社会的ジレンマ 「環境破壊」から「いじめ」まで (PHP新書)

著者 :
  • PHP研究所
3.39
  • (13)
  • (35)
  • (68)
  • (8)
  • (2)
本棚登録 : 486
感想 : 40
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (227ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569611747

作品紹介・あらすじ

違法駐車、いじめ、環境破壊等々、「自分一人ぐらいは」という心理が集団全体にとっての不利益を引き起こす社会的ジレンマ問題。数々の実験から、人間は常に「利己的」で「かしこい」行動をとるわけではなく、多くの場合、「みんながするなら」という原理で動くことが分かってきた。この「みんなが」原理こそ、人間が社会環境に適応するために進化させた「本当のかしこさ」ではないかと著者は考える。これからの社会や教育を考える上で重要なヒントを与えてくれるユニークな論考。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • ●人間に特定の行動を取らせる要因を個人の心の中にではなく環境の中に求めるとき、そこに見出されるのがインセンティブ。
    ●社会的ジレンマと言うのは、こうすれば良いと分かっている協力行動をとると、その行動をとった本人にとっては、その行動を取らなかった時よりも好ましくない結果が生まれてしまう状態だと定義されます。
    ●わかっちゃいるけどやめられない!
    ●割り勘のジレンマ。一人当たりの負担が小さいから、つい高額の料理を注文する。結果、思いの外高額になる。
    ●観光地の食堂。一見さんに美味しい料理を出すインセンティブがない。
    ●勇者オデッセウスと妖精セイレーンの物語。妖精の歌声を聴きたいが、自分がコントロールできない様になるのを防ぐために、自分を帆柱に縛りつけさせる。コミットメント問題とその解決の有名な例。
    ●飴と鞭だけで協力行動を取らせようとすれば、非常に大きなコストが、必要になってくる。
    ●実は感情こそが「賢い」利己主義者にとっては解決不可能な「コミットメント問題」の解決を与えてくれる、「本当の賢さ」の源なのだとしています。

  • それまで身近な例を通じて、明解に社会的ジレンマを解き明かした筆者の語り口が、第6章「社会的ジレンマの解決を求めて」から一気に複雑さを増す。解決の道筋は筆者自身にも
    おおくの不確定要素があるから、自然と説明が難しくなってしまうんだと思った。

    山岸俊男. 2000. 社会的ジレンマ ー「環境破壊」から「いじめ」までー. PHP新書117. PHP研究所.

    - 社会的ジレンマとは①ひとりひとりが協力行動化非協力行動を取る状況において、②一人の人間は非協力行動を撮ったほうが利益が大きいことが明確で、③全員が非協力的行動を取ると誰にとっても望ましくない結果がうまれ、全員が強力行動をとれば全員にとって望ましい結果が得られる状況。である。コモンズの悲劇(共有放牧地にそのキャパを超える大量の羊を放てば、いっとき個人の利益は増すが、やがてその放牧地に草が生えなくなる。)はこれの最たるもの。(p17)
    - 筆者はけしからん攻撃に否定的。けしからん攻撃というのは社会的ジレンマを道徳や教育によって乗り越えようというアプローチである。『社会的ジレンマ問題を人びとの心がけの問題だと考えてしまうと、問題の本質が理解されなくなり、結局は有効な解決策を打ち出せないという結果になる可能性があります。(p43)』社会主義国において国営企業の生産性は、徹底的な思想教育にもかかわらず、一向にあがらなかった。
    -『強力・非協力の選択を行うにあたって、ただやみくもに自分の短期的な利益をのみを追求するのではなく、相互協力状態を達成することにより、長期的利益を確保することが必要だと考えるようにならなくてはなりません。(p58)』
    -『お互いに信頼できない人間の間で相互協力が達成される場合として最もよく知られているのは、少なくとも一方が「応報戦略」を用いる場合です。応報戦略とは、前回に相手の取った行動を次の回に自分が用いるというやり方です。(p60)』
    - 囚人のジレンマ実験で、一回きりの実験の場合、協力行動を取る実験参加者は少ない。一方で繰り返し実験を行うと、最初のうちは協力行動が低下していくが、再び増加し、「結局一回きりの場合よりも協力度が高くなる傾向にある。」(p53)
    - 権威主義的パーソナリティは幼年期の親との付き合い方できまる。(p88)
    - 行動社会学の分野ではいくつかのセオリーが導かれているようである。『①集団内のコミュニケーションがあると、協力的な行動がとられやすい。。②他のメンバーが協力的であると確信できる場合、協力的な行動がとられやすい。。③集団が小さい場合には、協力的な行動がとられやすい。④自分の行動が全体の結果に影響を与えると思う人間は、協力的な行動をとりれやすい。⑤集団間に競争がある場合、集団内で協力的な行動がとられやすい。⑥集団との一体感が強くなると、協力的な行動がとられやすい。(p190より。若干改変)』
    - ただ現時点でアメとムチを用いずに、大規模の集団で社会的ジレンマを克服する道筋はたっていない。→結局は全体主義的強権でジレンマを克服するしかないのか? (p191)

  • 693円購入2010-07-08

  • mmsn01-

    【要約】


    【ノート】
    ・日経アソシエ7月
    ¥400

  • 社会的ジレンマ―「環境破壊」から「いじめ」まで (PHP新書)

  • 「共有地の問題」。なるほど、頭の中が整理できた。

  • お互いに監視するコスト
    自発的に協力したい人の不安を取り除く
    合理的判断より感情で動く
    インセンティブを利用する

  • このような視点から、カウンセリングを見つめ直すのは面白そうだな。

  • (1)一度きりのジレンマ状況においても応報戦略を用いる「賢い」利己主義者が、同じ様な「賢い」利己主義者の集団で最も利益を得る、と言う実験結果は大変興味深い.問題は母体集団において、短期的視野でしか動かない「愚かな」利己主義者の比率をいかに減らして、長期的視野でお互いに協力できる「賢い」利己主義者を増やせるかにかかっている.
    ある程度のアメとムチ(規制)は必要なようだ。しかしアメとムチが行き過ぎると全体主義に陥るというリスクがある.
    また、「みんながするなら(じぶんもそうする)原理」=「自分だけがバカを見るのでは無い」で協力行動を撮る人間が多数であれば、それにつられて「アメとムチ」が無かったとしても協力行動を取る人間は増えていく.

