なんとなく、日本人: 世界に通用する強さの秘密 (PHP新書 402)

著者 :
  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (237ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569649870

作品紹介・あらすじ

グローバル化が進行する二十一世紀。もはや私たちは「なんとなく、日本人」であるという"ぬるま湯"に安住しているだけでは、激しい企業間競争、社内競争を生き残れない。しかし、アングロサクソン的な改革が、ほんとうに日本の風土に適しているのか-。国際ビジネスマンの経験をもち、西洋的思考法を熟知した著者による新しい日本人論。日本的思考メカニズムを論理的に探究することで、国内外に根強い日本人のマイナスイメージを払拭し、この国がもつ潜在力の源泉を明らかにする。

感想・レビュー・書評

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  • 2011/3/10読了。
    日本にいるときは分からなくても、海外では痛いほどに感じる「自らが日本人であること」を掘り下げた内容。
    私自身、留学中には「日本に染まっている私」を常に感じつつも、それを実際に説明しようとすると言葉に詰まってしまうことに疑問を抱いていたので、本書は大変参考になった。

    ・日本人は「グローバル化=日本人を否定することで国際人になる」と考えがちだが、実際には日本に軸足を置きつつ海外で活動することが重要である。
    ・欧米は環境に依存しない自己同一性を重要視するが、日本は環境の境界設定によって生まれる役割同一性を重要視する。それは1人称主語の多様性にも如実に表れている。
    ・世界屈指の文脈依存言語である日本語を使用することで、日本はそのときの状況、場や対象との関係性に重きを置く思考を持っている。
    ・「内向きな役割の精緻化」と「外部の新規性の絶え間のない取り込みとその無化のプロセス」こそが日本の強みであり、「変わること」こそが「日本人として変わらないこと」である。

    「Think local in the global context, act global with the local identity.」は心に留めておきたい。

  • 十数年前、日本人論に関する書籍をいろいろと読み漁っていた時期に手にした本書を、2020年の新型コロナ禍の混迷期においてあえて再読してみた。

    世界規模で生じたパンデミックにより、国内においても「新しい生活様式」や「New Normal」が謳われる中、改めて日本人としてこれからの社会を生きていくためにはどうすれば良いのかを自粛期間中に再考したかったからである。
    また、郵政民営化に代表される構造改革や規制緩和が実施され、グローバリゼーションが声高に叫ばれた小泉内閣後期に書かれた本書を、2010年代から各国で台頭したナショナリズムを経た2020年現在にて検証してみたいという想いもあった。

    筆者の小笠原泰氏は、生後から学生時代までを文化都市鎌倉で過ごし、海外留学にてMBA取得後、外資系コンサルティングファーム、外資系事業会社、国内コンサルティングファーム等を歴任した異色の経歴を有している。つまり日本と欧米双方の思考様式を理解し言語化することのできる希有な存在だといえる。

    したがって本書は、巷にありがちな「ここがヘンだよ日本人」的な日本と欧米との単純な比較文化論ではなく、筆者の日本と欧米での実体験を踏まえつつ、日本人の自己構造と日本的思考メカニズムが論理的に分析された、日本国および日本人における"グローバル社会の生き方指南書"といえよう。

    筆者が本書で何度も強調するところの、「日本特有の行動様式、思考メカニズム、自己構造に裏付けられた強みを理解することなしに、形だけのダイバーシティやグローバリゼーションを真似したところで何の意味もない」という主張は、本書が世に出てからリーマンショック、東日本大震災、新型コロナ禍を経た2020年6月現在においてもなお説得力を持つ。

    元号も令和となった現在、グローバル人材育成を目的とした論理的思考力と語学力の強化手段として、小学校からのプログラミングと英語の導入、さらに大学入試制度改革やインバウンド政策等が進められている。
    しかしながら、日本人の強みであるリノベーション(刷新)力を理解せずしてこれらを実施しても、ナショナリズムが台頭したグローバル競争で生き残っていくための術が身に付くとは考え難い。

