モネ、ゴッホ、ピカソも治療した絵のお医者さん 修復家・岩井希久子の仕事

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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784568221367

作品紹介・あらすじ

名画も年をとれば病気になる。絵を蘇らせてきた名医が語る修復の現場。

感想・レビュー・書評

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  • 絵画の修復を手がける著者が、修復の仕事をするようになるまでの道のり、仕事の周辺、今後の抱負を語る。

    3年ほど前のNHK『プロフェッショナル』で紹介されてこの著者を知る。
    本書は新聞広告で見かけて、図書館で借りてみた。

    絵画修復家とは、文字通り、年数を経て、損傷したり劣化したりした絵画を修復する仕事である。
    近年ではフェルメールの「手紙を読む青衣の女」が修復されて鮮やかなラピスラズリの色が甦ったこと(これはアムステルダム美術館のフェルスライプという修復家による)、あるいは逆に、修復と称して手を入れすぎ、絵がまったく別物になってしまったフレスコ画の話あたりが話題になった。

    著者は画家を志していたが、父親からの示唆で修復家という仕事を知り、夫(画家の岩井壽照氏)とともに渡ったイギリスで、働きながら本格的に修復の基礎を学んだ。以後、日本における数少ない修復家として、数々の名画と向き合っている。
    著者が行う修復は、基本的にやり直しの利く形で行われ、絵にやさしい、オリジナルの風合いを損なわないことを目標とするものである。
    突き詰めていくと、損傷を治すよりも損傷が生じないように予防する方が大切だと説いている。

    欧米ではどこの美術館にも修復部門があるというが、日本ではまだそれほど普及していない。美術館として「箱」はできるが、修復に掛ける予算がつかないのだ。そのため、保管状態が驚くほどよくないものが多いという。
    総体に控えめで穏やかな印象を与える著者だが、こうした現状に関してはかなり強い言葉で批判している。
    「職人」が、文化を維持する上で大切にすべき存在なのに、正当な評価を受けていないという指摘はその通りだろうと思う。

    本書は、修復の技術的な点、子育てをしながら働く困難、日本の修復業界の層が薄いがゆえの苦労などに触れ、修復の実例や、修復をきっかけに知己を得た人との対談なども盛り込む。あれこれ詰め込んだがために、いささか焦点がぼけたきらいがないではないが、「修復家」という仕事がどのようなものかを知る入門書としては手頃な1冊と言えるだろう。

    著者は、将来的には、修復技術をガラス張りで客に見せ、その収益を絵画の修復に充てる「修復センター」の設立を構想しているという。
    実現すれば見に行ってみたい。


    **職人・アルチザンの本を集めてみました。
    ・ルリユール(製本・装幀)
     『手製本を楽しむ』(栃折久美子)
     『ルリユールおじさん』(いせひでこ(絵本))
    ・宮大工
     『棟梁』(小川三夫)
    ・染織家
     『日本の色辞典』(吉岡幸雄)
    ・仏像修復家
     『壊れても仏像』(飯泉太子宗)

    • bokemaruさん
      今回エルミタージュ美術館を訪問する機会があり、数々の名画を見てきました。
      その多くが修復家の手による修復を経て展示されたもので、その技術に驚...
      今回エルミタージュ美術館を訪問する機会があり、数々の名画を見てきました。
      その多くが修復家の手による修復を経て展示されたもので、その技術に驚かされて帰ってきたばかりなのでとても興味深いです!
      私も読んでみます!
      2013/08/28
    • ぽんきちさん
      bokemaruさん

      をを。ロシア、行っていらしたんですね(^^)。
      楽しい旅だったことでしょう。

      エルミタージュ美術館、見応えがあった...
      bokemaruさん

      をを。ロシア、行っていらしたんですね(^^)。
      楽しい旅だったことでしょう。

      エルミタージュ美術館、見応えがあったことでしょうね。

      修復技術は、お国柄もあるようで、著者が学んだイギリス式は絵画にやさしく、修復箇所を取り除くことができるものなんだそうです。
      エルミタージュ美術館の修復方針と比較してみたりするのも興味深いかもしれないですね。
      2013/08/28
  • 夏にロシアのエルミタージュ美術館を訪問した際、鑑賞に来た客に塩酸をかけられ、苦労して修復されたという絵画をみたということもあり、本書が目をひいた。

    美術館や展覧会というと、日本ではやはり非常にその取扱いには気を遣い、たとえばロープなどを張って人が近づけないようにしたり、何かしらのケースの中に作品が収められていたり、当然温度湿度、光線などにも留意されていて、知らず知らずのうちに厳かな心持にさせられることが多い。
    本書でも、著者は絵画の修復家(日本ではごく少ないらしい)の第一人者ということもあり、非常に心を砕き、作者の描きたかったもの、作風、タッチ、表現を可能な限り忠実に甦らせられるよう苦心しているのがよくわかる。
    そして著者は、専門家の目から見て、日本ではこと絵画の管理、修復、保全ということに関心が薄く、体制がなっていないことをたびたび嘆いてもいる。