    (2)「限界質量モデル」から考えると、同じような社会的ジレンマに直面した2つの集団において人々の協力率が大きく異なっているからといって、その2つの集団ないし社会に属する人々が異なった種類の人々であるということには必ずしもならないのである.(=分布の初期値が限界質量を上回っているか下回っているかで最終的な結果が大きく変わってしまう)
    限界質量モデルは社会的ジレンマ解決の際に大きなポイントとなる.限界質量を超えた状態では、高い協力率を生み出し維持するのに人々が「みんながするなら自分もそうする」原理に従って行動するだけで十分だからである.言い換えると、いくら多数の「みんながするなら自分もそうする」主義者がいても、協力率の"初期値"が限界質量を下回っていれば、高い協力率は達成されない.
    社会的ジレンマ解決にとって一番重要なのは、筋金入りの利己主義者による日協力行動を、限界質量を超えないように押さえつけられるかどうかだ、ということになる.

    比較的穏やかなアメとムチの使用が手遅れになって、協力率が一度限界質量を下回ってしまうと穏やかなアメとムチを使うだけでは社会的ジレンマの解決が不可能となります.そうすると強いアメとムチを使ってすべての人々の協力傾向を変化させる必要が出てくる.

    (3)合理的な利己主義者はコミットメント問題を解決できない.そのコミットメント問題に直面すると、合理的な利己主義者は、非合理的な人間、つまり感情に駆り立てられて行動する人間よりも損をしてしまう.コミットメント問題を解決するためには、将来の自分の「選択の自由」を自分で放棄する必要がある.
    「かしこい非合理性」の源として「直感的理解」と「感情」がある.感情的な行動が時に合理的な行動を凌駕する(後先考えない行動が、他者に認識されると、覚悟を決めた人間として認識されその行動が今後も認められるというメリットがあるので)

    (1)の話は(2)とかなり重なっている.
    本書はジレンマについての視点をいくつも提供してくれており、実生活でジレンマに遭遇した時も基礎となる考え方として有用であろう.

  • 利己的行動が集団全体に不利益をもたらす問題について、人間関係から国家レベルまで考察されている。

    進化によって獲得した行動ゆえ、誰しも少なくとも無意識には理解していることだろうが、実験結果などによって構築された理論からは大いに学ぶところがあった。自分のやっていることが絶対的に正しいと考える人には関わりたくないと思う理由が、よく理解できた。最終章の「質量限界グラフ」が見事だが、モデルにすぎないのか、実験データなどの裏付けがあるのかがわからない。累積グラフでS字カーブを描くためには、分布が山なりになることが必要なのだが。

    この本になぜ今まで気づかなかったのかと思うほど。

    ・協力的な人と非協力的な人の間では、他人がどのような行動をとるかの予想や期待が異なる。協力的な人々は、人は様々と考える傾向があり、相手によって自分の行動を変えることになり、応報戦略を採用する。非協力的な人々は、他人も非協力な行動を取りやすい利己主義者だと考える傾向がある。
    ・他人がとる協力行動の理由の解釈も異なる。協力的な人々は、良い人間か悪い人間かという点から判断する傾向がある。非協力的な人々は、相手が協力的な行動をとったのは自分の利益を最後まで追求する力にかけていると考える傾向があり、非協力的な行動を強める。
    ・ホッブスは、社会的ジレンマを解決するためには、人々の行動を強制させるための公権力に委ねることにより、安心の保証を得ることを提唱した(社会契約論)
    ・社会的ジレンマをアメとムチで解決する方法の問題点は、人々の行動を監視し統制するためのコストがかかること、そのコストを誰が負担するかという二次的ジレンマが生じること。
    ・また、アメ(報酬)を与えることによって、自発的協力の意欲が下がるという問題もある。政府などの組織の存在によって自発的協力の動機を減少させ、親族や地域などの共同体を破壊することが指摘されている。
    ・怒りや愛情などの感情は、コミットメント問題(しなければならないことを実行すること)や社会的ジレンマを解決するために必要な、行動の選択の自由を束縛するためのメカニズムとして働いている(R.H.フランク「オデッセウスの鎖」参照)
    ・互恵性原理(社会的交換ヒューリスティック)とは、お互いに協力行動または非協力行動を取り合うこと。
    ・協力的な行動を取らせるためには、そうすることが本人の利益になることを理解してもらうことが有効。
    ・人々の協力行動を高める働きをする要因(p.190)
    ・「質量限界グラフ」によると、協力者の割合は、最初にどれだけの人々が協力しているかによって全く異なってしまう。半分くらいのクラスではいじめの傍観者の数がほぼ全員であるのに対し、別の半数くらいのクラスではほとんどいない(「いじめを許す心理」正高信男)

全40件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

COEリーダー・北海道大学大学院文学研究科教授

「2007年 『集団生活の論理と実践』 で使われていた紹介文から引用しています。」

山岸俊男の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
エーリッヒ・フロ...
ロバート キヨサ...
遠藤 周作
アマルティア・セ...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×