    本書のタイトルでもあるように、日本は古より長い年月をかけて相互協調的な行動様式(エートス)を根付かせ、意識的に自分は日本人だと思わなくても「なんとなく、日本人」として成り立つ社会を醸成してきた。
    それが日本人のアイデンティティとして良いことかどうかはともかく、こういった日本人の(言語も含めた)特性や強みの理解が、これからの時代を担う若者にも必要不可欠であると再認識した次第である。

    また、筆者は最後に、これからの時代を生きる日本人として重要なことは、日本の伝統文化のみに目を向け過去を振り返ることではなく、日本人の特性や強みの本質を理解しつつ『変わらないために変わること』であると結論づけていることは、再読したからこそ思い返すことのできた重要な論点であった。

    本書は学術的アプローチではないものの、ありがちな比較文化論的ではない視点から日本人について論理的に切り込んでおり、結論も普遍的で令和の時代においてもあてはまることから、初読後十年以上経って再検証できたことは有意義であった。

    ただ、読みやすさを優先する新書という形態だからか、説明は論理的ではあるものの、設定したテーマや仮説が客観的データに基づいておらず主観的に述べられていたこと、グローバリゼーションをテーマとして扱っていながら"日本と欧米"という二元論的な考察が散見されていたことなどから、評価は星4つとした。

  • 誤ったグローバル化や間違った国内構造改革(企業内改革)をせぬよう、正しく日本人を理解するための本。

    一部、解釈が分かりづらい点はあるが、概ね、日本人に対する洞察は、説得力がある。今まで数多く読んだ日本人解説本の中では、かなり秀逸である。鎌倉で過ごした子ども時代、長年の海外勤務など、著者の経験に裏打ちされている。

    目次
    あとで書きます。

  •  グローバル化が、インターネットに媒介されるように、国境に代表される様々な境界線を、ヒト、モノ、カネが超える《脱国境化》の現象と、それによって更に際立つ民族、共同体、伝統などが見直される《地域性の再評価》の現象が同時に起こるものだとするならば、前者のみに力点を置くような対応の仕方では不十分である。後者への対応を、ナショナリズムや排外主義に陥らないようにハンドリングすることを同時に行わなければならないはずだ。
     最近になって、「グローカル(glocal)」なる言葉が一般化したように、不十分ながら、ようやく後者へのクローズアップがなされるようになってはきている。ただし、まだ「グローバル化に対応できる人材の育成のために、英語を重視すべきだ」なる主張が後を絶たない。英語の重要性は否定しないが、英語はあくまでコミュニケーションのスキルに過ぎない。コミュニケーションを豊かにするのは、その人の人間性の基礎となる教養である。「とにかく英語でコミュニケーションできることが重要だ」という信念に動かされているだけでは、誤ったグローバル化への対応であると言えるだろう。
     そのような考えに、本著は筋道を立てた根拠を与えてくれる、本格的な日本文化論だ。発行されてかなりの年月が経過しているが、日本人の思考スタイルを、過度に賞賛せず、過度に批判せず、論理的に整理している。ただ外部のものを取り入れればよいというものではダメなのは当然で、日本人の思考スタイルにカスタマイズした形で、今までも外来思想を取り入れてきたのだから、それを忘れてはならないだろう。

  • 「もの」と「こと」、場、日本語の特徴などを解説。

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    「日本的なるもの」は、「西欧的なるもの」のごとき「リンゴの芯」ではなく、「ぶどうの房の一粒一粒」にあるのであり、一粒一粒をとっていってもリンゴの芯のようなものは出てこない。また、房についた粒をひとつひとつ見ても「日本的なるもの」の総体は、わからない。26
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    卑近な例で申し上げれば、ルパン三世が日本人そのものであって、日本的と位置づけられる石川五右衛門と銭形警部は、日本通といわれる欧米人が好む幻想でしかない。ルパン三世のもつ持続性と変容性という相矛盾する性向の結合は、いかにも日本的である。197
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    振り返って懐古趣味に陥るときは、絶え間のない日本化のプロセスが機能不全を起こしているのであり、日本社会は危機であると認識すべきである。 198
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    日本社会を壊すには戦争はいらない。強制的に移民を受け入れさせて、日本語環境を壊せばよいのである。221
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  • 白熱教室JAPANを見て大変面白かったので。
    第3回「「安全」と言ってくれ、「安心」するから」は必見。

