男女同権は女性を幸福にしない

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  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (197ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569706290

作品紹介・あらすじ

「男女共同参画社会」=「一億総働きバチ社会」の下では、女性は安心して子供を産めません。老若男女が真に共生できる社会への提言。

感想・レビュー・書評

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  • Tue, 22 Sep 2009

    あおり気味のタイトルは置いておきまして,内容に入りましょう.

    一部,昨今,その過激さに敬遠されがちなフェミニスト,ジェンダー論,文化や身体的差異を軽視して,多くの文化恣意性のからの遊離こそ人間理性の要のように考える思考,と比べると,多分なリアリティをもって,現在の多くの若者には「そうそう」と受け入れられる内容のように思う.
    一部,過激に,「日本の伝統を」といって保守言論を行う論者と比較しても,受け入れられる内容だとおもう,

    僕は とても面白かったと思うし,実に現在の男女同権,少子化の問題をついているように思う.
    「これまでの男女共同参画社会の作り方じゃ,日本の女性は幸せになれないよ」
    というのが,どっちかというと正しいタイトル.

    本書の指摘内容を以下に簡単に,

    1999年 男女共同参画社会基本法が成立,
    そして,同時に 労働者派遣法の 大幅改正が行われた.
    これを機に,男女共同参画という名の 実体は,非正規雇用への女性労働力の大量流入という事態が起きてしまった.

    派遣法 85年, 男女雇用機会均等法 86年 の制定の後, この二つは歴史的に同伴して進展してきた.意図的かそうでないかは置いておいても,そういう事実が起きてきたというのが重要だろう.
    結局,日本の実情においては,社会への影響は,この二つを独立させては捉えられないのだ.

    この両輪が,バケツに穴を開けて,水を流し込むような政策になっていったと見える.

    90年に 37.9%だった女性における非正規雇用者率は2008年には54.2% に達した.

    この間の女性の雇用者数は役員を除いて
    1695万人から2242万人まで増えているので
    雇用形態別雇用者数(統計局ホームページより)
    人数ベースではざっと2倍にふくれあがっている.

    男女ともに非正規雇用が増大しているのは 当たり前だが,
    女性においては正規雇用と非正規雇用の逆転が起こっている.

    「過半数の女性労働力が非正規雇用になっているということ」
    がわかる.

    つまり
    「女性は基本的に非正規雇用の対象だ」
    という,社会的諒解が根付いていく基本が「逆に」できあがってしまったといえるのかもしれない.

    これが,男女共同参画の社会が目指した姿なのだろうか?

    女性の就職をすすめ,すぐに主婦になるのは良くないはやし立て,
    正社員の育休制度や,その他モロモロの制度を整備するが,
    その恩恵を得ることの出来ない非正規雇用に主立った女性達を流し込む.

    その中で「男」に関しては,
    「男の非正規雇用はマイノリティ」
    という事態にとどまってはいる.
    # とはいえ, 20代と50代あたりを比べるとその差は露骨・・・.世代間格差!!

    上記の一部は,本書の内容というよりかは,読後に自分で調べてみた結果なのだが,,,

    この事実に,「これまでやってきた男女共同参画の社会づくりには間違いが含まれていたのではないか?」
    という警鐘をならすのが,本書の第一の意義だ.

    なぜ,そうなったか?の一つに筆者が挙げるのはこの男女共同参画の社会づくりが 官僚的, 学者的 なトップダウンなやりかたで,生活者とは乖離して行われたということであろう.
    もう一つ,マクロ経済及び税調との絡みで
    「主婦もはたらかせて納税させたい」(実質増税)
    との思惑のからみで不純にすすんだ事が否めない.

    特にフェミニズム論の功罪を厳しく批判している.
    フェミニズムは学問的には構築主義的な基盤を持ち,
    「男女の差別は人間が作り出した恣意的なモノだから撤廃すべき」
    といったような見方を提示する.
    恣意的なものだと言うところは,正しいのだが,
    だから,無くして良いというのは 横暴だ.

    文化・言語が恣意的なものであることは,現代思想の諒解だとしても,
    だからといってそれらを廃棄したら現代社会は成り立たない.
    そんなことを言い出したら,貨幣経済だって恣意的なものだ.

    長くなってきたのでまとめないといけないが,

    少子化,産科医不足.
    近年の「女性」無しには語れない,社会全体の問題は

    「男女同権」はもちろん間違っていないと思う.
    しかし,何を解決するかと,どうやって解決するかは,別問題だ.


    男女共同参画社会は大切だと思う.しかし,それが直接的に女性の就労率の向上という労働力統計のお話しに単純に直結させてしまうのは,安直すぎるのかもしれない.

    適材適所,多様性の容認この良き自由経済の本質を忘れた,男女共同参画の社会は僕らをどこへもつれていってくれないのかもしれない.

  • 男女同権は両者を幸せにしない。

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著者プロフィール

1955年、東京生まれ。1979年、日本女子大学卒業。その後、東京都立大学にて日本女性史、日本古代史を学ぶ。1980年以降、東京女性史研究会を主宰。会誌『フェミニテ』の編集にあたる。現在、国際日本文化研究センター共同研究員。比較文化、思想班所属。著書に『高群逸枝論』(河出書房新社)、『日本女性解放思想の起源』(海鳴社)、『マザコン日本の文学事情』(仮題、新曜社)。共著に『消費資本主義論』(新曜社)、『少女雑誌論』(東京書籍、近刊)、『史層を掘る4 供犠の深層へ』(新曜社、近刊)ほか。

「1991年 『「女性の時代」という神話』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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