透明性がなければ、事業自体が歪められてしまう。

    地域開発というのは非常に多くの変数が絡む複雑な事業であり、政治的な駆け引きや社会の変化によって、その軌道が大きく揺さぶられる。そのような環境の中で、プロジェクトにかかわったそれぞれの当事者の構想や主張が、最終的に社会にどのような影響を及ぼしたのかということを考えさせてくれる本だった。

  • 題材としては興味深く、電力事業が経済や政治に与えるインパクトとその後の世界を変えていく力があることを、改めて認識。
    フォードやエジソンのユートピアがいまだに議論しても新鮮な内容になり得る点は、今のビジネスにうまく取り込んでいきたい。

  • エレクトリック・シティ トーマス・ヘイガー著 フォードが描いた未来都市
    2022/7/2付日本経済新聞 朝刊
    自動車王ヘンリー・フォードと電球の発明で知られるトーマス・エジソンがタッグを組んだ幻の未来都市構想があった。時は今から100年前、場所は米国南部アラバマ州北部、テネシー川流域のマッスル・ショールズ。なぜこの地に彼らは注目し、計画はなぜ頓挫したのか。そして、そのレガシーの行方はいかに? これらの謎を追った本書は、卓越した企業家と公共事業をめぐる珠玉のノンフィクションだ。


    第1次世界大戦での連合国側の苦戦の重要な要因は、ドイツとの爆薬製造能力の決定的な差だった。米国の技術での大量生産には膨大な電力が必要で、米国はテネシー川で水力発電を計画。しかし、ダムが完成に近づき爆薬工場も本格稼働しようという矢先、大戦は終結。工場は無用の長物と化し、この後進地域に膨大な電力を有効利用できる産業もない。窮地に立たされた政府の事業の継承者として唯一名乗りを上げたのが、フォードとエジソンだった。

    二人は、電力の恩恵すらなかった田舎を一気に理想郷に変える計画を立てる。水力というクリーンエネルギーに石炭から切り替えることで自然環境を守り、フォードの工場を建設して雇用を創出し、電力という最新技術で生活の利便性を向上させようとしたのだ。

    だが、この計画には次々と横やりが入る。すでに投じられた巨額の公費に比してフォード側が得る電力の恩恵が大きく、結果的に特定の私企業を利する懸念に加え、当時大衆的人気があり、大統領にとの声すらあった一匹狼(おおかみ)的なフォードの存在感がさらに高まるのを、政財界が警戒したからだ。

    譲渡の決定は先延ばしされ、高齢のエジソンにも裏切られ、フォードは撤退を決断する。その後、ダムの整備は、大恐慌後の雇用創出目的の大規模公共事業として息を吹き返し、ニューディール政策の看板となるが、日の目を見ることのなかった企業主導の未来都市構想は忘れ去られた。

    自動車を作り続けつつも、農村型自給自足的社会への憧憬を抱いていたフォードにもし理想郷建設の機会が与えられていたら、都市計画の歴史は違っていたかもしれない。類まれな財力と発想や行動力を兼ね備えた企業家に「公」の側はどこまで何を託すべきなのか、改めて考えさせられる。

    《評》慶応大学教授 鈴木 透

    原題=ELECTRIC CITY(伊藤真訳、白水社・2860円)

    ▼著者は53年米オレゴン州生まれの医化学系ジャーナリスト。著書に『歴史を変えた10の薬』など。

  • 第1部 マッスル・ショールズ
     第1章 川が歌う土地
     第2章 戦時下の夢の町
     第3章 ヘンリーおじさん
     第4章 毎秒八ドル
     第5章 大統領とキャンプする男
     第6章 政治と宣伝
     第7章 二人の魔術師
     第8章 立ちはだかる壁
     第9章 ヘンリー・フォード大統領

    第2部 繁栄の町
     第10章 湿地とウイスキーと
     第11章 たった一人の戦い
     第12章 全長七五マイルの都市
     第13章 政界という汚らしい溝(どぶ)
     第14章 最後の会談
     第15章 スキャンダル

    第3部 TVA
     第16章 アラバマの幽霊
     第17章 新たなるディール
     第18章 政府のために死ぬのよ
     第19章 エレクトリック・アメリカ
     第20章 大空の徴(しるし)

  • 請求記号 518.8/H 12

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著者プロフィール

1953年、米国オレゴン州生まれ。医化学系ジャーナリスト。オレゴン健康科学大学で医微生物学と免疫学の修士号、オレゴン大学でジャーナリズムの修士号を取得。米国国立がん研究所で勤務したのち、フリーランスのライターとなり、医療関連の記事をAmerican Health, Journal of the American Medical Associationなどに寄稿。オレゴン大学でOregon Quarterlyのエディターを長年務めたほか、同大学出版会のディレクターとしても活躍した。著書多数。邦訳書に『歴史を変えた10の薬』(すばる舎、2020年)、『大気を変える錬金術[新装版]』(みすず書房、2017年)、『サルファ剤、忘れられた奇跡』(中央公論新社、2013年)がある。

「2022年 『エレクトリック・シティ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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