    ここ数年で自分が著しく散文的・観念的な人間になってしまったこともあり、小笠原さんみたいな論理に触れてもう少し前のバランスを取り戻したい。"respect yourself"、"fare"など、欧米的(左脳的、あるいは感覚て言うなら父性的?)な要素をもうちょっと思考回路に取り入れたほうが、私の場合はよさそう。

    昨今の政治や災害への対応(国や東電もそうだけど、戦時下の根拠のない「忍びの美学」の観念で盲進する一部の群衆心理とかも)を見るにつけ、日本人的政治・ビジネスや契約関係を小笠原さんに蔑視されるのは当然か?

  • 外国人と仕事をする機会が多いが、日本人の会議と外国人の会議を比べるといかに自分が「日本人」であるかを痛感する。
    いまの日本人に必要なのは、Think local in the global context, act global with local identityであり、Think global, act localではない。

  • 日本語が高度な文脈依存言語であること、資格依存言語であることを前提に日本人の根底を探っている。
    日本人は役割の安定を最も重要視する。

    他国も日本を比較し、優劣をつけるのではなく、例をあげて分析してあったのがよかった。

  • 題名からは軽い読み物という印象を受けるかも知れないが、実は本格的な日本文化論だ。これまでの日本論の成果を受け継ぎながらも新しい切り口で日本語や日本人を論じていてとても面白かった。

    欧米人にとって個人は、自立的でその主体性はいわば絶対視される。IとYouは相互排他的に独立している。日本人にとっては、個人に優先する「場」が存在し、「場」が個人を超えた優越性や自発性をもつことがある。

    以上は、よくいわれることだが、著者はこの違いを日本語と欧米語の構造の違いにも触れながら、説得力をもって明らかにする。また、このような自我構造の違いを、どちらが優れていてどちらが劣っているという見方をせず、文化の違いとして相対化する。さらに「場」に生きる日本人の長所と短所、強さと弱さを吟味し、これからの日本に何が必要か、にまで触れている。

    場に依存する日本人の自己においては、自分が属する共通の場がどの範囲かをまず把握し、その場の中での自己の相対的な位置を確認することが大切となる。それによって場の中での自己の役割構造が安定し、その役割を通して安心して自己実現を図ることができる。欧米人も自己の役割構造を意識することはあるが、それが自立的な個人に優先することはない。

    日本人は、場の中での役割に過度に同一化する傾向があり、それが個々の仕事への誠実さや熱心さ、責任感などにつながっているのだろう。それは日本人の強さであり、日本を訪れた外国人が大いに賞賛するところだ。しかし、それが同時に日本人の欠点にもなっており、場での役割構造に依存するあまり、その構造が変化することへの強い抵抗を生む。場の役割構造から突出する人間は、「出る釘」として強く否定される傾向もある。

    著者の論点は豊かで、以上の要約ではきわめて不充分だが、全体として長い欧米での生活に裏打ちされかつ論理的にもしっかりした日本人論として高く評価すべき本だ。

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著者プロフィール

1957年、神奈川県に生まれる。東京大学卒業後、米国シカゴ大学社会科学大学院国際政治経済学修士・同大学経営大学院経営学修士。マッキンゼー&カンパニー、フォルクスワーゲンドイツ本社をへて、アグリメジャーである米国カーギル社に入社。ミネアポリス本社、オランダ、イギリス法人勤務をへて、NTTデータ経営研究所へ入所。同社パートナーをへて、2009年より明治大学国際日本学部教授となる。NHK「白熱教室JAPAN」で放映された大学の講義が話題を呼んだ。専門は社会組織文化論、知財文化論、社会システム論、イノベーションおよび知識経営論。著書には『日本型イノベーションのすすめ』『日本的改革の探究』(日本経済新聞社)、『なんとなく、日本人』(PHP新書)、『2050 老人大国の現実』(共著、東洋経済新報社)などがある。

「2014年 『没落する日本 強くなる日本人』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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