    ところが…世界有数の美術館といわれるエルミタージュ、びっくりするくらいぞんざいな展示方法でいろいろな作品が展示されていたのだけれど…これっていいんだろうか。
    素人目にも不安に思うくらい、全く裸の状態の作品がひょいと展示され、それこそ作品に触れるのもなんら造作ないほどすぐ近くまで寄ることができる、外に面した窓は全開、日光も差し込み作品にも当たっている、ネヴァ川という大きな川に面した窓から外の風もがんがん吹き込み、温度湿度の管理どころか、外の道路からの排気ガスやらホコリやらなんやらかんやら、入り込みまくりでは??
    ごく一部の作品を除いて、写真を撮ることも止められていないし、本当にこれで作品は大丈夫なのだろうか、これで世界有数の美術館といっていいのだろうかと、本当に心配になった。
    著者は「西欧の美術館は、美術品の管理が進んでいる」というが、ここエルミタージュは(ロシアだし、もともとエカテリーナの住居として使われていた建物だから仕方ない部分もあるのかもしれないけれど)正直本当に酷い。近々改装の予定ではあるらしいが…。

    修復の過程、やり方などを簡単に説明したページもあり、興味深く読んだ。もっと、いろいろな作品の修復前やその後、修復中の様子など、カラーでたくさん見たかったな。
    著者は、修復センターを作って修復の様子などを一般公開するなんていう夢ももっているらしい。それは面白そう!できたら行って見てみたい。

    去年だったか、スペインで、修復すると言ってフレスコ画のキリスト像をめちゃくちゃにしちゃったおばあさんが話題になったが、そのおばあさんに本書を読ませたらどう思うのかな~なんて思いながら読んでいたら、そのことにもちょっと触れられていた。「おばあさんを笑わないであげて、でもやってしまったことはたいへんなことだけど」だって。
    最初さんざんこき下ろされて、そのうちその絵目当ての観光客が増えて、これはこれでいいんだ、なんて擁護する声もあがったりしたけど、やっぱり、たいへんなこと、なんだよね…。

  • 絵の修復にもどの時点に戻すかという問題があることを知った
    意外にも絵も定期的にメンテナンスが必要なのだ

    修復には多くの日本の伝統的な材料が使われていることが誇り

    直島の睡蓮をまた見たくなった

  • 絵画の修復家の方の本。
    絵の話だから、と思って軽い気持ちで読み始めたら、「仕事をする女性」としての悩みや、一つの課題から構造全体の課題へと視点を変えることの重要性などを考える機会になり、はからずも自分の仕事について考える時間になった。
    わたしはITの仕事で、岩井さんのお仕事は修復家、まったく違うようだけど、出来上がっている面の価値を維持しながら、長く残していくために、どう手を加えるのか?というテーマは同じだ。

    誰もが知っている名画の修復に携わられてるのがとてもすごい。文章だけよむとイメージできないが、ページの中ほどに差し込まれた写真を見て驚愕する。山下清の絵画、ほんとうにこれは補彩なしで仕上げたの?!と混乱するほどの生まれ変わり。

    技術と、考える力で、その分野のパイオニアとしていまも活動されていることに脱帽。
    同時に、修復や保存に関して優先度の低い日本の美術館の現状にも悲しくなった。コロナでますます経営が厳しくなる美術館界隈にとっては、ほんとうに悩ましい事態だろう。
    (自分も、都内のある日本画美術展に行って残念な思いをしたことがあり、ほんとうにこの課題は解決されてほしい)

    仕事のめぐり合わせに意味を感じて、都度自分の成長機会にする姿勢。わたしも、惰性でやることがないよう、ひとつひとつの仕事の意味を考えていかねば。


  • 絵画修復家として活躍されている岩井佐久子さんの仕事論。

    絵画に関わった仕事にこだわり、女性という立場での仕事との向き合い方に葛藤しつつも歩んできた自身の道について説いている。今までなかなか知り得なかった絵画修復家としての仕事が丁寧に書かれた興味深い内容。「絵にやさしい修復」を理念とし、修復する際に、先の将来を見据えた“予防”を心掛けるご本人の姿勢は絵画に対する敬意と誇りを感じた。
    古くから現存する美術画が今も尚楽しめるのは、背景でこういった方たちの学と技術あってのものであると思うと頭が下がる。

  • 絵の修復という仕事について、丁寧にじっくりと教えていただいた。どんな仕事もそうなのだと思うけれど、現状に満足せず、たゆまずより良い道を考え、そして相対するものの思いを想像することが、いかに大切なことか。技術と芸術、ひいては人生ということまでも、考えさせてもらえた。

  • NHKのプロフェッショナルで見て気になっていたが、その仕事が本になった。どのようにして名画を修復するか、その方法もさることながら、世界で1枚しかない名画を壊すかもしれない仕事に向かう態度、美術に対する姿勢、など感服。

  • 大学図書館にてさらっと流し読み。
    専門的な内容を易しいことばで綴っているのでとても読みやすく、天気の良い日の昼間に窓辺で読みたくなるような本。

  • 美術

  • 絵画修復の実情と、大事だよ!という思いがひたすら書いてある

    お仕事には敬意

    本としては3分の1ですむ内容

    お仕事には敬意

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